VRゲームでも身体は動かしたくない。

姫野佑

第6章1幕 配達<delivery>


 運営からのメッセージが届いて二日後、私の家に電子データのパックが配達されました。
 なんだろう。
 そう思い、私はパックを開封します。
 中には一枚の電子板と小さめの小包が入っていました。

 『招待状』
 『プレイヤーの皆様に於かれましては平素より、当社の製品を遊んでいただき真に感謝致します。』
 『当社はかねてより皆様の冒険を応援して参りました。今では最大級のゲーム会社となった当社より、そのお礼といたしまして懇親会を開催することに決定いたしました。』
 『開催日は今週末、[Multi Game Corporation]本社にて行います。』
 『交通費や宿泊費などもこちらで負担させていただきますので、ご都合よろしければご参加ください』

 パックに入っていた電子板にそう表示され、もう一つの小包を開けるように促す音声メッセージが流れ始めます。
 その音声メッセージに従い、私が小包を開封すると小さいICカードがするりと出てきました。
 
 『ICカードを当端末にかざしてください。』

 今度は別の音声メッセージが流れ、私はそれに従います。

 『認証完了致しました。公共交通機関等を利用される場合は付属のICカードを用いてください。お待ちしております。』

 あー。なるほど。招待状兼交通費的なアレですかね。当日忘れないようにしましょう。行くかどうかまだ分かりませんが。

 時は少し遡ります。エルマがプフィーを呼び出した頃だったでしょうか。
 「どうしたノ? 急に助けてなンて」
 私達のセカンドホームにプフィーがやって来て息を整えた後、すぐそう口にしました。
 「聞きたいことがあるんだけど」
 「だったらそう言って呼び出して? 『助けて!』は駄目だよ」
 プフィーはすぐにロールプレイを放棄し、エルマにそう告げました。
 「【王】の【称号】ってどうやったら手に入る?」
 「最近その情報聞きたがる人が多いね。でもごめん私も、ううん、情報屋全体でもたぶんわからないと思う」
 「どゆこと?」
 「はっきりしない【称号】なんだよ。いつの間にか入手してた、とか、〔ユニークモンスター〕倒して入手したとか」
 「そう言えば私は『ファイサル』の一件の時にもらった気がする」
 私がそう言うと、ステイシーが続いて言いました。
 「僕は『魔城』を結成したころかなー? VR前だったから記憶が定かじゃないけどー」
 「マオは、ジルに、ギルドマスターに、してもらったとき、だった、かしら」
 マオも続け【王】という【称号】を持つ三人が三人とも違う経緯で獲得したことが分かります。
 「【称号】には特に効果はないんだろう?」
 サツキの質問に私とステイシーが頷きます。
 「何かあると考えるべきだろうね。それとプフィー。ワタシが持つ【精霊女王】などは【王】の【称号】とは系統的に違うだろうか?」
 「それはわからない。でもたぶんまったくの別系統なんだと思う」
 「ほう? どうしてそう思うんだい?」
 「だって同系統なら絶対何かしらの効果がが無いと説明ができない」
 確かにそうですね。
 今までたくさんの【称号】を獲得しましたが、効果が記載されていない【称号】は【王】と他に少しだけでした。効果自体はなくとも、何かしらの説明文はあったりする物なのですが。
 「たぶん系統化するなら外来系統ってなるんじゃないかな? 【訪問者】とか【観測者】とかの」
 プレイヤーを作成した時点、ログインした時点などでもらえる基本の【称号】ですね。特に効果も説明文もなく、チュートリアルの為に用意されている物だと考えられていました。
 確かに系統化するのであればそれが一番しっくりきますね。
 「難しいものだね。となるとすぐにワタシやエルマがそれを取得するのは無理そうだ」
 「ちぇー」
 エルマが口をすぼめ、不満を表します。
 「いつの間にか私でも取れてたし、たぶんそのうち取れるんじゃないかな?」
 「だといいけど」
 エルマはそう言って机の木目を数え始めました。

 その二日後に先ほどの宅配が届きました。
 おそらくステイシーやマオにも届いているんだと思います。
 ログインしたら聞こうと思いながら私は自動調理機から取り出した洋食を食べ、掲示板サイトを覗き込みます。

 『情報求む!』
 『運営からメッセージと電子データパック送られてきた! 俺悪いことはしてないんだけど! 何か知ってたら教えてくれ!』

 そう書いてある掲示板に目が行き、私もそのページを開き観覧します。

 『詳しく』

 『だから突然運営からデータパック来たんだよ! 懇親会がなんだって!』

 『えっ? 俺のところ来てないけど? 離島だからか?』

 『待て。俺も来ていないぞ。こないだ始めたばっかだけど』

 『どういうことなんだよ!』

 私たち以外にも運営からのメッセージが届き、電子データパックが送られてきた人がいるみたいですね。
 これもあとで話しましょう。
 私は掲示板サイトを閉じ、ベッドにもぞもぞと入り込みます。
 そして頭に端末を装着して、ログインします。

 「んーっ」
 いつも通りセカンドホームの自室のベッドで覚醒した私は伸びをし、ベッドから出ます。
 パーティー欄を確認するとエルマとステイシーがログインしているようだったのでチャットを送ります。

 『おはよ。今日運営から電子データのパック送られてきたよ』
 『待って。あたしもそれ来た』
 『僕も送られてきたー』
 『ちょっと話せる?』
 『リビングにいる』
 『今訓練場ー。僕もいくー』

 私は自室を出て、リビング、一階まで降りてきます。
 「おはよ」
 「エルマおはよ。エルマにも送られてきたんだね」
 「うん。メッセージは来てないんだけど、データパックは来た。ICカード調べてみたら、本社の入館許可情報と公共交通機関の無料データとガソリンとかの無料データ入ってた」
 「良く調べたね」
 「永谷に調べてもらった」
 なんだかんだお嬢様ですからね。危険物とかないかどうかチェックしているのかもしれませんね。
 「永谷さんは元気?」
 「車出すって、そればっかり。最近本家だとあんまり仕事ないみたいで」
 「そうなの?」
 「両親が世界一周中だからね。あっそうだ。チェリーも一緒に乗っていく?」
 「あー。そうしようかな。一人で行くのは不安だし」
 最近動くのがあまり億劫ではなくなってきましたが、駅まで徒歩数十分の道を歩いて電車でもみくちゃにされるのは嫌なので、エルマの提案は正直助かりました。
 「それ僕もご一緒していいかなー?」
 「おはよ。ステイシー」
 「うんー。おはよー」
 「大きい車が実家にあるからソレ出してもらえば大丈夫だけど、あたしリアルのステイシーを知らない」
 「私も」
 「えー? TACで見なかったー?」
 「ん?」
 「えっ?」
 「あれ僕リアルのまんまだよー」
 知らなかった!
 「ごめん。正直覚えてない」
 エルマがそう少し申し訳なさそうに言います。
 「だろうねー。待ち合わせとか決めてそこまで来てもらうってできるかなー? たぶんあの女とサツキにも来てると思うからー。それに」
 「それに?」
 「なるべく固まっておいた方がいい気がするんだよ」
 ステイシーが真剣な表情で言いました。
                                      to be continued...

コメント

コメントを書く

「SF」の人気作品

書籍化作品