月下の幻想曲
5話
闇夜を走る影。妖光が辛うじて視界を確保してくれているが、己が道を照らすものは何も無い。
一体何時間走っただろうか。
追ってはもう巻いただろうか。
そんな疑問が頭に浮かんでは消える。
逃げ惑う少女の前に2つの影が舞い降りた。
「見つけたぞ。もう逃げられると思うな」
別の方向へ逃げようとするも、既に囲まれていた。
「はぁ……はあ……私が、私が一体何をしたって言うの!」
「お前は我々の機密を知った。これは罪咎より重い。死をもって償え」
「私は何も見ていない。偶然通りかかっただけ」
「はっ、何を抜かすかと思えば。そんな偶然あるわけなかろう?もういい、殺れ」
冷徹な声音で指示がくだされる。四方から飛んでくるナイフ。全て裁くも、背後から衝撃が響く。
「がはっ」
血を吐き、失いそうになる意識をぐっと堪え、再度逃げる隙を伺う。敵にはどう足掻いても勝てない。
「汝は我が力。深淵なる闇を以って…………」
敵の1人が詠唱を始める。もう、時間はない。
どの道何を喰らえど待ち受けるのは死のみ。ならば、と、少女は覚悟を決めた。
「汝は我が力。その冰を以って全てを停めよ。絶対零度」
一瞬にして全てが凍る。しかし今のは普段よりかなり省略した隙だらけの詠唱。気を抜いている暇はない。兎に角、逃げよう。
突如少女の背筋が凍る。
「ふっ、その年齢でこれ程の力を有するか。ここで殺すには惜しいな。お前、我々の下に来ないか?」
振り向かずに走り出す。
「沈黙は否定と見なす。まぁいい。ならば、死ね」
体を襲う強い衝撃。先の戦闘で全身を痛めたため、今更ダメージを喰らっても変わらない、と思い走り出すが、右脇腹が異様に生温い。視界の隅で見てみると、黒い何かが広がっていた。それを確認したせいか、更に痛みが広がる。恐らく、軽く抉れている。
徐々に体が冷え、視界も悪くなっていく。
死を前にした少女に悪寒が追撃を加える。
「ガキの付け焼き刃だ。これくらいじゃあ死なねえよ」
いつの間にか再び囲まれていた。後ろを見ると、もう誰も凍っていない。
眩暈、ふらつき、倒れる。少女は幼いながらに、自らの死を悟る。
「さらばだ」
男の剣が振り降ろされた。
そして翌日、変死体が裏路地で発見された。
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