VRゲームでも身体は動かしたくない。

姫野佑

第5章30幕 報酬<reward>


 『〔竜骨鬼 ダドラ・スケルティア〕の討伐を確認しました。ユニーク装備【竜骨鬼腕 スカル・ダドラ】をインベントリに獲得しました。』

  〔ユニークモンスター〕を倒した時にでる討伐アナウンスを確認した私は、ネジの切れたからくり人形の様に力なく地面にぺたりと座りました。
 「チェリー大丈夫?」
 一目散に退避したプフィーが持ち前の速度で私の元へと駆け寄り、そう声をかけてきます。
 「大丈夫。久々のMP切れで少し疲れただけ」
 私はそうプフィーに伝えながら獲得した装備品を確認します。
 【竜骨鬼腕 スカル・ダドラ】は今装備している【イナーシャグローブ】よりも防御性能が良い物でしたので、装備を更新し、装備セットに登録しておきます。
 固有スキルは≪上級火属性魔法≫と≪物理耐性≫、≪魔法耐性≫でした。≪物理耐性≫と≪魔法耐性≫は装備中常に効果を発揮するパッシブスキルのようでしたが、〔竜骨鬼 ダドラ・スケルティア〕のように完全防御というわけではなさそうです。
 あのレベルの完全防御だとスキルレベル20を超えそうですね。
 「私は【竜骨鬼脚 スカル・ダドラ】っていうやつだった。チェリーは?」
 プフィーが戦利品について聞いてきたので答えます。
 「【竜骨鬼腕 スカル・ダドラ】だよ。これ」
 アクセサリーの効果をオフにして装備を見せます。
 「これはごついねー。私のもごついなぁ。私もアクセサリーで見た目性能あげたい」
 わかります。女の子ならみんなそうですよね。
 「とりあえず皆のところにいこうか。肩貸すよ」
 「ごめん、おねがい」
 私の横にしゃがみ、よこっらせ、と脇の間から頭を出し、持ち上げて起こしてくれました。
 「プフィーよ。ステータス的なあれがあるこのゲーム内で女性を持ち上げる時によっこらせは失礼ではないかい?」
 「俵担ぎじゃないだけまし」
 「たしかに。ありがとうございます」

 「おつかれさまでした」
 ファリアルの元へたどり着いた私達にファリアルはそう言葉を掛け、獲得した装備品を見せてきます。
 「【竜骨鬼面 スカル・ダドラ】だそうです。完全防御スキル付きの武具ですね。私には必要ないものですが、差し上げましょうか?」
 魅力的な提案ですが、すでに一つ貰っているのでさすがにそれはお断りしました。
 「ちなみにあたしは【竜骨鬼体 スカル・ダドラ】。防御性能の高い防具だったよ」
 エルマの戦利品も聞き、私達三人が受け取ったユニーク武具が名前と装備部位が異なりますが、性能自体はまるで同じということを知りました。
 「なかなか珍しいよね。同じ性能の武具が複数落ちる敵なんて」
 エルマがそう言うと、プフィーもそう思った用で、情報屋仲間に色々とチャットを送っていました。
 「では改めて報酬のお話がしたいので、図書館に戻りましょう。お疲れのようですし、手短に済ませます。≪トランスポート≫」
 
 一瞬で私達は十三位研究所の図書館まで到達します。
 「≪トランスポート≫……」
 転移魔法とはシステムが異なるので転送魔法と呼ばれる≪トランスポート≫を用いて一瞬で移動させてくれたファリアルは無詠唱で自身に≪テレポート≫をかけていたようですが、涼しげにお茶を飲んでいます。
 「そろそろきますね」
 ファリアルがそう言うと、扉が開き、フェアリルとアディクが入ってきます。
 「失礼します」
 一礼し、宣言してからアディクは私達の後ろへと立ちます。
 「ではこの度のクエストに関して報酬を支払います。『〔群生生命体 グリガーリ・S・ネス〕の調査』という一連のクエストは完了扱いにします。フェアリル姉さんからの報告で解決しました。こちらの報酬では、各人2000万金を与えます」
 それを聞いた私達は目を見開き、口をポカンと開けてしまいました。
 「分かります。多すぎと言いたいのでしょう。堪えてください。これは正当な報酬です。むしろ諸経費で消えてしまった分を補填したいほどです」
 「いえいえいえいえ! 十分です!」
 私が恐ろしい申し出に両手を前に突き出しながら首を振り、辞退を伝えます。
 「そうですか。分かりました。では続いて『緊急クエスト』の方の報酬ですが、決めかねています。何か欲しい物、必要なものはありますか?」
 決めかねる、そうだと思います。
 突然出た強力な〔ユニークモンスター〕の討伐ですからね。少し気になっていたのでこの際聞きましょう。
 「一つ聞いてもよいですか?」
 「なんでもお答えします」
 「もし私達があの場に居なかったら、ファリアルさんが一人で討伐していましたよね?」
 私がそう聞くと、プフィーが「えっ?」と声をあげながらこちらを見てきます。
 「どうしてそう思うのですか?」
 「実力です。少なくとも私達が三人で束になったとしてもファリアルさんを倒せる気がしません」
 「なるほど。フェアリル姉さん。アディク。少し席を外してもらえますか」
 「かしこまりました」
 「わかったわぁ」
 そう言った二人が完全に退室し、扉が閉まった後話し始めます。
 「まずその話にお答えする前に、一つ話さなければいけないことがあります。他言無用でお願いします」
 真剣な表情で言ったファリアルに私達三人は頷くことで返事をしました。
 「私は純粋なNPCではありません」
 「はい?」
 突然のことで脳が追いつかず素っ頓狂な声をあげてしまいます。
 「その反応も最もですね。私はプレイヤーの皆さまからすると運営側に当たる人間に作られたものです」
 NPCから運営という言葉を聞いたことで異常な違和感を感じますが、クエストと言っていた謎が解けました。
 「運営側の代理キャラクターとしてキャラメイクにより生み出された私は、いつでも運営側の人間がログインできます。なので保護機能があるのです」
 「そうなんですか。でもそれって悲しくないですか?」
 「いえ。もともとそう言うものだったので私には特に思うところはありません。もし仮に私がキャラクターとして使われたとしてもその時の会話、行動はすべてわかります」
 「なるほど……」
 納得するしかなさそうですね。
 「それが私の正体。強さの秘密です。では最初の質問に戻りましょう」
 そう言ってファリアルは紅茶を飲み続きを語ります。
 「私はあの場に貴女方がいなかった場合、〔ユニークモンスター〕……。この際話してしまってもいいですね。〔ユニークレイドモンスター〕というのですが、あれを倒すつもりはありませんでした」
 〔ユニークレイドモンスター〕というピッタリな名前を聞き、そのあとの「倒すつもりがなかった」という言葉に意外感を覚えます。
 「どうしてですか?」
 「あれが、私の国で生まれたものだからです。女王として冷たいかもしれませんが、生み出してしまった償いはしないといけません」
 そう言って少し俯いてしまいました。

 他にも運営側として答えられることがあれば答えるとファリアルは言ってくれましたが、その申し出も辞退します。
 とてもプフィーがそわそわしていましたが。
 「では改めて報酬を決めましょう」
 フェアリルとアディクを図書館に呼び戻し、まだ決まっていなかった報酬の話をします。
 「では私への報酬は『レイグ』という組織についての情報提供でお願いします」
 ずっとマリアナの時から気になっていた『レイグ』の動向を探る上でもいい機会になると思ったので、私はそう要求しました。
 「分かりました。何か起こるごとに伝令を送ります。『騎士国家 ヨルデン』のセカンドホームに送ってよろしいですか?」
 「はい」
 私がそう返事をすると、ファリアルは何かを紙に書きつけ、机に裏にしておきました。

 「私は『パラリビア』にも情報ギルドを作りたいのですが」
 すこし遠慮気味にプフィーが言います。
 「構いませんよ。プフィーさんの所属するギルドで構いませんか?」
 「はい。人員はこちらから派遣して、八位研究所の建物を修復して使用できませんか?」
 「もちろんです。八位研究所のメンバーは仮職員として他の研究所および枠外研究所に移します」
 プフィーがニコニコ笑いながら「お願いします」と言いました。

 「じゃぁ最後はあたしか……」
 「何かありますか?」
 「特にないんだけど……あっそうだ! じゃぁ何か【称号】が欲しいかも!」
 見つけた! と言わんばかりの声でエルマがそうファリアルに告げます。
 その手もありましたね。
 「【称号】ですか。あまり良い物はあげられませんが、『湿地保護国 パラリビア』で取得可能な【称号】の一覧です」
 そう言ってファリアルは何か紙のようなものを取り出し、エルマに手渡しました。

 数分間うんうん唸っていたエルマでしたがやっと決めたようで、勢い良く紙を置きながら言いました。
 「じゃぁこれ! 【精魔官】!」
 「いいのですか【精魔官】で」
 「うん。一番合ってる」
 「分かりました。エルマさんを【精魔官】に任命します」
 そう言い、何か書いた紙を机に置くとエルマがガッツポーズをしていました。

 「では皆様本当にありがとうございました」
 そう言って椅子から立ち上がり、一礼するファリアルに従って、フェアリルとアディクもお辞儀をしていました。
 「フェアリル姉さん。ご案内お願いしてもいいですか?」
 「ええぁ。いいわよぉ」
 頭を起こしたフェアリルに案内され、私達は図書館を出ました。

 「色々とありがとうねぇ」
 『湿地保護国 パラリビア』の首都『グージー』を出る門の前でフェアリルにそう言われます。
 「正直、貴女達なら解決しちゃうんだろうなぁっておもっていたわぁ」
 そう言われると悪い気はしません。
 「もし何かあったらまた来て頂戴ねぇ。色々と聞かせてほしいわぁ」
 「はい。また」
 私達がそう挨拶をし、転移で飛ぶその瞬間までフェアリルはこちらを見続けていました。
                                      to be continued...

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