月下の幻想曲

矢能 智郁

27話



処理を済ませた後、リヒトら3人は早々に出発した。1度話し始めると長くなるため、さっさと出発して、馬車の中で話そうということになったのだ。
というのも、ルナから「事情を説明しろ」と言うごもっともな要望があったからだ。あれだけ巻き込まれておいて話さないということは出来ないので、意を決して話すことにした。
「それで?何がどうなの?」
「話すとは言ったもののな。俺もそれほどわかっているわけじゃないんだ。シモネは何を知ってる?」
「シモネが知っているのは、少しだけです。根幹に関わることは何も」
「えっと…?シモネは…?」
「シモネは、「常闇の夜明け」ってギルドの幹部で、俺を殺そうとしていたんだ」
「はあ?!」
真偽を付けるためにシモネの方を向いたルナだったが、シモネは首を縦に振っている。

「そ、そうですか……じゃ、じゃあ、リヒト様が狙われてた理由はなんなの?」
「シモネも人伝いに聞いたので少し不安なんですが、依頼主からこう言われたそうです。「近々「創世の王」の力に目覚める者がいる、とのお告げがあった。名をリヒトという。場所はカルノティア王国のどこかだ」と。
どうもどこかの国のお偉いさんらしくて、絶対にしくじるな、と言われました。
ご主人様は社交の場に出ない貴族だったので、探すのに苦労しました。世界に広がる24人居る幹部のうち、過半数が動いていたのに」

そうなると最低でも12人の幹部が動いていることになる。その部下ともなると部隊数は軽く100を超えるんじゃないか?

そして、「創世の王」というワード。考えられる接点は、[創造魔法]しかない。
「依頼が来たのは何年前だ?」
「たしか……7年くらい前です」
俺の力が目覚めるよりも5年も前。それまでの期間と「近々」と言う言葉を考えると俺が候補なのは間違いない。

そして「お告げ」というワードも気になる。魔王討伐という名目で俺を送り込んだ女神からのお告げである可能性は限りなく低い。となるも彼女は「ユニ」ではなく、別の派閥の女神のだろう。名前を聞いておけばよかった。
しかしそうすると、「ユニ教」が絡んでいると見て間違いない、か。

「ねえ、「創世の王」ってたしか……」
「はい。およそ千年前に、この世界の基盤を築き上げた、「栄蘭の五傑」のリーダーです」









「栄蘭の五傑」
その歴史は、創成期まで遡る。
創成期─それは、人類が誕生し地球のように石器時代を築いていた、魔法の存在しない時代。
弱肉強食の世界で動物に追われ、どうしてか存在した数少ない魔物に喰われ、人類は食物連鎖の最底辺に居た。
そんな状況下で彷徨い続けた人類が見つけたのが、この世の神秘と言わんばかりの輝きを持った湖だった。湖面は煌びやかに耀り、周囲の木々も鬱蒼と生い茂る。
その湖周辺にのみ、「魔素」と呼ばれる、生物の持つ魔力を活性化させる物質が存在していた。
しかし、辿り着いた男は溢れ出る異質な何か《・・》を制御しきれずに身を滅ぼしたと言われており、以後100年間は誰も近寄らなかったという。

そんな中、「あの湖には近づくな」という言い伝えを破り訪れたのが、後に「原初の魔道士」と呼ばれるルクレティウスだった。
彼は己との戦いの末、体内で活性、暴走する魔力を押さえつけることに成功。
それが、全ての始まりだった。

魔力を制御する術を見出した彼は、次にそれを活用する方法を編み出した。それが現在の「魔法」の起源である。彼の特異な力はやがて動物・魔物への対抗手段として村全体へ、人類へと広まっていった。

魔法を制御する方法を見つけた彼は、同時に世界中の権力者から目をつけられた。当時は国という概念もなく村単位での生活だったため村同士の交易において優位に立とうとしたのだ。

徐々に激化する対立の中、それを仲裁する者が現れた。名をコゴロウという。
その者は、巧みな話術と交渉術を用いて周囲の村を説得・交渉し、果てにはイントーネルトス国を建国し王の座に着いた。その当時、比較的裕福だったとある村を中心とし、政治の基礎を作り上げていった。

行政、軍事、交易、刑法……

それらのルールを纏めあげた本を彼は「ケンポウ」と呼び、その国のルールとして発布した。
それは今でも最先端のものだといい、王宮に国宝として保管されてはいるが、一度滅びてしまった際に解読術が失われ、現在は誰も解読できていないのだと言う。

彼の治世の平和さに敬意をもって、民衆は彼を「創世の王」と呼んだのである。







「この後、彼はまたも様々な改革を施したが、死後混乱を招き国は滅亡、か」

「はい。そこまで詳細には分からないですが、大まかにはあっていると思います」
「その「創世の王」の力に目覚めし者が俺の可能性があるってことか」
「シモネの知る限りでは、そうですね」
となるとステータスの1つが文字化けしているのもその為…………。

十中八九「創世の王」は地球出身と見て良いだろう。何よりも「ケンポウ」は確実に「憲法」だ。
「んー…まぁ理由か分かっただけでも僥倖か。今まで何故狙われていたのかも分からなかったしな」



「何も良くない。まだ何が何だか……。スケールが大きすぎる」
「ルナがこの状態。シモネについてはもう少し後でだね」
「そうなりますね。話してたら、お腹がすきました」
外を見てみると、太陽は既に頭の上を過ぎようとしていた。

「たしかにそうだね。馬車を止めてもいいけど、出来るだけ早く着きたい。このまま中で食べよう」
そういって、リヒトは収納からサンドイッチの入った籠を取り出した。
「ご主人様のそれ、便利ですよね。似たようなもので、アイテムボックスっていうのがあるみたいなんですけど、数百万ノールもするって聞きますし。それも固有魔法の1つですか?」
「うん。そうだよ」
正確には少し違うが、肯定しておく。
シモネはともかく、ルナには話してもいいだろう。

「ルナ、大丈夫?」
まだだとは思うが一応確認してみる。
「うん。まあ。大体のことは飲み込めてきた」
「そうか。なら次に行くが……今更だがシモネはそのままで大丈夫?」
「はい。おそらくは」

「じゃあ、続き話してもらっていい?」
「と言っても、何を話せば…」
「「常闇の夜明け」について、かな。内情を詳しく知っておきたい」

「わかりました。

まず構成は、トップが言わずもがな「猟犬」キルシャット=ヒノキル。その次がラトステッド=クトゥナ。そしてその下に24人の幹部、幹部直属の部隊ときて、1番下が下部クランですね。

シモネは、その幹部の内の1人で、コードネームはイータ。幹部はそれぞれ担当する地域が決まっていて、私はキフェルネを含むカルノティア国の東半分を担当予定でした。

24人の幹部居る中で今回ご主人様に関わっているのは5人。
1人目は、クシー。幹部のなかでも随一の諜報技術を持ち、情報収集を得意としています。ご主人様が捕まえた人ですね。
2人目が、ミュー。[遠視魔法]の使い手です。自分の視界を飛ばすことで、どこでも見れる、とのことですね。
3人目、イオタ。[空間魔法]の使い手です。自身周辺の空間内であれば、基本的になんでも出来る、としか知りません。
4人目、カイ。赤魔法の使い手ですが、基本的に体術専門です。魔法無しで言えば、幹部内では3.4位程度には強いですね。
そして5人目が、ファイ。先程言った通り[洗脳魔法]の使い手です。」

「どれもこれも厄介な能力だな」
「この内、ミュー、イオタ、カイの3人が、ご主人様を殺しに動こうとしたところ、「無影の死神」に阻まれ交戦、イオタが死に、カイは現在重症のために治療中のはずです」

「「無影の死神」って、あの?」
「はい。ご主人様の想像通りだと思います」

一体なぜ。父さんの言っていた協力者って言うのはもしかして……。

「と、こんな感じですかね。他には?」
「じゃあ…──」

この後はその他に気になった細かい点を確認していった。











それからの日々は比較的平和に過ぎ、遂に王都の輪郭が視認できるところまで到着した。

「よし、そろそろ王都だ」
「遂に到着ですね!」
「伝説の第1章の始まり」

「だから伝説は大袈裟だよ。おっ、あれが城門か?」
「そうっぽいですね。王都を覆う壁は一周するのに馬車でさえ2.3日かかると言われています。早めに見つかってよかったです」
「まあ案の定すごい列だな」
遠くからでもわかる長蛇の列。


近づいていくと、冒険者らしき服装や、商人らしき積荷の乗る馬車が、大小2つの門があるうちの、小さい方に並んでいるのが見えてくる。
リヒトらは事前に言われていた通り大きな門の方へ馬車を進める。

「ようこそ、王都メントキナへ。こちらは貴族様専用の門となっております。それ以外の方は、あちらの列にお並びください」
「それなら問題ないね」
そういって、リヒトはキフェルネ辺境伯家の紋章を見せる。
この紋章は、貴族としての身分を保証するためのものであり、掌程度の大きさを持つ。
身分証同様、特殊な作り方がされており偽造は出来るはずもないが、やはりいつの時代にもそういった輩は存在するためこうして検査を行っている。

「キフェルネ家の紋章……失礼しました。では、こちらへ。念の為、偽物ではないか確認致しますのでそれをこちらに」
そう言われたので、リヒトは紋章を手渡す。
「ありがとうございます。ええ…本物ですね。失礼しました。では改めて、ようこそカルノティア王国の中心地メントキナへ」


初めに感じた印象は、華やかな、賑やかな街、という事だった。
あちこちで飛び交う会話。人口も発展具合も、キフェルネ領よりも上。
買い出しに走る娘、日中にも関わらず酔いつぶれる屈強そうな男達。値段交渉をしている者に、喧嘩をする者。
多種多様、色とりどりの世界。

久々に聞く人声の騒がしさに、リヒトは懐かしみを覚える。
初めて見る新しいものに目を惹かれつつ、キルスから紹介された宿へ向かう。

「いらっしゃいませ。何人でしょうか?」
「3人です。今回は、どうする?」
「2人と1人に分かれましょう」
今回も3人で、と言われるのかと思ったが、違ったようだ。
「わかりました。ですが、混雑時には纏まってもらうかも知れません。この時期は入学試験で客足が増えるので」
「それなら大丈夫です」
「では、5000ノールになります。鍵はこちらに。夕食な隣の店で食べてください。鍵を見せれば分かるようになっていますので」
そう言って、鍵を手渡してきた。



「さて、入試まであと2日。座学の方を詰め込むよ。最後の追い込みだ」
「シモネ、大丈夫?」
「はい。確認しておきたいこととかもありますので。ご主人様もやるんですか?」
「当たり前だろう?俺をなんだと思ってるんだ……」
「基本的になんでもできる怪物」
そんな風に思われてたのか。かなりショックだ。
「え、ええ…。ま、まあ、そうだな。俺の知識と言えば過去の文献が主だから、今のものと擦り合わせる必要があるんだ。それに、俺だってなんでも知っているわけじゃない」

「文献って、いつの時代の?」
「残念だが、それは言えない。持ち主からそうきつく言われてるんだよ」
「そう……。なら1つだけ。そこにアンシー=ブルカレッズが書いた本はあった?」
「えっと…たしか、あったような?いや、無かった…?ごめん。思い出せない」
「わかった。ありがとう」
実を言うと、その人の本はある。しかし、どうして言わなかったのかというと…ルナの目が明らかに輝いていたからだ。その輝き方が、「ガチ」だということを物語っていた。
そのため、教えるのが少し怖くなってしまったのだ。ルナの悲しそうな、しゅんとした表情に胸は痛んだが、時間が時間。致し方ない、と割り切る他ない。







─そして訪れる、試験当日。


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