月下の幻想曲

矢能 智郁

20話




「さて、今日2人に集まってもらったのは理由がある、がとりあえず無茶振りをしよう。どの属性でもいい。魔法を使ってみろ」
「突然?それは無茶。この前と同じように暴走するかもしれない」

「だから無茶振りって言ったんだ。そしてそれは今までの話。お前ら今日まで、何やってた?」
「魔力操作・・・あっなるほど。暴走しかけても何とかしろってことですね!」
「ああ。おそらくルナなら大丈夫だろう。シモネは不安だが」
「ご主人様!?ひどくないですか?!」
「事実だろ?」
「いえ、そうですけど・・・じゃなくて!」
「とりあえずやってみろ。とりあえず赤魔法から。全力でいいぞ」
「ちょっとまって。私赤魔法の適正ない」
「シモネもないです!色は緑と白です!」
当然の反応だが、
「知らない。やってみろ」
こちらも当然のように一蹴。

「ええ・・・わかりました。
我の炎は、の炎。全てを焼滅《しょうめつ》させ・・・ってええ!?今までより魔力の通りが良いんですけど?良すぎるんですけど?」
「だろうな。ってことだ、ルナ。やってみろ。この空間に細工はしてある」

「はぁ・・・わかった。
其れは万象を喰らう焰。斯の焰を以て世界を燃せ。炎弾《ファイヤーバレット》」

目を焼くほどの閃光。地面は撃った数だけ抉れている。今のルナによる、さほど力を加えてない一撃でさえ、見た目は熟練の魔法師レベル。未熟なため威力は低いが、炎であることに変わりはない。

「う・・・そ・・・。これを、私が?」
「ああ。お前らが疎かにし、世間が無意味だと言っていた力だ」
「すごい・・・これなら・・・これなら・・・!!」
「何を勘違いしてるのかわからないけど、まだ本質の一端だよ?」
何か思い耽っているルナを横目に、シモネの方を見る。
「おっ、シモネも出来たね。じゃあ次は青魔法。緑、白、黒と順にやってみよう」





「よし、終わったな」
「シモネが、こんなに・・・凄かったなんて・・・」
実際には違うが、シモネの潜在能力であったことは確かだ。シモネは褒められて伸びるタイプだとハンナから聞いているのでそのままにしておこう。

「リヒト様・・・ありがとうございます・・・っ」
ル、ルナが遂に敬語に・・・?!彼女の中で、いや過去に何が・・・?
いや、時期が来たら聞こう。いつになるかは分からないが。ルナは裏で何か企んでいる気がする。想像できるのは、復讐か何らかの約束事。

「さて、今の実力がわかったところで、話がある」
「なんですか?」
無邪気にシモネが尋ねてくる。
「来月、ミアロスク学園で入試がある。それに挑戦してもらう。まぁ余裕で受かるだろうが」
「えっ、奴隷って入学出来るんですか?」
「主人と一緒ならな。俺も父さんに頼んで一般からの方から入れるようにしてもらった」
一応学園在学中は内部にのみ限り身分制度が撤廃される。貴族だろうが奴隷だろうが、一生徒として扱われる。しかし当然の如く奴隷身分の者の合格基準は高い。
「付いてくるか?」
「もちろんです!」
シモネから活気のいい返事が返ってくる。
「やたらプライドの高い貴族が居るかもしれないが、お前らが奴隷だとばらさなければ何も問題ない。幸い、その首輪は外せるみたいだし。もし何か言われたら、力で来たら自分で叩き潰せ。権力には俺が盾になってやる」
「はい」
「わかった」
ルナからも了承の返事。これで強制連行しなくて済む。

「あっ、だからハンナ先輩の修行の一環で教養を重視していたんですね!」
「ああ。俺が頼んでおいた。もう20日もしたら、基礎は大丈夫だろう」
「いや、大丈夫じゃないと思う。シモネは、要領が悪い」
「そうなのか?」
「え、い、いえ」
何か言い淀んでいるため、リヒトが目で話せと訴える。
「ええ・・・まぁ・・・はい」
シモネが萎縮して、珍しく小さく見える。
「別に高得点を取れと言っているわけじゃない。受かればいいんだよ。こういうのは」
「うっ・・・プレッシャーです」
「でも、たかだか数ヶ月の付け焼き刃で受かったらすごいよなぁ」
シモネに聞こえるように呟く。
ピクンッと反応し、何か決断したように見えた。
「ご主人様!奴隷の身分で誠に言い難いんですが、もし受かったら一緒に出掛けてくれませんか?」
なるほど。そのときに何か買ってもらう、ということか。ご褒美を自分で設定し、やる気をだそうとしているのか。
「ああ。いいぞ」
「ありがとうございます。このシモネ、精一杯頑張ります!」
と宣言すると、どこかへと走り去って行った。
・・・何を買わされるのか少し怖くなった。




「ねえ。私は《・》まだあなたのことを信用していない。なのにこんなことしていいの?」
「なんのことだ?」
「魔力操作とか、いろんな知識だとか」
「あぁ、それね。問題ないよ?いざとなってもルナ程度なら逃がさない自信はあるから」
「そう、足元救われないようにね」
「はは。なら今から少しやってみるか?」
「うん。一応。力の差がどれだけあるのか、知っておきたい。あと・・・いや、なんでもない」
「なんだ?言ってみろ?」
「いや、いい。やるよ。でも、武器は?」

収納から手頃な木の剣を取り出し、ルナに渡す。
「ほら、どこからでも来い」
「今の、何?」
ルナが今までで一番警戒している。
「俺の秘密の内の1つだ。見たのはお前が初めてだな」

「それは私が勝って後で聞き出す。あなたも構えて」
「要らない」
「舐めないで。後悔するよ?」
ルナが動き、切りつけてくる。当然かもしれないが、余りにも遅い。魔法を使うまでもなく、刃筋を右手で掴み止める。
「はっ?」
「この程度か?今まで、何をしていた?」
「いや、次のが本命」
左の死角から飛んでくる蹴り。ちゃんと足を魔力で覆うのを忘れていない。だが俺の魔力に阻まれ、体にすら届かない。
「どうした?」
一度体勢を立て直し、再度向かってくる。しかし全くと言っていいほど歯が立たず、互いの力量に差がありすぎて勝負にもなっていない。

「諦める。勝負にすらなってないことが分かったから、もういい」
「そうだな。これが試合でよかったな。本番なら死んでたし」
リヒト自身、碌な勝負勝負はしたことないかま、棚に上げて言う。
ルナの苦痛を噛み殺したかのような表情。どこかへ走り出す。十中八九、過去のことを考えている。
追いかけるべだろうか。俺の経験上、今は独りになりたいはず。
・・・場所は分かる。しばらくしたら行くか。
ついでにそこで見ているやつをどうするか。







「で?心の整理は着いたか?」
「?!リヒト・・・様。どうしてここが?」
呼び捨てにするのは悪いと思ったのか呼ぶのに間があった。普段「あんた」と呼んでいるくせに。
「俺もちょっとばかし複雑でな?色々あるんだよ」
「そう。今は教えてくれないんでしょ?」
弱っているせいか、いつもの強気な淡々とした口調ではない。
「ああ。そうだな。それで?何があった?」
わざと、広く聞く。
「私ね、昔虐められていたことがあったの。新しく移り住んだ町で心地よく生活してたのに、突然「お前ハーフなんだってな。紛い物め」って言われたの。なんの事かそれは理解出来た。でも、何処から漏れたかはわからなかった。気付いたらその村には広まってて・・・私たち家族は何も出来なかった。否定しても聞く耳を持とうとしなかった。そして、何も出来なくなった。後で、使用・・・母から聞いたことだけど、そこは昔、凶暴な獣人の集団に壊されたことがあったって。だから差別の風潮が既に根付いてるところに、私達にも被害が行ったらしくて、それで」


親からの偏見を教えられた子供は、それが正しい事だと無条件に信じ疑わない。親に悪意があれば、事実とは異なったことでも吹き込んでしまいかねない。そしてその情報は子供達の狭いコミュニティ同士の中で一気に拡散、共通の認識となる。共有された情報も、「あの子がそう言ってるからそんなんだろう」と疑わない。ルナ程の年齢、8〜13歳なら尚更だ。


その告白に、俺はかける言葉を持っていなかった。「大変だったな」「もう大丈夫だよ」なんて以ての外。論外。かけて欲しいのはそんな言葉じゃない。同情は、要らない。
「そうか。ルナは、どうしたい?」
辛うじてひねり出した一言。
「その流れで一家は散り散り。たぶん、何人か殺されてる。その人達の為に、弔いがしたい」

弔い──おそらく復讐のことだろう。でなければあんな、力を得て嬉しがる反応は出来ない。
「本当に家の人、家族のためか?ルナ自身も憎んでるんだろ?」
「いや・・・うん。そうだね。これは私自身のためでもある。そして、そのための力はあなたのおかげで手に入れられた。たとえ犯罪者に成り下がろうとも、これだけは成し遂げたい。だから、止めないで」
「ああ。止めない。いや、止められない、が正しいな。でも実行するのは学園を出てからにしろ」
絶対に止められると思っていたのだろう、ルナの表情からは驚きが隠せていない。
「それはもちろん。村の場所も探さなきといけないし、情報収集は必要だと思ってた。だから入学の話は好都合だった」

「なら、もう1つ条件を加えようか。シモネも入学出来たら、許可する。入試のレベルは俺も分からないが、さっきの気迫なら通るだろ。教養の方も、ハンナからルナは問題ないと聞いてる」
「その程度なら壁にすらなってない。あの子は要領が悪いだけで素質は悪くない。30日もあれば充分」
「そうか、頼むぞ」
「はい」
決意の篭った返事。
彼女の顔は、何故か笑っていた──。

そして、近くの扉に居た存在に、気付くことはなかった──。




ルナと別れた後、リヒトは独りで考え込んでいた。ルナのことだ。今話していたことは嘘ではないのだろうが、それよりも重い何かを隠し持っているに違いないと彼は確信している。
地球での記憶がある彼には規模がどうであれ、ただの《・・・》虐め程度であの性格が生まれるとは到底考えられなかった。
これを解く鍵は「イェーリッグ」。彼女に何故かある姓。これすなわち貴族の証。
「貴族が村に移り住む」これだけで一大事である。しかもそうならば、両親が虐められている我が子を放っておくのはシールのような特殊な事情が無ければ有り得ない。

この国に「イェーリッグ」についての情報がないという事はおそらく他国である可能性が高い。活版印刷術が発達しておらず、紙の製造も羊皮紙であるこの世界に於いて本に出来るほどの紙は貴重。本1冊を買おうとするだけでも、かなりの費用─ものによるが5000~30000ノールは必要である。そうするとキルスの書斎は何だったのかと言う疑問も上がるが、それはさておき。
街に広がる情報を集めに行ってもいいが、信憑性が低く鵜呑みには出来ない。ギルドへ行けば大抵のことはわかるが、子供相手では取扱ってくれない。となると学園で探るのが最善であることになる。



彼女の抱える秘密は何なのか。そして、姿を見せない「常闇の夜明け」は何をしているのか。今の彼に推し量ることは出来なかった。





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