VRゲームでも身体は動かしたくない。

姫野佑

第4章44幕 集合<assembly>


 先ほどは走ってきたのですが、今度はゆっくりと歩きながら帰ります。
 エルマ達に報告を送ると、彼女たちも亡命と所属の手続きが終わった様で、すぐに戻ってくると言っていました。
 こちらでの顛末もついでに伝えます。
 宿屋で合流ということになったので軽食のようなものを買おうとか、『ヴァンヘイデン』の狙いは何だったのだろうか、とかをステイシーと話しながら歩いているとそれほど退屈せずに『雷精の里 サンデミリオン』まで帰ってくることができました。
 「サツキは頑張っているのかなー?」
 ステイシーがそう空に向けてぽつりと呟きます。
 「どうなんだろうね」
 「それは自分たちの目で確かめるのが一番じゃないかな?」
 「そうなんだけどねー。いない人の様子はどうやって確かめるのさー」
 「ここにいるんだが?」
 「んー?」
 私ではない誰かと突然話始めたステイシーに少し困惑しつつもその声をする方向を見ると、そこには訓練中のはずのサツキが立っていました。
 「サツキ!」
 「戻ったらなら一言声かけてよー」
 「いや。すまないね。少し前にここまで送ってもらったんだが、どうもみんな忙しそうでね。そこらの喫茶店で一服ついていたところだったんだ」
 「そうだったんだ。≪銃衝術≫はできるようになったの?」
 「まぁ一応という感じかな。秘伝の訓練もあるし、まだまだ掛かりそうだよ」
 「そっかー。でもまぁこれであとはあの女とエルマが帰ってくれば全員集合だねー」
 「そうだね。サツキも私達がいま泊まっている宿屋においでよ」
 「あぁ。そうするよ」
 予想していなかったサツキとの少し早い再開を済ませ、私達三人は宿屋に向けて歩き出しました。

 「なかなか豪勢なところだね」
 「でしょ。食事も普通においしかったし」
 「それはとてもいいことだね」
 「あっ僕ちょっとエルマを迎えに行ってくるねー」
 「いってらっしゃい」
 「あぁ。いってらっしゃい」
 挨拶を返すとステイシーは少し足早に宿屋を出て行きました。
 「訓練はどうだったの?」
 二人きりになってしまい特に話すこともなさそうだったのでサツキに修行のことを聞きます。
 「どうもこうもないよ。ぶっ飛ばされて、ぶっ飛ばされた。そんなのの繰り返しだよ」
 「じゃぁまた一つ強くなったのかな?」
 「それはわからないな。ところでチェリー達はどうして『サンデミリオン』に? ワタシはてっきり『アクアンティア』周辺でのんびりしていると思っていたんだが」
 「最初はそのつもりだったんだけど、私が目的にしてたクエストが見つかっちゃってね。精霊駆動の入手クエスト」
 「あぁ。聞いたことはある。それでここまできたのか。なんというかお疲れ様」
 「まだ半分なんだけどね」
 「ひょっとしなくても……『エレスティアナ』の全ての都市を回るのかい?」
 「たぶんそうなる……かな?」
 「それは……これから忙しくなりそうだね」
 「うん。あっ三人とも帰ってきたみたいだ」
 「そうだね。一日ぶりだけどやけに久しぶりに感じるよ」
 私がそう言い立ち上がると、続いてサツキも立ち上がります。

 「おまたせ! 手続きとかめんどくさかった」
 エルマが戻って来て第一声でそう言います。
 「おつかれ。マオもお疲れ」
 「マオ、何も、してないから」
 「そっか。とりあえず……お昼にしない?」
 「少し早いけどいいね。そうしようか」
 「さんせーい」
 私の提案に皆賛成してくれたようなので、宿屋に戻り、一回のレストランへ入ります。
 「先にはいってて、私クルミさん呼んでくる」
 「わかったー」
 そうみんなに一言告げ、エレベーターに乗り、クルミの部屋まで行きます。
 「クルミさんいますか?」
 私はそう声をかけつつコンコンコンとノックをします。
 「はい。チェリーさんですか?」
 「はい、そうです。こちらの用事は終わりました。後、別の場所に行っていた仲間が合流したので一緒に食事でもどうですか?」
 「あっ。分かりました。すぐに出ますね」
 「はい」
 すると本当にすぐに扉を開け、クルミが出てきました。
 「お待たせしました」
 「待ってないですよ。では行きましょうか」
 クルミと一緒にエレベーターに乗り込み一階のレストランへと向かいます。

 レストランに戻ると6人掛けのテーブルに皆座っていました。
 「お待たせ。こちらクルミさん。貸し切り馬車の御者さんをやってもらっています。あちらは私の仲間のサツキ。見た目キザだけど中身も相当キザだから」
 私はそう二人を互いに紹介します。
 「チェリー。その紹介は少し……。まぁ間違いでもないけどね。よろしくね。クルミ」
 「はい。こちらこそよろしくお願いします」
 「さぁ! 食事にしようか」
 そうサツキが締めくくり、私とクルミにメニュー表を手渡してきます。

 昼食を食べたのでこの後どうするのか相談します。
 「とりあえずワタシの目的は済んだんだし、チェリーのクエストでいいんじゃないか?」
 「いや。でもまだ何カ所も行かなきゃいけないし、みんな退屈でしょ?」
 「ワタシは他の都市が見れるだけで充分だ」
 「僕もー」
 「あたしも」
 「マオ、もよ」
 あっ。皆そういう感じなんですね。
 「じゃぁ少し悪いけどもうちょっと、付き合ってもらおうかな」
 「合点承知の助!」
 エルマに江戸っ子言葉は似合わないと思います。
 「クルミさん。ここから近い副都市ってどこですか?」
 「そうですね。ここからですと、『氷精の海』や『闇精林』、『聖精林』辺りが近いですね。一番近いのは『氷精の海』ですね」
 「じゃぁそこに行こうかな」
 「かしこまりました。すぐに出発致しますか?」
 「いや。サツキがまだよくこの都市を見てないと思うから、明日にしようかなって」
 「なんだか気を遣わせちゃったみたいだね」
 「分かりました、では明日の朝には出れるように準備しておきますね。馬車の後ろ座席を拡張してきます」
 そう言い、クルミはレストランを出て、預けてある馬車の方へと歩いていきました。
 馬車の座席拡張できるんだ……。

 「じゃぁあたしはサツキを案内してくるね」
 「僕も一緒に行こうかなー」
 「じゃぁ、マオも」
 「やっぱり僕残るよ」
 「みんなでいこ!」
 「あっ私はクルミさん手伝ってくる」
 「はいよー! またあとでね!」
 「うん」
 私はみんなと別れ、馬車に向かっていったクルミを追いかけます。
 馬車は一台しか停まっておらず、すぐに見つけることができました。
 「クルミさん、手伝いに来ました」
 「あぁ。チェリーさん。すみません」
 「意外と馬車って少ないんですね」
 「そうですね、自前の馬車で来る方は皆貴族とかでしょうから、迎賓館に泊まるのではないでしょうか?」
 「あぁ。なるほど。座席の拡張ってどうすればいいんですか?」
 「えっと、一度、座席を全て外します」
 「一人じゃ大変でしたね。来てよかったです」
 「座席の下にくぼみがあるのでそこのロックを解除するとはずれます」
 クルミに言われた通り、座席の下をのぞき込むと確かにロックのようなものがありました。
 「では外しますね」
 私は一言クルミに伝え、右側のロックを外し、続いて左側のロックを外します。
 「よいっしょ……」
 座席部分を持ち上げ、一度馬車から降り、座席部分を立て掛けます。
 「ありがとうございます。後部座席の方は私がやりますね。内側に別の座席が入っているのでそれと入れ替えます」
 もう一度馬車に乗り、内部を見てみます。
 すると座席がついていた部分の内側は簡易的な物入れだったようで、予備の座席部分が対角線を結ぶように入っていました。
 「これですね」
 そこから取り出し、クルミに見せます。
 「そうです。先ほど外した座席は中にしまって大丈夫ですよ」
 「分かりました」
 馬車の外に立て掛けていた座席部分を馬車から乗り出し、引き込みます。そしてそのまま内部にしまいます。
 「そしたら前座席の部分はその座席をはめてしまってください」
 「わかりました」
 言われた通りにはめ、ロックします。
 「ありがとうございます。あとは後部座席を入れ替えるだけですね」
 そう言いながらクルミも手際よく入れ替えていました。
 「ありがとうございます。入れ替え完了です」
 「いえいえ。どう拡張されたんですか?」
 見た目では特に変わった様子がしなかったのでそうクルミに問いかけます。
 「では座ってみてください」
 「わかりました」
 クルミに言われたので後部座席に腰を掛けます。
 「あぁ。なるほど。座面の幅が少し狭くなっているんですね」
 「はい。どちらも小さくしますと奥側にもう一つ椅子が設置できるんです。今回は必要ないですが」
 そう言いながら小さい椅子を馬車の右窓の下にちょんと置きます。
 「これはこれでいいですね」
 「お子様向けの椅子ですが。先ほどの座席と違って少し壁との距離が近くなっていますので、ちょっと失礼します」
 そう言ってクルミが私の隣に腰かけます。
 「三人くらいなら腰かけられます」
 「そうですね」
 先ほどまでの椅子ですと、壁まで少し隙間があり、その隙間を埋めるようにひじ掛けが付いていたのですが、それを取り払い、壁にピタリとくっつける形にしたので少し隙間が生まれた、ということでしょうか。
 「これで5人でも馬車に乗れそうです」
 「いざとなったら、どなたか身体の小さい方が御者台の横に座ればいいです」
 なるほどその手があったか。
 座席の拡張を終えたので、特にやることが無くなってしまいました。なので私はクルミとお散歩でもしようかなと声をかけます。
 「この後は何かすること決まってますか?」
 「いえ。この後は特に」
 「じゃぁ一緒に買い物でも行きませんか?」
 「いいんですか?」
 「はい」
 「ではお言葉に甘えて」
 好意的な返事と、最大級の笑顔にノックアウトされた私は、孫になんでも買ってあげてしまうおじいちゃんのようにたくさん買ってあげてしまいました。
                                      to be continued...

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