月下の幻想曲

矢能 智郁

15話



「了解。気をつけて」


「さて、居場所はわかっているんだ。出てこい」
「そなたらに逃げ場はなさんす。潔く、死になんし」
姿が見えないのにも関わらず感じ取れる寒気《殺気》。ミューの氷と相まって、イオタを固まらせる。
[空間探知]により敵の位置がわかるイオタだが、反応出来なければ意味が無い。

厳しい、と素直にそう思った。
あの殺気に当てられて以来何度か動こうとはしたものの、返り討ちにされる未来しか見えない。かといってこの状態を保つわけにもいかない。
意を決して、イオタが動く。
「はあっ!いけっ」
風刃が死神に向かって翔ける。

死神からも同様の、一回り大きい刃が放たれる。

ぶつかり、破られたのはもちろんイオタ。
そんなことは彼もわかっているため、それほど魔力は込めていなかった。追撃のための詠唱は、既に終わっている。
「土芥の槌!!」
空気の圧力を操り、圧縮した空気をハンマー状にして叩きつける。
その全力の攻撃に、流石の死神も迎撃するしかなかった。
「ついに解けたか」

現れたのは異質な気配の女性。顔立ちは整っており、灰髪蒼眼。女性としての特徴も顕著で、その美貌は数多の男を虜にするだろう。その中でも目を見張るのは着物に似た服装。
二つ名に相応しく闇を感じる印象だが、その中でもどこか彩り深い。足元が隠れるくらいの丈で一見動きにくそうだが、彼女の佇まいからはそれを感じない。
「ああ、解けなんす」
そう彼女が呟いたのが耳に入った頃にはもう彼女はそこにはおらず、

イオタの首に刃が迫っていた。




「イオタ?!」
ゴトリ、と首が落ちた音がした。
倒れた体も、周囲には血の海。
「嘘だろ。俺ら幹部の中で十指に入るあいつが?」
イオタの強みは[空間探知]。その認知外の速度で動かれれば、意味をなさない。
「1人目は終わりなんす。次はどちらざんすえ?」


「──っ。ねえカイ」
「ああ。わかってるよ。ミュー、行くぞ」
「かなわないと知るも向かってくる気概、無駄なんし。不可視の薔薇撃《クレア・ローズ》」
「ローズ、薔薇?それなら俺の赤魔法で燃やしつくしてやる。灼熱の渦」
燃え荒れる炎の渦。
しかし、薔薇の一撃は火を越えてカイの方へ
間一髪のところで重傷は避けたが、左腕に深い切り傷。
カイの後ろからミューが攻撃を仕掛けようとしたところで、

「おい!何してんだ!」

運悪く騎士団が乱入。真昼間に路地裏で保身の為とはいえ魔法を使い、被害を出していたら、住民も流石に黙ってはいない。
ほんの一瞬2人が反応してしまった隙に、死神は姿を消す。イオタを失った今、位置を特定する術はない。

証拠を消す間も無く見つかってしまった彼らは──大人しく捕まるはずもなく、逃走しようとしたところで、カイの腹から鮮血が吹いた。
突然の出来事に全員が驚きを隠せない。
注意が散漫になった一瞬を突いた、致命傷。
「カイ……」
「逃げろ、ミュー」
持って後数分、前にはレベルが高いと噂のキフェルネ騎士団、背後には神出鬼没の暗殺者。どう足掻いても、彼らに勝ち目はない。
「ここは、俺が、引き受ける……っ!
我が炎よ。命の灯火を糧に、全てを、燃やし尽くせ!!」
元々詠唱とはイメージを固めるためのもの。その過程が不要な今、カイに不可能はない。

「水よ、其の神秘を以て、我が身を隠したまえ。蜃気楼《ミラージュ》」
ミューとて使い慣れておらず、発動条件も厳しいと言われている「蜃気楼《ミラージュ》」。
難しいのは理論を理解し、イメージすることである。ある程度のレベルにもなれば、詠唱はそもそも必要ない。今の詠唱は、出来が不完全である可能性を低くし、荒れている心境でも発動するためである。

カイのにより水蒸気となった水分を使い、蜃気楼の原理で姿を消す。
(ありがとう、カイ)

カイも暗殺者の端くれであるため、暗器を所持しているが、本領は格闘技、すなわち拳。
「ここからは俺が相手だ、死神!」
「その無謀なぞ、お褒めしなんす」
突如飛んでくる不可視の刃。
満身創痍のカイが避けられるはずもなく、左腕が使い物にならなくなる。
「しくじりささんした。」
「いや、終わらせねえよ」

死神はミューを追うのを諦め、カイに狙いを絞った。ちなみに騎士団員は数名集まってはいるが、死神を視認できていないため、突如傷付くカイを見て困惑し、先程から下手に動けないでいる。
その中でも早く動けた隊長と思しき人が、
「ここにを青魔法を使えるやつはいるか?居るなら前に!」
と指示を出す。
出てきたのは3人。そのうち1人は新米のようで、酷く困惑している。
「よし、お前えら、全力で打て」
「分かりました」
3人は頷き、詠唱を始める。
その間にもカイの焔は燃え上がり続け、
「汝は我が力。其の水を以って敵を討て。水砲《ウォーターキャノン》」

カイの炎の前に、テンプレのような魔法程度では、3つの水流が近づいたところで届く前にに蒸発してしまう。


先程から幾度となく四方八方から飛んでくる攻撃を直感のみで避け続けているカイの表情には、笑みが零れていた。
「ミューを取り逃した時点でお前の死は確定してんだよ、死神。うちには俺が何人束になってもかなわない化け物が居る。そいつらには、お前ごときじゃ勝てねえよ」

姿を見せない死神の表情はわからない。

「おらぁ、はぁ、はぁ」
背後の気配に、攻撃を仕掛ける。高い反射神経と天性の勘があるからこその芸当。
既に新たな傷を幾つも受けているが、それでも太陽は輝く。
(ミュー、もう遠くまで逃げたよな)
「さあ、これで、最後《ラスト》だ」







「理の氷晶《コキュートス》」
突如、周囲が凍てつく。
カイの炎ですら、凍っていくほどの冷気。
「よう、カイ。派手にやってん…いや、やりすぎじゃね?怒られるぞ?」
「この声、ガンマさん!?」
「おう」
「な、なんで、ここに、、?」
「今にも倒れそうだった馬鹿弟子《ミュー》と偶然出くわしてな。見捨てるのも癪だから助けに来た。おっと、嬢さんは動くなよ」
一体どうしてか、位置を特定している。
「ガンマ…いや」
「おいおい、お得意の口調が崩れてるぞ?予想外の俺と言う乱入に焦っているのか?俺ら相性最悪だもんな」

露骨な煽りに死神は何か言い返そうとするが、言葉に詰まっている。
「それじゃ、こいつはもらっていくぜ?あ、あと、偶然ここにいらしてしまった方々に御冥福を」
そう笑むと同時に、騎士団員の胸から氷が湧き、その直後には誰一人としてここに立っているものは居なくなった。
瞬き1回ほどの時間もかからずに、その場には血の匂いと焼跡しか、残らなくなった。

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