月下の幻想曲

矢能 智郁

7話



兄の剣が首元に突きつけられる。
「俺の勝ちだな、リヒト」
右手を差し出す。
「えぇ、完敗です。やっぱり、兄さんは強い」
その手を右手で掴み、立ち上がる。
「さすが、自慢の弟だ」
「ありがとうございます」

「さて、この後どうする予定だ?」
この後、かそうだな。
「外にも出れないですし、ここで先程の反省でもしようかと」
「そうか。俺はとりわけ急を要する仕事は粗方終わらせてきたから暫くは空いてるぞ?」
ん?その言い方だと……
「手伝ってくれるんですか?」
「ああ、弟が学園で落ちこぼれない為にもな」
「ははは…それは、心配ないと思いますよ?」
これは街を歩いててある程度確信してる。
「でも確定ではないだろう?」
「いえ。まぁ見せた方が早いですかね」
「リヒトの魔法か。師事も得ずどれだけ使えるのか…」
「比較の為に兄さんから使ってくれませんか?5割位の力で」
「相当自信があるんだな。まぁいい。いくぞ」
そう言って詠唱を始める。
「汝は我が力。…………」
兄の体から魔力が溢れてくる。
「………………風砲《ウィンドブラスト》」
吹き荒れる風。しかし台風がもたらす被害よりは弱く、自力で立っていられる。木々は葉を揺らす程度。
「これで…5割ですか?」
実力の10割を出すのは不可能と言われている。となると実践でこの魔法を使おうとするとこれくらいの威力になるため、少し心もとない。

「あぁ。どうだ?これでも才能はあると言われているんだが」
基準が俺だからなんとも言えないが、正直微妙。俺がやったら色々騒ぎになりかねない。
「では、いきますね。一瞬ですが頑張って耐えてくださいね?」
万が一に備えてこの中庭にだけ時空魔法で次元をずらす。これで周囲への被害は無くなる。
「吹き荒れろ」
折角なので雑な詠唱。
木々は根から掘り起こされ、宙を舞う。
兄は…魔法で頑張って耐えようとはしているが危険な状態。
流石にこれ以上は危ないので止める。

「なんだ…この桁違いの威力は。リヒト、これで何割くらいの力だ?」
「6割ちょっとってとこですかね。本気を出すのは正直気が引けます」
「これは才能とかそういう問題じゃ…ってリヒト、この惨状は不味いんじゃないか?」
正直バレたらヤバい状態ではある。木は地面に横たわり、地面は所々傷ついている。が、その程度。

「空間再生《リバース》」
先程張った時空魔法。この付近の時間を巻き戻す。人間を対象にしたものは出来ないが、この程度なら制約に引っかからなかった。
「規格外とかそういう問題じゃねぇな……」
兄が何か呟いている。

「ん?リヒト、詠唱は?」
「しませんよ?そんなもの」
「そんなもの、か。俺はそれが1番大事だと習ったんだけどな」
「今の主流はそうらしいですね」
敢えて含みを持たせて言ってみる。
「どういうことだ?恥を忍んで頼む。教えてくれ」
「わかりました。ただ、2つ程お願いが。1つは他言無用でお願いします」
なんだかんだこれが重要。
「あぁ。わかった」
「2つ目、対価に兄さんは何をくれますか?」
この情報は側面によっては今の魔法を否定しかねない、そこそこ危ない情報。タダでは譲れない。
「何故だ?いや、これ程の力だ。それもそうか……」
兄もその価値に気付き、悩む。
「そうだな。貸し1つ、でどうだ?」
「こんな簡単に貸し作っちゃって大丈夫なんですか?」
少し不安を覚える。
「大丈夫だ。軽々とはリヒトにしかしねぇ。リヒトなら無茶なのは強請
ねだ
ってこねぇだろ?」
「えっ、えぇ。まぁ。それじゃあ話しますね」

了承を得たところで話し始める
「まず前提ですけど、詠唱をするのは頭の中でイメージを固めるためのものであって、本来は要らないんですよ」
そう。俺が魔法を使うにあたって喜んだことの一つ。厨二臭い詠唱をしなくていいのだ。
確認するのを忘れて少し焦った。
「そうなのか?」
「イメージすることも大事ですけど、事実こうして無詠唱だって出来てますし。魔法行使に当たって必要なのは魔力を如何にして使うか、です」
「それが魔力操作、ってわけか」
手っ取り早く、お手本を見せる。
両手にサッカーボール大の球状に魔力を集める。見やすいように、緑魔法を付与させておく。
「この緑色のが魔力です。兄さんもやってみて下さい」
そう言って、具体的に教えていく。
「こ、これは、難しいな」
「でしょう?この1年はこれに費やしてきました」
「よくやろうと思ったな。魔法関連の本にこれは不要って書かれてなかったか?」
「えぇ。ありましたよ?ここ150年以内の本には」
「150年以内?ってことはもっと前のを読んだのか?」
「はい。苦労しましたけどね。ちなみに アネルノ=サグノリア著の『魔法大全論』には「魔術行使において最も重要たるは魔力の操
あつか
いである」、アンシー=ブルカレッズ著の『希望』には「魔力を巧みに扱うことで素手でさえ岩を砕く」とありました」
「どっちも名前しか聞いたことがないな…魔術に関して多大な功績を残した、とかどうとかで」
「えぇ。そうです。」
「魔法の国」とまで呼ばれるカルノティアの上層部ではこの理論を否定してるみたいだが。

「その本、どこで読んだんだ?」
「父さんの書庫です」
「えっ、あそこに入ってたのか…うちにそんな重要なのを置いといていいのか?」
「それだけ国に信用されてるってことじゃないですか?もしくは曰く付きか」
俺は後者だと思っている。あくまでも予想だが。が今はその話をすべきじゃない。
「前者だとすれば、流石だな、父さんは」
「えぇ。ほんとに。でもそれを次ぐのは兄さんですよ?」
「うっ…まぁ、できる限りの努力はするさ」

「で、魔法についてだが、具体的には何をすればいいんだ?」
「なんでもいいです」
「なんでも?」
「えぇ。まぁ、見てください」
そう言って体の至る所に魔力を移動させ、形を作っていく。
「1箇所に集める、それを複数にする、集めたやつで形を作る、こういう風になんでもいいんです」
「なるほどな。ってお前の反省会のはずが、悪いな」
確かに本題はさっきの試合の反省だ。
「少し練習したら本題に付き合ってくださいね」
「もうこんな時間だが大丈夫か?」
「それはこっちのセリフですよ。大丈夫なんですか?」
さっきは終わらせてきたって言ってたけど。
「あぁ大丈夫だ。最悪明日やればいい」
少し心配だが、
「なら、こっちを続けましょうか」
「だな。つっても、こいつは数をこなすしかないんじゃないか?」
「結果的にはそうですね。でも、兄さんにそんな時間あるんですか?慣れればある程度までは片手間で出来ますけど」
俺が心配してるのは別の方。
「あー。無いな。となると先生を説得するしか……でも少し頭硬いんだよな、あの人」
「でしょう?説得方法を考えないと」
「とりあえずは俺が話をつけてみるが…最悪リヒト、お前にお願いしていいか?」
「えぇ」
と言うか元よりそのつもりた。
「ただ…」
「あぁ、広まるのを避けたいんだろ?」
「はい。なので最悪の場合あまり使いたくない手を使おうかと」
「ん?なんだ?」
それは、俺が少し苦手としている魔法。
「〜~〜~です」
「…なるほど。確かに最終手段、だな」
兄も納得している、と言うかせざるを得ない。
「時間も過ぎてきたし、そろそろ剣の方にいくか」
「はい。よろしくお願いします」

「あぁ、まずはな、〜~~」
「えぇ。〜~~~~」
「〜~~~~」
「〜~~~~」

時刻は夜。稽古にすっかり夢中になっていた俺らが気付いたのは、使用人に呼び出されてからだった。

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