月下の幻想曲

矢能 智郁

26話



「──そうして、契約は成立した。
そこから数ヶ月訓練を積んでいって、初めの何件かは簡単に終わったけど、途中から難しくなって……そしてあんたの依頼が回ってきた。どうやって仕留めるか並んだ末、ミューから連絡が入ったの。「彼は奴隷を探している」って。それだって思った。それで、ファイに頼んで、まず店主を洗脳した。その次に、店主が連れていく中に私も混ざって、他に4人も洗脳してもらった。そして、あなたのこともそうしようとしたけど、何故か効かなかった。前例のないことでファイも私も焦ってた。でもそこでファイが機転を利かして、あなたへの印象を操作してくれたわ。そしたら案の定私は選ばれた。ルナちゃんに関しては予想外だったけどあの性格。誤差でしかなかった。でも、その誤差が1度はあなたを救ったわ。ほんとは宿で決行予定だったけど、ルナちゃんが起きてたから。だから、翌日の今日にした。
こんな感じでいい?」

「ああ」

考えることは山程あるが、今はシモネのこと。
まずは、シモネが「常闇の夜明け」の幹部だったこと。部下が数人しかいなかったため助かった。

次に[幻想魔法]を持っていたこと。彼女が語っていたように「対象にまやかしを見せる」というもので、強力極まりない。
なぜなら、対象に幻想を見せ、精神的に追い込んでいく。また自分の姿を幻覚を使って見せないようにすることで、「相手に何もさせず一方的に嬲り殺す」ことが出来てしまいうるからだ。
発動条件が厳しいとしても、暗殺にはもってこいの能力。「常闇の夜明け」が欲しがるのも納得だ。
しかし、効果的に状態異常の一種に分類されると考えられるので、俺自身にかける分にはには効かないだろう。


そして、彼女の妹のこと。恐らく、状況は最悪。

「とりあえず、俺はシモネを殺しはしない」
その言葉に驚きの反応を示したが、直ぐに切り替える。
「なんで……いや、何を望んで?」
「寝返って俺につけ」
「断る。妹が、、の命がかかってる」
当然、そう即答した。
「まぁ待って、話を最後まで聞いて」
「なに」

「話を聞きてみて、シモネを勧誘したことには2つの訳がある。
1つ目、どう考えてもシモネの[幻想魔法]が魅力的すぎるから。
2つ目、恐らく妹さんは最悪な状況下にあるから。約束は守られていないと思う」

「どうしてそう思うの」
「ちなみに最後に会ったのはいつ?」
「たしか、1年前。私が1件目の依頼を終わらせた時。それ以降は定期的に手紙が届いてる」
「それが本人であるという確信は?」
「筆跡がそう。それと、私達しか知らないはずの内容が書かれてる」
「なるほど……死んでは居ない可能性があるだけましか。じゃあ、さっきのファイに協力に対しての対価は?」
どうしてそんなことを聞いてくるのか、と不思議に思っているだろうが、ちゃんと答えてはくれる。
「それはボスから手伝ってやれって言われてるから問題ないって」

「なるほど。シモネが良いように使われてるのはほぼ確定か」
「どうして、そんなこと」
ある程度の情報が集まったところで、話を切り出す。
「犯罪者の心理になって考えてみて。シモネと言う存在は妹の安否さえしっかりしていれば使える駒。一方で妹は監禁状態。最悪、妹─、さえ生きていればどうとでもなるんだ・・・・・・・・・・・・・・・・・

「妹は一応生きてはいるけど、ファイという存在、いや[洗脳魔法]という存在のおかげでただ生きているだけ、もしかすると自我すらもない、ほぼ死んでいる状態に近い可能性もある、ということ?」
ルナが的確に続ける。
「そういうこと。手紙はいくらでも偽装できる。たとえ筆跡が同じだろうと、ね。そして洗脳状態なら逃げ出す心配もよくなって、監視とかの人材も省ける。奴らにとってそんな状態が一番得なんだ」

「そんな……でも……」
「信じたくないのもわかる。でも、彼らは犯罪の世界に身を落とした集団だ。多少そんなことをしていても、何も不思議じゃない。
仮にこれが真実だとしたら、おそらくは別の駒に、シモネとは絶対に交わらない別の国で使われてるね」

しかし、希望を持たせるかのようにこう続ける。
「ただ、こうも考えられる。「妹もお前と同じ状況にある」という可能性だ。姉を助けたいなら働け、って具合にな。手紙も、安否確認がメインならありえる」

「あっ、何回か、「あたしも頑張るからお姉ちゃんも頑張れ」ってあの時は監禁生活に耐えているのかと思ってたけど……」
「なら、ありえるか。どちらにせよ、シモネの妹は社会的には死も同然。そしてたぶん、俺なら彼女を助けられる。今回は返り討ちにあったとでも伝えておけばいい。シモネの招待はバレず、この3人がやらかした、と。処分しておけば俺ら3人以外真実を知る人は居なくなる」

リヒトにしては珍しく「処分」という単語が出てきたのにリヒト自身も驚いたが、それだけこの世界に慣れてきてしまっているのだろう。

「わかった。いえ、わかりました。そうすることにします。ただ、こいつらの始末はシモネが致します。シモネが、しないといけないから」
覚悟の決まった目でリヒトに訴える。
「ああ。いいぞ」
「もののついでです。私の能力の一端を披露しましょう」

シモネがリヒトらの方を向いて、両手をばっと開く。
「其れは幻。貴方の陥る数多の星。己が咎に苛まれ、己が罪に蝕まれよ。其の幻はやがて悉皆へとなるだろう。包み込め、幻想ファンタジア

突如、3人が苦しみ出す。
「一応、紹介しておきましょう。彼らは「愁傷たる群れ」。この一帯で活動する「常闇の夜明け」の下位クランの1つです。ご主人様、これで「常闇の夜明け」に喧嘩を売ることになりますが、負けないでくださいね?」
「ああもちろん。というか、売られた喧嘩を買っただけだ。挑んでくるなら返り討ちにされる覚悟をしろよ?」
今までにないほど満面の笑みを浮かべた蒼髪の暗殺者の後ろから、眩い朝日が登っていた──。












補足 : [ファイの洗脳魔法]と[黒魔法による洗脳]は効果的には同じものとしていますが、[属性魔法による魔法]は[元となる魔法]を忠実に模倣《コピー》したものであるため、多少弱体化しています。
違う点は、ものにもよりますが、基本的には効果の時間の長さ、範囲、効力の大小 の3つです。

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