月下の幻想曲
4話
いつもの様に魔法の練習をしていると、父キルスに呼び出された。
「リヒト、前に冒険者になって世界を回りたいと言っていたな」
「はい」
急に、なんだろう。
「このまま騎士団に入る気は無いか?」
なるほど。この前の鍛冶屋の一件で目をつけたのか。
「ないです。そもそも規律の多い騎士団では私の肌に合わず、やっていけないと思います」
「そうか。それなら学園に通う気は?」
ミアロスク学園。キフェルネ家があるカルノティア帝国が「魔法の国」と呼ばれる所以。この学園で日々魔法の研究をしているからこそ、この国の魔法のレベルは世界でもトップの水準を誇る。
「それは…正直学園で学べるのは嬉しいのですが、ある程度までなら独学でやって行けるかなぁと。そこそこの情報収集であれば図書館がありますし、魔物に関してはギルドを頼れば言いわけですし」
「なるほど…その気があれば入学させるのも良しと思っていたが… 気が変わったら言ってくれ。直前でなければなんとでも出来る」
「分かりました」
そう言って部屋を出て、いつも鍛錬している場所に戻る。
それにしても、学園、か。''学校'' 懐かしい響きだ。高校大学では色々あったからなぁ。
なんてことを考えながら歩いていき、到着。
鍛錬を再開する。
さて、まずは魔力操作から。
はじめに、身体の中に広がる魔力を胸の中心に1つに固めていくイメージで集める。その後、身体の表面に薄く纏わせる。できるだけ均一になればいいが、これが難しい。どうしてもムラが出来るからだ。初日は凹凸だらけだったことを考えれば、大きな進歩ではある。
次に、魔力を手や足など体の一部分に集める。そしてそれを2ヶ所、3ヶ所・・・ と順に増やし、また均等に纏わせる。
これを素早く繰り返すのを1セットに、5〜7セットも行うと、そこそこ集中で息が上がる。理想は意識せずに魔力が移動できるレベルだが、これには年単位で時間がかかる。
これが終わると、次に体外に放出させていく。
指先から数cmのところに球状に、立方体に、薄く広く、などバリエーション豊かに何種類も変えていく。最終目標は魔力の足場を作ることだ。今は強度が脆いから怖くてできないけど。
これをやっていてわかったのは、体に纏うだけでは魔力は消費しないが、ある程度離れると消費されると言う点だ。すなわちただ足場を作っても魔力は消費されるってことだ。
魔力残量が70%を切ったところで魔力に属性を付ける作業に入る。
赤、青、緑、白、黒。単色でならイメージでなんとでもなるが、複数色になるとそうもいかない。赤と青、つまり火と水、相反する事象を混ぜ合わせるのがとても難しい。
ちなみに、一応全属性は使えたが、白魔法の治癒系・黒魔法の精神操作系が苦手で、青魔法・緑魔法が得意だった。無職に関しては未だによく分かっていない。
ひとえに属性を混ぜ合わせるとは言っても、青魔法と緑魔法の混合 と 青魔法と黒魔法の混合では前者の方が用意に出来る。いずれは後者の訓練は無くすつもりだが、使えるに越したことはなく、時間も魔力も余っている為、一応やっている。加えて後者に関しては前者よりも消費魔力が多いことがわかっている。
これを始めて1ヶ月と少し経つが、おかげで青魔法と緑魔法の混合は苦もなく出来るようにはなっていた。
最後に、魔法の行使。
これについては、一般的には詠唱が必要とされているが、実際は無詠唱でも大丈夫だ。しかし、両者にメリットデメリットがもちろん存在する。これはいずれ説明しよう。
最後のは日によってやったりやらなかったりする。なぜならここまでにかかる時間が長いのだ。集中していればかるく5時間近くはかかる。
いくら暇を持て余しているとはいえ時々やることはある。こういう時はある程度短縮したり省いたりしている。
こうして最近の日々は過ぎ去っていく。
季節は巡って秋。夏の蒸し暑さもなくなり、程よく涼しくなっていた。日本と違い紅葉はないため、あまり普段とかわって見える点はない。ここ最近も魔法の鍛錬に時間を費やしているので、一日がとても短く感じる。
そんな風に何の変哲もない日々を過ごしていた俺は、11歳になった。
こちらの世界にも暦はあり、誕生日の概念も存在する。場所によってはその月生まれの子供達を集め、パーティをするところもあるらしいが、うちの地域は大抵それぞれの家で祝っている。
キフェルネ家では夕食時にパーティをする予定だ。
そう言えば、1つ決めたことがある。父にはこれから話に行くが、学園へ行こうと思う。勉学よりはコミュニティを広げる、即ち友達作りだ。どこの世界でもある程度顔が広い方がいいらしい。
噂によると、再来年にこの国の王子が入学するとかなんとか。同時期に入学してもいいが、その分面倒事に巻き込まれるだろう。それは俺の仕事じゃないので、やめた。
また、たかが一辺境伯家の息子に軽々とあってくれるわけが無い。首席合格や面倒事に巻き込まれなければ、だが。
一年先に入学し、有名になっておくことで近づきやすくすると言う寸法だ。流石に王子とは知り合いになっておきたい。
その為にも、今は鍛錬に勤しむ。
すっかり忘れられている創造魔法だが、別段忘れているわけではない。今は引き出しを増やしている最中だ。
最近は5日に1度くらいのペースで町に出ている。件の鍛冶屋に行き、様々な鉱物・武具に触れたり、薬品やポーションと言った類のものを買ってみたり。その他重要なものからどうでもいいものまで幅広く、探知魔法を駆使して見回る。だから恐らく本格的に使い始めるのはミアロスク学園入学後だろう。それまでは知識の吸収に重きを置く。
「目標は決まっている。後はそこへ辿り着くだけだ」
俺の誕生日会を兼ねた夕食にて父に申し出た。
「お父様。一つお願いがあります」
「珍しいな。なんだ?」
「ミアロスク学園へ通うことを決めたので、その許可をいただきに」
「なんだ。通うことにしたのか。一応理由を聞いておこうか。前に行く必要はないと言っていたが」
「いえ、単純に交友関係を作りに。ある程度繋がりはあった方がいいかな、と思いまして」
「なるほど。わかった。手配しておこう」
「この件で1つお願いが。一般の方から入学させていただけませんか?」
学園に入る方法は主に2つ。
1つは貴族から推薦。この推薦を受け、教養・実力を測る試験を経て入学が決まる。貴族出身なだけあり、基本的に落選者は出にくいという。しかしある程度高位の貴族になると子供に家庭教師を付け、学校よりも高度な勉強を教えているため、こちらはそこまて多い人数が志願することはない。
もう1つは基準を満たせば誰でも受けられる試験。受験者数は全体の8割を占める。こちらは教養を見る筆記試験を受けた後、実技試験を受ける。内容は毎年異なるが、魔法や武器の巧拙は関係なく受かるらしいが、どうしても採点は貴族達の方よりも厳しくなる。
こうして、総受験者から2種の試験の合計得点が高い人から順に合格していく。
毎年、倍率は10倍近くにまで上る。
俺はこの一般の方から狭き門をくぐろうとしているのだ。
「もちろん受かるんだろうな?」
「えぇ、もちろん」
「なら構わん。鍛冶屋のでお前の剣のセンスは分かっている。ただし、必ず合格しろ」
「はい。ありがとうございます」
了承は得た。後はこの1年ちょっとで入試に備えるだけだ。
「まさかリヒトが学園へ行くなんて」
「そんなに驚きですか。母さん」
「えぇ。あんなに小さかったリヒトもこんなに大きくなったんですね」
「剣の腕も凄いらしいし、将来有望だな」
「兄さん、そんなことはありませんよ」
ここ最近誰かしらが忙しかったので、久々の一家団欒だった。
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