月下の幻想曲

矢能 智郁

23話



翌朝、リヒトが目が覚めると、そこは知らない天井だった。
「そうか、もう出発したんだったな」
自分の身だしなみの整えつつ、2人を見る。未だに、ぐっすりと眠っていた。
(2人は、旅の疲れがまだ抜けていなさそうだな。しかし、仕掛けてくるならここでもおかしくないと思ってたんだが…。途中で野宿を挟むからその時か?でもその場合、2人のうちどちらかは奴らの手先である可能性が非常に高くなる。なるべく、そんなこたは考えたくないな。もしそうなら、他の新たなことも加味しなければいけなくなる。
ただ、俺の覗いたステータスに精神操作系の能力はなかった。隠蔽可能である以上、完全には信用していない。俺が付与魔法として使えるから、他にも固有魔法として使える人絶対には存在する。ましてや暗殺集団ともなれば尚更。だがあの場にそんなことが出来るやつは居なかった。となると俺が行く前から全員が洗脳されていた…?)

「……ん様、ご主人様、ご主人様!」
「ん?ああ、シモネか。どうした?」
「いえ、さっきからずっとぼーっとしていらしたので、すみません。なにか考え込んでいたのなら邪魔しましたね」
「いや、大丈夫だ。荷物は纏めとけ。食べたら、出るぞ」
「分かりました」


朝食は宿の食堂で取った。パンに野菜とボアと言う牛型の魔物の肉を挟んだサンドイッチだった。
食べ終えた3人は、そのまま宿を出て、旅を再開したのだった。


動きがあったのは村を出て数時間後。
周囲警戒のために10分おきに使っていた[探知魔法]に人が引っかかった。
数は4。窓から覗いても見えず、あちらからしか確認できない距離。[探知魔法]の存在は2人とも知っているが、その情報は屋敷で流れている偽物。彼らは気づかれてないと思い込んでいるのか、徐々に近付いてきている。

その一方で、前方からも何者かが近づいてきている。挟み撃ちか、気の張りすぎか。
前者なら、恐らく前が囮、後ろが本命。しかし奴らがこんな簡単なことをするとは思えない。それを考慮すると、前はただの商人、後ろは監視、とも考えられる。

そうも考えている間に、前方のやつらが視認できるようになっていた。魔力で視力を強化して、観察する。
馬は一匹、御者は1人、後ろに3人。当然のごとく、積荷はある。今の御者はシモネ。

「シモネ、前に馬車が見えるだろ?下手に捕まって時間を潰したくないから、迂回して無視してくれ」
「分かりました」

とりあえずこれで厄介事は回避出来たはずだ。




対抗馬車が通り過ぎたのを確認。後ろの3人とは接触しなかった。ということはおそらく無関係だったのだろう。2人にも特に目立った反応は無かった。杞憂だったか。

予定通り、今日は野営。女性2人は馬車で、俺は外で寝ることになるだろう。


見晴らしのいい平野を走っていたため、途中で馬車を止め野営の準備を進める。

調理器具などは必要最低限持ってきてはいるが、収納の中にあった串焼きや、持ってきた干し肉を晩飯にした。

「なぁ、見張りどうする?」
「ご主人様は寝てて下さい。私たちでします」
「いや、御者を任せてるんだ。見張りで任せるとお前らの負担が大きすぎるだろ。少しでも休め」
「それなら、リヒト様、私、シモネの順にしよう」
「いや、真ん中は俺が行こう」
「わかりました」
「お前らは馬車で寝てろ。こんな季節で寒いだろうが、そこは魔法で対策する。俺は…馬車の横ででも寝るか」
「いえ、それこそ疲れが取れません。シモネ達は大丈夫ですので、ご主人様も馬車でお休みになってください」
「いや……わかった。そうさせてもらうとする」

そこからは軽い雑談《他愛ない話》をして過ごしていた。魔法の使い方をついて意見を交わしたり、これからの予定を確認したり。
そうしているうちに、やはり疲れが溜まっていたのかシモネが寝てしまったため、馬車に連れていくと共に俺も寝ることにした。
この旅の途中、野営はあと1回。今回か、次か。監視と思しき3人がつけていることを考えれば、今日何らかの動きを見せてもおかしくはない。
暗闇に紛れて襲われても嫌なので、火は付けておいてある。どちらにせよ敵に位置は知られているので、そこは気にしない。

馬車に入り、とある魔法を使う。
「暖化《ヒート》」
暖房代わりに使える赤魔法。付けている間は魔力を使い続けることになるが、微々たるものなので風邪をひかない為にも付けておく。


1つ気になることがあり、シモネを起こさないように気をつけながら馬車内をくまなく探す。赤魔法で蝋燭程度の明かりを灯しながら隅々まで見ていく。
可能性がある以上、2人の目のない所で探したかったので今になったが、それは見当たらない。宛が外れたのか、杞憂だったのか。
何かの拍子に見つかっては元も子もないので当然とは言えるが。
馬車内にはないと分かっただけでも収穫と言える。

交代までは数時間ある。それまで寝ていよう。









この世界に時計は存在はするが貴重なため、時間を測るには砂時計のようなものを使用するか、月の位置を目安にするのが一般的である。砂時計のようなものには当然、夜の時間を2等分3等分出来るものもあるので、今回はそれを持ってきている。
ようなもの、と表しているのは、精巧なガラス細工が貴重なためだ。

「そろそろ、交代だな」

1つ目が落ちきるまで残り数分といったところか。

「ルナ、そろそろ交代」
「うん。そろそろ起こしに行こうと思ってたところ」
「そうか。十分に休んでこいよ」
「ありがとう。気を付けて。特に、シモネには。あの子何か企んでる」
「どういうことだ?」
今まで悩んでいたことに対する揺さぶり。
「まだわからない。でも確実に何かを起こす」
「そ、そうか。頭には入れておくよ」
「それじゃあ」

[探知魔法]によると、連中3人はここから1kmほど離れた所から徐々に近付いてきている。ここからが勝負所。眠気に負けないよう戦わなければならない。どちらかが内通している可能性が拭いきれない以上、迂闊に魔法を使い手の内を明かすことはしたくない。いずれバレることになるとはいえ、今は隠し通せるなら隠し通したい。


今のうちに馬車の外面を詳しく見てみる。
……見つけた。魔力痕。恐らくこれが現代で言うGPSの役割を果たす魔道具。ここから微量の魔力をだし、本体で受信することで音が鳴り大まかな方向が、音の大きさで距離がわかる寸法だ。

魔力が構成の大部分を占めているため普通は見ることは出来ないが見れる人からすれば違う。そしてリヒトは、その微力な魔法をも探知していた。
これを取り外すには何度も経験していない限り骨が折れるが、無力化するだけであれば、知っていれば手間はかからない。自分の魔力で上書きすればいいだけなのだ。

「よし、これで大丈夫。あとは、連中を撒くだけだ」

巻く方法なら方法は存在する。[時空魔法]を使えばいいだけの話だ。幸い、今は平原の真ん中。多少いじったところで、細かいところまで注意したところでわからない。
これで、2、3日は凌げるだろう。残りの問題は、どちらかが内通していた場合。この場合、そいつ自身の位置が割れていてもおかしくない。2日以内に新たな刺客が来れば、そいつの存在は確定する。

それからの時間、リヒトはいつも通り魔力操作をしながら時間を潰していた。






交代の時間から少し経ったあと、シモネが起きてきた。
「ご主人様すみません。寝過ごしてしまいました」
「ああ、大丈夫だ。それじゃあよろしくな」
「はい、任せてください。それと、」
シモネが言うか言うまいか悩む。
「なんだ?」
「ルナ、ちゃんのことなんですが、気を付けてください。何か企んでます」
リヒトとしては見逃せない情報。しかし、その情報はリヒトをより悩ませるものだった。

「そ、そうか。頭には入れておくよ」
奇しくもつい数時間前と同じ台詞。

馬車に乗り、横の椅子に掛ける。布を体にかけ、丸まって寝ているように見せかける。今日動くのならもう今しかない。その時が来ないことを祈りながら、疲れのせいか気の張りすぎかリヒトの意識は落ちていってしまった。後方の入口の方に、笑みを浮かべた誰かが居る気がしたのは、気の所為だろう。


次に目が覚めたのは、襲撃の直前だった。[探知魔法]によると、3人がすぐ近くまで来ている。ルナはぐっすりと寝ている。ましてや「お母さん」と寝言まで言っている始末だ。
起こすべきか、否か。ルナが内通者である可能性を加味すると眠らせたままの方がいいかもしれない。
もし違った時のために[付与魔法]を使って防御を固め、起こさないようにしておくことにする。
馬車の構造上、内部に侵入されるのは仕方がないため、ルナへの対策はしっかりと建てる。
かけるのは、ルナ自身の発する音を消すものとルナに触れられなくするもの。
効果は、対象の意識がハッキリするまで。
前者は言うまでもないが、後者は対象に触れようとしたらダメージを与えるものにしてある。これなら、本人が起きない限り破られることは無いだろう。


さぁ、戦の始まりだ。

「月下の幻想曲」を読んでいる人はこの作品も読んでいます

「ファンタジー」の人気作品

コメント

コメントを書く