月下の幻想曲

矢能 智郁

3話




「お父様、鍛冶屋へ行くので着いてきてはくれませんか?」
「ほう。それは何故だ?」
「今のまま行けばこの家を次ぐのは兄になります。そしてこうなった場合、世界を周って見たいのです。そのためには、冒険者になるのが色々都合がいいと判断しました。」
内政チートもいいが、折角の異世界だ。地球では出来なかったことをしてみたい。そのためには地位は邪魔だ。
「だからその時のために武器が欲しいと」
「あっ、いえ、武器にも多種多様なものがありますし、今回はみるだけで。ただ自分1人で行くとどこにも相手をされないので」
この前も1人で見に行ったが、店主に見つかった瞬間に追い出された。
「了解した。今日明日は用事が立て込んでいるから明後日でいいか?」
「えっ、認めてくださるのですか?」
反対させること前提の突貫だったため驚いている。
「あぁ。フィーナらとは違い、今まで特に何もねだってこなかった我が子の頼みだ。聞かない理由がない」
「あ、ありがとうございます」
おそらく大体の貴族の家では冒険者になりたいなどと言えば反対されるだろう。こんな父だからこそ、皆に愛されているのかもしれない。

当日、父の昔からの知り合いがやっているという鍛冶屋に連れていってもらった。
「おー、らっしゃ…って領主様じゃありませんかぃ。こんな所まで一体何をしに?」
「相変わらずだな、ロッツ。そんなに畏まらなくてもいいと言っているのに」
道中で聞いたのだが、この2人は学園の同級生らしく、それ以来の仲だ。領地の騎士団の装備もこの人のものを使っている。
「いえいえ。領主様のおかげでこの店は繁盛しているんでさぁ。んで、今日は何をしに?」
「リヒトが防具を見たいと言うのでな、連れて来てみた」
「あのちっちゃい坊ちゃんがですかぃ?もうそんな歳ですかぁ。分かりやした。精を込めて選びまさぁ」
そう言って傍に置かれていた片手剣を手に取る。
「とりあえず順に試していくでさ。これを持って軽く振ってみてくだせぇ」
「はい」

一応鑑定、と。

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   炎の短剣

              攻撃力  1
              スキル  赤魔法威力up 微小

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言われたとおり軽く振ってみる。
「まだ10歳なのもあってかちょっと剣が重そうでさぁ。……ただ筋は悪くねぇ。たぶんもっと大きいサイズのは無理…とするとこのまま片手剣で探すしかねぇ」
ボソボソと何か呟いたのは聞き取れなかったが、おそらく褒められているらしい。

この後も何本かタイプの違う剣を試してみたが、どれも似たような感じだった。
「はじめからしっくり来てる方が珍しいでさぁ。落ち込むこともないでさ」
まぁまだ10歳だしな。成長期もまだまだこれからだ。

ふと、先程から目に付いているガラクタに並べられた見覚えのある剣を持ってみる。
黒い鞘に入っており、不気味な気配を感じる。
「坊ちゃん。それは使えないやつでさぁ。珍しくて知り合いに譲ってもらったが、使える奴を未だに見たことがねぇ」

見覚えがある、と思ったが少なくともこの世界ではない。となると日本だな。
…あっ。なんで忘れてたのだろう。これは侍の代名詞、「刀」だ。でもなんでこんなものがここに?
鑑定してみると、こうだった。

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    倚天刀「結月」

               攻撃力  12
               スキル  青魔法威力up 中
                            緑魔法威力up 大

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攻撃力12はなかなか強い。スキルも魅力的だ。

「一応説明しときやすと、これは普通の刀より切ること突くことに特化した剣でさぁ。」
「うん。さっきよりしっかりくるな。試し斬りしてみても大丈夫ですか?」
「それは問題ねぇが…いやわかりやした。準備するでさぁ」
そう言って取り出してきたのは筒状の金属が付いた的。
「こいつはBランクの冒険者が力を込めても砕けない程度の硬さはありますぜ」
「リヒト、いけるのか?」
「とりあえずやってみます」
刀を鞘から抜き、構える。前世のおかげでイメージだけは十二分。
「はっ!」
スパンッ と一閃。筒状の金属塊はその形状を保ったまま切り口に沿ってズレ─今ストンと落ちた。ロッツさんも父も驚きを隠せていない。それもそうだろう。10歳でしかない息子が大人ですら切るのが難しいものをいとも簡単に切ってしまったのだから。

「一体何が…すごい、こいつはすごいでさぁ。武器も、坊ちゃんの技量も。」
「あぁ、俺もここまでとは思わなかった。流石だな、リヒト。」
俺もこれは想像以上だった。切った時の感覚はほぼ0。豆腐でも切っているかのようだった。
「ロッツ、この剣 いくらだ?」
「えっ…あぁ、そもそも売れるとは思ってなかったんで値段は付いていやせんね…いや、坊ちゃんの将来への投資ってことでタダでいいでっせ?」
「そうか。じゃあ好意に甘えてそれで受け取っとく。ありがとな」
えっ、こいつタダでいいの?幾らこの世界の叩き斬る剣に慣れた人に使いにくいからとってもかなり強力だよ?
「ほらリヒト、これはもうお前のだ」
父から「結月」を受け取る。

改めて刀を見てみる。青みの帯びた、スラリと細長く切れ味のいい片刃の刀身。大体70cmだろうか。10歳には少し大きめのサイズ。決して派手ではないものの存在感のある鞘に収められる。
一体どうやって作られたのだろう。俺の他に転移・転生したやつが居るのだろうか。もしそうなら、他の文化も伝わっているはずだ。
この疑問が晴れる日は来るのだろうか。

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