月下の幻想曲

矢能 智郁

25話


「ご主……いや、リヒト、あなたは一体…」
「これか?魔法だよ。ちゃんと」
「嘘。回復系は白魔法以外有り得ない」
「やっぱりそうか」
タネは簡単。リヒトが使ったのは「再生の炎」の概念。様々な柔軟な思考が混在する地球ならではの知識の1つ。

「どうして、わかったの」
「俺が「常闇の夜明け」から狙われているってこととか、その他いろんな情報、そして最近奴らに動きがないことを考えれば、この道のりで仕掛けてくるのは容易に想像できた。そして極めつけはこいつら。3人一斉に俺の元へ来た。火番をしているシモネと出会っているのにも関わらずだ。まぁそれは俺が既に眠っていると判断したからなんだろうが、1人も監視に残らないのは疑問が残る。

要するに、俺のことを子供だと舐め、詰めが甘すぎたってことだ」

「そう。バレたのなら仕方がない。死んで」
先日までの訓練で飛躍的に上昇した力に加え、潜在能力を十全に使ったシモネの攻撃が飛んでくる。
「あんたのおかげで私はまた強くなった。この力があれば、誰だって助けられる。もう、あんな思いはしたくないから」
「シモネ。お前の事情は知らないが、悪いように扱われているのだけはわかる。だから、止める」
「うるさい!死ね!」
立て続けに無詠唱で魔法が飛んでくる。2人に魔法を教える中で実践的な方法を取っていなければ対処出来なかったかもしれない、とリヒトは思った。

「いくら強くなったとはいえ、その程度か」
内心ではヒヤヒヤしていたが、表に出さずに余裕な振りをする。
そして敢えて相性の悪い魔法をぶつけ、相殺させる。
「これで実力差はわかったろ。素直に諦めろ
。あとルナ、混乱してるところ悪いがそこの3人を見張っといてくれ。いつ逃げ出すかわかんない」
ただでさえ驚き混乱する状況の中、指示をとばされるルナだったが、持ち前の冷静さを頼りに体を動かしはじめる。
リヒトは猛攻を避けながらそれを確認すると、シモネに向き合った。
「とりあえず落ち着いて話をする気は……なさそうだな」

「これまで見てて思った。いくら魔法が強くても、いくら才能があろうと、今は私には勝てない」
「そうかな。じゃあ、これはどうだ?」
[時空魔法]起動。
一瞬にして2人の距離を詰め、容赦なく腹に一撃。反応出来なかったシモネはかなりの距離を飛ばされたが、空中で姿勢を立て直した。
「何……そんなこと……いや、大丈夫。多少のイレギュラーなら対処できる」
もう既に対処し切れないほどの異常事態が起きているのにも関わらず、シモネは気を奮い立たせる。
しかし、リヒトがただのパンチを撃つはずもなくシモネの体に異変が起きていたが、当の本人はそれに気付いていない。
そしてそれを隠すためにも、リヒトは追撃に蹴りを放っていた。


その蹴りも辛うじて回避したシモネは体に起きた異変にようやく気付き、しかし体は言うことを聞かず、膝をついてしまった。
「意識暗転《ブラックアウト》」
その声と共に、シモネの意識は途切れてしまったのだった。








「ふう、終わった」
真正面から殺りあったのは初めてだったから、少し不安があった。
「リヒト様、大丈夫?」
ルナが心配して声をかけてきてくれる
「ああ、大丈夫だ」
「ちなみに、今の炎は?」

「少しだけ特殊な炎だよ。興味があれば、今度教えるね」
「絶対お願いする。でも、今は」
ルナが視線を向ける。
「そうだな。途中で頼んだはどうした?」
周囲を見渡しても、奴らの姿は見当たらない。
「何も問題ない。あっちに埋めてある」
指さした方を見てみると、3人仲良く頭を出して地中に埋まっていた。
「緑魔法で土を少しいじっただけ」
頭に浮かんだ疑問を察知し、答えてくれる。
「それにしても、シモネといいお前といい、何があったんだよ」
「私?」
シモネのことは当然として、あたかも自分は違いますよとでも言いたげな反応をする。
「今、前と違ってかなりフランクだろ。特に俺に対して」
本当に聞きたいのはこのことではないが、今はこれでいい。
「あ。混乱しすぎて気付かなかった。もう今日はこのままでいい」
「そ、そうか。じゃあ起こすぞ」
「うん」








「ん゛ん……」
シモネの意識が戻り、虚ろな目で周囲を見渡して周囲を把握する。
そのご取った行動は、リヒトを睨みつけることだった。
「何がしたいの?さっさと殺せば?」
「それはそうなんだが…こっちとしてはな、全く状況が掴めてないんだよ。シモネに何が起きたのか、俺がなぜ狙われているのか、とかな」
「それら知ってることを話せと。嫌だ」
「ちなみに、拒否権は無いぞ。その程度どうにでも出来る。下手に失言をしたくないのであれば、自分で話すことを勧める」
リヒトがどうとでも出来る、と言ったことが真実だと知っているため、観念た様子を見せる。
「わかった、話すよ。
前にも言った通り、私は、フレカニル領のヤノツキ村の生まれ。暫く平和に暮らしていたけど突然魔物に襲われた。村の人が話していたけど、一緒に居るはずのない組み合わせだったらしいから、人為的に起こされた事で間違いないって。その後、隣の、村に移り住んだの。その村では普通の待遇で、悪いようにはされなかった。でも、移って20日くらいたった後、その村も盗賊団に襲われて、力のなかった私は攫われた。首輪を付けられて鎖で繋がれて、アジトで暫く過ごしてた──」







──何日経ったのだろう。
意識が朦朧とする中、シモネはそう考えていた。周囲には同じような境遇の大人子供が何人か、その中の数人は既に事切れているのだろう、全く動こうとしない。
連れ去って来た人は定期的に見回りや少量の飯を与えに来るだけで、特に何もしようとしない。
(シモネはこれからどうなるんだろう。悪い人達に売られるのかな。メノアは大丈夫なのかな)
そんなことを考えていると、1つの悲鳴が響いた。はじめは幻聴かと思い過ごしたが、どうにも現実らしい。

「ぎゃああああ」
「おい!何者だ!ここがどこだかわ」

バタり。どさり。

この洞窟では絶対に聞こえてこないはずの音、悲鳴。

(助けが来たんだ)
直感的にそう思った。

扉が開き、光が差し込むとともに人の影が伸びてきた。
「ここにシモネという名前のやつはいるかい?」
男の声が鳴り響く。久々に聞く大きな声に目眩がしたが、シモネは反射的に答えた。
「私だけど」
「そうか、君が」
逆光のせいで表情は伺えないが、声音からにやけているのが感じ取れた。
「何の用なの」
猟犬のような殺意の籠る目に、シモネは精一杯強気に返した。

「そんな顔をしないでくれ。君をスカウトに来たんだ」
「スカウト……なんの?」
どうせ碌でもないものだろう、と期待せずに放った一言は全く思いもよらない答えと共に返ってきた。
「「常闇の夜明け」の幹部に、さ」
「常闇の!っ……ゴホンゴホン。貴方は……一体」
「そう言えば名乗ってなかったね。はじめまして。私の名はキルシャット=ヒノキル。「常闇の夜明け」のリーダーを努めさせてもらっている者だよ」
口から出てきたのは、この世界に生きるものなら誰もが聞いたことのある悪人の名前。
大元のギルドでさえ彼の所在を掴むことは出来ていないという。
ただでさえ驚愕することが多かったため、これ以上何が来ても驚かないだろうと思っていたシモネに、今日一番の驚きが訪れた。
「そ、そのリーダー様が私に何の用なの」
「気付いていないのかい?君の持つスキルが魅力的でね」

束の間の静寂。
「何のこと?」
それもそうだろう。彼女自身、そんな力は知らないのだから。
「?君は祝福を受けていないのかい?」

カルノディアでは、貴族は5歳の時に、平民は大体7歳のときに教会で、を受ける風習がある。

「うん。うちは貧しく、受けようにもお金がなかったから」
「そうか。それなら教えてあげよう。君の能力は「幻想魔法」だ」
「幻想……?」
「あれ、わからないかい?まぁいい。その能力はね、「対象にまやかしを見せる」だよ」
「それの、何処がいいの?」
そんな能力が自身に存在すると知ったシモネだが、何処が魅力的なのかがさっぱりわかっていない。
「わからないかい?どんな敵でも滅ぼしうる力なのに…。まぁそれは後で説明しよう」

「シモ……私が断ったらどうするつもりなの」
「そのときは…仕方がない。妹でも人質にするだろうね。と言うか、もうしてある」
「嘘……ほんとに?」
「ああ、付いてきてくれたら後で合わせてあげよう」
「わかった。その話を受ける。その代わりメノアを解放して」

「もちろんさ。でも、シモネを完全に信用してからね。下手打って逃げられでもしたらかなわない。そうだね……こちらの課す依頼をいくつか無事に遂行出来たら、にしようか」



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