VRゲームでも身体は動かしたくない。
第4章15幕 拒否<refusal>
「とりあえずそろったみたいだしー、サツキが行けそうならもう行くー?」
「ワタシはいつでも行けるよ。といいやいところだけれど、何か必要なものはあるかい?」
「これと言ってはないかなー?」
「そうか。なら『エレスティアナ』の武器工房に少し持っていくことにしよう。少し待っていて貰えるだろうか」
「レディンが来るまでまだ掛かりそうだし、大丈夫だよ」
「感謝するよ。では少し奥に行ってくるとしよう」
そう言ってサツキは本棚の奥へ消えていきました。
「レディンはいつ頃くるって?」
エルマにそう問われ、聞いていた時間を答えます。
「午後3時過ぎになるって」
「じゃぁみんなでごはん食べる時間はあるけど……折角、『エレスティアナ』に行くんだからそっちで食べる?」
「それもいいね」
私がそう返事をすると端っこで本に埋まっていた愛猫姫がひょっこり顔をだし、答えます。
「むこう、の食事も、気になるわ」
「じゃぁそうしよっか!」
エルマがそう締めくくり、昼食は『エレスティアナ』で食べることになりました。
数分するとサツキが戻って来たので昼食は『エレスティアナ』で食べることにしたと伝えます。
「ん? いいのかい? あそこの食事は……言いにくいんだが、美味しくないそうだよ?」
「それでも! 折角だからそのまず飯を食らおうじゃないか!」
「マズイ、のは、嫌だ、わ」
「マオ! 諦めて!」
「えっ……」
そのような会話がなされましたがいつも通り平和で和やかな空気が流れ、レディンの到着を待っています。
予定の時刻を少し過ぎたころ、レディンがやってきます。
「遅れてごめんなさいです! では早速転送しますね! 紋章を出しますのでどこか広い場所はありますでしょうか?」
「それなら……ここを使うといい。名ばかりの倉庫だ。スペースはいくらでもある」
「おお! これはこれは! 助かりますです!」
小学生低学年程の背丈からどう出しているのかわからないハキハキとした大声を伴って、店の奥にある倉庫へと歩いていきました。
「ではみなみな様! 準備が整いましたです! こちらの紋章へどうぞ!」
そうレディンに声をかけられ、私達は紋章に集まります。
余談ですが、本に埋もれていた愛猫姫はエルマに引きずられるように紋章へと運ばれていました。
「では飛ばしますよー。おっと、遠征代こみこみのお代はチェリーさんのお店の倉庫からでいいかな?」
「うん。いいよー」
「わかった」
『揺レヨ 揺レヨ 空ノ道 割ケヨ 割ケヨ 隔タリヨ 我ガ財宝ヲ供物トシ 未ダ見ヌ土地ヘ行カセ給フ』
『≪空間旅行≫』
VRでは三度目のレディンによる『≪空間旅行≫』で『精霊都市 エレスティアナ』の正門前へと飛んできます。
「あとで代金はチェリーのお店の倉庫に届けるよう手配しておくよ」
「全部終わって帰ってからでいいよ」
「すまないね。じゃぁお返しってほどではないがチェリーの分の昼食はワタシに払わせてはもらえないだろうか」
「えっ? ほんと!?」
「あぁ。そのくらいしかできない自分の矮小さに嫌気がさすね。気を取り直して入国しようか」
そう言ったサツキがトレードマークである赤いコートをバッと羽織ります。
「馴染むね。『サイエンシア』では赤は嫌われるからあまり大手を振って歩けないんだ」
そうなんですか。初めて知りました。
「さっ。行こう。どこかの誰かさんの腹の虫も抗議の声をあげているようだしね」
スッと両手でお腹を隠すエルマをちらりと見たサツキは門をくぐるべく歩いていきます。
『精霊都市 エレスティアナ』は出入国が管理されており登録していない者や滞在期間が過ぎたものが内部にいるとすぐに精霊騎士と呼ばれる強者が集まって来て簀巻きにされてしまいます。
なので一度正門の軽いチェックを通らなければなりません。
ある程度伸びている列の最後尾に、サツキ、ステイシー、エルマ、愛猫姫、私の順番で並びます。
それほど厳密なチェックではなく、途中で列が4つに別れているので、数分もあれば通れるでしょう。
「次の方、どうぞ」
一番右の列に振り分けられたサツキが呼ばれました。軽いチェックとは言ってもこのような経験がないので少しドキドキしてしまいます。
「外の人か。こちらに両手をかざし、≪発券≫と言っていただけますでしょうか」
「こうかい? ≪発券≫」
「ありがとうございます。滞在期間は如何ほどでしょうか?」
「すまない、厳密にはわからないんだ」
「かしこまりました。では非所属国民の初期最長滞在期間の十日間で登録しておきます。もしそれよりも長く滞在するようでしたら内部の案内所か、王宮前の精霊騎士にお伝えください」
「わかった。手数をかけるね」
「いえ。では良い精霊と出会えますことを」
「ありがとう」
そう言ってサツキは門をくぐり、『精霊都市 エレスティアナ』の内部へと入っていきました。
その間にステイシーとエルマ、愛猫姫のチェックも始まりました。
3人を遠目に眺めていると私も呼ばれました。
「次の者」
「はい」
私がそう返事をし、係のもとへ歩いていこうとすると左側からステイシーの声が聞こえます。
「どういうことー?」
私はその声に多少意識を集中します。
「いえ。ですから、王族もしくは上級貴族の推薦状がないと入国を認められません」
「僕のパーティーメンバーは入れたけど?」
「ですが、こちらの精霊石にそうありますので……」
「次の者!」
「あっすみません!」
ステイシーの方の話を聞くのに夢中で足が止まってしまっていました。
ステイシー大丈夫かな……。
「こちらに手をかざし、≪発券≫と言え」
スタッフによって結構対応が違いますね。
「≪発券≫」
サツキの様子を見ていたので、手順はわかっています。
「ん? もう一度だ」
「≪発券≫」
「ふん。貴殿の入国は認められない。王族かそれに類する者の推薦状を持ってこい」
「えっ? なんでですか」
「精霊石がそう言っている。間違いはない。出直せ」
そう言われた私は列から放り出され、精霊騎士がたくさん集まっている場所に呼ばれます。
ステイシーも同様のようですね。
きょろきょろと見回すとエルマと愛猫姫の姿は見当たらなかったので、すでに入国したと思ってよさそうです。
「これなに?」
「さー?」
「貴殿ら二人に次ぐ、先だって入国した3名は我々の監視下に置かれる。明朝9時までに推薦状を持ってこなかった場合、こちらの法において3名を裁く」
「は?」
「はぁー?」
「言伝は以上である。去れ。明朝9時までだ。心得よ」
そう言うと私達を取り囲んでいた精霊騎士達は各々の持ち場に戻るようで散っていきました。
「さっぱり意味が分からない」
「入国拒否とか考えてもいなかったー」
「原因は何だろう……」
「あー。あぁー。あいつか」
何かに思い当たったようで突然声を低くしたステイシーが鋭い目で『ヴァンヘイデン』の方角を睨みつけます。
その様子を見た私もステイシーが何に思い当たったのか気付き、唇を噛みしめ、怒りを紛らわせます。
あのくそ国王……。
そう思った私はステイシーにサツキ達への情報伝達を頼み、チャットを送ります。
『ハリリン』
『チェリーじゃないっすか。どうしたっすか?』
『いま『エレスティアナ』に来たんだけど、入国拒否された』
『はっ? どういう事っすか?』
『何か推薦状がいるらしい』
『ということは……『ヴァンヘイデン』の国王がすでに他国へチェリーの待遇に関するなんちゃらを伝達したって事っすね』
『あー。やっぱり』
『怖いもの知らず……っていうかバカっすね。先のある大事にな立場っすのに』
『ある筋の情報だと、もうそんなに長くないらしいよ』
『まじっすか?』
『保証する』
『じゃぁ余計にわかんないっすね』
『なにが?』
『わざわざ寿命を短くすりょうなことするってことがっすよ。んまぁ良く調べてみるっすよ』
『お願い。ところで推薦状ってどこで貰えばいい?』
『基本的には所属国の案内所に行けば王族の誰かがサインして三日くらいで発行されるっす』
『はっ? 三日?』
『そうっすけど?』
『明日の9時までって言われてるんだけど』
『はぁ? そんなの無理っすよ』
なるほど。『精霊都市 エレスティアナ』もこれで高笑いってわけですね。
…………。
ならちょっと、びっくりさせてあげましょうか。
『いろいろわかったよ。ありがとう』
『お礼なら身体でお願いするっすー』
『いま機嫌悪いの分かって言ってる?』
『……何かわかったら連絡します』
『うん』
「ステイシー」
「ん? どうしたの?」
「一回『ヴァンヘイデン』まで帰るよ」
「まさか国を?」
「いや。王族の推薦書がいるなら、書いてもらおうじゃない。『ヴァンヘイデン』にいる王族に」
「なるほど。いいね。流石に遠いから≪ディメンション・ゲート≫で別々に帰ろう。正門前で待ち合わせで。ここの座標の記録わすれないでね」
「もちろん」
「「≪ディメンション・ゲート≫」」
to be continued...
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