月下の幻想曲

矢能 智郁

13話




鑑定当日。
 「さて、これからリヒトの鑑定が始まる訳だが、」
父キルスが告げる。
部屋にはリヒト、キルスの2人と数名の使用人。加えて鑑定士のライナー。
自分のステータスに散々練習してある程度使えるようになった[隠蔽魔法]をかけておく。
準備は、出来た。

「ライナー、よろしく頼む」
「わかりました。
我は見透す者。其の力を以て彼《か》の全てを暴かん。開示せよ。鑑定《ジャッジメント》」

「えっと…あ、ありますね。[探知魔法]」
「それは本当か?その他は?」
「本当です。他には、ないですね」
よかった。上手くいっていたようだ。
ライナーが退出し、見届け役の使用人達も出ていく。

「となるとリヒトの言うことは真実なのか…できれば嘘であって欲しかったな。ちなみに、今は?」
「今は南西の茂みの中に居ます」
「そうか。ならば、どう対策するか」
「とりあえず、奴らの標的をハッキリさせるべきだと思います」
「そうだな。俺とリヒトで二手に別れてみるか?」
「しかし、どちらでもなかった場合の警備が。」
「それなら、ライナーに任せる」
「先程の?たしかに気配は強そうでしたし、父さんがそう言うならそれでいいですけど…」
「あぁ、彼とは元々同じパーティの仲間なんだ。実力は保証する、とリヒトに言ってもしうょがないか」
父さんは元々王都では有名な実力者だったらしい。その時の功績で、領地を貰い貴族になったらしい。冒険者だったこともあり、辺境の領地を任されている。
「あの武器屋でのことがあってからお前のことは買っているんだ。この年であの太刀筋が出せるのはそう居ない。もしかすると将来は俺を超えるかもしれないしな。だからこそ、今までこうしてきた。本来なら10歳から家庭教師をつける予定だったが、あいつらが教えるのは専ら対人用に使う技術。冒険者になりたいお前には合わないと思ってな。下手に学ぶといずれ足枷になりかねない。それ用の技術を教えようとも思ったんだが、学園に行くんだろ?あそこならその気になれば嫌という程学べる」
父さんがそんな風に思っていたなんて……


「リヒト、もしお前が狙われたならすぐに助けを呼びなさい」
「はい。それは、もちろん」

そこから作戦の内容を詰めていき、こうなった。
    ・父さんが外出するタイミングで俺も外出
    ・外出後、わざと裏路地を通り家から離れる
    ・襲われたら臨機応変に対応、なかったら適度に散策後帰宅
    ・外出中はずっと敵の位置を探り続ける
    ・家の警備はライナーさん、リヒトはできるだけ戦いには参加しない

あまりにも簡潔だが、複雑化すると敵の目的がわかりにくくなる上、言って間違えると面倒になりかねない。また、出来るだけ普段通りに動けるようにした。とは言え考えたのはほとんどが俺で、父さんは細々とした修正のみ。俺の事を試しているような気もしなくはない。
しかしこのとおりに動く気もなく、今回で1人仕留めようと思う。もちろん勝機のある不意打ちで、にはなるが。
実行は3日後、父の外出予定のある3日後。それまでに動かれたらその時はその時だ。

ちなみに、この話は父さんと俺しか知らないため、外に漏れることはない。周囲に人が居ないことも確認済みで、盗聴器のような類いはまだこの世界にはない。


2日後、実行当日。
予定通り、父さんは隣の領地で開かれるパーティに姉さんと出発した。
兄さんは 先生と勉強中。
連中に動きはなく、父さん達を追う影は見当たらない。

準備をして出発。いつもの大通りを通り、裏路地に途中ではいる。
魔法には……引っかかっている。不自然に俺の方に向かってくる3つの印。速さからして歩いている。しかし、家を監視しているやつに動きはない。
周囲を見渡す振りをして、足を緩める。何処から見られているかわからず、連中[千里眼]みたいな固有魔法持ちが居るかもしれず、それに対処するための演技。

「よし、ここら辺でいか」
もうあるは程度引き付けた。がここで違和感。
「…ん?もう1人増えた?」
リヒトの方向に向かっていた3つの点に接触しようとしている何か。偶然か、必然か。
ならば今のうちに、と走り出す。
途中その道の近くを通ってみると、辺り一面凍っていた。下手に触れない方がいい、と元の作戦に意識を切り替える。





見つけた。特にめぼしいものを持っていない点から恐らく魔法で見張っているのだろう。
聞きたいこともあるので殺しはしない。
「がはっ」
首元に一発──追撃のための二発目は俺が未熟だったのか気付かれ、防がれる。
「甘かったな。小僧。今仕留めることでした、お前に勝機はない」
「それはやってみなければ分かりませんよ?」
「なら、その力、見せてもらおうか」

アイテムボックスから結月を取り出しながら、駆ける。時間操作《タイムコントロール》を発動、距離を一気に詰め、右腕を狙う。
さすがに予想外の速さだったのか、男は回避することなく右腕が宙を舞う。
「なっ」
そのまま、左腕を狙う。が剣で防がれる。時間は速まっているから、恐らく勘。しかしそれも虚しく3撃目で剣を離してしまう。
時間操作《タイムコントロール》による早期決着を図るしか勝ち目がなかったため、うまくいってよかった。

「さて、ここにいた理由を聞きましょうか」
「ははっ。我ら「常闇の夜明け」にねらわれて無事だったやつはいない。せいぜい足掻き、絶望を知りやがれ」
話は通じず、バタリと男はそこで力尽きた。粗方奥歯に仕込んでおいた毒による自決だろう。
そんなテンプレは予測できていたので、やつの体内の時間を遅め、毒の効きを遅める。
「解毒」
比較的苦手なため詠唱をする必要はあったが、とは言っても名前のみ。これで毒はなくなっただろう。
軽い電気ショックを与え、蘇生を試みる。自決してから未だそこまで時間は経っていない。加えて[時空魔法]のおかげでこいつの体内では1分も経っていない。

「がはっ。ゲホッゲホッ。はぁ…はぁ。どうして俺は生きてるんだ生き返った心地はどうですか?」
男は自分が生きていることを信じられないのか、手足を動かそうとしている。もちろん縛ってはある。

「一体、なんなんだお前は」
「しがない、一般人ですよ」
「こんなことが出来るやつを一般人とは呼ばない」
「で、あなた方は何者なんですか?」
「答えるわけがなかろう?もちろん、どんな尋問だったとしてもだ」

[洗脳魔法]─起動

男の目から生気が失われていく。
[探知魔法]に連中が引っかかった時から準備していた魔法。なるべく使いたくなかったが、事態が事態だからしょうがない、と割り切る。

「お前の名前は?」
「アフィール=セスマン」
姓持ち……貴族、いや元貴族か。現貴族ならここにいるはずがない。
「お前らの狙いはなんだ?」
「我らは「常闇の夜明け」。今回の標的はリヒト=キフェルネと言う少年だ」
標的は…俺、か。
「何故そいつを狙う?」
「理由は聞かされていない。我らに与えられたのは任務をこなすことだけだ」
「殺されるヤツらのことは考えないのか?」
「無論。団長から下される命に間違いはない。あの御方が悪と断じたなら悪である」
これは、団長とやらを心酔しているな…
「なるほど。お前を、拘束する」
俺はそう言って、[洗脳魔法]を解き、男の意識を失わせた。

さて、こいつをどうするか。とりあえず騎士団の牢屋に入れておくか。
他の連中は未だ何者かと戦っているらしく、動いていない。

なら、今のうちに。
「転移《テレポート》」
[時空魔法]の1つ転移《テレポート》。今は短い距離でしか使えないため、何度か使用して騎士団員の元へ連れていく。

「うわっ、誰…ってリヒト様じゃないですか。どうされたんですか?」
「あっ、さん。この人を牢屋に入れといてくれないかな?」
「いいけど、何があったんですか?」
「襲われたんです。この人に」
「ええっ!?それで大丈夫…そうですね。よかった。と言うか右腕が無いのは……」
「はい。おかげさまで。事情は明日でいいですか?」
「大丈夫ですよ。ちゃんと話してくれれば」
「あっ、その人「常闇の夜明け」らしいので、警備にはくれぐれもお気をつけて」
「「常闇の夜明け」っ!?わっ、わかりました。絶対に逃がさないようにします」
「厳しいと思いますが、よろしくお願いします」

さて、こいつも に渡せた。他の4人は、既に戻ったのか反応はなかった。
初めて腕とはいえ人を斬った。その感触はあまり良いものではなく、未だ残っているが吐き気のするほどではない。


父さんが帰ってくるのは7日後
連中にマークはつけているので、隠れ家はわかっている。こちらの準備が整わない間に攻めてこないことを祈る。

しかし、食い止めてたのは一体、誰だったのだろう。

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