VRゲームでも身体は動かしたくない。

姫野佑

第5章31幕 ツマミ<nibbles>


 転移魔法で『精霊都市 エレスティアナ』へと戻ってきます。
 ステイシー達に帰還を伝えたところ、「すぐにサツキがいくー」との返事をいただいたので、『精霊都市 エレスティアナ』の入国審査を済ませ、待ち合わせ場所として人気のある広場へとやってきます。
 広場を軽く見回すと非常に目立つ赤いファーのついたコートを羽織るサツキが見えたのでそちらへ向かいます。
 「おまたせ」
 「あぁ。おかえり。ここじゃ話を聞いても仕方がないね。どこか酒の旨いところに行こうか」
 サツキに話しかけると、サツキはすぐに酒場に向かって歩き出しました。
 きっと気になっていたんですよね。

 「ここは先日ステイシーと発見した酒場だ。穴場なんだけれどね。会員制なんだ」
 「おお」
 「へぇ」
 「私も行ってもいいの?」
 私とエルマが声をあげるとプフィーが少し不安そうにサツキに聞き返していました。
 「無論だ。むしろ君からの話を主に聞きたいと思っていたんだ。さぁ入ってくれ」
 サツキはプフィーの腰辺りに手を添え、入店を促しました。

 「おつかれー」
 「おつかれ、さま」
 ステイシーとマオはこちらで待っていたようで、手にはほぼ空のグラスを持ちながらそう迎えてくれます。
 「まぁ座ってくれ。実は今日、貸し切りなんだ。他の誰にも聞かれたくはないからね」
 サツキがそう言いながらマオの横へ座ります。
 机を挟んで反対側に奥からプフィー、エルマ、私と座りました。
 「では聞かせてくれないだろうか。君たちの冒険を」
 サツキがかっこいいポーズと指パッチンの組み合わせ技で会話を促します。
 「では最初から話しますね」
 プフィーが少し思い出しながらという様子で語り始めます。

 「そうか。かなり濃厚な数日だったんだね。しかし気になるのは、効果が似たようなユニーク武具か」
 正直ゲーマーとしては『レイグ』だなんだとかを気にするより、こっちですよね。
 「私の知る限りだと、聞いたことがない」
 他のメンバーもコクリと頷き初耳である事を告げます。
 「でもこの一件の後、情報屋仲間に連絡を取ったんだよ。そうしたら面白い情報が貰えたよ」
 お酒が入ったからか最初よりも打ち解けた雰囲気のプフィーがそう言いました。
 「ほう。一体何かね?」
 「……〔ユニークモンスター〕が分類された、と」
 「おお」
 これにはマオを除く全員が声をあげました。
 「ところで分類って?」
 エルマがそう聞き返しました。
 「それがね。単独討伐型と単隊討伐型と複隊討伐型らしいよ」
 ちょっと説明が足りなかったかなぁ、と付け足した後に補足で説明してくれました。
 「今まで私達がやっていたのは単独討伐型と単隊討伐型らしいの。単体はソロでも討伐可能な〔ユニークモンスター〕。単隊討伐型はパーティー一つで討伐可能な〔ユニークモンスター〕。この二つはいままでと一緒だね。貰える討伐報酬も皆別々だし」
 そこまで聞いた私達は首をコクコクと縦に振ります。一名は船を漕いでいますが。
 「そこに複数のパーティーで討伐可能な複隊討伐型が追加されたとみて間違いないっていう話みたい」
 「なるほど……」
 自然と漏れてしまった私の声を聞いたプフィーは、私に質問を飛ばします。
 「じゃぁチェリー。今までの〔ユニークモンスター〕討伐で報酬を貰えなかったことはある? もちろん武具とか素材とかの」
 「あるよ。結構たくさん」
 「それが今回の分類みたい。単独は一人まで、単隊は6人まで、そして複隊は3パーティーの合計18人まで貰えるみたい」
 あくまで予想だけどね、と付け足し、プフィーはお酒で喉を潤しました。
 「一理あると思う。強い〔ユニークモンスター〕の時は皆何かしら貰っていたし、この間この5人で討伐した〔ユニークモンスター〕はサツキしかちゃんとした報酬が出なかったし」
 私がそこまで言うと、プフィーが顔をこちらに向け、「この情報は大事!」そう言って何やらチャットを始めました。

 「ところで私達がいなかった時三人は何をしてたの?」
 プフィーの会話が一段落したので今度はこちらも質問させてもらいましょう。
 「なんてことはない。ただ三人で集まって、クエストをこなしたりとかだね。特に語って面白い物ではなかったよ」
 そう少し残念そうに、サツキが言いました。

 別々に過ごしていた時間のことを情報交換し、その後は他愛もない話をしていると時間があっと言う間に過ぎます。
 「あっもうこんな時間か。ごめん。私は落ちるね」
 プフィーがそう言いながら、少しのお金を置いてログアウトしていきました。
 確かに現在20時なので、晩御飯やお風呂などいろいろやることがあるのでしょう。
 プフィーが落ちると皆も落ち始めると思うので一度解散になりました。
 そして現実に戻ってきた私は軽めの食事をとり、布団に入るとすぐに睡魔に負けてしまいました。

 昨夜は随分と早く寝たので今日も早く起きれました。
 起きた時刻は午前8時。まだ早朝です。
 昨夜、お風呂に入らずに眠ってしまったので、寝汗を流す意味も込めて軽くお風呂に入ります。
 お風呂から上がり、自動調理機で用意した朝食を食べ、少しネットサーフィンをしてから<Imperial Of Egg>にログインします。

 会員制の酒場を出て、宿屋に戻ってログアウトしておいたので、宿屋の一階でこちらの身体にも食事をさせてあげることができました。
 珍しく、私が一番乗りだったので、デザートまで注文し食べていると、チャットが届きました。

 『チェリー。俺っす。『無法地帯 ヴァンディーガルム』の探索を終えたっす。どこか話せる場所はないっすか?』
 ハリリンからのチャットでした。新マップの探索が終わったとは早いですね。まぁ結構豪華なメンバーでしたし不思議ではありません。
 『わかった。でもいまこっちのパーティーは私しかログインしてない』
 『分かったっす。どこか場所を用意しておいてくれればそろったときに向かうっす』
 『じゃぁその時またチャットする』
 『お願いっすー』

 ではデザートを食べ終えてから適当な場所を見繕いましょう。とそう思っていたのですが、私がデザートを食べ終わるころにはステイシーとプフィーがログインしてきました。
 「おやー。チェリー。今日は一段と早いねー」
 「ちょっとびっくりかも」
 「昨日も早く寝ちゃっただけだよ。あっそうそうハリリンから伝言なんだけど」
 そう言って、先ほどのチャットの内容を伝えます。
 「りょうかーい。それならいいところがあるよー」
 「昨日の会員制酒場?」
 「いやー? 普通に酒場ー」
 あっ。酒場は酒場なんですね。

 後から来るであろうサツキやマオは場所がわかっているそうなので一足先に向かうことにします。
 宿屋を出て4.5分歩くとその酒場が見えてきました。
 「ここはねー。NPCのお店だけど、外の人にも配慮してくれてるんだー。地下が個室兼ミーティングルームなんだー」
 「気が利くね」
 そうですね。気が利きます。
 扉を開けて入ったステイシーは店員と顔なじみなのかすぐに地下へと歩いていきました。
 それに続いて私達も地下へと降ります。
 地下にはいくつかの扉があり、個室Aから個室Fと書かれた札が見えます。
 「んー。あそこが開いてるねー」
 ステイシーがそう言って個室Cの扉を開け中に入ります。
 「NPCが注文を届けてはくれないんだけどー、そこの箱から注文した商品がばんばん出てくる面白システムの部屋ー」
 それはちょっと見てみたいですね。
 「さっき軽く食べたばっかりだけど、何か食べようかな」
 「食事はいつも通りだよー」
 あっ。『精霊都市 エレスティアナ』恒例のマズ飯ですか。
 少し減ってきたお腹が主張を止めおとなしくなります。
 「……っとー。サツキとマオにも伝えたよー。エルマにも一応個人チャットで教えたー」
 ということはみんなログインしたみたいですね。
 「私はハリリンに伝えていい?」
 「いいよー」
 そういうわけで私はハリリンにチャットを送り、この後聞けるであろう、新マップの情報に胸を膨らませます。
                                      to be continued...

「VRゲームでも身体は動かしたくない。」を読んでいる人はこの作品も読んでいます

「SF」の人気作品

コメント

コメントを書く