VRゲームでも身体は動かしたくない。

姫野佑

第4章30幕 精霊神像<God of elemental statue>


 「サツキ。これは?」
 先ほど貰った紙をサツキに見せます。
 『魔銃戦闘技術の弟子役募集』
 『魔銃戦闘技術の最先端である私、シャンプーは現在弟子を募集しております。』
 『弟子と言っても堅苦しいものではなく、ただ私の技術を習得し、他国へ広めてほしいのです。』
 『報酬:私が持つ魔銃の戦闘技術の全て。』
 『追伸:同時に魔法戦闘に長けた方を募集しています。』
 こう書いてある紙を見たサツキは目の色を変えます。
 「魔法戦闘に長けたというとここには三人いるし悪くないクエストだと思うけれど」
 「サツキが惹かれたのは魔銃戦闘技術でしょ?」
 エルマがニヤニヤしながらサツキに言います。
 「ふっ。その通りだね。私はこのクエストが受けたいね」
 「素直でかっわいい。じゃぁこれにしよっか!」
 「私もそれでいいよ」
 「僕もー」
 「マオは、どれでも、いいわ」
 このクエストを受けることで決定しました。

 受付カウンターの人に紙を返し、このクエストを受注することを告げます。
 「おお。お受けして頂けるんですね」
 「ええ。仲間に魔銃使いがいますので」
 「なるほど。では先方に連絡しますね」
 そう言って男性は何やら紙を取り出し不思議なペンを走らせます。
 「それはなんですか?」
 「ああ。これは精霊紙と精霊筆です。この組み合わせで記した手紙は目的の場所に精霊が運んでくれるんです」
 「へぇ。便利ですね」
 「便利ですよ。遠くの副都市の人にも届きますし。これで良し。こちらに来ていただくように伝達しましたのでもうしばらくお待ちください」
 「はい。わかりました」
 チャットはNPCでも使えるはずですが、この国では精霊に運ばせる手紙のほうが愛されているようですね。

 全員分の飲み物を購入し、席へと戻ります。
 「はい。紅茶買ってきた」
 「おっと。これはすまないね」
 腰に装備した新しい魔銃の手入れをしながらサツキが言ってきます。
 「魔銃って手入れが必要なの?」
 「ん? あぁ。そうだよ。定期的に清掃しないと劣化してしまうんだ。何もすることがないときは、汚れていなくてもするようにしているんだよ」
 「なるほど」
 私はその話を聞きながらステイシーやエルマ、愛猫姫にも紅茶を渡します。
 「私はそんなめんどくさいのを使う気になれないな」
 「チェリーはそうだろうね。でも愛着がわくものさ。VR前はログアウトする前に修復コマンドを実行するだけでよかったんだけどね。手間がかかる子だよ」
 そう言いながらもサツキはどこか楽しそうです。

 皆思い思いに時間を潰します。
 私は愛猫姫と図書館に来ました。
 『ヴァンヘイデン』や『ヨルダン』などの大都市に比べれて量は劣りますが、この地域でしか語られていない伝承などがあり、久々の読書も楽しむことができそうです。
 色々な本を、特に読みやすいものを読んでいると、精霊駆動式二輪車についての伝承がありました。
 おっ、と思い手に取ります。
 手に取り、中身を見ると精霊駆動式二輪車の構造から、必要な道具、入手条件などが書かれていました。
 もう一度言います。
 入手条件が書かれていました。
 目の色を変え、その項目を読みます。

 『この本に目を通しているということは、少なからず精霊駆動に興味がある者だと思う。そこで、だ。私が制作に成功した精霊駆動機器をある場所に置いておいた。その手掛かりとなるものは、この本に記されている。願わくば、この技術が人の為にならんことを。』 
 それを読み終えた私の前に、クエスト画面が出てきます。
 『個人クエスト:精霊駆動』
 『受注しますか?』
 私は迷いなく、はい、のボタンを押します。
 すると一枚の紙が、本からヒラリと落ちます。
 『『精霊都市 エレスティアナ』に11存在する精霊神像に名を刻め』
 精霊神像……。
 詳しい人に聞くしかありませんね。
 そう考えた私は、図書館の司書であろう女性に話しかけます。
 「すいません」
 「あっ。はい。なんでしょうか」
 「精霊神像ってご存知ですか?」
 「ええもちろん。この都市全体に11柱居ります精霊神を祭るために作った像ですね。この『アクアンティア』はこちらの案内所を出て城の方に少し行きますと噴水があります。そこの噴水が神像と呼ばれていますね」
 「そうなんですか! ありがとうございます」
 「いえいえ。どこの都市でも精霊回路の中心にございますので、立ち寄った際は見てみるといいですよ」
 「そうします。ありがとうございました」
 私は司書にそう告げ、その場を離れます。
 「マオ」
 「なに、かしら?」
 「私ちょっと噴水見てくるね」
 「いって、らっしゃい」
 「うん」
 愛猫姫にもそう告げ、噴水を見に行くことにします。

 案内所を出て数分歩き、噴水が見えてきました。
 あれが精霊神像と呼ばれるものだとは思いませんでした。
 噴水に近寄り、よく観察します。
 水を吐き出している部分は後から作った物のようですが、その下には『水の精霊神 アクアンティア』と刻まれていました。
 名を刻めと書かれていましたが、どうすればよいのかわからず、神像に触れてみます。
 すると、『精霊神像1/11』ととてもゲームっぽいウィンドウが出てきました。
 なるほど。触れるだけでいいみたいですね。
 これを11都市で行えば何か進展があるかもしれませんね。
 そう考えながら、私はみんなのいる案内所に戻ります。

 案内所に戻ると小柄な女性がサツキたちの所にいます。愛猫姫はいなかったのでまだ図書館でしょうか。
 「ごめん。ちょっと散歩に行ってた」
 「あぁ。そうだったのかい。紹介するね。こちらはシャンプーさん。ワタシ達が受けたクエストの依頼主だ」
 「初めまして。シャンプーです。この旅はご依頼を受けていただきありがとうございます」
 「いえいえ。思ったよりもお若いんですね」
 「いえ。私は精霊族なので見た目よりも何倍も歳ですよ。では説明がてら、私の家に参りましょう」
 そう言って振り返ったので私は愛猫姫を呼びに行くと言って、一度輪から抜け出します。

 図書館まで≪スライド移動≫で行き、愛猫姫に声をかけます。
 「クエスト始まるよ」
 「わかった、わ」
 パタンと名残惜しそうに本を閉じ元の棚へ返そうとします。
 「あっ。本は持ち出し大丈夫だよ。インベントリにはしまえないけど」
 「!? いい、わ。すごい、わ」
 そう言って古びた本を両手で抱いていました。

 愛猫姫に歩きながら読むのは危ないよ、と注意しつつ、案内所の入口へと向かいます。
 案内所の入口ではすでに出発の準備を整えたシャンプーとみんながいました。
 「お待たせしました」
 「いえいえ。大丈夫です。では行きましょう」
 そう言ったシャンプーについていき私達は数分歩きす。
 「のってください」
 そう言ったシャンプーは馬車の扉を開け、御者台に座ります。
 「馬車を使うほどの距離なのかい?」
 サツキがそう質問します。
 「いえ。それほどの距離はないのですが、移動がめんどくさいので馬車です」
 あっ。私この人と仲良くできそう。
 「そうか。うちの仲間にもね同じようなことをいう人がいるんだ」
 サツキが笑いながらそう返します。
 「一度お会いしたいです」
 はい。目の前にいます。

 しばらく馬車に揺られると、広い屋敷のようなものが見えてきました。
 御者台から振り向いたシャンプーがこちらを見ながら言ってきます。
 「あそこが我が家です。もとは魔銃の戦闘技術で『エレスティアナ』の国家騎士団団長まで上り詰めた祖父のものなのですが、先日戦争に巻き込まれて召されてしまいまして」
 「そうだったのか……。なんというかすまない。嫌なことを思い出させてしまったね」
 「いえいえ。サツキさんが気にすることではありません。久々の戦だと気張ってはいましたが歳でしたので」
 「そう言ってもらえると少し気が楽になるよ」
 「はい。私は子供を産めない身体になってしまったので、魔銃の戦闘技術を残すために、この依頼を出したのです」
 「そうなのか。あとでチェリーかステイシーに見てもらうといい。何かいい解決法が見つかるかもしれない」
 「ええ。皆伝したらそうします。では着きました。使用人たちもみな、いなくなってしまったので至らない点もあるかもしれませんがご容赦ください」
 「皆気にしないさ。じゃぁ行こうか」
 私達は馬車から降り、シャンプーの屋敷へと歩いていきます。

 「先ほど案内所の職員から連絡を受けてお部屋は用意しておきました。二階と三階に用意してありますのでお好きなお部屋をお使いください」
 「助かるよ。早速、その魔銃の戦闘技術を見せてもらいたいのだが」
 「わかりました。お荷物だけ置いたらそちらの奥にある訓練場までお越しください。私も準備して待っていますので」
 「あぁ。そうするよ」
 特にどの部屋がいいともなかったので適当に割り振り、訓練場までやってきます。
 すでにやる気満々のサツキと本を眺めている愛猫姫がいました。
 「やる気十分だね」
 私がそうサツキに声をかけると、サツキはほほ笑みながら答えます。
 「本場の、それも騎士団長クラスまで上り詰めたという魔銃の技術。これは心躍るよ」
 「わたしも興味ある」
 「みんな揃っていないが、今すぐにでもみたいね」
 「そうだね」
 そう会話をしているとステイシーとエルマもやってきました。
 「おまたせー」
 「よしじゃぁ行こう」
 「サツキノリノリじゃん」
 「仕方ないよ」
 茶化したエルマにそう返し私達もサツキに続き訓練場へと入っていきます。

 そこには身体のラインがすべてわかる程密着したスーツを着用し、複数の魔銃を携えるシャンプーが立っていました。
                                      to be continued...

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