VRゲームでも身体は動かしたくない。
第5章11幕 点数<score>
「というわけデ、完了報告なンだけド」
プフィーが案内所のカウンターにいるNPCと話してくれます。
「ではマルドナさんをお呼びしますので応接室へどうぞ」
「悪いネ。チェリー、エルマついてきテ」
そう声をかけられたので喫茶スペースから立ち上がり、プフィーについていきます。
「では中へへどうぞ」
応接室らしき場所に連れてこられた私達は、ここで依頼主を待つそうです。
「20分ほどでいらっしゃいますのでお待ちください」
そう言ったNPCは私達に茶を出し、持ち場へと戻っていきました。
「そのマルドナさんってどんな人なの?」
20分も待つとなると暇なので、プフィーに聞いてみます。
「えっとネ、この国の首席保護官だヨ」
「それって偉いの?」
エルマがお茶を飲みながらプフィーに尋ねます。
「ンー。この国の運営体型からするト……4番目くらいに偉い人かな」
「えっ?」
喉を潤すために取ったお茶を危うく落としそうになります。
「そんな偉い人の依頼だったの? あの体液採集が?」
「そうなンだよネ。まぁ詳しい事情は、マルドナさんがしてくれルから待つべシ」
そう言ってプフィーはお茶を飲み、お茶菓子をぼりぼりと食べ始めました。
それから10分ほど経った頃、応接室の扉がノックされます。
「いるヨ」
「失礼します。マルドナさんをお連れしました」
マルドナと呼ばれた女性を応接室に押し込むと、先ほど私達を案内したNPCが扉を勢いよく閉めました。
もしかしてマルドナさんって嫌われてるのかな?
「…………」
マルドナはすぅと息を吸いながら私とエルマの方を値踏みするように見ます。
「そっちの娘、80点。そっちの娘41点」
先にエルマを指さし、次に私を指さして言いました。
「どういうことでしょうか?」
私は意味が分からなかったので尋ねます。
「うん。10減点。貴女の点数は31点です」
あっ。こいつ嫌われてるわ。私もこいつ嫌い。
「マルドナさン。点数付けはいいかラ、調査報告とサンプルの受け取りを済ませたいンだけど」
プフィーがそう言うと、マルドナはコホンと咳ばらいをし、再び言葉を発します。
「起立!」
「は?」
「起立!」
「?」
頭に疑問符を浮かべながら私は立ち上がります。
エルマも意味が分からないようで頭の周囲を疑問符がぐるぐる回っていました。
「反応が遅い。二人とも5減点。75点と26点ね」
ちっ。一々点数増減させなくても良くないですか?
「反抗的な目ね。5減点。貴女もう21点しかないわよ? 死んだ方がいいんじゃない?」
場所と立場が関係なければ殺ってやりたいって思ったのは初めてです。
「報告!」
「はっ!」
マルドナの一声に、プフィーが用意してあった用紙を持ち、話し始めます。
「兼ねてよりご依頼されておりました、〔群生生命体 グリガーリ・S・ネス〕の調査報告を申し上げます」
「続けろ」
「はっ! 組織が作成した〔浄化剤〕を打ち込み調査致しました。当〔浄化剤〕において〔群生生命体 グリガーリ・S・ネス〕本来の姿を取り戻しました」
「そうか。原因は?」
「申し訳ありません。目下調査中でございます」
「遅い! 愚図が! 10減点。貴女の点数は57点よ。そこの蛆虫よりはましだけれど、このままじゃその辺のゴミのほうが価値があるわよ」
好き勝手言わせたらすぐこれですよ。
今度は表情に出さず、心の中だけで悪態を吐きます。
「至急調査し、報告せよ。当作戦は我が『保護団体バリアル』最優先目標である。遅れは認められない。以上だ。解散」
そう言ってマルドナは応接室を出て行きました。
「あいつ嫌い」
「私もすごい嫌い」
「私だって嫌いだよ。なんでこんなクエ受けちゃったんだろう……」
マルドナが出て行った瞬間、私達の間では愚痴が交わされました。
「結局大事なことは聞けなかったし」
「ね。そこがわからなきゃ何もできないよ。プフィーごめん。あたしたち降りていい?」
「やめてよおお! もう一人じゃ心が折れちゃうよおお!」
プフィーの本気の絶叫を初めて聞きました。
「とりあえずあいつが説明してくんなかったこと説明してくれる?」
エルマがそう言うと、プフィーが経緯を話してくれました。
『湿地保護国 パラリビア』の沼地に生息する〔群生生命体 グリガーリ・S・ネス〕が異常な増殖を見せていること、本来は空色の綺麗なスライムだったが、何某かの影響で黒いスライムと化したということを聞きました。
「その原因を調べるクエストってこと?」
私がそうプフィーに聞くと、コクコクと頷きで返事をしてくれました。
「組織が……マルドナさんが所属している組織のレイブンが、ずっと〔群生生命体 グリガーリ・S・ネス〕の研究をしてて、えっと……沼の浄化作用?があるらしくて……ごめん、まとめてから話すね」
自分でもよくわかっていないのか、少し考えてからプフィーは再び話し始めました。
「組織が研究していた生物が急に変異して、今までの研究がおじゃんになりそうで死ぬほどピリピリしてるって感じ?」
あっ。すっごくわかりやすい。
「でも実際、情報屋のプフィーでもわからないってかなり厳しくない?」
エルマがそう言います。これには私も同意しました。
「うん。関連のクエストとか、この都市のクエストとか受けてみないと分からないかも……」
「仕方ないね。受けよっか」
「えー! チェリー受けるの?」
「まぁ乗りかかった船だし、プフィーの頼みだから」
「チェリー……んじゃぁ仕方ないあたしも手伝うか!」
「いいの? 二人とも……」
「任せて、っていっても全然何もできないんだけどね」
「戦闘しかできない!」
シュッシュと拳を前に突き出しながらエルマが言います。
貴女魔法系で肉弾戦しないでしょうが。
「とりあえずクエスト掲示板見に行こうか」
私がそう言うと、プフィーが無言で頷き、応接室を出て行きました。
「これ関係あるかな?」
「どれ?」
エルマの見ている先を私も眺め、どのクエストか確認します。
『工業廃水に含まれる物質について』と書かれているクエストのようです。
「えっとね。工業廃水はたぶん関係ないかな。私は一応そのクエスト受けたんだけど、廃水に含まれる物質が、ポーションの品質をあげるってことしかわからないクエストだったんだ」
もうプフィーのロールプレイをあきらめたのか、素の口調で説明していました。
「はずれかー」
「じゃぁこれは?」
私が目を付けたのは『外来生物による沼の生態系崩壊についての調査』というものでした。
「それは前来た時見てないな。一応受けてみようか。チェリーお願いできる?」
「うん」
掲示板から紙を引き剥がし、カウンターに持っていきます。
「すいません。このクエスト受けたいのですが」
そう先ほどのNPCに話しかけます。
「かしこまりました。では手続きをお願いします」
そう言って一枚の紙を渡してきます。
「さっきは災難でしたね。マルドナさん、国外退去が掛かってるからピリピリしてるんですよ。最もその原因を作ったのは彼女自身なんですけどね」
突然NPCからかけられた言葉に困惑し、少しカウンターに乗り出しながら聞き返します。
「えっ? どういうことですか?」
「ここじゃ話せない。あと少しで休憩なので待っていてもらえますか。できれば案内所の外で」
「分かりました」
そう言って書き終わった手続き書類を渡すと、メモ用紙のようなものをこっそりと手渡し、視線を机に戻しました。
エルマとプフィーが掲示板をまだ眺めていたので、そちらに戻り、先ほどのことを話します。
「もしかして、そのクエストが起点?」
「どうだろう。似たようなクエストは前にあったから違うと思うけど、断定はできない」
エルマが期待大といった様子でプフィーを見ると、不安そうなプフィーが答えていました。
「どちらにしろ一度あのNPCの話は聞かないと進まないよね」
「そうだね」
「うん」
「じゃぁ外に出よう」
私達は案内所を後にし、メモ用紙に記載されたお店を探しに歩き出しました。
to be continued...
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