月下の幻想曲

矢能 智郁

24話



連中は3人。先にシモネを捕え、馬車へ来るのが定石。
馬車の御者台のを[創造魔法]で創った金属塊で塞ぎ、後方の入口で寝たフリをして構えておく、

「よし、標的は寝ている。やつの言う通りだ」
来た。
「だが何を仕掛けているかわからない。注意してかかるぞ。っと、居たな。各自作戦通りに。行くぞ」

走り出し、後戻りが出来なくなったところで目を開ける。
「こんばんは。こんな夜中に何の用ですか?」
「ちっ、起きやがったか。作戦は変えない!そのまま行くぞ!」
「随分と舐められてるようですね」
片手をかざして魔法を放つ。周囲への被害を考え、今回は青魔法と緑魔法。


「なっ、2属性同時…。おい!後ろに回れ!」
「はっ!」
1人が離脱したが、そちらは既に封鎖済み。
馬車から降り、対峙する。
右手を背中に回し、銃を取り出す。

「はっ、右手で何してんのか知らねえが大人しく降伏しろ、さもないと」
初めて見る形状の物に警戒はしているが、さほど気には止めていない様子。
忠告お構い無しに銃を向け、肩と太腿を撃つ。
「お前の命は…がはっ」
ボスらしき男は、撃たれた肩を抑えながら膝をついた。
「おいお前!ボスに何をした!」
「何って……見たまんまですが?と言うか、勝手に人の事殺しに来て返り討ちに遭うとは…思ってなかった?」
「……くっ、このっ!」
「どうせ「常闇の夜明け」の手先だろ?」
口調を元に戻し、問い詰める。

しかしいざこれから、という時に声をかけられた。
「リヒト様?大丈夫ですか?」
シモネが声を掛けてくる。
「ああ、この通り無事だ」
「よかった。この人達は?」
「それは後で話す。聞きたいこともあるしな。とりあえず、後ろに回ったやつを捕らえてくれ」
この場の猛烈な違和感を抑え、指示を出す。
「わかりました」


「さて、お前らには聞きたいことが沢山あるんだ。とりあえず、さっさとくたばれ」
「くたばるのはお前だ!」
何か秘策があるのか、先ほどよりも気迫があった。
「炎よ。吾が手となり其の熱を以て敵を貫け。炎矢《ファイヤーアロー》」
最大限に濃縮された、1本の大きな矢。

「なるほど。選択としては、間違ってないね」
右手を振って緑魔法を発動。風圧で火を消す。
いくら魔法と言えど、発動してからの効果は大抵物理法則に則っている。赤魔法の火から酸素を奪ってしまえば、消えてしまうのは道理。しかし、彼らはそれを読んでいたのか、
「終わりだ」
とニヤリと笑った男が呟いた頃には、もう1人の男の刃がリヒトの首元に迫っていた──。











カツン。
この場でなるはずのない、甲高い音。
刃は折れ、地面に転がる。

「な……に…?」
2人の驚愕には構わず、リヒトは2人の意識を奪い縛り上げておく。
話は簡単。刃の強度よりもリヒトの魔力による障壁の方が強かったのだ。



「リヒト様、こちらも終わりましたよ」
タイミングよくシモネから声がかけられる。
「そうか、なら運んでここに置いといてくれ」
「了解しました。よいしょっと」
ドスンと投げ捨てられた最後の一人が揃ったところで、顔に水をかけて強制的に意識を取り戻させる。

「けほっ、一体なんなんだよお前は」
「俺か?れっきとした一般人だよ」
「んなわけないだろ。どういうことだ。首で剣を折るって」
「そんなことはどうでもいい。選ばせてやる。ネチネチとした尋問か死にたくなるくらいの拷問。どっちがいい?」
一応日本出身であるリヒト。彼の持ち味はその順応性の高さにある。たとえ、それがどんな環境だろうと。
人の死にはあまり触れなかった前世であっても、人の死が半日常と化すこの世界に来てから一度死に接したことで嫌悪感は薄まり、保身のためならある程度のことまでは厭わないようにはなっている。
とはいえさすがに殺しまではまだ出来ないだろうが、苦痛を与えることはそれほど嫌なわけでもなくなっていた。

しばしばの沈黙。次に口を開いた時、男はこう告げた。
「ならば、お前の死で」
リヒトには一瞬、意味がわからなかった。
警戒していたにもかかわらず防げなかった4人目の刺客からの一撃。
背中から痛みを感じ、刺されたのだと頭で理解した時には、既にリヒトの意識は途切れていた。





ふふ、やった。これで妹が、たった一人の家族が助かる。
そもそも甘いのよねこいつ。
私のことを警戒もしないし、取り入るのも簡単。安易に任せちゃって。
お陰様で殺りやすかったわ。

ようやく、ようやくこれで地獄から解放される。待ち望んだ日常が手に入る。
このまま学園でもよかったけど、こいつがどう進化するのかがわかんないし、もしそうなったらいよいよ私じゃ手がつけられなくなる。本当は昨日の宿で殺りたかったんだけど寝てないやつが1人いたから、気付かれそうで動けなかった。、を殺した時も、喜びで力みすぎたし。



「ねえ……何…してる…の?」
「ああ、遅かったね。もう、終わったよ?」
「うそ…だから気をつけてって言ったのに」
彼女がリヒトに駆け寄って、白魔法で回復を試みようとする、

「回復しようとしても無駄。魔法の効きにくい毒を使ったから。時間も経ったし、もう無理」
そう言い切った時、リヒトの体を紅蓮が包み込んだ。炎の暴走、、とも取れる異様な光景。
「一体、何が…?死後の魔力の暴走?いや、そんなことは起きない。でも、じゃあ、この真っ赤な炎は何」
この場の全員が同一の疑問を抱く中、彼女は焔の中に動く影を見た。
もちろん──リヒトだ。


「ふぅ、やっぱり少し痛いな。でも、予想通りでよかった。それじゃあ説明してもらおうか。──シモネ」

炎の中から蘇った少年が目を向けたのは、蒼髪の少女だった。


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