VRゲームでも身体は動かしたくない。

姫野佑

第5章25幕 白衣<white coat>


 『つまり、いまここにいる白衣集団を黙らせて、国王に薬を飲ませなければ大丈夫ってこと?』
 私がパーティーチャットでプフィーに聞きます。
 『たぶんそうゆーうこと。でもどうする? 武力行使?』
 『しかないでしょ』
 『おっけ。じゃぁ同時にやるよ』
 『わかった』
 『ごー!』
 プフィーのチャットを合図に私達は走り出し、武力行使で白衣集団を黙らせに掛かります。
 きゅっと足を止め、ベッドの方に方向転換したプフィーを見て、私は窓際へと走ります。
 「誰だっ!」
 白衣集団の中にいたおそらく戦闘員であろう人物が大声で叫びますが、それに返事をするほど馬鹿ではありません。
 プフィーの立てたきゅっという靴の音に反応したようで、扉側を凝視してくれているので助かります。
 【暗殺者】でなくとも隠密系の【称号】で広く取得できる≪絞め技≫でその武闘派白衣の首を絞めます。
 「……うっ……ぐぐぅ? 女……」
 気を失う前に「女」とか聞こえましたが、何故分かったのでしょう? 私には分かりません。
 武闘派白衣を絞め落とした後、残りの白衣達も異常を察したらしく、一か所に集まり、防御を固めていました。
 そのすきにプフィーが国王の手から薬を奪ったようで、国王も唖然とした表情をしています。
 あまり格闘は得意ではないのですが……。
 武器を抜かず、今はまだ見えていない状態なので白衣集団を一人一人殴っていきましょう。
 そういえば、顎の先っちょを殴るといいよ、と昔聞いたことがあったので実践します。
 「ふっ!」
 右手をできるだけ引き、顎の先っちょをめがけて殴ります。
 ガッという音とともに右手にズシリと重さが加わります。次いでゴンという大きな音が鳴りましたが、なんの音かわかりませんでしたのでスルーしておきます。
 これで無力化できないタフな相手だったらどうしようかと思いながら殴った白衣を確認してみます。
 私が殴ったはずの白衣はそこにおらず、壁に口づけをしてピクピクしていました。
 良かった殺してない! やはり顎を殴るのは効果があるようですね!
 そう考えながら壁に熱い接吻をかます白衣を眺めている他の白衣の顎も殴っていきます。
 
 数秒もしないうちに全ての白衣は床と壁にキスをしている状態になりましたので一時的に無力化には成功しました。
 「もう姿を隠す必要はないかな?」
 そう言ってプフィーが姿を現し、私も姿を見せます。
 視覚阻害のローブを脱いだだけですが、国王には私達が突然姿を現したように見えたようで酷く困惑しています。
 「ちょっと待ってください。説明させていただきます」
 国王が何か言う前に、私が話し始めます。

 「……ということで、ここに来たわけです」
 『湿地保護国 パラリビア』の八位研究所が違法な薬を効果を偽り配布していること、そしてその薬の副作用がどのようなものかを一通り説明しました。
 「なるほど……ゲッホゲッホ……すまない……。私は長く、ないようでな。普段であればこの、ような事に騙されることはなかったはずなのだ……」
 咳をしながら懸命に話してくれます。
 「よろしければ診ましょうか? 一応【医師】の【称号】がありますので」
 「国の……優秀な者でも治せなかったのだ。あまり期待はさせないでくれ」
 そうは言いつつも、ベッドに身体を沈め、診やすいようにしてくれます。
 国王の手に触れながら≪スキャン≫を発動します。
 「≪スキャン≫」
 そして国王の情報を見ていくと病状……状態異常がよくわかりました。
 「国王陛下。一つお聞きしても良いですか?」
 「答えられる範囲で答えよう」
 「最近、新しく雇った女給や執事、料理人はいますか?」
 「少し前に大規模な従業員雇用があったばかりだ……」
 「ですよね」
 「どうしたのチェリー?」
 「国王陛下にも聞いていただきましょう。毒が盛られています」
 「!? どういうことだ!?」
 「えっ?」
 ≪スキャン≫により判明した国王の状態異常は≪魔力枯渇≫と≪魔力放出≫でした。
 ≪魔力放出≫はプレイヤーが制作するデメリットポーデョンという毒ポーションに存在する状態異常です。
 ≪魔力枯渇≫は≪魔力放出≫によって引き起こされたのでしょう。
 「状態異常治してしまいますね。≪オーヴァー・キュア≫。あっ。そうだ食事を取られた際に体調が良くなりませんでしたか?」
 「すまない。そうだ」
 「それは新規雇用した従業員の中の誰かが食事にMPポーションを定期的に混ぜた人がいるんだと思います。国王陛下の状態異常は≪魔力放出≫と言って、デメリットポーションによくみられる物です。恐らくプレイヤーメイドのデメリットポーションを買ってきて飲ませたのでしょう」
 一通りの説明を終え国王を見ます。
 すると開いていた口を一度閉じ、再び口を開きました。
 「其方の言っていることは分かった。デメリットポーションと言ったか。聞いたことがないものだ」
 「レシピが発見されたのが最近だからそのせいかも」
 プフィーはデメリットポーションのことは知っていたようでそう呟いていました。
 「でもこの程度ならお抱えの【医師】でもわかると思うのですが……」
 「【医師】は新規雇用した者だ。かなり楽になった」
 「良かったです」
 「派閥争いがあったの?」
 プフィーがストレートに国王に聞きました。
 「外の者はすごいな。いかにも。大量雇用の前に後継者争いがあってな。たしかにそのあとだろうか。体調が悪く床に臥すようになったのは」
 「完全に治ったら反派閥の洗い出しした方がいいよ。じゃぁ私達はこれで」
 そう言い切り、帰ろうとする私達に国王が声をかけます。
 「礼ができていなかったな。助けてくれてありがとう。所属と名を教えてもらえるだろうか?」
 国王にそう聞かれたので、足を止め、振り返り答えます。
 「『騎士国家 ヨルデン』所属、チェリーです」
 「『商都 ディレミアン』所属、プフィーです」
 えっ!? プフィーって『ディレミアン』所属なんだ! 初めて知った!
 まぁ拠点と所属が別って人もいますしね。
 「そうか。もう一度言おう。助けていただき感謝する。所属国に手紙を送らせていただこう。『パラリビア』のこともな」
 「お願いします。ではこれで。あっ。忘れていました。この白衣集団どうしますか?」
 完全に忘れていました。白衣集団を置きっぱなしにするところでした。危ない危ない。
 「恥ずかしながら、ここに私の部下はおらん。連れて帰って貰えぬか?」
 「かしこまりました」
 私はそう言って、白衣集団を紐で縛り、引き摺りながら部屋を後にしました。

 「外に転がっているのも捕まえなきゃね」
 プフィーがそう言って白衣の武装集団を紐で縛っていると、声がかかります。
 「おつかれ」
 「おつかれさまです!」
 エルマとレディンの声です。
 ナイスタイミングですね。
 「見てたの?」
 私がそう聞くと、エルマがぽりぽり頬を書きながら「見てた」と答えました。

 罰というほどではありませんが、地下経路を通ってもこちねるのところに帰るまで、エルマに半分の白衣を持って行ってもらう事にしました。
 4人で分担し、はしごで上手く白衣集団をおろし、引き摺って、もこちねるのいる『情報ギルド 叡智会 キャンドラ支部』まで戻ってきました。
 「おつかれさーん。じゃぁ報告をきくで」
 そう言ったもこちねるにプフィーがすべてを話します。
 「なるほどなぁ。それでかい。だいたいわかったわ。各支部に散ってる仲間にもそれは伝えんといけんな」
 すぐに仲間に連絡をしているようで無言になっていました。

 数分経ち、もこちねるのチャットも終わった頃、もこちねるが報酬について話し始めます。
 「思ってたんよりも重大なことみたいやね。それにチェリーの古巣での出来事も高くしたるわ。足りるかー?」
 言い終わるともこちねるがドサッと音を立て、巾着袋を机の上に起きました。
 「2000万金入っとる」
 「ありがとうございます」
 「ええよ。久々に情報屋じゃない人と取引したんがうれしかったんや。色付けといたで」
 そう言ってもこちねるがニッコリと笑いました。

 レディンの転移魔法で『湿地保護国 パラリビア』に戻ってきた私達はレディンに報酬を支払い見送った後、十二位研究所へと向かって歩き出しました。
                                      to be continued...

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