VRゲームでも身体は動かしたくない。
第4章33幕 登山<mountaineering>
「お疲れさまでした」
そうクルミが言い、馬車を停めます。
「ありがとうございます。すぐみんなを連れてきますので、こちらでお待ちいただけますか?」
「わかりました。ではフレンデールに餌をあげて待っていますね」
「エサ代も後ほど言っていただければお支払いします。ではすこし行ってきますね」
私はそうクルミに伝え、シャンプー邸の扉を開け入ります。
きょろきょろとあたりを探しますが、見える範囲にいないようですね。仕方ありません。パーティーチャットで呼びますか。
『馬車チャーターしてきたよ』
『はーい。いまいくねー』
ステイシーから返事があり、もうすぐ来るとのことだったので玄関で待っていることにします。
数分経つと、ステイシーとエルマがやってきます。
「あれ? マオは?」
「マオは外にいるよ」
エルマにそう教えてもらい、外へ出ます。
すでにマオは馬車に乗り、楽しそうに本を読んでいました。
いつのまに……。
「ま、まぁいこっか」
「そだねー」
馬車まで数歩歩き、クルミに皆を紹介します。
「先に馬車に乗ったのがマオでこっちがエルマ、こっちがステイシーね」
「皆様よろしくお願いします。クルミと申します」
「無茶言ってごめんねー」
「助かるよ」
「いえいえ。これがお仕事ですので、ではお乗りください」
ステイシー、エルマの順で乗り込み、私が乗り込もうとするとクルミが聞いてきます。
「最初はどこに向かうのですか?」
「えっと『エレスティアナ』の都市を全部回りたいと思っているので、まず一番近いところからお願いします」
「でしたら『火精山岳 フレイミアン』が一番近いですね。ここからなら馬車で5分ほどで着きます」
シャンプーが言っていた通りみたいですね。
「ではそちらにお願いします」
「かしこまりました」
そうして私は馬車に乗ります。
クルミの言っていた通り、5分ほどで到着します。
「到着しました」
「ほーい。都市内部にはこのまま入れるのー?」
ステイシーがそう聞きます。
「はい。国外の方でも皆さま本都で入国審査を受けていますから、大丈夫です。中に馬車用の休憩所がありますのでそちらでお待ちしております」
「食事は大丈夫?」
「ええ。今はまだお腹は空いていませんので」
「わかりました。この都市で宿泊する予定はないのでそうかからず出発することになると思います。ではこちらお渡ししておくので必要なものがあったらそろえてください」
少ないですが2万金ほど渡します。
「かしこまりました。では皆様いってらっしゃいませ」
私達は馬車から降り、馬車の休憩所の場所を確認してから都市内部の観光を始めます。
「精霊神像……どこだろう」
私がきょろきょろしていると、エルマが道行く人に聞いてくれました。
「んと。ここ温泉がすごく湧いてるみたいなんだけど、山の山頂に祭ってあるみたいだよ」
「わかった。私は行くけどみんなどうする?」
「折角、来たの、だし、マオも、行くわ」
「あたしもいくー」
「僕もー」
おっと全員で行くみたいですね。
商店や露店が立ち並ぶ中央通りを抜けるとほどほどに急な山道が見えてきました。
ここを登るみたいですね。
「あんまり登りたくないなぁ」
「マオも」
「えー。いいじゃん! 運動運動!」
「結構急だよー。転びたくないなー」
私達がそう話していると、後ろから声がかけられます。
「もし、そこの方々。よろしければ、駕籠いかかです?」
おお!
「駕籠なんてあるんですか?」
「ええ。もちろんです。こちら貴族の方もいらしますので」
「なるほど。では4人分お願いできますか?」
「少々お待ちください」
すると屈強な男性たちがやってきました。
「【駕籠舁】の方々です。ほら、お前たち挨拶をし」
「よろしくお願いします」
一斉に【駕籠舁】の男性たちが挨拶をします。熱気がすごい。
「じゃぁ、そうだね……。あんたとあんたがこのお嬢ちゃんを、あんたとあんたがこのお嬢ちゃんを……」
そう言って割り振っていきます。
あれ、私だけ特にマッチョなんですが。
ステイシーは割と細身が二人なのに。
なんででしょうか。
非常にもやもやするのですが。
私が内心で悶々としていると、駕籠に押し込められます。
「ほいやっさ!」
そう【駕籠舁】が声を出し、駕籠を担ぎ上げます。
「あぅ」
結構揺れますね。
「お嬢さん。しっかりおつかまりくだせぇ。行きますぜ」
結構急な山道ですが、慣れているのでしょう、軽快に登っていきます。
「経験長いのですか?」
私はそう前を担ぐ【駕籠舁】に問います。
「いえ。自分はまだ短いんでさぁ。後ろの兄貴は今日いる【駕籠舁】の中で一番長いでさぁ」
「なるほど。この山道大変ではないですか?」
「ええ。最初は、大変でしたねぇ。でも今はもう慣れてしまいやした」
そりゃマッチョになりますね。
「でも思ったより楽で助かりますわ」
「なにがです?」
「失礼な話なんですが、お嬢さんが一番重そうでしたので」
おい。
「冗談ですわ!」
冗談に聞こえねぇ。
胸の内で悪態をついているうちに、山頂付近までやってきました。
思ったよりも長くないですね。
「お嬢さん帰りも乗りますかい?」
「他の人とも相談して決めてもいいですか?」
「もちろんでさぁ。では少し下って待っていますので、お声かけくだせぇ」
「ありがとうございました」
私は駕籠から降り、皆の到着を待ちます。
数分時間を空けて出発したので、全員が揃うまで5分ほどかかりました。
「結構楽しかった!」
エルマがすごく楽しそうに言います。
「現実でも乗ったことなかったから僕も楽しかったー」
「マオ、も、初めて。面白、かった」
「よかったよかった。じゃぁ山頂の精霊神像とやらを拝見しようか」
私はそう言って少しの階段を上り、山頂まで登ります。
それほど高い山ではなかったのですが山頂から見る景色にビルなどの建物はなく、昔の日本にタイムスリップしたのではないかという錯覚に見舞われます。
「すごい……」
私の口から、意図してはいないのですが、感動の言葉が漏れます。
それは皆も同様だったようで、口を開けて景色に飲み込まれています。
「これだけでこの都市に来た価値があるね」
「本当にね」
「自力で登ってないから何とも言えないけどー、ここを自力で登って、そのあとに温泉入ったら気持ちいだろうねー」
「温泉、入りたい、わ」
「温泉入ってから戻ろっか」
「さんせーい!」
温泉に入ることが決定したので、私は目的を果たすために精霊神像をのぞき込み、手を伸ばします。
すると『アクアンティア』の精霊神像と同じようにウィンドウが出ます。『精霊神像2/11』と出ました。
これで二つ目ですね。順調です。
「おっけー。終わったよ」
「おつかれー」
「じゃぁおりよっか。どうする? 歩く?」
流石にくだりも駕籠に乗って降りたら温泉のありがたさが薄れてしまうような気がしますね。少し頑張って降りてみましょうか。
「歩こうかな」
私がそう一言いうとびっくりしたという顔でステイシーがこちらを見てきます。
「ん?」
ステイシーに疑問で返します。
「いやー。チェリーなら帰りも駕籠に乗るって駄々こねると思った」
「ひどい。私より体重軽く見られたくせに。私の身長が高いだけなのに。キャラメイクやり直して低身長にしようかな」
「そこまでじゃないよー。とりあえずおりよっかー」
「そうだね」
徒歩で絶対降り切ってやると決意し、一歩踏み出しました。
「お嬢さん。乗っていくかい?」
「いえ。仲間と相談して歩いて降りることに決めました」
「そりゃーいいことでさぁ。疲れた身体にしみますぜ? ここの温泉は」
「それを味わうためです」
「お嬢さん分かってるねぇ。ほいじゃおいら達はお先に失礼しやす!」
空の駕籠を担ぎ、降りていきました。
結構な時間をかけ、なんとか下山しました。もう足がプルプルです。
ケロっとしているのはエルマだけで、ステイシーと愛猫姫もかなりきつかった様です。ステイシーがゼラチンみたいに椅子にへばりついていました。トケテルシーですね。
「おつかれさまです。行きの分だけですので、合わせて2万金です」
思ってたより安い、安すぎる。
「随分安いのですね」
「これでも高い方です。ではまたお越しください」
「はい」
そして私達は【駕籠舁】から聞いた温泉に向かって歩き出します。
中央通りからそれほど離れていない場所におすすめの温泉がありました。
「ここだね」
「だねー」
「男湯と女湯は別だって。残念だったねステイシー」
「別に残念じゃないよー」
少し顔を背けてますね。恥ずかしかったんですかね。テレテルシー。
心の中での暴言はこのくらいしにしておきましょうか。
ステイシーと別れ、私達女性三人でわいわい話しながら、脱衣所までやってきました。
「身体洗いサービスだって!」
「サツキがいたら無駄知識、色々教えてくれたかもしれないね」
「だねー」
そう会話しているうちにエルマは全身の装備を解除していました。また愛猫姫も同様ですぐに装備を解除していました。
私だけが取り残されている感じになっていたので急いで装備を解除します。
「よーし! いくぞー!」
テンションが凄いことになっているエルマとに、疲労で足がプルプルしている私と愛猫姫がついていきます。
「あぁ。もうこれだけで疲れが取れる!」
扉を開け、蒸気を全身に浴びたエルマが大きい声でそう叫びます。
「エルマ、声おっきいって。気持ちはわかるけど」
「早く! 早く!」
足が思うように動かない私と愛猫姫を急かすようにエルマがぴょんぴょん飛び跳ねながら手招きしています。
そのうち転んで怪我しますね。
意思の力でなんとか足を動かし、お湯をかけてから温泉に浸かります。
「あぁぁあ……」
足にたまった疲労がスッと無くなり、全身が解されていくような感覚に声を我慢できませんでした。
「あっチェリー様」
正面から声をかけられ、天井を向いていた顔を前に戻します。するとそこにはクルミがいました。
「クルミさんも来たんだね」
「ええ。『フレイミアン』に来て、時間があったら必ず入りに来ます」
「なるほど。本当にいいね。温泉は」
「そうですね」
やはり、温泉はいいものですね。
to be continued...
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