VRゲームでも身体は動かしたくない。

姫野佑

第6章12幕 副長<deputy head>


 「つまりどういうことなの?」
 私はステイシーにそう問います。
 「えーっと。最初『ディレミアン』で依頼を出そうとして、内容的に却下されたから『ヨルデン』で依頼を出した人物がいるってことだよー」
 「依頼が断られたって、あの私兵訓練の?」
 「たぶんー。それはこの人に会えば分かるよねー」
 「ステイシー。場所に目途はついているの?」
 リーリが聞くとステイシーはふるふると首を振ります。
 「わからないー。でも知っている人は知ってるはずだよー」
 そう言いながらステイシーはチャットを送っているのか、一点を見つめ微動だにしなくなりました。

 私はNPCの男性を案内所の付近のベンチにこっそりと寝かせ、少し街の風景を見ながら歩きました。
 まさか報酬が面白いという理由で受けたクエストが、姫君殺害事件に関係しているとは思いませんでした。
 少しでもそう考え始めるとベルダートの態度や不鮮明なクエストの内容にも疑問が生じてきます。
 その疑問を振り払う様に首を振り、ステイシーとリーリがいるセカンドホームまで歩き出しました。

 「ただいま」
 「おかえりー」
 「あれ? リーリさんは?」
 辺りをきょろきょろと見回し、リーリがいないことに気付いた私は、ステイシーにそう聞きます。
 「リーリは迎えに行ったよー。って言っても誰が来るのかはわからないんだけどねー」
 「どういうこと?」
 「それは、こういうことや」
 後ろから聞き覚えのある声がします。
 くるりと振り向くとそこにはリーリともこちねるが立っていました。
 「あれ? もこちんさん? 『ヴァンディーガルム』にいたんじゃ?」
 『無法地帯 ヴァンディーガルム』から帰る際、すれ違った事を思い出し、私はそう尋ねました。
 「あれなー。完全外れやったわ。会うには会えたけど意味が分からん。そんで帰って来て、すぐここに飛ばされたわけやな。ほんっと人使い荒いで」
 そう言いながら持っていた薙刀を壁に立てかけ、床に正座ました。
 「座って話さん?」
 「座って話すならリビングに……」
 私がそう言うと、少し顔を赤らめたもこちねるが飛び上がる様に立ち上がり、「いくで」と言いました。

 「緑茶でいいですか?」
 「なぁ。敬語やめへん? 調子くるうって何度も言うとるやろ?」
 「そんな何度も言われてないと思うけど……」
 「うちにとっては一回も二回も百回もいっしょや! それに『ヴァンディーガルム』で会うた時、敬語やなかったやん!」
 「そうで……そうだっけ?」
 「せや。って違う違う。うちはこんな話をしに来たわけちゃう。そこのステイシーに伝えるように言われてきたんや」
 そう言ってもこちねるは一枚の封筒を取り出し、読み上げました。
 「ステイシー殿。この度は我が『叡智会』の力を借りたいと言うことで相違ないだろうか。『海上都市 ブラルタ』の姫君暗殺事件に関することと聞き及んでいるわ……長いわっ!」
 そう言ってペシャっと紙を地面に向かって投げ捨てたもこちねるが要点だけ掻い摘んで話します。
 「要するにあれやな。情報あげるし、協力するから仲間と一緒に本部まできてくれー、っちゅーことや」
 「簡潔だねー。二人はどうするー?」
 「いくよ。ボクもこの件には助力を惜しまない。そう言ったつもりだったんだけど」
 「私もいくよ」
 リーリと私もステイシーに同行することを聞いた時点で決めていたようですぐにそう回答します。
 「きまりやな。本部まで案内するからついてきー」
 そう言ってお茶を啜ったもこちねるが「あっつぁ!」と湯呑を落としました。

 「すまんな。チェリー湯呑割ってしもうて」
 「別に大丈夫だよ。高い物じゃないし」
 「ほんとすまんかった。ところで誰かゲートは……チェリーが使えるかー『ブラルタ』まで頼むわ」
 本部がブラルタにあるんですね。それは初めて知りました。なるほど。だからこそ『叡智会』はこの一件に詳しい、というわけですね。
 「≪ワープ・ゲート≫」

 私の≪ワープ・ゲート≫で『海上都市 ブラルタ』までやってきました。
 「本部は『ブラルタ』なんだね」
 「本部というとそれは違うなぁ。支部の本部が『ブラルタ』なんや」
 手に持った薙刀をクルリと回し、もこちねるが答えます。
 「どういうこと?」
 「まぁそれは企業秘密やなぁ。いけばわかると思うんやけど」
 「そっか」
 そう返事をしながら、もこちねるについて行くとすぐに、王城のようなものが見えました。
 そして王城のようなものが見える横に大きく『叡智会 支部本部』と書かれているのが見えてきました。
 「あいかわらず目立つなぁ。手続きするから少し待ってなー」
 そう言ってとことこと走り出し、入口の前に立つ人物に声を掛けに行きました。

 数分もせずにもこちねるが両手で大きく丸を作り、手招きします。
 「すまんな。ここは誰でも入れる場所ちゃうんや。足元、きーつけてや」
 高い段差があり、もこちねるに注意されなければ躓いてしまうところでした。
 「すこし行ったとこで支部長兼本部副長がまってるで」
 そう言われて少し、緊張しますが、ステイシーが話すと思うので大丈夫、と言い聞かせついて行きました。

 「副長。うちです。もこちねるです」
 「入っておいで」
 「わかりました」
 もこちねるが副長と話し、扉を開けます。
 「入りや」
 「お邪魔します」
 「やー」
 「思ったより豪華な感じだよ」
 中は確かに豪華で、高級なホテルの一室のようにも感じられる部屋でした。その奥に一つある執務机の所にはきっちりとしたスーツで清潔そうな見た目の男性が座っていました。
 私達が並ぶと、彼は立ち上がり、こちらに歩いてきました。
 「初めまして、だね。私は、浮島うきしま羽矢海はやみと申します」
 そう言って彼は挨拶をします。
 「チェリーです」
 「僕はステイシーだよー」
 「ボクはリーリ」
 「うちはもこちねるです」
 「一番左の子はもちろん知っているよ。どさくさに紛れてボケる辺り、変わらないね、もこ。チェリーさん。ステイシーくん。リーリさん。改めてよろしくお願いします」
 「副長」
 「わかっていますよ。この度は遠路はるばるご足労様です。では早速本題にはいりましょうか」
 そう言った浮島はホワイトボートのようなものを転がしてきました。
                                      to be continued...

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