VRゲームでも身体は動かしたくない。

姫野佑

第4章28幕 結論<conclusion>


 眠りから覚めた私は、一度現実に帰り、用を済ませ、再びログインしました。
 フレンド欄を開くとすでにステイシーがログインしているようなのでパーティーチャットを用いて挨拶をします。

 『ステイシー。おはよ』
 『おはよー。あとで案内所に行かないー?』
 『いいよ。みんな揃ってからね』
 『うんー。僕ちょっと試し撃ちに行きたいんだけどー』
 『あっ。私も試し撃ちしたいかも』
 『おっけー。宿屋の一階で待ってるねー』
 『了解』

 ステイシーが試し撃ちに行くそうなので私もついていくことにします。
 精霊を付与してもらった短剣、短刀の具合を確かめておきたいですから。
 いつもの装備ではなく、短剣と短刀を装備し、いつでもホルスターにさした拳銃が使える状態にしておきます。
 すぐにしまえる装備だと切り替えが楽ですね。魔具の方もすぐしまえる形態にしておくのが理想かもしれませんが、リング形態とブレスレット形態があまりにも使いやすく、変える気にはなりませんでした。

 準備を終え、宿屋の一階に下りてきます。
 すでに準備万端といった様子でステイシーが待っていました。
 「おまたせ」
 「ほーい。んじゃぁいこっかー」
 「うん。どこに行くの?」
 「プラクティカルフィールドが闘技場にあるらしい」
 「そうなんだ」
 プラクティカルフィールドはNPCの兵士や、低レベルのプレイヤーのために用意されている設備で、一定時間お金を支払うことで、ゴーレムとの戦闘を行うことができます。ギルドホームやホームに設置される簡易結界の上位互換ですね。基本的に闘技場は修練場にしかありません。個人で持つことも可能ですが、コストがバカにならないので持っている人はまずいないでしょう。
 「城仕えの兵士が普段使ってるらしんだけどー、今日は訓練ないみたいだから貸し切れるかなってねー」
 「なるほど。とりあえず行ってみよっか」

 そうしてしばらく歩き、闘技場にやってきました。
 闘技場の受付カウンターで貸し切りの予約をすると2時間ほどは開いているということでしたので、すぐに押さえ、内部へと入ります。
 「ほかのみんなも来たらよぼっかー」
 「そうだね。まずはゴーレムで試し撃ちしよっか」
 「だねー。耐久度どのくらいにしておくー?」
 「最大でいいんじゃない?」
 「おっけー」
 結界を起動しながらゴーレムの設定を確認し、ゴーレムを起動させます。
 闘技場中央から煙が噴き出し、ゴーレムが出現します。
 「ありありのなしなしにしたから」
 ゴーレムの近接攻撃あり、魔法攻撃あり、プレイヤーの自動回復及び回復アイテム使用なし、ペナルティーなし、という基本の設定ですね。
 「じゃぁまずは僕からやるねー」
 そう言ったステイシーが昨日購入した精霊を芯にしているという杖を装備します。
 「二重で杖を装備するのはいつぶりだろうー」
 片方は普段使っている【再誕神器 トール・マジェスト】ですね。
 「よーし。いくよー。≪戦闘開始≫ー」
 そう言ってステイシーはゴーレムとの戦闘を開始します。

 いきなりステイシーに向かって飛んできた石の塊を、水属性の刃で切り裂き、難なく回避します。
 ゴーレムの設定は全部最大になっているので魔法の威力もほどほどに高いですね。
 あのくらいの土魔法になると障壁を貫いてくるので、ステイシーのように切ってしまうのがいいでしょう。
 そう頭の中で整理、解説をしながら見ているとステイシーが新しい杖を使用します。
 「≪喚起〔アクセンラーナ〕≫」
 おお。こちらは≪喚起≫なんですね。
 芯に精霊を使っている、というより、芯に精霊を封じているというものでしょうか。
 精霊もかなり位が高い様ですね。固有名付きですし。
 「≪スプラッシュ≫」
 恐らくは精霊魔法の方で≪スプラッシュ≫を発動させましたね。【再誕神器】の方にも水属性魔法が付いているのでわかりにくかったのですが、MPが精霊に流れていたのでたぶんそうです。
 ステイシーはゴーレムの全身を水浸しにし、ついでに小さい穴だらけにして、【再誕神器】に備わった雷属性魔法を発動します。
 「≪ハイライトニング・ドラゴンブリッツ≫」
 あっ。この魔法見たことない。
 ベースになっている魔法は〔ラーヴァナ〕と戦った時の≪ハイライトニング・ドラグーン≫でしょうか。少し小型化して、中身をぎっしり詰めたような感じですね。
 そしてステイシーの放った魔法が表面を水で濡らしたゴーレムに直撃します。
 目の前に雷が落ちたのかと錯覚するほどの爆音と閃光が走り、私は一瞬目を閉じてしまいます。
 目を開けるとそこにゴーレムの姿はありませんでした。
 「ナイスファイト」
 「ありがとー。でもこの杖の試し撃ちにならなかったー」
 「そう?」
 「ゴーレムなら最大耐久でも多分雷魔法だけで倒せるー」
 「あー。うん」
 常識で考えられない威力出ますからね。雷魔法。
 「お次はチェリーの番だよー」
 「うん。じゃぁやってくるね」
 そう言った私は右手に【春野】を持ち、左手に【短雷刀 ペインボルト】を装備します。そう言えば、精霊の付与をしてもらったらペインボルトだけ名前に固有装備名が付いていましたね。
 鞘から抜くと刃を雷が走り、装備としてのグレードがかなり上がっていることに気が付きます。
 「≪戦闘開始≫」
 私はそう声をだし、二体目のゴーレムと戦闘を始めます。

 まずは精霊の召喚をしてみましょう。
 「≪召喚〔ペインボルト〕≫」
 私の精霊は武器の固有名を受け継いでいた様ですので、そのまま召喚してみます。
 左手の短刀が青白く輝くと、短刀から雷が抜け落ちていくような感覚がします。
 もう一度短刀を見ると、普段のような緑色に戻っていました。
 なるほど。精霊が宿っている時だけハイグレードの武器になるわけですね。でも代わりに出てきたこの雷精霊はかなり優秀です。何せ固有名付ですからね。
 精霊に固有名が付くのは稀で、基本的には契約者が名付ける場合が多いそうです。
 この精霊は私の武器の固有名を受け継いだというより吸ったんだと思います。
 上位の精霊だとできるそうです。
 「≪ライトニング≫」
 私はMPを消費し、〔ペインボルト〕に≪ライトニング≫を発動させます。
 放たれた≪ライトニング≫は私が上級魔法の≪ハイライトニング≫を発動するくらいの威力がありました。なるほど。これが精霊魔法ですか。
 足を砕かれたゴーレムがもがき起き上がろうとしてきます。
 ではもう一つの方を試しましょうか。
 【称号】のおかげでほぼすべての属性で魔法が使える状態ですね。ならば、風属性とか使ってみましょうか。
 「≪ウィンド・シュート≫」
 右手に持った【春野】から風属性の弾が発射されます。
 それがゴーレムの巨体に触れ、スッと消えました。
 えっ。
 威力よわ!
 諦めて〔ペインボルト〕と近接戦闘で倒します。
 「≪スライド移動≫」
 いつも通り≪スライド移動≫を使って距離を詰めつつ、右手の装備を取り替え、【ナイトファング】を装備します。
 こちらは名称が変わっていなかったのでそれほど高位の精霊ではなかった様ですね。今回は〔ペインボルト〕の方で押し切りましょう。
 「≪サンダー・ライン≫」
 精霊に発動を命じ、私はさらに距離を詰めます。
 えいっえいっと近づいてゴーレムを斬り付けます。
 ゴーレム固いんですよね。このままだと時間かかっちゃいそうですね。
 ゴーレムの視界から私は映っていないようで、【ナイトファング】の≪ダブルファング≫も発動していますが、表面を傷つける程度ですね。
 【ナイトファング】に対し、【短雷刀 ペインボルト】の≪サンダー・エンチャント≫を発動し、威力を底上げします。
 ですが、精霊の維持にENを持っていかれてしまっているのでそれほど長くは持ちそうもないですね。
 そう考えつつも攻撃する手は緩めずにいました。
 すると精霊がふっと目の前から消え、左手の【短雷刀 ペインボルト】に青白い輝きが戻ってきます。
 あー。時間切れのようですね。
 最後のあがき、と言わんばかりに左手を上に一閃するとスパッとゴーレムが二つに分かれ、消滅しました。
 はい?
 私が硬直し、ポカーンとしているとステイシーに声をかけられます。
 「おつかれー。精霊宿したままの武器のほうが強いっぽいねー」
 「あっ。うん。そうだね」
 結果的に、私は精霊魔法ではなく、精霊が宿った強力な武器を手に入れただけになってしまいました。
                                      to be continued...

「VRゲームでも身体は動かしたくない。」を読んでいる人はこの作品も読んでいます

「SF」の人気作品

コメント

コメントを書く