月下の幻想曲

矢能 智郁

8話



後日、兄に呼び出された。

「リヒト、すまん。説得しきれなかった」
この前の魔法の件か。やはりダメだったらしい。
「そうですか…そしたら、俺は何をすれば?」
「先生の前であれを見せてやってくれ」
「あれ?あぁ、魔力ですか。わかりました」
そうなるだろうと準備はしている。
「日程は明日でいけるか?」
明日か、まぁ大丈夫だろう。
「はい。おそらく大丈夫です」
「そうか。よろしく頼む」



翌日、中庭に呼び出された。
約束の10分前位に着いておき、とある仕掛けを施す。

兄達が到着した。
「リヒト、もう居たのか。待たせたな」
「えぇ。待たせるのも悪いと思いまして」
嘘だがこう言っておく。
「そうか。あぁ、こちらが俺の教師のジャクソン先生だ」
うちも家庭教師を雇っている。学園に遠く、そこそこ経済的にも余裕があるからだ。
「よろしくお願いします」
「あぁ、よろしく。で? の弟が何するんだ?」
「魔力操作の実演を…って思ったんですが、理屈を並べてもそれだけじゃ納得してくれないでしょう?」
一応予定的には 話し合い、がダメなら模擬戦、もダメならとある手段、で考えている。
「ああ。そんなのを見せられてもな。これまで必要ないと言われていた事だ」

「では、手っ取り早く模擬戦、でどうですか?」
否定されるのは分かりきっていたため、早めに2つ目の方へ移行。
「子供のお前が俺に勝てるとでも?」
「えぇ」
「リヒト、無茶言うな!先生は元Bランク冒険者で、そのなかでも上位にいた人なんだぞ!勝てるわけがないだろう!」
元Bランクの上位か。自分のレベルも確かめられるし、不足はない。
「大丈夫ですよ、兄さん。見ててください」

ある程度お互いに距離をとる。
「使用可能なのは「周囲に被害の出ない程度」の魔法のみ、先に降参した方の負け、でいいですね?」
「あぁ」

「それでは、先、もらいます」
無詠唱で特大の赤魔法を展開。家1つは軽々と覆いつぶす程度の火球。もちろん、周囲に被害は出さない。
「これは反則じゃ…いや、なんでもない」
「はは。ありがとうございます。ちなみにこれで7割くらいですかね」
とか言いつつ実際はもっと低い。球体を浮かす程度であればいつもやってるからな。
「馬鹿言え。そんなわけがあるか。俺でさえこのレベルを見たのは数える程度しかないんだぞ。それがこんな子供に」
ってことで一回り大きくする。言葉より、実際に見せた方が早い。
「嘘だろ、こんだけやって全く熱くねぇ。しかも疲れてる様子もない」
仕上げに、火球を腕くらいの大きさの矢に変えて周囲に降らす。もちろん被害が出ないように。
「っ、危ねぇ。威力は申し分なし、加えて草木も燃えず、か。ルール的にも…ってそのためのルール設定か」
そう。普通は魔法を使えば多少なり周囲に被害が及ぶ。水浸しになったり、燃えたり、地形が変化していたり。それが無いのは異常とも言える。
そして「周囲に被害の出ない程度」という決まり。要するにこれは俺にとっては無いに等しく、ジャクソン先生の首を締めているだけである。
「たしか魔術王のも被害0だったな。そのレベルってことか」
(ちっ、こいつは普通のガキが届くレベルじゃねぇ。単に才能の塊なだけか、あいつの言う魔力操作か)

炎の矢が快晴の中未だ降りしきる。
「最後に1つ、私が得意なのは青魔法ですよ」
これには2人とも驚いている。今のこれでは真偽は付かないが、下手するとこれ以上のものがあるかもしれないと感じるだけでも少しの恐怖は生まれる。

「さて、茶番は終わりです。始めましょうか」
「あぁ。本気で行くぞ。じゃなきゃヤバそうだ。召喚《サモン》「炎狼」!」
現れたのは火を纏う狼。体長は小型車よりは大きいくらいで牙が異様に発達している。噛みつかれれば一溜りも無いだろう。
「行け」
下される指示に狼が走り出す。

ピリッと首に来る痛み。

そんな状況下で俺は、左手を差し出した。
「ばかか!リヒト!そんな事しなくても示せるだろう!?」
兄から悲鳴が聞こえるが無視。
噛みつかれるまであと少し。手に、魔力を込める。
3、2、1、ガブ─パキン。

砕けたのは自慢の牙だった。噛み付こうとしたまま呆気にとられている狼を右手でぶん殴る。力加減を間違えたのか、炎狼は火に還った。
「さて、次はどうしますか?」
呆然と見ている2人に、そう問いかけた。

「そんな…バカな」
(俺の炎狼を片手だけで、だと?)
「………………」

「私は魔力を纏う以外何もしていませんが、続けますか?」

「いや、いい。俺のこいつを正面から打ち破るやつは久しぶりだ。それだけの自身はあったんだがなぁ」
「まぁこれで魔力の重要性は分かって頂けましたね?」
必要は無いだろうが、敢えて問いかけてみる。
「先生、どうですか?」
「あぁ。十分すぎるほどにわかった。とは言え、俺に教えられる事なんてないぞ?」

「あぁ、それは大丈夫です。基本的なことはリヒトに既に教わっているので、時間さえ取ってもらえれば」
兄さんがそう言うと、ジャクソン先生は軽く笑みを浮かべた。
「そうか。そしたらキュペル、お前は部屋に戻れ。まぁ今日暫くは、座学だな」
兄は少ししょぼくれた顔をして「……はい」ととぼとぼと部屋に帰って行った。

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