月下の幻想曲

矢能 智郁

9話



──犯人も目的も分からないまま、真実は闇の中へ葬り去られた。

最近は外出の許可もおり、街へくり出している。
変わらず賑わう風景。季節は冬へと移ろい、厚手の服を着始める。

今日は、姉のフィーナと外出していた。
フィーナが父に直々に話をつけに行ったらしい。父曰く「リヒトがいるなら犯罪に巻き込まれても少しなら大丈夫だろう」と。
たった一度見ただけなのに寄せられる信頼を少し不思議に思う。領主の子供が犯罪に巻き込まれるだけで軽く一大事なのに。

「姉さん、最近は、どうですか?」
いつもの大通りを歩きながら尋ねる
「そろそろ座学が辛くなってきたわ。魔法は大丈夫だけど。そうだ、リヒト、先生に勝ったんだって?」
「えぇ、まぁ」
まぁそりゃ耳には入ってるか。
「お父様も大層驚いてたよ。すごいじゃない」
「ありがとうございます」
「どうやったの?」
「真っ向から勝ちましたよ?ちょっと特殊でしたけど」
「ちなみに、どうやって?」
「兄さんからは?」
「聞いてないから聞いてるのよ」
安心した。ちゃんと約束を守ってくれているみたいだ。
「秘密です。そう簡単には開かせません」
「じゃあなんでキュペルはいいのよ」
「兄さんは次期領主ですので。自衛手段くらいはあってもいいかと」
「私は?」
「姉さんは…もう十分にお強いでしょう?」
実はこの人、騎士団の兵士たちよりも強かったりする。彼らの練度はそんなに低くないはずなのに。
時々、模擬戦の為に騎士団領を訪れる姉さんの姿を見かけたりした。
まだ若いせいか、力加減を間違えやすい姉さん。父から言われた言葉はどちらかと言えば「姉の暴走をリヒトなら止められるな」と言うニュアンスが強かったりもする。要するに犯罪者の身を案じているのだ。

とは言えあくまでも基準は騎士団なので、特別強いわけでもない。
「そうでもないわよ。まだまだだわ」
「あまりやり過ぎると貰い手が…」
「それは弱いのが悪い」
「キッパリ言いますね…お相手いるのかな」

実はここ最近の悩みはこれだったりもする。
貴族の間では16〜20の間に結婚することはざらにある。とは言え、それの殆どは政略的なものがどうしても多くなるが。
18歳を時期に迎える彼女もそろそろ見つけ始めなければならない。
「そんな心配しなくていいの。それで、今日は何処へ向かってるの?」

「そうですね、どこに行きたいですか?」
「そうね…リヒトに任せてみようかしら。偶に街に出てるんでしょう?」
責任重大だなぁ。
「わか、りました」
普段通っている大通りはいつも通りの賑やかさだった。
「いいですけど、私は一平民としていろんな人に接しています。そのせいで姉さんも平民として扱われますが大丈夫ですよね?」
「えぇ。問題ないわ」


あちこちで商売の声が聞こえてくる。
「いらっしゃい!何にする?」
「おっちゃん、こいつとこいつ貰うわ!」
「えっ、そうなの?あそこのお宅の子が。すごいわね」


「いい街でしょう?」
「えぇ。ほんと」
「あっおばちゃん、いつもの2つ頂戴!」
今買ったのは肉まん。恐らく別の転生者が広めたものだろう。
「リヒト、これは?」
「僕が毎回買ってる肉まんですよ。いろんなとこで売ってますけど、ここのが1番美味しいんです」
おっちゃんが出来たてを手渡してくる。
「あら、そちらは…お姉さん?」
「えぇ、そうですよ」
「かわいいわね。はい、どうぞ。いつもありがとうね」
「いえいえ、こちらこそありがとうございます」

「ふー、ふー。やっぱり熱いわね。でも、美味しい」
久々にこういうのを食べたのか、頬が少し緩んでる。
「たまにはこういうのもいいでしょう?」
「えぇ。ほんと」

その後もこの付近で眺めのいい高台や、冒険者ギルド前など、姉の好きそうなところで普段行かないような所を順に案内していった。
今は幾つかある大通りの1つを歩いている。
「こんな街を治めているなんて、お父様はすごいわね」
「えぇ。そしてこれを継ぐのは兄さんです。どんな風に変わっていくんでしょうね」
「リヒトは、そっか、出ていくんだっけね」
「まぁ、はい。時々帰ってくる予定ではいます」
「私は…どうしようかなぁ」




「姉さん、ちょっとこっちに」
先程道確認のため開いた[探知魔法]に自分たちに敵意を持つ奴が引っかかった。1人や2人なら放置していたが5.6人居る。
その内ほぼ全員が視認できる範囲にいる。
これを偶然と考えないなら、明らかに狙われている。
「落ち着いて聞いてください。今、何者かに狙われています」
「!?本当に?全くそんな気配は…」
「確認方法が少し特殊なので、こちらも口外出来ません」
「…まぁ信じなくて殺されたら嫌だもの。信じてみるわ」
その判断は正直ありがたい。
「ありがとうございます。では少しずつ、家に戻りましょう。狙いがどっちか分からない以上、離れるのは危険です」
彼らに分からないよう、徐々に家の方向に歩く。

「すみません、こっち曲がります」
姉の手を引き、誘導する
「リヒト、なんでこんな所を曲がったの?方向はあっちじゃない」
「1つやってみたいことがありまして。でも口で説明するのは難しいので見ていてください。すぐ終わります」
[探知魔法]のマップ機能によると敵は6人。あと少しで追い付かれるらしい。

「時間操作《タイムコントロール》」
周囲の時間をできる限り遅らせる。風景がゆっくり動いている。

連中の1人の処へ向かう。そいつはゆっくり駆けていた。男の素性を探る。
黒い身体を覆い尽くすローブにフードを被り、片手にはナイフ。どう見ても暗殺者《アサシン》の類い。
一方的に殴り、意識を奪っておく。普通子供の筋力なら不可能だが、魔力を纏わせれば話は違ってくる。

ほかの3人も見て回ったが特にこれといった特徴はなく、素性は分からなかった。まぁそういうのは身に付けないのが普通なのだろうが。
もちろん、同様に殴っておいた。

残り2人。何らかの情報を持っていて欲しいと信じたいが、希望は薄い。

片方に接近するが、何もわからず。ただ、こちらに気付いたように見えた。見えただけで本当に気付かれたわけではなさそうだが。

結局、どちらも他の連中と同じ様なことしか分からなかった。
「リヒト、何をしたの?一瞬姿が見えなかったような気がしたけど」
ごもっともな質問。しかしそれに気づきてる姉の勘の良さに驚かされる。
「秘密です。まぁ終わりましたので帰りましょうか」
「えぇ。わかったわ。少し残念だけど」
…それはお出かけが中断されるからなのか闘えないからなのか。前者だと信じたい。

「結局何があったの?」
「今向かってます。簡単に言うと、僕か姉さんを狙った暗殺犯か誘拐犯が居ました。巷で話題なのは姉さんなので、恐らくは姉さん狙いかと」
「そう……にわかには信じられないけど、リヒトが言うなら、え?今向かってるの?」
「えぇ。周囲に他に居ないのは分かってますし、姉さんにも見てもらった方が何かわかるかな、と」
程なくして、人が倒れてるのが見えてくる。
「こいつらですよ、狙ってたのは」
「そう、ん?この人達って…」
そう言って男の胸元を見るように促す。
倒れた時に地面と擦れて破けたであろう服の隙間から覗く紋章《エンブレム》。
独特の骸骨にナイフ。間違いなく「常闇の夜明け」の証。
リヒトらを狙っているのは、有名な暗殺者集団だった。
「でも…なんで。いや、これが分かっただけでも十分か」
その小言に反応する。
「えぇ。そうね。ちなみに周りには?」
「え、あぁ…〜~!!今すぐ離れましょう。新たに2人がこっちに向かっています」
姉の指摘に自分の未熟さを感じる。

周囲を最大限に警戒しながら帰路に着く。
「姉さん、気を付けてくださいね」
「えぇ。暫くは安全なところにいるようにするわ。リヒトは大丈夫?」
「まぁ恐らくは。油断は、しないようにします」

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