VRゲームでも身体は動かしたくない。

姫野佑

第5章28幕 変形?<deformation?>


 〔隆骨鬼 ダドラ〕は見たところSTRの高い物理攻撃系の〔ユニークモンスター〕のように見えますね。
 今こちらの布陣は、前衛にプフィー、中衛にエルマ、後衛に私とファリアルです。
 前衛のプフィーには先ほど、近接攻撃で〔隆骨鬼 ダドラ〕の攻撃ターゲットを固定するように伝えておきましたし、何事も無ければ私とエルマ、ファリアルで討伐できると思います。

 少し離れた位置からプフィーが〔隆骨鬼 ダドラ〕の元へかけていくのを見ながらMPを消費し魔法を使う準備をしておきます。
 お馴染みの≪ダーク・スピア≫ですね。到達速度もほどほどですし、多少堅い程度なら防御の上からでも貫けます。
 ちょうどよいタイミングでプフィーが〔隆骨鬼 ダドラ〕の拳を誘導し、地面を叩かせました。
 地震かと錯覚するほど揺れ、バランスを多少崩しますが、それで魔法を外すほど甘い訓練はしていません。
 「≪ダーク・スピア≫」
 「≪サンダー・スピア≫」
 同じタイミングでファリアルも魔法を放ちます。
 二本の細い魔法が一直線に〔隆骨鬼 ダドラ〕の頭部に直撃しました。
 物理攻撃系の〔ユニークモンスター〕ならばこれで大ダメージを与えられたはずですが……。

 地面から舞い上がる砂煙が落ち着くと、そこには無傷で額をポリポリとかく〔隆骨鬼 ダドラ〕の姿が見えました。
 「魔法耐性持ちみたいですね」
 「その様です。私は戦力になれませんね。支援魔法を使います」
 その光景を見た私は隣に立っていたファリアルと会話をします。
 「遠距離攻撃がないのが救いですね。私は物理よりの攻撃にします」
 魔法系の攻撃でも物理系の攻撃に片足を踏み入れている物もあります。
 あまり得意ではないのですが……。
 「≪ストーン・スピア≫」
 指定した位置から石や岩を生成し、槍状に加工した物をぶつけるこの土属性魔法は物理と魔法の間みたいなものです。他ですと氷属性とかも物理系に寄っています。
 プフィーがいる場所よりも少し〔隆骨鬼 ダドラ〕側で生成された石製の槍が〔隆骨鬼 ダドラ〕の身体に直撃します。
 しかし、身体にぶつかった直後、砕け散ってしまいました。
 なるほど。そう言うことですか。
 私も近接攻撃……物理攻撃しないといけませんね。

 私は装備を転換し、まず中衛のエルマの場所まで走ります。
 「エルマ」
 「チェリーも物理にシフト? 仕方ないよね」
 エルマも気付いたようで、そう言いました。
 「エルマは物理でどれくらいダメージ出せる?」
 「うんと……魔法剣だからあんまり期待できないけど、純粋な魔法よりは出るかな」
 「わかった。じゃぁエルマは魔法剣で近接攻撃して。支援は全部ファリアルさんに任せよう」
 私もエルマも、たぶんプフィーとファリアルも気付きました。この〔隆骨鬼 ダドラ〕が持つ高い魔法耐性と物理耐性に。

 エルマとともに前衛の位置まで走りながら会話を続けます。
 「魔法攻撃もひょっとしたら物理耐性で防いでる?」
 「いや。たぶんそれはないんじゃないかな? それならファリアルさんが使った雷魔法は確実にダメージになってるはず」
 「それもそっか」
 考えれば当然なのですが、物理耐性が以上に高い相手は、身体の表面が異常に硬い場合があります。それで魔法すらも防げてしまうのです。物理を多少でも含むと無効化されてしまいます。先ほどファリアルが使った雷属性魔法は物理を一切含まない魔法なので物理耐性では無効化できません。
 「じゃぁ魔法耐性を高いレベルで持っているってことか。斬撃耐性がないことを祈ろう」
 エルマもそれで納得し、斬撃耐性の有無を心配していますが、恐らくは……。

 「プフィーチェンジ!」
 エルマがそう声を出しながらプフィーの横をすり抜けます。
 「うん。少し回復!」
 プフィーが少し下がり、直後ファリアルの聖属性魔法が発動し、HPを回復させています。
 「っ……っそでしょ!?」
 エルマが大きな声で一言発し、こちらに転がりながら戻ってきます。
 「チェリー。斬撃耐性、打撃耐性もあるみたい」
 一連の攻撃を私も良く観察していたのでわかります。
 エルマが切りつけ、刃が通らないと見てすぐに格闘を仕掛けましたが、こちらも身体に傷を付けることができませんでした。
 「防御を上回る攻撃力を出すか、耐性を減らすか……」
 耐性に関しては私が何とかできるはずです。【イナーシャグローブ】はこういう時に便利です。まぁそれでも【イナーシャグローブ】の効果で耐性を無視できるの場合が少なくなってきてはいますが。
 それだけ敵も強くなってきているってことですね。
 「エルマは私のサポートをプフィーとお願い」
 回復を終え、前衛の位置まで戻ってきたプフィーにも聞こえるように言います。
 「チェリーは?」
 「斬ってくる。あんなでかさで、不気味な奴だけど……【斬罪神】の効果でならやれる。人型だから」
 そして私は武器を入れ替えます。
 取り出したのは、【月影斬 クレッセント・アンピュート】。これの≪刀身延長≫と≪斬撃停止≫で首を取ります。

 私が武器を取り替えるのを見ていたプフィーとエルマが走り出し、〔隆骨鬼 ダドラ〕を翻弄します。
 STRや物理耐性、魔法耐性は確かに高いのですが、それ以外が軒並み低いようで、見切れさえすれば攻撃は当たりません。何故か動きませんし。
 「おっけー!」
 ≪刀身延長≫と≪斬撃停止≫の準備が整ったので声をかけます。
 「了解!」
 「わかった!」
 ちょろちょろと脚から〔隆骨鬼 ダドラ〕に登山したり、腕にしがみついてジェットコースターのようにして遊んでいた二人が〔隆骨鬼 ダドラ〕から離れました。
 「ふっ! ≪刀身延長≫」
 MPを注いである程度の長さまで刀身を伸ばします。
 「≪グラビティーコントロール≫、≪リバース・マジック≫」
 動かないのをいいことに空中に浮き、魔法刀を腰だめに構え居合のような構えをします。
 「≪スライド移動≫」
 そして≪スライド移動≫をすることで姿勢を変えることなく移動し、〔隆骨鬼 ダドラ〕の首元で魔法刀を振るいます。
 「≪斬撃停止≫」
 計六回分の斬撃を首元に置き、私は≪グラビティーコントロール≫と≪リバース・マジック≫、≪スライド移動≫を解除し、地面へと降り立ちました。
 直後私に拳が降ってきますが、前のめりになった〔隆骨鬼 ダドラ〕は私が停止しておいた斬撃に首元を触れさせ、呆気なく後ろへ倒れました。

 倒し終わったはずなのですが、私達三人はまだ警戒を解けません。
 討伐アナウンスが来ないのです。
 「チェリー。前にもこんなこと無かった?」
 「いや。あっ。そう言えばあのときの依頼ってプフィーだったよね?」
 「えっ? 何の話?」
 そうして少し昔話をしているとやはり、予想通りの展開になりました。

 倒れていた〔隆骨鬼 ダドラ〕がみるみる縮まっていき、圧縮されていきます。
 黒く光りながらも姿を変えた〔隆骨鬼 ダドラ〕が再び私達の前に現れました。
 「〔竜骨鬼 ダドラ・スケルティア〕……」
 プフィーがそう呟き、私も情報を確認します。
 また二段階構成ですか……。ゴーマンの時から数えたら三段階目ですね。
 今後〔ユニークモンスター〕とかで百段階とか来たら嫌ですね。
 意味のない思考をしていると、〔竜骨鬼 ダドラ・スケルティア〕が動きました。
 いえ、正確には動いていません。魔法を放ちました。
 音声は聞き取れませんでしたが火属性の魔法のようです。
 その魔法はファリアルが展開した水属性の障壁によって消滅させられましたが、私達の感想はそこに向けられませんでした。
 「元筋力ゴリゴリのモンスターがなんで魔法使うかな?」
 「普通そのサイズになったなら物理のまま移動速度あげるでしょ」
 「使えるならでかい時から使いなよ。進化の方向間違えたのかな?」
 エルマ、プフィー、私と正直に思ったことを告げます。
 『キシャァアアアアア! ≪ハイフレイム・ライン≫』
 決してふざけていたわけではないので、すぐに私達は対処します。
 「魔法系なら近寄るしかない!」
 プフィーが〔竜骨鬼 ダドラ・スケルティア〕の正面に走り出し、私とエルマも左右に分かれ、距離を詰めます。
 『≪ハイフレイム・フォールド≫』
 〔竜骨鬼 ダドラ・スケルティア〕は苦し紛れなのか空から火の雨を降らせます。
 「あっつぁあ! このやろお!」
 遠くから聞こえてくるエルマの声を聞きながら私は【月影斬 クレッセント・アンピュート】をしまい、【ナイトファング】に装備を戻します。
 「≪ダブルヒット≫」
 いつの間にか〔竜骨鬼 ダドラ・スケルティア〕に届く距離まで接近していたプフィーがクロー系統のスキルを用いて攻撃をぶち込みます。
 『キシャシャシャ』
 しかし顔に向かって殴りかかったプフィーの腕を掴み、遠くに投げ飛ばしました。
 「筋力残ってるのか!」
 「そうみたい」
 遠くのエルマの声に返事をし、プフィーのダメージをパーティー欄から確認しつつ私も一気に距離を詰めて斬り付けます。
 姿勢を低くし、左手の【短雷刀 ペインボルト】で身体を切断するべく振るいますが、刃が表面に弾かれ、体勢を崩してしまいます。
 「あっ! やばっ!」
 声に出す時間はありましたが、躱す時間など無かったので衝撃に備えて、防御姿勢を取りました。
 次の瞬間、両腕に走った電気のようなしびれを感じ、骨の砕ける音を聞きながら私はファリアルの近くまで吹き飛ばされました。
                                      to be continued...

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