VRゲームでも身体は動かしたくない。
第5章19幕 想起<recollection>
昨日のように、門番がスムーズに通してくれます。
応接室に入り、フェアリルを待っていると、パタパタと足音が近づいてきます。
「ふぅ。おまたせぇ」
フェアリルが扉を開け、入ってきます。
すでに用意してあった紅茶を一口含み、話し始めます。
「お水の調査をしたのぉ。そしたらこのお水ぅ、成長促進薬が入ってたわぁ」
「成長促進ですか?」
植物でいう肥料お様な物でしょうか。
「特に影響はないみたいなんだけどぉ。これは長い目で調査しないとねぇ」
再び紅茶を飲み始めるフェアリルを眺めていると、プフィーにちょんちょんと肩を突かれます。
「どうしたの?」
「クエストが進行した。『調査報告を受ける』から『八位研究所の悪を暴く』になった」
「悪を暴く?」
「うん」
「直接聞いてみてば? 八位研究所に」
エルマもひそひそ話に参加してきます。
「あっでもその前に、フェアリルさんに聞いてみようよ」
「そうだね」
私の提案にプフィーも賛成したので、目の前にいるフェアリルに聞いてみます。
「その聞きにくいことなのですかいいですか?」
「いいわよぉ」
「八位研究所についてお聞きしたいのです」
一瞬こちらを見て、紅茶を置いたフェアリルが話し始めます。
「八位研究所が人体とか研究してるのは知っているわよねぇ?」
「ええ。それは聞いています」
「詳しいことはよくわからないんだけどぉ、悪いことしてるみたいよぉ。四位研究所を潰そうとしたのだって、都合が悪かったからじゃなぁい?」
なるほど。四位研究所の研究が八位研究所の研究にどのような影響を与えるか等は調べる必要がありそうですが、四位研究所に秘密を知られてしまったでしょうか。
「八位研究所に行きたいのぉ?」
「はい。できれば行きたいです」
「なら十二位研究所で調査協力員の切符をだすわぁ。これがあれば八位研究所に入れるはずよぉ」
「ありがとうございます」
「ちょっとまってねぇ。持ってこさせるわぁ」
数分もしないうちに職員が私達三人分の切符を持ってやってきました。
「うちと八位研究所はいがみ合ってないからぁ。視察という名目でいくらでも中にはいれるわよぉ」
にこりと笑いながらフェアリルが言いました。
「ありがとうございます」
「いいのよぉ。また今度お使いを頼むかもしれないわねぇ。その時はよろしくぅ」
ひらひらと右手を振りながら、フェアリルは私達を見送ってくれました。
十二位研究所を出て、私達は八位研究所へと向かいます。
「悪事を暴くって結構話が大きくなってきたよね」
私がぽつりとつぶやくと、プフィーが頷きながら返事をしてきます。
「キャンペーンクエストだったんだね。沼の調査から研究所の調査。この八位研究所に入るためのクエストだったんじゃない?」
「そうかもしれないね。そしたら最後は十三位研究所になるのかねー」
腕を頭の後ろで組んだエルマがそう言います。
「それは分からないよ。とりあえず八位研究所の悪事っていうのを知らないと」
「その通りだね」
「ういー」
プフィーの言葉に、私とエルマが返事をします。
数分歩き八位研究所に到着した私達は、先ほどフェアリルに貰った切符を手に持ち門番に話しかけます。
「十二位研究所から視察で来ました」
「ちょっとまて。確認を取る」
門番がそう言い何やら紙をめくっています。
「名は?」
「私がチェリーです。こちらがエルマ。そちらがプフィーです」
「了解だ。この用紙に署名の上、入館せよ。すぐに案内が到着する」
どんな方法か分かりませんが、事前に連絡を取っていたようで、思っていたより簡単に侵入できそうです。
八位研究所に入館し、まず思ったのが、研究室というよりも病院という感じがした、ということです。
「ねぇチェリー? もしかして人体実験とかやっちゃてるのかな?」
いつもの数倍不安そうな声でエルマが私に言ってきます。
「分からない。でも可能性はゼロじゃない、よね。悪事を暴くってクエストなんだし」
「やだな……」
珍しく本気で嫌そうなエルマに意外感を覚えながらも、私達は案内の係りが来ると言っていたので待っています。
「お待たせしました。僕はこちら八位研究所改造研究部門のマグロと申します」
マグロ! 魚系統の名前NPCもいるんだ!
「初めまして。十二位研究所から来たチェリーです」
「ええ。お話は聞いております。まず薬品部門のご案内からでしたね」
おっ。全部御膳立てされてる。これは結構気楽ですね。
「お願いします」
私がそう言うと額の汗をぬぐいながらマグロが歩き出しました。
「こちらが薬品研究部門です。筋力強化や敏捷強化の薬品研究等を行い、人をより強力な生き物にするために日々邁進しております。」
人をより強力な生き物に?
この時点でやばいにおいしかしませんよ。
「最近大きなミスをやらかしたこともあって、薬品部門が全然成果を出せないので僕たち改造部門が頑張っているんですけどね」
彼からは一切の悪意が感じられず、少し背筋が寒くなるような感覚を覚えます。
一通り薬品部門の案内が終了し、私達は改造部門というところに案内されます。
「ここが僕がいる改造部門です!」
先ほどの薬品部門を案内している時に比べ、テンションが高いマグロが大きな声をあげます。
「か、改造部門って何をしているんですか?」
「簡単な話、人体を改造して兵器化しているんですよ」
うっわぁ……。このクエストやべぇやつだ。
「どんな改造してるのん?」
エルマが表面上はひょうきんに問います。
先ほどの様子を考えるとエルマ結構怒ってそうですけど。
「罪人たちを捕獲し、その様々な改造を施していますよ! 筋力強化はもとより、腕を武器化したり様々行っていますよ!」
何こいつ楽しそうなんだよ。
私が少しイラッとしてエルマの方を見るとエルマが爆発寸前といった感じで足を震わせています。
「ではサンプルをお見せしますね!」
そう言ったマグロについて行き、サンプルを見させてもらうことになりました。
あまり見たくは、ないんですが……。
「こちらです! あぁっと! 危ないのでこの壁に近づかないでくださいよ!」
マグロがそう言った壁は、私達プレイヤーに言わせれば、マジックミラーのようなものに見えます。
「では透過しますね!」
何やら操作を行い、向こう側を見えるようにしてくれました。
「こちらがサンプル008です! 薬品部門との共同開発が失敗した後に、改造部門だけで作った物です!」
物扱いね。ふーん。
「意識覚醒!」
再びマグロが何か操作をし、サンプル008を起こしました。
『グオアアアアアアアアア』
そう叫び声が聞こえた後、サンプル008が暴れ出しました。
少し面影を残しているのに、正気ではなく、こちらの言葉すら通じていないであろうソレに私は見覚えがありました。
サンプルにされた人物にではありません。
こうなってしまった後の人間に見覚えがあるのです。
エルマの脱獄を手伝った時に、最後現れたダーロン。まさにその時と同じ感じでした。
マグロが何かを説明していますが、私の耳には入りませんでした。
このことをみんなに伝えないと。
一度目の視察が終わりを迎え、私達は八位研究所を後にします。
昼食を取る気にもなれなかったので、一度宿に戻ろうと思い、歩き始めます。
「エルマ覚えてる?」
「覚えてる」
私とエルマがそう話すと、プフィーが疑問そうな声で聞いてきます。
「何の話?」
「えっとね……」
過去に『花の都 ヴァンヘイデン』で起きた、あまりにもサンプル008と似通った人物の話をします。
「なるほど……。それってこの国が何かしら関わってたってことだよね?」
「そうなるかな?」
「猶更許せなくなったよ。とりあえず悪事をきっちり暴こう。まだクエストが進んでないし、情報集めなきゃ!」
そう言ったプフィーは休んでいる場合じゃない、と駆けだしていきました。
さすがに私とエルマは落ち着きたいのでそのまま宿に戻りました。
to be continued...
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