月下の幻想曲

矢能 智郁

18話



テソンが口を開く。
「あたしは元々、仲間が沢山いる村で生活していたんだ。ある日、村の大人達の採集に付いて行ったんだけど、みんなとはぐれちゃって。森の中を彷徨ってたらある人間にあったんだ。その人たちが村に案内してくれるって言ってくれたから付いて行ったんだけど、そのまま売られちゃったらしい」
典型的な詐欺に引っかかったのか。仲間が沢山いるってことはおそらく獣人族の村、その村に人が近づいても追い返されるのがオチだろう。

「他の3人は?」

「私《わたくし》は、家の生まれです。期待されていたこともあってか、いつも姉と比べられてきました。私にできて、お姉様にできないことはありませんでした。比べられて過ごしていく中で「お姉ちゃんにできてなんであなたに出来ないの」と言った言葉を母から投げつけられることもありました。数年前にはその雰囲気は屋敷全体に広まっておりましたが、大半の使用人は私の味方でした。そんな状況を、母は面白くなかったのでしょう、私に一層酷く当たるようになり、最終的に今・・・ここに居ます」

最後、何かいい淀み、無理やり終わらせたように感じた。しかし、この言い方ならおそらく選ばれないであろうと思っているようにも感じた。
それと、レタルス家。どこかで聞いた名だ。


残った2人に、視線で促す。

「私から話すことはありません」
ルナからはキッパリと言われた。
あれだ、この人からはあの人と同じ匂いがする。孤独で居ることを当たり前だと思っているような、他人と関わることを自ら避けているような。

最後の1人、シモネは目を向けると直ぐに話し出した。
「シモネは、フレカニル領の東側にある、ヤツノキ村で暮らしていました。お父さん達はちゃんと税?も払えていて他よりは裕福だったのだと今なら分かります。ですがあの日、村が魔物に襲われました。シモネは直ぐに大人に連れられて逃げ出したんですが、黒い尻尾を見ました。逃げ出した先の村で、しばらく過ごしていた、のですが、その村も、盗賊《・・》に襲われて・・・そこで・・・そこで・・・うぅぅぅうあぁぁぁん」
「シモネ、だったか、嫌なことを思い出させて悪かった」




なるほど。当たり前だが各々がそれぞれの理由を持っている。その中から選ばなければいけない。迂闊なことをした。
だが、話を聞く中で考えは纏まっている。
テソンはおそらく常識知らずで、連れていくと厄介なことになるのは間違いない。
シールは貴族出のため、そっち方面のことに詳しいと思う、がそれは俺も同じなのでなんとも言えない。
ルナは性格に難アリだが、そちらはどうにか出来ると思うし、能力的には申し分ない。


とここまでが打算込みの話。俺の本心としては、シモネを助けてあげたいと思う。村を壊され、裏切られ、奴隷堕ち。踏んだり蹴ったりな人生を歩む人に救いの手を差し伸べたい、と喩え偽善だと言われてもそう思う。ましてや知ってしまったのなら尚更。それはシールやテソンについても同様だが、子供の、親の扶養を受けている身としてはそうもいかない。
しかし、成人してから─15歳になってから、なら。




1時間が経ち、イスラさんが部屋へ。入れ替わりで4人が退出。
「リヒト様、もうお決まりになられたでしょうか」
「えぇ。でも一つだけ。彼女達、いくらですか?」
「ええとですね、左から15000ノール、20000ノール、10000ノール、5000ノール です」
左からと言うのは先程並んでいた順番だろう。
この街で大人1人が30日間生活するのにかかる費用が5000ノール、大銀貨5枚と言われているから、妥当と言えば妥当、な値段。でも、
「彼女1人だけ、なんで安いんですか?」
「お話なされて分かったように、あの性格でしょう?人を選んでお出ししているのですが、購入なされる方が居らず・・・」





数分後、父さんが帰ってきた。
「リヒト、決めたか?」
「ええ。ですが1つだけ。1人じゃないとダメですか?」
「いや?4人全員ともなれば厳しいが、2人程度なら大丈夫だ」
「ありがとうございます。では彼女と彼女で」
指名したのはシモネとルナ。
ルナは何も話さず関わろうとしなかったが、そこに自分が重なってしまった。他人を信じず、助けを求めず、1人であろうとする。そんな経験を俺もしたことがある。その時に必要なのは、何もせず寄り添ってくれる存在。
何も聞かず何も知らず。でもそばに居てくれる。こんなにも心強いと感じたことはない。
そして、彼女を見捨てる選択肢は、他のどの選択よりも心が痛む。絶対忘れないと思う。

「リヒト様、その2人で本当によろしいので?」
「えぇ。彼女たちの話を聞いて、自分で決めたことです」
「分かりました。2万ノールです。それと、こちらに」



「では、契約を始めます。

汝は彼の者の主となり、正しき道へ彼を導け。
汝は彼の者の配下となり、主の為にその力を振るえ。
その命《めい》を命に焼き付けよ。
契約《コントラクト》」




契約には2種類ある。
1つ目は絶対的主従関係。奴隷は主人に絶対服従であり、逆らった場合身体的罰が与えられる。
2つ目は、雇用的主従関係。これは雇用者と従業員のような関係であり、取り決めで決めたことを破った時のみに罰が与えられる。それは1つ目と異なり、人によっては耐えられる程度の痛み。約束事はいつでも更新でき、「○○の名において命ず。~~」と宣言すれば結ばれるようになっている

今回は後者である。


2人とどこか深い所で繋がったような感覚。ルナはなぜ選ばれたのか困惑しているらしく、拒む気配がなかった。


「父さん、ありがとうございました」
「どうした急に。これくらい、親として当然だ」
そう淡々と言ったキルスの顔には笑みが零れていた。

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