月下の幻想曲

矢能 智郁

12話




季節は冬。リヒトに前世の人格が戻ってから1年と5ヶ月。
2ヶ月後にはミアロスク学園への入試が始まる。というのに、厄介事は舞い込んでいる。この短期間で解決できる問題ではないが、かといって長いこと放置しておく訳にも行かない、とリヒトは思っている。
熟練の手練との戦い。ただの11歳が勝てるはずもないが、リヒトは特殊ケース。十分に渡り合うだけの力を持っている。が、だとしても明らかに経験が足りない。相手の動きを読み、どう対処するかという点でも、対人戦においてこの差はかなり大きい。その差をどう詰めるか、彼はそんなことを考えていた。

相手の思考を読む、気配を悟る、戦闘中の勘。これらは一朝一夕で身につくものじゃない。リヒトには[時空魔法]があるが、消費する魔力量は他よりも格段に多いため、何度も使うことは出来ない。魔力切れになればそれは終わりを示す。

前世の知識も頼りに、それだけ頭の回るリヒトだが、返り討ちにすればそれはそれで噂になりかねないということは失念している。

兄に挑み、先生に挑み、失敗と反省、成長を繰り返している彼も人間である。いくら失敗しても新たに改善点は見つかるし、直そうとしても別のが生まれる。
客観的に見れば、魔法の素質は一流と呼んでも過言ではなく、剣の方もこの年齢においては所謂天才というやつだが、彼は納得していない。

貴族のパーティに父に同伴するのは基本的に兄か姉であり、存在しか知られていない(知られているかもわからない)彼にとって周囲からの期待は身内以外に存在せず、その重圧に苦しむことがないのは彼にとって幸運であっただろう。
もし知られていれば多方面からのアプローチは必至、ただでさえ辺境伯家として多いものがさらに増えるのは考えるまでもない。
それを見越して父もリヒトに声をかけていないのかどうかは定かではないが、学園入学前に一度、顔見せを兼ねて出席してほしいと言う父からのお達しは来ている。
多少なりの無茶を通してもらっている自覚があり、これからも聞いてもらうことになるだろうと考えている彼は断るに断れず、実は出席することになっている。


閑話休題。

動きがあったと言っても奴らがしているのがこの家の監視である以上、誰が標的になっているのかが分かりにくい。父キルスに知らせるのはもう少し情報を集めてからの予定だが、家を空けることでしか得られる情報が見当たらない。一人で出来ることに限りが、ありすぎる。





それからしばらく、連中に目立った動きはなかった。何か対策しようにも思い浮かばず、諦めて父のところに話を持っていくことにした。
「父さん、少し話が」
「あぁリヒトか。なんだ?」
「今、この家が誰かに監視されていますよ」
「それは本当か?」
「えぇ。上手く痕跡を消していますが、確実に」
「しかしだな、そんな経験もないのにどうして分かった?」

そりゃ聞きたくなるよな…。仕方がない、手札を1つ話すしかないか。
「父さんはスキルと呼ばれるものをご存知ですよね?」
「あぁ、僅かな人が先天的に持つ神からの贈り物のことだろう?それがどうした?」
「はい。父さんの想像通りです。私はスキルを持っています」
「しかし生まれた時の鑑定では何もなかったぞ?」

その質問は想定内だ。
「それは、その人の腕が悪かったのか、そもそもその時に発現していなかったのか、でしょう。現に今はありますし」
「一応その話が真実だとして聞いておこうか。そのスキルの、効果は?」

札を切るとは言え、正直に話す必要は無い。
「魔力感知、です。その人の魔力を感じることが出来ます」
「つまり、どんな遮蔽物に阻まれていても相手の場所がわかると?」
「えぇ。魔力は一人一人微妙に質が異なってくるので。あとは視界内であれば魔法も。魔法は使用者の魔力を用いているので」
「なるほど、そうならば草木に隠れている相手でも見つけられるか。ただ、やはりリヒトてあっても信じることは出来ないな」
「では、どう証明すれば?」
「鑑定を改めてしてもらおうか」
「わかりました」
…想定してた通りになったな。
しかし想定内ではあるし、考えていた最悪の事態ではない。
「わかりました」
「だがとりあえず警戒はしておこう。身内に危険が及ぶ可能性を放置しておきたくはない。たとえそれが、杞憂であっても。
日程は、あの人次第だが、おそらく明後日だろう」





さて、どうしようか。もう作れる魔法の枠は埋まっている。
となると、どうやって隠すか。
方法を考えつつ、ステータスを見てみる。


────────────────────────
 ステータス
        リヒト=キフェルネ (11歳)
        クラス : 
        称号 : 転生者、

        固有魔法 : 創造魔法、付与魔法、状態異常耐性、%?%f#ur!e、鑑定魔法、探知魔法、時空魔法

        魔力残量 : 73%

────────────────────────

[創造魔法]、[付与魔法][鑑定魔法]、[探知魔法]、[時空魔法]…………[付与魔法]?付与?

これまでは自分、すなわち動物やものを対象に考えてきたが、これならいけるんじゃないか?

「隠蔽」

当然の如く無詠唱。初めて使ったせいか、特に変化はない。
「隠蔽」
再度かけてみるが、結果は変わらず。
「隠蔽」「隠蔽」「隠蔽」「隠蔽」「隠蔽」
何度も何度も、魔力の許す限りかけ続ける。
しかしいくらやっても、思うような結果が出ない。
もしくは、自分にも結果が見えないようになっているか。いや、その場合今ステータスが見えてること自体おかしい。

「リヒト様ー、リヒト様ー。食事の時間ですよ〜」
思っていたよりも時間が経っていたみたいだ。
「あぁ、すぐに行くと伝えておいてくれ」
「わかりまし…えっ、今何処から…?リヒト様、いらっしゃるんですか?」
ん?何か様子がおかしい。
「ここだぞ?」
「んー。声が聞こえたような気がしたんですが…気の所為でしょう。リヒト様のお姿も見えませんし。珍しい」
彼女から俺の姿が見えていない…?
となると今使っていたのは、名付けるなら「気配隠蔽」ってところか。どうやらかける対象を間違えていたらしい。
効果は自分の影を薄くする、って感じだろう。1回や2回ではなく、自分の魔力の許す限り重ね掛けをしていたから効果は相当なはずた。

この状態がいつまで続くのかも知りたい。しょうがない。彼女には暫く探し回っていてもらおう。

とはいえこの誤算は嬉しいが、本題はステータスの隠蔽。
気配隠蔽が解けるまで、何度もかけ続ける。


────────────────────────
 ステータス
        リヒト=キフェルネ (11歳)
        クラス : 
        称号 : 転生者、

        固有魔法 : (創造魔法)付与魔法、状態異常耐性、%?%f#ur!e、鑑定魔法、探知魔法、時空魔法

        魔力残量 : 35%

────────────────────────
※()内 : 隠蔽済


よし、今度は成功だ。これを明後日まで、何度もかけ続ける。

[鑑定魔法]にも熟練度によるレベルは存在すると。相手の名前しか見えない者や、魔法も見える者、ステータスなら全て見れる者や、ものの情報まで見通せるもの。
1つの魔法をとっても、多種多様。その人の使い方次第で、変わってくる。
来る人のレベルがそこまで高くないのを祈るばかりだ。

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