月下の幻想曲

矢能 智郁

14話



「イオタ、カイ、準備は大丈夫よね?」
「ああ。今回の標的はどこかの次男坊だったか」
イオタはスラリとした背に、昔に左目に負ったという傷を隠すための眼帯。幼い頃に奴隷として買われ、闇に働く部隊として育てあげられたらしい。歳も40近いらしいが、衰えは全く感じない
「えぇ。でも油断はしないで。仮にも私たちが選ばれているんだし」
「そうだな」
「でもまだ10代のガキだろ?そんなに気を張ることもねーって」
対してカイは身長は平均程度だが腕っ節に自信があり、年齢も20代とまだまだこれから。
黒装束を纏った3人が、目標の元へと動き出す。

「なぁ、お前の[遠視魔法]には何が映ってる?」
そう。私が暗殺者としてやっていけているのは[遠視魔法]のおかげ。この固有魔法で哨戒、偵察を任されている。

「今は……まだキフェルネの屋敷の外かしら」
「でも便利だよなーその魔法。どこでも見れるんだろ?」
「まあね。でも視界は動かさなきゃいけないし、そのスピードは私たちが走るのより少し速いくらい。あくまでも魔法だから見つかる可能性もある。何より片目を使うから感覚がおかしくなるの」
だから戦闘中に使うのは避けている。少しのミスで死ぬような依頼も多いからだ。

「片目で生活か。イオタはなんでやられたんだっけ?」
「3年前だったか。とある依頼でな。最終的には殺せたが、その時に喰らった傷だ。今ではもう慣れたが、はじめは距離感すら掴めず苦労したが、今は魔法と併せてやれていけている」
「たしかに。戦闘には向かないわね。私も戦ってる最中は使わない…………あっ」
「おっ、なんだ?」
「目標が動いた。行くわよ」
「おー、ようやくか。よっしゃ、いくぜ!」
3人は目にも止まらぬ速さで、路地を駆け抜けて行った。






「この道を行くの…?一体、どこへ向かう気?」
「さあな。人気のない所に行けばこっちのものだ」
ここ数日、クシーと私の調査で彼の行動パターンはある程度把握した。でもその中にこの道はない。となると今日偶《・》々《・》?
「本来はどこでも殺る予定だったんだ?」
「目標がよく行く店が逆方向にあるの」
「逆、となるとあの辺か」
イオタにも心当たりはあるらしい。

「どうせ殺るんだ。どこでも同じだろ?」
「あのねぇ。後処理するこっちの身にもなってみなさいよ。あちこちにばらまいて。証拠消すのも楽じゃないだからね?」
「あぁ。いつも助かってるよ」
「もっと気持ち込めなさいよ……。少し距離があるわね。走るわよ」

距離を詰めるべく走り始めたが、
「止まって!!」
直ぐに止まることになる。

「ん?どうした?」
「視界から消えた。私の目で確認できないスピードを出された」
「はぁ?お前の動体視力かなりよかっただろ?」
「えぇ。あなたの7割程度であれば見れるわ」
でも…あんな子供に?ここ暫く彼を見ていたけど、そんな素振りはなかった。なら隠してた?いえ、あの子はまだ子供。それならどこかでボロが出るか私が気づいていた。

でも今先に考えるのはどこへ行ったのか、ということ。少なくとも私達に何らかの方法で気づいていないとあの反応はありえない。他に要因があった?いえ、それは考えにくい。あるならとっくにわかっててもいい頃合い。

仮に私たちに気づいているとしたら、狙うのは…クシー。でも彼に気づけてるとは思えない。何故なら私ですら彼を見つけるのは困難だから。少なくとも私達の中では特に彼は隠密に優れている。
「2人とも、戻るわよ」
彼が視界から消える前に確認できたのは、家の方向への体重移動。そしてあのスピードならすぐに到着する…!

「あぁ。わかっ」
「えっ…?」
「どうした…ちっ。気をつけろ。狙われてるぞ」

私達の探知の外から?!そういうのに敏感なカイが真っ先にやられるなんて…あぁ自分で言っておきながら、心のどこかで油断していたのかしらね。
そう思ったのも束の間、ある異変に気付く。
「あれ?気配がない?」
「いや、ある。かなり薄いが」
熟練のイオタでさえ薄らと感じる程度。相手はかなりの強者。
「空間探知。9時の方向、45度二〇五」
「了解っ。凍てつけ、氷弾《アイスバレット》」
拳大の氷塊が飛んでいく。
「かわしたか。なぁ、今回の標的は10代の子供だよな?」
「ええ」
「こいつ、大人だぞ?」
とはいいつつも、私には姿が見えていないため、判断がつかない。
「そしたら、想定外の敵ってこと?」
「ああ。ただこいつから仕掛けてきたのは間違いない。元の作戦に支障をきたすが、返り討ちにするぞ」
「もちろん言われなくても。汝が理、其の水を以て敵を討て。水砲《ウォーターキャノン》」
繰り出されたのは水の槍。一直線に飛び、見るだけでも高圧なのがわかり、いかにも切れそうである。

「世界よ。回り、歪め。空間歪曲《ワールドツイスト》」
民家に当たりかけた水砲が、向きを変え襲う。イオタは空間探知により位置を常に把握しているので、その位置に向けて操作している。常人ならざる軌道だが、それでも凌ぐ正体不明の敵。
「イオタ相手に苦もなく、透明な相手……もしかして」
彼女にはこの条件に当てはまる人を奇しくも1人だけ知っている。
「「無影の死神」……」

「──っ!なるほど、こいつが」
「ねぇ、なんで私たちを狙うの」
彼女の口から出たのは、いつも彼女たちに対する者達と同じ言葉だった。

「暗闇が世界を照らす。世間からは「死神」と呼ばれていなんす。わっちが狙うはある御方からの依頼──」
「とある御方?」
「あなた達は知らなで、散りなんす。わっちの姿を見ることなぞなさんす」
そんな挑発とわかっている言葉にもかかわらず黙っているはずもなく、
「それは出来ない相談だな。とりあえずお前の姿を拝見させてもらうとしよう」
イオタのプライドが、そう言い返した。
「頑張っておくんなんし。月夜に舞う一輪の花《ムーン・ロンド》」
どこからともなく舞い散る、数枚の花びら。
「止まれ!」
今にも動き出しそうな彼女をイオタが止める。

「この魔法と口調、自分でも言っていたように相手は死神だ。ならばあの魔法も見てくれだけではなく、何かある。現に見てみろ。花びら1枚で、あのざまだ」
「なっ!……ごめん。私が迂闊だったわ」
「今は引くことを考えるべきだ。まずは、カイを起こす。相性的にあれは俺が食い止める。そのうちに、頼む」
「了解。気をつけて」






「了解。気をつけて」
あれをイオタだけで止めるなんて芸当は不可能。一刻も早くカイを起こさなきゃ。

「カイ、起きて、カイ!」
周囲を気にしながら肩を揺する。しかし、いくら揺すっても目を覚ます気配はない。
「カイ、カイ」
「ん゛ん……ぁあ?」
「よかった、起きた。大丈夫?」
「ああ。って何だこの状況」
流石の彼も、この状況には困惑している。
「簡単に言うわね。あなたを気絶させたのは「無影の死神」」
「はぁ?!なんでSランク冒険者がこんな所に…」
「それはわかんない。で、今はイオタが1人で足止めしてくれてるけど、そう長くは持たない」
「イオタが?わかった。気を失ってたせいか頭が回んねえ。俺はどうすればいい?」
「とりあえず加勢に行くわよ。3対1なら実力差があっても少しは負担が軽くなるかもしれない」
「了解。行くぜ」
流石と言うべきか、この界隈に身を置いているだけあり切替は早い
「っわっと」
「きゃっ」
突如吹き荒れる風に身体がふらつく。止み、その方向に目を向ければ、目に入ってきたのは、イオタの首に刀が刺さる直前だった

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