VRゲームでも身体は動かしたくない。

姫野佑

第4章8幕 酒豪<drink like a fish>


 ぐでんぐでんに酔っぱらったエルマとステイシーはログアウトして現実に帰っていきました。
 私は少し抑え気味に飲んでいたのでまだそこまでではありません。
 にしても……愛猫姫、お酒強すぎませんか?
 ステイシーの飲み残しとエルマの飲み残しを水でも飲むかのようにコクコクと飲み干し、さらに追加で現実で言う一升瓶ほどありそうなワインを平気でぐびぐび飲んでいます。
 「おいしい、わ」
 「よかった。マオお酒強いね」
 「そう、かしら? でも酔った、こと、ないわね」
 でしょうね。
 「好きなだけ飲んでいいからね」
 「そう、するわ」
 現実では胃が破裂してしまいそうな量ですがここはゲームの中なので、その心配はないですし、安心して飲めますけどね。流石にこの量は……。
 「マオって一日何時間くらいこっちにいるの?」
 お酒の力を借りてわたしは愛猫姫に聞きます。
 「そう、ね。仕事、辞めてからは、ごはんと、シャワー、以外はこっち、ね」
 「結構長い時間いるね」
 「それは、チェリーも、一緒」
 「一本取られちゃったなー」
 そう言ってグラスの中に残っているお酒を飲み切ります。
 私のグラスをが空になったの見た愛猫姫はすぐにおかわりを作ってくれます。
 気が利きますね。
 「昔を、思い出す、わ」
 「昔?」
 出来上がったお酒を受け取りながら聞きます。
 「仕事、していたとき、のこと」
 やはりあの噂は本当なのでしょうか。
 「言いにくいかもしれないけどマオってもしかして銀座でホステスやってたの?」
 そう聞くと少し驚いた顔をして、答えてくれます。
 「そう、よ。毎日、必死だった」
 「そっか」
 普段聞くことなかった業界の話を何時間も聞いていると、お互い疲れがたまっていたのが、眠気がやってきます。
 「ふぁ……。眠くなっちゃった」
 「くぁ……。マオも、眠い、わ」
 「宿探して寝よっか」
 「そう、ね」
 お会計を済ませ、私達は店を後にします。

 店をでて数分歩いたところに宿があったのでちょっと入ってみることにします。
 少し小さいですが、綺麗なところです。
 「すいません。今から二人分って平気ですか?」
 「申し訳ございません。お部屋が一部屋しか空いておりません」
 「あー。そうですか……」
 「ダブルベッド、かしら?」
 そう愛猫姫が従業員に尋ねます。
 「はい。そうですが」
 「なら、そこで、いいわ」
 「えっ?」
 私が驚きの声をあげている間に愛猫姫が部屋を取ってしまいました。
 「チェリーと、一緒に寝たい、わ」
 その一言を聞いて、即時脳内メモリに保存し、鍵に記された部屋まで顔を赤くしながら歩いていきます。

 「思ったよりも広い」
 「そう、ね。外観、から考えると、不自然」
 「まぁゲームの中だから」
 「そうね」
 「ベッドも大きい」
 「うれしい、わ」
 愛猫姫はそう言って装備を解除し、パジャマの様なものに着替えました。
 私は普段自分の部屋で寝るとき装備もつけっぱなしでベッドに乗ってすぐログアウトしてしまうので、あまり気にしていませんでしたが、愛猫姫は寝落ちをする派のようですね。
 「このかっこ、落ち着く、わ」
 「かわいいよ。じゃぁ私も服変えようかな?」
 そう言って装備を解除し、インベントリに入れてあった普段着を着用します。
 「チェリーも、かわいい」
 「ありがとう。リアルの方は大丈夫?」
 「いま、なにも警告、でてないわ」
 「そっか。私は少しお手洗いに行って、ごはん食べてくるね」
 「チェリーが、行くなら、マオも行くわ」
 「りょうかい。じゃぁ20分くらいで戻って来るから」
 「わかった、わ」

 現実に帰ってきた私は、すぐにトイレに行き、自動調理機のご飯だと時間がかかってしまうので10秒ほどで食べきれる、ゼリー状のパックに入ったものを口にします。
 そして牛乳を飲み、すこし肌寒くなってきていたのでもこもこパジャマの下にもう一枚シャツを着ておきます。
 
 改めて<Imperial Of Egg>にログインし、愛猫姫を探します。
 流石にまだ戻ってきていませんね。
 今のうちに少し情報の整理と、考察でもしておきましょうか。

 まず、ダーロンを変性させたのは≪憑依≫かそれに類する何かということしかわかっていません。≪狂戦士化≫でなかったのは確かですが、だとすると≪獣化≫だけであそこまで自我を失うとは考えられません。
 ≪獣化≫は基本五感や、肉体を獣に近いものにし、強化するだけの物ですから、自我を失うこと自体が稀ですから。
 亜人のNPCも自我は失っていませんでした。
 例外は鳥族と人魚族くらいでしょうか。
 彼らは、自我を失ったことで≪獣化≫を引き起こしていましたから。

 とりあえず≪憑依≫だと仮定して思考を続けます。
 ≪憑依≫は基本自分の意思で発動をさせるものです。
 他人に≪憑依≫させるには特殊な条件をクリアしなければならなかったはずです。
 例えばエルマが私に闇精霊を≪憑依≫させようと発動させても、変化はないということですね。
 飲み会の時にも少し調べていたのですが、そこで手に入った情報によると、発動者と従属関係にある場合で≪憑依≫を受け入れる儀式を発動させればいいそうです。
 ですがその儀式はかなり大掛かりな物なようで、そこまでして変化させたダーロンをゴミのように地下牢に置いておく意味が分かりませんね。戦闘力的にはLv.200を超えるプレイヤーですら相性次第で倒せる強さはありそうでした。
 まぁそれでも中途半端なんですけどね。Lv.300を超える超高レベル層を倒せないのであれば無意味と言って差し支えないでしょう。他国が攻めてくるときは、その超高レベル層がやってきますからね。
 それはわかってるはずです。
 ならば、なぜ作ったのか……。
 実験……?

 「ただいま」
 愛猫姫の声がして思考の海から引き上げられます。
 「おかえり。私のほうが少しはやかったね」
 「ごめん、ね。ちょっとてれび、みちゃって」
 「何みてたの?」
 「ニュース。癖で、ね」
 「あー。言ってたもんね」
 「うん。寝ましょ」 
 「そうだね」
 そう言って愛猫姫と二人で大きいダブルベッドに潜り込みます。
 「懐かしい」
 「何か思い出したの?」
 「昔、ね? 弟と一緒に、こうして寝てたな、って」
 「そっか」
 ステイシーのリアルは詳しく知りませんが、愛猫姫と同じ布団で寝ていたことを知り少し、顔がにやけてしまいます。
 「チェリーは、そういう、思い出ない?」
 「私は一人っ子だったからね。いとことはたまにだけど、一緒にねてたかな」
 「いとこ、ね。マオのいとこ、こないだ結婚、したの」
 「そうなんだ」
 私は右半身をしたに、愛猫姫は左半身を下にして、お互い向かいあって、先ほどの飲み屋での話の続きのような他愛もない会話を続けていきます。
 いつの間にか私の目が開かなくなると、愛猫姫が私の頭を右手でスッとなで、「おねぇちゃんが、いたらこんな、感じだったのかしら、ね……」とつぶやいたのが遠くなる意識の中で聞こえました。

 朝になり、目が覚めます。
 朝と言ってももう昼近い11時でしたけど。
 私が身体を起こすと、そのせいか愛猫姫を起こしてしまいました。
 「ごめんね。起こしちゃった」
 「いいわ。いま、なんじ?」
 「11時だよ」
 「おきなきゃ……」
 そう言って愛猫姫も身体を起こします。
 「おはよ」
 「おはよう」
 少し眠そうな顔が愛猫姫の美貌をより触れにくくしています。
 「今日はどうしよっか。エルマとかステイシーはもうログインしているみたいだよ」
 「そう、なのね。なら、ゲームみたいなところ? いくんでしょ? 準備しないと」
 「そうだね。色々買っておくものとかもあるし、しばらく戻ってこれないと思うから」
 「そうね」
 「じゃぁ着替えて、買い物にいこっか」
 「わかった、わ」
 可愛らしいパジャマを脱ぎ、いつも通りの装備に変えていました。意外と起きるのはつらくないタイプのようですね。
 私もそれに倣い、いつも通りのメイド服を着用し、装備を整えました。
                                      to be continued...

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