VRゲームでも身体は動かしたくない。

姫野佑

第5章13幕 齟齬<inconsistency>


 「すいませんごちそうになってしまって」
 「いえ、大丈夫ですよ。話が聞けて良かったです」
 お店をでてペコペコ頭を下げるナリウをそう言って見送ります。
 「とりあえずさっき受けたクエストを終わらせに行こう」
 「そうだね」
 「うん」
 先ほど受けたクエスト、『外来生物による沼の生態系崩壊についての調査』を始めるために必要なものをそろえに行きます。

 「まずは外来生物の知識を貰ってこないといけないね」
 クエストの内容を確認していたプフィーがそう言って周りをきょろきょろします。
 「どこでもらうの?」
 エルマがプフィーに聞くと、プフィーはナリウから聞いた話を再び述べます。
 「13ある組織の中で生物の研究をしてるのが四位、八位、十二位だって言ってたよね。だから八位か十二位かに聞きに行けばいいんじゃないかと思って探してる」
 それできょろきょろしてたんですね。
 「あそこに六位研究所っていうのがあるけど?」
 エルマが指をさしながら言います。
 そちらを見て何かに気付いたプフィーがマップを開きます。
 「そう言うことか! 中心に一つ、他は時計の数字の位置にあるんだ!」
 プフィーがマップを見せてきて、説明してきます。
 確かに時計の中心に十三位研究所が合って、その周囲に一から十二位の研究所があるように見えてきます。
 「それならまず一番近い八位研究所に行ってみようか」
 「そだね」
 「うん」
 そう取り纏め、マップを頼りに八位研究所に向かって歩き出しました。

 数分ほど歩くと八位研究所が見え、目の前に門番らしき人物が立っているのがわかります。
 「じゃぁ交渉はプフィーお願いね」
 「わかった」
 プフィーがテクテクと歩き、門番のところへ向かいます。
 それに気付いた門番はすぐに、槍を構え、プフィーに誰何します。
 「何者だ。それ以上この敷地に入るとこちらも武力で応じることになる。止まれ」
 「怪しい者じゃないヨ。少し聞きたいことガあるンだけド」
 「言え」
 「この研究所は何を研究してるノ?」
 「八位研究所は生物研究……主に、人体等を研究している」
 「そうなンダ。じゃぁ外来生物とかどこが研究してるかわかル?」
 「外来生物だと? そうだな。環境研究の二位は多少やっているかもしれんな。あとは十二位が外来在来問わずに研究してると思うぞ」
 「そカそカ。ありがとネ」
 そう言ってプフィーは門番に少しばかりのお礼とお金を握らせていました。
 なるほど。情報屋ってこうやって情報集めてるんですね。

 「話は聞いてたよね?」
 戻ってきたプフィーがそう言います。
 「うん。十二位研究所に行くのがいいかな?」
 「それしかないでしょ」
 すでにエルマは十二位研究所に行くつもりで、マップを眺めていました。
 「あー。一回中心に戻ってから行かないとダメなんだ。通行止めっぽい」
 見ていたマップをこちらにも見えるようにし、教えてくれます。
 「じゃぁ一度中心通って行こう」
 「うん」
 
 その前にエルマが一度向こうに戻ると言ったので、私も便乗してログアウトし用を済ませ戻ってきました。
 「ごめん、プフィー。おまたせ」
 「気にしなくていいよ。いま情報を纏めてたんだけど……あっ。エルマ戻って来てから話すよ」
 「わかった」
 それから数分してエルマが戻ってきました。
 「おまたせ」
 「おかえり」
 「おかえり。ちょっと情報纏めてたんだけど気になることがあって。聞いてもいい?」
 「うん」
 私がそう言うとプフィーはすぐに語り始めます。
 組織間で情報共有がなされているのか、『レイグ』に協力している組織があるのではないか、とプフィーは言っていました。
 「後者は分からないけど、前者はそうなんじゃない?」
 エルマがそう言って自分の爪を眺め始めました。
 「どうしてそう思うの?」
 プフィーがエルマに聞き返すと、エルマがニッコリ笑いながら「カン!」と言っていました。

 しばらく歩き、十三位研究所を通り越し、十二位研究所へと向かいます。
 「ねぇ。十三位研究所って研究所というよりかはお役所っぽくない?」
 エルマがそう言うとプフィーが少し考えるそぶりをしながら答えます。
 「もしかしたら十三位研究所が国家の中枢なのかもしれないよ。だって一番偉い人が十三位研究所の所長だもん」
 「なるほど」
 なるほど。納得です。

 そのような話をしているとすぐに十二位研究所まで到着します。
 先ほど同様プフィーが門番に話しかけに行きます。
 「すいませン。外来生物についテ、聞きたいことがあるンですけど」
 「外来生物ですか。分かりました。担当のものをお呼びします。少々お待ちください」
 そう言った門番は何かを操作し、門を開け中に入っていきました。
 数分も経たずに白衣を着た女性を連れて戻ってきました。
 「では私は警備に戻ります。あとはお任せいたします」
 「はぁい。ご苦労さまぁ」
 女性らしい声と、少し鼻にかかるような声が、妙に色っぽいですね。
 「私がぁここで外来生物部門の主任でぇす。ファアリルでぇす」
 こちらに近づいて自己紹介をしてきたファリルからふわっと香水のような甘い香りが漂ってきます。
 すんすんと音を立てないように嗅いでいると、それに気付いたのかフェアリルがニッコリ笑いながら私に話しかけてきます。
 「いい匂いでしょぉ。これねぇ、外来生物を寄せる匂いなのよぉ」
 へぇ。広い意味では私たちも外来生物に入ると思うのでこの妙なそわそわ感はそのせいなんでしょうか。
 「話は中でぇ」
 そう言って門を超え、研究所へと入っていくフェアリルについて行きます。

 「応接室はここぉ。入ってまっててねぇ」
 扉を開け、応接室に案内したフェアリルはすぐにどこかへ行ってしまいました。
 「なんていうかさ。あの人、エロい」
 エルマがフェアリルの歩いて行った方向を見ながら応接室に入り、言いました。
 「わかる」
 「わかる。あんな人になりたい」
 「でも研究者だから男寄ってこなさそう」
 「いや。だからこそでしょ」
 エルマとプフィーの謎談義が始まり、私が暇つぶし程度に聞いていると、応接室の扉が開きました。
 「おまたせぇ。外来生物のこと、聞きたいのよねぇ?」
 たくさんのファイルを抱えたフェアリルが入って来て、机の上にファイルをどさっと置きました。

 「というわけでして、外来生物についてお聞かせいただければと」
 プフィーがこちらの事情を話すと、黙って聞いていたフェアリルが口を開きました。
 「そういうことなのねぇ。『レイグ』のやり方は汚いですねぇ」
 お茶を啜りながらフェアリルが言います。
 「四位研究所の解散が決まったってことは『レイグ』が四位研究所に収まるってことですよね?」
 私がフェアリルの方を見ながらそう尋ねると、彼女は首をゆっくり横に振りながら答えました。
 「ちがうわぁ。『レイグ』は『レイグ』のままよぉ」
 「どういうことですか?」
 プフィーが身体を乗り出し、フェアリルに尋ねます。
 「そのままよぉ。いくら四位研究所が空位になったところでぇ、研究はできないものぉ?」
 「というと?」
 「四位研究所の人がいなければあの研究は進まないものぉ。だから『レイグ』の企みはご破算なのぉ」
 「じゃぁなんで四位研究所を『レイグ』が壊そうとしたんですか?」
 私がそう聞くと、一度お茶を手に取り、のどを潤したフェアリルが答えます。
 「壊そうとしたのは『レイグ』じゃないのよぉ。八位研究所よぉ。みんな知ってるわぁ。知らないのは四位研究所と『レイグ』だけねぇ」
 頭が混乱してきました。どういうことなんでしょうか。

 その後も会話が続いたのですが、私の頭が理解を拒絶ました。
 一段落したらプフィーに聞かないといけませんね。
                                      to be continued...

コメント

コメントを書く

「SF」の人気作品

書籍化作品