VRゲームでも身体は動かしたくない。

姫野佑

第4章56幕 塗装<painting>


 パンに味のしない肉を挟んだサンドウィッチもどきを胃に収めた私とエルマは、その店で髭の鍛冶師三人衆への差し入れを購入し、工房へ戻ります。
 「2時間って待ってると長いよね。こないだの武器の時もそうだけど」
 「わかる」
 「もどりました」
 工房の扉を開け、内部に声をかけます。
 「早いな」
 「これ差し入れです。サンドウィッチ」
 「ありがてぇ。アイン、リベラル、ちょっと根詰めすぎだな。休憩にすっぞ」
 「だな」
 「おう」
 アインとリベラルもこちらの歩いてきます。
 「いま机片づけるな」
 そう言ったデュレアルが机の上に置いてあったものを左手ですべに床に落とし、スペースを開けます。
 「じゃぁここに置いておきますね」
 「すまんな。嬢ちゃんの方はもう少しかかる。ちんまい嬢ちゃんの方はあとは塗装だけだな」
 「おお!」
 「食ったらすぐ再開するから見てくるといい」
 「ありがとー!」
 エルマがお礼を言いながら走っていったので私もついていきます。

 「おー! かわいい」
 疑似精霊駆動を積んでいるエルマの二輪車は現実のバイクと寸分たがわないレベルで再現されていました。
 「クオリティすごいな」
 「ね!」
 ほぼできあがっている二輪車の周りをエルマはくるくる回り、確認しています。
 「デザインというか塗装は決めた?」
 「あたし塗装やらせてもらおっかな。かわいくペイントしたい」
 「頼んでみたら?」
 「そうだね!」
 エルマはそう言って三人衆の元へ走っていきました。
 では私は自分の二輪車の方を確かめてみますか。
 とことこと私の二輪車が組み立てられている場所まで来て、眺めます。
 その二輪車は、知識のない私には、未完成であることが分からないほどに完成されていました。
 「どうだ? 可愛がれそうか?」
 「ぴぃ!」
 いきなり後ろから声をかけられ地面から10cm程飛び上がります。
 「わ、悪い脅かすつもりはなかったんだ」
 「すいません。まだ食べてるものだとおもってて」
 「あんくらいなら鼻からでも食えるぜ」
 じゃぁ一度食べてみてください。という言葉は飲みこみ、どこが未完成なのか聞きます。
 「もう完成してるように見えますが?」
 「あぁ。フレームに駆動の組込みは終わってるんだ。あとは回路を接続して、車輪を回すだけだな」
 「すぐできそうですね」
 「おう。ただ駆動を2個積んでるコイツがどんだけの出力で車輪を回すかが読めなくてな」
 「なるほど」
 「んまぁ単純に二倍とはいかないだろうが、一つよりもはるかに強い出力だろうな」
 再び後ろから声がかかり、また少しビクっとします。
 「リベラル。食い終わったか」
 「おう。あんくらい鼻からでも食えるわ」
 それ流行ってんの?
 「とりあえず車輪と回路を接続するぞ」
 「おう」

 そうして二人の作業を眺めていると、その奥でエルマが塗装を始めるのが見て取れました。
 楽しそうにエアブラシのようなものを振り回していますね。これぞアートです。でもちょっとアインの身体に吹き付けるのは溜めてあげた方がいいと私思います。
 視線を手前に戻すとデュレアルとリベラルが一所懸命に回路を繋いでいます。
 「でもよ、これだと回す時に無駄がでるんじゃねぇか?」
 リベラルがそうデュレアルに聞いていました。
 「そうなんだよな。どうするか」
 「どうしたんですか?」
 やることもないですし、会話に混じってみます。
 「ん? あぁ。このまま接続したら無駄が出ちまうなって話してたんだよ」
 「どこです?」
 「ここだ」
 ちょうど精霊駆動から後部車輪への接続部をさしています。
 「二つの精霊駆動がバランス取らないといけないからな」
 「でしたらチェーンみたいなものを車輪の横に巻き付けて、そのチェーンを精霊駆動で回転させたらどうですか? 片方が回っていれば、もう片方は止まっていても平気でしょうし」
 私は現実で見てきたバイクの写真を思い出しながら伝えてみます。
 すると彼らはぎょっとした目をした後、大声で叫びながらどこかに散って行ってしまいました。
 ちらりと再びエルマの法に視線を戻すとインクまみれになっていたアインもいなくなり、エルマがぽかーんとこちらを見ていました。
 「チェリー何したの?」
 「いや。現実のバイクだとこうだったって伝えたらすっ飛んで行っちゃった」
 「だからかー。こっちの二輪車にもチェーン積むぞって聞こえたから」
 「なるほど」
 とりあえず私はその場を離れ、先ほど三人衆がサンドウィッチを食べていた場所に座ります。エルマもインクを落とし隣へやってきました。
 「紅茶飲む?」
 「うん」
 インベントリから取り出したポットに茶葉を入れ、紅茶を作ります。いつの間にかエルマが用意していた二客のカップに完成した紅茶を注ぎ、二人で一服します。
 「ふぅー。インクとオイル臭いけど紅茶はおいしい」
 「だね。最初来た時に思ったんだけど、鍛冶屋の匂いじゃないなって」
 私がそう思っていたということをエルマに伝えるとエルマも同様だったようで笑いながら「それな!」と言っていました。
 鍛冶屋ってもっと焦げ臭くて、頭が痛くなるような匂いが立ち込めているんですけど、ここはガレージみたいな匂いでした。今となってはその理由が何なのかわかりますけど。

 そうしてエルマと少し話ていると工房の外からこちらに向かって走ってくる音が耳に届きます。
 「帰ってきたみたい」
 「だね」
 扉をバンと開ける音が聞こえ、大声を出しながら三人が帰ってきました。
 「またせたな! チェーンと合いそうな歯車を買ってきた。悪いな。急いでいたせいで三人で行っちまった」
 「いえ、それはいいんです。そちらの費用もお代に乗せておいてください」
 「おうよ。早速取り掛かるぜ」
 そう言ったデュレアルは箱に入ったチェーンをカチャカチャと音を立てながら取り出し、長さを調節しています。
 「思うことがあったらすぐアドヴァイスくれな」
 「参考になるか分かりませんが、頑張ります」
 「おうよ。リベラル長さはどうする? 長めに取るか?」
 「いや。きっちり合わせていた方がいいだろう」
 「了解だ。なら片側で合わせてそこにもう反対を合わせんぞ」
 「おう」
 彼らは後部車輪にギアのような歯車を取付、そこにチェーンをはめ込んでいきました。
 「溝もちょうどいいな。長さも……大丈夫だな」
 「おう。ならその長さで反対も作ってくる」
 「じゃぁ俺はこっちを溶接しておくぞ」
 溶接は言葉として存在するんですね。
 と、どうでもいい感想を思いながら私はその作業を眺めています。

 「よし、これで両側のチェーンとりつけ完了だ」
 「あとは回路の接続だが……」
 「何か問題ですか?」
 私がそう声をかけるとすぐにデュレアルが返事をします。
 「さっき嬢ちゃんが言ったみたいに両側で切り替えられるタイプにしてみようと思うんだが回路が上手く組めなくてな」
 「でしたら回路を二つないし、三つ用意してはいかがです?」
 荒い方法ですが、一つにまとめたり、簡略化するのは天才達がやることです。私にはそんな知恵がないのでそもそも回路を増やしてしまえという暴論を述べます。
 「原始的だがありだな。片方ずつと両方を同時に出力するってことで三つ分回路を組むぞ。もう少しかかるがいいか?」
 「もちろんです」
 再び頭をぶつけるように作業し始めたデュレアルとリベラルを見つつ、完成形に思いを馳せます。

 1時間ほど経った頃、工房に拍手が巻き起こりました。
 理由は言うまでもありません。
 私の未塗装二輪車とエルマの塗装済み二輪車が完成したのです。
 「これが、精霊駆動を二個積んだ二輪車か。こりゃモンスター、いや化け物だせ」
 「デュレアル。塗装はどうする?」
 「あぁ。俺らがやってもいいが、正直ちんまい嬢ちゃんがやったほうが上手くやれると思うぜ」
 エルマが施した塗装は、プロ顔負けといったレベルのもので、正直私も驚きました。
 「最初は好き勝手に撒き散らしてるもんだと思ったんだけどな。まさかあんな方法があるなんてな」
 エルマは幾度も塗装を塗り重ね、少しの立体感を表現したり、あえて塗装をはがすことで絵を生み出したりしていました。
 「ということだ嬢ちゃん。道具は貸してやるからちんまい嬢ちゃんにやってもらうといい」
 「じゃぁエルマにお願いしよう」
 「お姉さんにまっかせなさーい」
 そう言って胸をドンと叩くエルマは楽しそうにエアブラシからインクを吹き付け始めました。
                                      to be continued...

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