月下の幻想曲

矢能 智郁

16話



翌日、騎士団領は忙しく動き回っていた。なんでも、近くの路地でいざこざがあったらしい。恐らく、昨日ちらりと見えた「常闇の夜明け」の3人だろう。一騎士団ごときでは介入すら出来なかったという。
それほどまでに強力な相手。

とりあえず連中の狙いが俺であるとわかっただけで十分だ。入試まで後約2ヶ月。連中の中に、敵の位置を把握できるような能力があると考えて動いた方がいい。でないと俺の方に向かっていたことに偶《・》然《・》以外で説明が付かない。固有魔法であり珍しいはずが、早くも持っている人と当たるとは。

ちなみに今日の予定だが、ワーカーさんの所に報告に行く。



「ワーカーさん、報告に来ました」
「ああ、リヒト様。ちょうど良かった。今から迎えに行こうとしていたところでしたよ。では、こちらに」

建物の会議室のようなところへ連れていかれた。中には既に2人ほど、記録のためか席に着いていた。
「さて、何から話してもらいましょうか」
「そうですね…とりあえず前提として、私は「常闇の夜明け」に狙われています」
「なんだって!?」
ワーカーさんはともかく、他の2人も声に出さないように気を付けながらも、驚いていた。しかし片方は何か考えている節がある。
「それは、なんで?」
「理由はわかりませんでした。上からの指示、としか聞き出せなかったので」
そこまで言ったところで失言に気付いたが、ワーカーさんは気付いていないようだ。
「そうですか…それで、昨日連れてきた人は?」
「屋敷が監視されていたのは前々から気付いていました。それを信頼できる人に相談したところ、まずは誰が標的なのかをはっきりさせよう、と言われましたのでその作戦を実行しました」
「信頼できる人、とは?」
「言えません」
「それは何故?」
「後ろの2人を信用していないからです。何度かこちらにはお邪魔していますが、右の彼なんかは1度も見たことがないんですよ。会ったら、薄くでも記憶に残っているはずなのに」
「そうですか…」
ワーカーさんは信用されていないことにか少し落ち込んでいたが、視線で続けるように言ってきた。
「それで、町中へ出て行ったところ追ってこなかったので、そのまま戻って不意打ちに」

違和感しかない虚構。ただリヒトが真っ向から倒したと言っても信じられないため、現実味のある「不意打ち」を信じるしかない。
現状彼らには、腑に落ちているようには見えない。

「と言うか…彼が「常闇の夜明け」だってなんで知ってるんですか?」
「?紋章が体にあったでしょう?」
姉さんから聞いた話を使う。
「紋章…か。では、「上からの指示」とは?」
気づいてしまった。

「そんなこと言いました?」
割り切ってしらを切るしかない。
「[探知魔法]については現場にいた人から聞いていたので問題は無いですが、いえ、なんでもないです。では、取調べはこれで。ありがとうございました」
ワーカーさんが席を立ち、俺も席を立ちかけたところで、動きを見せた者がいた。
時間操作《タイムコントロール》を起動、即座に抑えにかかる。

右手の小刀を叩き落とし組み抑える。
「ワーカーさん!」
突然のことにぼうっとしている彼の意識を起こさせる。
「斯れは脱出不可の縄。其れを以って敵を縛り束縛《バインド》」

発動直前で飛び退く。束縛《バインド》を食らった彼は完全に動きを封じられる。
「ワーカーさん。一応聞きますが、この顔に見覚えは?」
「ええっと、たしか、半年前に入隊してきた人ですね」
「半年……俺が関わるよりも前か。恐らく他にも居るでしょうね。潜んでる人」
「そう考えた方が良さそうですね。後で、秘密裏に調べてみます。となると、リヒト様が連れてきた人の警備の改善もするべきか…」

その後軽く話した後、様々な処理が必要になるとのことでワーカーさんは帰っていった。俺が思っていたよりも敵は近くまで忍び込んでいるようだ。一層、気を付けるべきか。
何度も考えているが、何故狙われているのだろうか。心当たりと言えばステータスの文字化けしているところくらいだが、位置を見るに後付け。特典としてもらった能力も、俺の人格が戻ってから発現したらしい。神託でもなければ手に入れられる情報ではない。
仮にその神託とやらがあるとするならば、暗殺を企てているのは国ということになる。

この世界において宗教は、教が大部分を占めており、キフェルネ領のあるカルノティア王国の西側に位置するユニ教国はその本山で、教皇が支配しているという。

国同士の交流もあるはずなので伝えられていてもおかしくはないが、だとすればもっと早く俺は殺されているはず。

考えれば考えるほど、沼に嵌っていく心持ちになる。

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