月下の幻想曲

矢能 智郁

6話





変死体が裏路地で発見された。
顔を潰され、身体に無数の切り傷がある。
死因は背中の大きな傷だろう。

第一発見者は近くのパン屋の娘。店の準備を手伝い、この路地に来た時に見つけたらしい。9時頃には騎士団による調査が行われていた。

「団長、この件、どうしますか」
「まずは身元を確認しろ。一応聞き込みもしておけ。まぁ状況的にある程度犯人は絞れてる。「常闇の夜明け」か「起源の闇《ジ・オリジン》」辺りだろう。決めつけは良くないが、どうにも奴らにやり口が似ている」
「ではこの氷は?」
「十中八九この被害者がやったものだろうな。奴らが犯人ならここまでわかりやすくは残さない。もっと隠密にやれる」
「この齢にしてこの威力…出世間違いなしだっただろうに」
「それは一部界隈の話だろう?まぁここであーだこーだ話してても仕方がねぇ。一刻も早く手掛かりを探し出せ」
「分かりました」



「被害者は俺と同じくらいの少女か」
聴力を強化し、遠くから盗み聞く。
「常闇の夜明け」は任務遂行率の高い暗殺集団《アサシン》、「起源の闇」は違法的な実験をしているということで、巷で少し話題にはなっている。

どちらも数年前から で行動しているが、未だに尻尾を掴めていない。
難敵であるのは間違いなく、今の俺では下っ端にすら勝てない。仮に一対一だったとしても。何せ踏んできてる場数が違いすぎる。そもそもこちらは0だ。

この件に首を突っ込む気は無いが、そろそろ攻撃手段を確保するべきか。
となれば作るのは決まっている。転生時から浮かんでいた魔法。

[時空魔法]

イメージとしては、時間を操り、別の時空へ飛べるもの。タイムトラベルは規制上できないと考えている。

魔力残量は…81%、60%を使うとしても21%。となると今からは調査で夜に作った方がいいのか。
いや、俺独自の調査で出来ることなんてたかが知れてる。今は家に帰り、明日改めて騎士団の会話を盗みぎ方がいいだろう。

先程のイメージで創造《クリエイト》。魔力がごっそりひかれる感覚がくる。それだけ強力なのだろう。体内に何かがカチリとハマる感覚。今までには無かったものだ。3つ揃ったからなのか、適性が高いからか。
兎も角、今は[時空魔法]だ。

「時空操作《タイムコントロール》」
周囲の時間がゆっくり過ぎていく。恐らく成功だ。窓から外を見てみる。街の人の動きもゆっくりに見えている。

次にこれも実験だが、
「次元創世」
[時空魔法]と[創造魔法]の並列使用。
目の前に時空の黒い穴が出来る。試しに近くにあった本を投げ込み、閉じる。数分後別の場所で開き、手を突っ込むと確かに本は存在していた。

もうおわかりだろう。今作ったのは異空間収納、すなわち擬似的なアイテムボックスだ。
この魔法は応用がよく効く。理論上では空間すらも切り裂ける。

翌日、情報収集のため騎士団の寮を訪れた。
「なぁ、あの事件どう思う?」
「あー、いつにも増して残酷だよな」
とか
「今日のメシなんだろうな」
「さーな。さっさと食堂行こうぜ」
などの会話が聞こえる。これだけ張りつめていれば、気を抜きたくなるのもわかる。

その後も様々な所で盗み聞いたが、得られた情報は少なかった。仕方ない、自分から出向こうか。

「お母様、今日も外へ出かけてきます」
「リヒト、今日からしばらくはだめよ。少なくともあの事件が解決するまではね」
「あの事件、ですか?」
敢えてしらばっくれておく。
「ほら、女の子が殺された事件よ。今外は危ないんだから。」
母の言い付けを破ったときの罰は予想がつかない。何度か食らったことがあるが、毎度毎度驚かされている。今日一日のせいでしばらく外出できない可能性があるのは流石にリスクが高過ぎる。渋々、承諾する。

外出出来ないとなると今日すべきはやはり[時空魔法]か。いや、そろそろ組手をしておきたいな。事件の上澄みしか知らないがどうにも嫌な感じがする。万が一に備えておいて損は無いだろう。
と言うことで、兄の下へ。

「失礼します、兄さん」
「おう、リヒトか、どうしたんだ?」
「1度手合わせをしていただいたくて。そのお願いに参りました」
「リヒト戦えるのか?まぁ頼んでくるってことは大丈夫なんだろう。いいぜ。ただ、1時間後でいいか?色々済ませてから行く」
「ありがとうございます。では1時間後、中庭にて」

そして、1時間が過ぎた。
「よし、やるか」
「はい。よろしくお願いします」
「でも突然、どうしたんだ?」
「今の自分を知っておきたくて」
「なるほどな。確かに1人でやっててもわかんないしな。」
そう。これが1人で鍛錬する難点。
「武器は…一応この木刀で。魔法は周囲に被害の出ない程度まで、でいいな?んじゃ、どこからでも来い」

まずは油断している兄に本気を出させる
「ではいきます。油断、していでくださいね  ……時間操作《タイムコントロール》」
自身の時間を延長し、駆け出す。兄には俺が瞬間移動したように見えているだろう。
背後をとり、首元に横に一閃。兄は何も反応出来ずに固まったままだ。
「終わりです、兄さん」
「…一体何が起こった。全く何も見えなかったぞ」
「兄さんが油断しているからですよ。流石にこれは2本目、お願いします」
次は純粋な剣技でいく。技術なら恐らく兄の方が上だろう。
「それでは、いきます」
中段の構えを取り、駆け出す。先程同様、敢えて横に一閃。さすがに反応されたので木刀同士を滑らすように振り切り、切り返す。
兄は両手で構えた剣でいなしている。稚拙ながらも、稚拙ながらに精錬された一手。右、左、右。休むことなく攻め続ける。

この風景を傍から見ればただ兄弟がじゃれあってるよう。しかし本人達は至って真剣そのもの。優しい剣幕が、張り詰める。

幼年にして3つの差は、これ程に大きいのか。剣の型は隠れて魔法同様に練習してきた。しかしこうしてみると、自分の幼稚さが滲み出る。前世の記憶があるからこそ、普通の子供よりも余計に。

「おらぁ!」
兄の今までで一番重い一撃。これを防ぎきるのは不可能だ。
回避に専念し─しゃがみこみ─突然の衝撃。
されたことは単純。剣を囮にした、1発の蹴り。上を警戒していたからこその強い一撃。
倒れ込んだところに剣先を突きつけられ、チェックメイト。

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