VRゲームでも身体は動かしたくない。
第4章16幕 推薦<recommendation>
≪ディメンション・ゲート≫を久々に用い、『ヴァンヘイデン』までやってきました。
しばらくは来たくなかったのですが、背に腹は代えられません。
正門前にすでに到着していたステイシーと合流します。
「おまたせ」
「≪偽装≫系のスキルもってるー?」
「一応持ってるよ」
「じゃぁテキトーに変身しよう。≪メタモーフィシス≫」
「≪発動≫」
私はアクセサリーを装備しそのスキルで、ステイシーは無属性変身魔法を用いて姿を変化させます。
これでぱっと見ても誰かはわかりませんね。
正門から堂々と入国し、中央通りを城に向けて歩いていきます。
「久々に来るとやっぱり景色はいいね」
「そうだねー」
姿を筋肉もりもりのマッチョメンに変えたステイシーとどこから見ても子供にしか見えない私は会話をしつつ『セーラム』へと向かいます。
「こんにちはー」
「いらっしゃいませ」
「いらっしゃーい」
勤務時間的にはフランとシドニーの時間なので彼女たちにラビの居場所を聞きます。
「ラビどこにいる?」
「なんなん? 急に。教えれるわけないやろー?」
あっそうでした。姿を変えてるのを忘れていました。
「あっごめん。≪解除≫」
ぱふっと音を立て、私の姿がいつもの姿に戻ります。
「なんや! チェリーか! 新手のストーカーかと思って警備呼び行くとこだったで!」
「変装してるのわすれてた。それでラビはどこにいる?」
「ラビならまだ上、おるんちゃう?」
「そっか。ありがと」
「なにかあったんかー? 困ったことあったらみんなの天使、シドニーちゃんに相談するとええでー。まぁ聞くくらいしかしないけどなー」
「なんでもないから大丈夫だよ」
「そかそかー。そう言えば旅に出るって聞いてたんやけど、どこ行くん?」
「あぁ。『エレスティアナ』だよ」
「あー。あの精霊がえらいおるとこかー。ん? あそこってハンナ、カンナの出身地の近くやったんやないっけ?」
「そうなの?」
初めて知りました。なにかお土産欲しいか聞いてみよう。
「せや。たしかそんなこと言ってた気がするで」
「そっか。じゃあお土産なにが欲しいかも聞いてこないとね」
「もう起きてると思うで」
「ありがとう。みんなの欲しいものリストアップしておいてくれる?」
「シドニーちゃんにお任せやで。きっちりうちの欲しいもんで埋めといたげるわ」
「ちゃんと聞いてね。じゃぁまたあとで」
私はそう言って、いつの間にか変装を解いていたステイシーと一緒にラビの部屋がある4階まで上がるため、エレベーターを動かします。
「シドニーちゃんだっけー? 意外といい子だねー」
「そうでしょ? 多分うちの従業員で一番優しい子だよ」
エレベーターの中でそんな会話をしているとすぐに4階に到着してしまったので、降り、ラビの部屋をノックします。
「ラビいる?」
「はーい!」
ガチャと私服に着替えたラビが迎えてくれます。
「あっ! チェリー! どうしたの?」
「少しトラブルがあって」
「詳しい話は中でしよ! いまちょうどポテトちゃんも来てるから!」
「そうなんだ。お邪魔するね」
「女の園に僕が入ってもいいのかなー?」
「かまいませんよ!」
「じゃぁお言葉に甘えてー、お邪魔しますー」
「チェリー。お久しぶりです」
「ポテト。久しぶりだね。って言ってもそんなに経ってないけど」
「そうでしたね。いまお茶を持ってきますね」
そう言って立ち上がったポテトが私の横を通るとき小声で伝えてくれました。
「入国拒否ですか。災難でしたね。ラビちゃんなら二つ返事で書いてくれるでしょうが、あまり仲の良い国同士ではないのでそこで少しトラブルが起こるかもしれません。その時は、『ヨルデン』国王の名前とこのお店の名前を出してください。ささやかですが助言です」
「わかった」
私も小声でそう返事をし、お茶を入れに行ったポテトを見送ります。
「話って何?」
「えっとね『エレスティアナ』に入国したいんだけど、入国拒否されちゃって明日までに王族かそれに類する者の推薦がないとちょっとまずいことになるらしくて」
「なるほど! じゃぁすぐ書いちゃいうね!」
そう言って部屋の倉庫から、2枚の紙を取り出し、魔力を纏って青く光るペンで描き始めます。
「案内所で申請すると時間かかるもんねー。でもなんで入国拒否なんだろう?」
「それはこの国の国王のせいだよー」
ステイシーがラビに教えます。
「なるほど。そういう顛末だったんですね。よければチェリーもステイシーさんも『ヨルダン』所属になる?」
「いや。でも私も、ステイシーも『ヨルダン』に家もってないし」
「王宮住まいの派遣でもなんでもやり用はあるから大丈夫だよ。この書類の効力も増すと思うし。何よりお父様は大喜び」
「それも悪くない話だけど、私達みたいな指名手配犯を簡単に所属させちゃっていいの?」
「えっ? 指名手配?」
「確証はないけど、指名手配されてるんじゃないかな?」
「指名手配犯だとさすがに難しいかも……でもちょっとお父様に話してみる価値はありそうだね。『ヨルダン』の諜報力で調べてからになると思うけど」
「その話、少し待ってもらえますか?」
扉の所でカップを5つ持ったポテトとその後ろに見覚えのある人物が立っていました。
「先ほど、お見えになりました。チェリーがいると伝えたら上がらせてくれと」
「伝えたいことがあるっす」
「ラビ、いいかな?」
「どうぞどうぞ!」
「では失礼するっす」
そうしてハリリンを加え、詳しい話を聞くことになりました。
「まず、第一に今回チェリーとステイシーは重罪判定されているわけじゃなかったっす」
「それはどうしてわかったの?」
「他国に出した秘密文書を盗んでみたっす」
えっ。
「そこには『上記二名に対し、国外退去令を発動。同盟国に同様の対応を要求する』と書いてあったっす」
「つまり?」
「自国に置いておくと報復が怖いっす。でも他国に戦力として奪われたくない。だから所属させたまま国外追放っていう措置を取ったんすよ!」
「なるほど……。ん? 所属したまま?」
「そうっす。所属したままっす」
「じゃぁ他国に移動するのは難しい?」
「そうっすね。現時点だと無理っすね。まずはこの国から正式に抜けないと」
「でも私は個人で所属してなかったはずだけど?」
「お店があるじゃないっすか。そのせいで所属扱いなんすよ」
「えっ? じゃぁ抜けるには店をなくすしかないってこと?」
「そうなるっす」
「そっか……」
なら仕方ありませんね。今回は諦めて、埋め合わせしないといけませんね。
「ステイシーはこっちにお店ないし、大丈夫だよね」
「そうなるっす。でもチェリー他の方法があるって言ったら?」
「どんな方法?」
「まず一つ目登録担当者に賄賂を送る。これは結構堅実っすね。二つ目、俺が忍び込んで二人の所属記録を抹消する。三つ目上書きする。この三つの方法が考えられるっす」
「上書き?」
「そのままその通りっすよ。他国の引き抜きや亡命のために作られた制度があるっす。それを使って所属国を変えちゃえばいいんすよ」
「書けた! 亡命扱いでよければすぐ手配できるよ!」
そうラビが言ってくれます。
「亡命を選んだ時のデメリットは?」
「一定期間護衛という名目で監視が付くっす。これは国王様がなんとかしてくれるとは思うっすけど」
そういってハリリンはラビの方をちらっと見ます。
「そこは大丈夫! お父様に「亡命という名目でチェリーを抱え込めるよ」っていえば一発だよ!」
ラビからもお墨付きがもらえました。
それなら選ぶ方法はただ一つですね。
「亡命しよう」
「一応、軍人さんの亡命扱いだから、国際法でしばらく国主導の戦争行為に参加できなくなっちゃうけど大丈夫かな?」
国際法なんてのもあるんですか。
リアリティーの追求も考え物ですね。
あっ。そういえば図書館で、捕虜の扱いに関する国家間なんちゃらっていうの見たことありました。
「たぶん大丈夫だよー。しばらく戦争は起きなそうだしー」
「そうですね。当面は大丈夫だと思いますよ」
ステイシーだけでなく、ポテトの意見が加わったので私の心は決まりました。
「私は、『ヨルデン』所属になるよ」
「じゃぁ僕もそうしよう」
「そう……っすね。いつか、戻ってこれるといいっすね」
あっ。所属国が変わるっていうことは、もう他国のギルドである『虎の子』には戻れないということですもんね。
「じゃぁ俺はこれで失礼するっす。紅茶うまかったっす」
そう言って立ち去る少し寂しそうなハリリンの背中を見送ります。
「じゃぁ亡命の手続きをしましょ! あっでも私の一存で書類描ききれない……」
「一回『ヨルダン』行く?」
「帰りも送ってくれる?」
「もちろん」
「じゃぁ行こうかな! ちょっと待ってね!」
「ステイシー様はお外へ」
そう言ってポテトがステイシーを連れて外に出ます。
「ラビ。ごめんね。迷惑かけちゃって」
「ううん。こっちこそごめんね。私を守るためだったのに……」
「ラビはなにも悪くないよ」
「でも……」
「ほんとに気にしないで」
「わかった」
そう言ってラビは実家に帰るために着飾っていきました。
「おまたせ!」
「よろしですか?」
外からポテトの声が掛かります。
「大丈夫!」
「では失礼します」
そう言ってポテトとステイシーが入ってきます。
少しステイシーの顔が青ざめていますね。何かあったのでしょうか。
「じゃぁ『ヨルダン』に行こうか」
この人数でしたら【神器】の効果もあるのでそれほど苦労せずに飛べます。
「≪ワープ・ゲート≫」
to be continued...
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