VRゲームでも身体は動かしたくない。

姫野佑

間章5幕 アリバイ<alibi>


 「智恵理お嬢様のお部屋に鍵が置いてありましたので完全な密室でございました。死亡推定時刻は19時30分。今から30分前でございます」
 今から30分前となると……。
 ちょうどクイズを出され、エルマが逃げ出す頃ですね。
 その時間は執事やメイドが部屋の準備をしたり、荷物を車から降ろしたりしていたはずです。
 「凶器はなんでしょうか?」
 「ではそれは私から。凶器は厨房にある包丁でございます」
 転がっていたメイドがよいしょと立ち上がりながら答えます。
 「包丁……。有馬さん」
 「なんでございましょう」
 「30分前、あなたは私と瑠麻さんにクイズを出していましたよね」
 時間が合っているかの確認をします。
 「はい。その通りでございます」
 「となると有馬さんに犯行は不可能……」
 そう考えているとエルマが声をかけてきます。
 「いや。チェリー。犯人は有馬だよ!」
 「どうして?」
 「こいつ殺しとかやりそうな顔だもん! 気に入らないやつを裏でこっそり始末したんだ!」
 「…………」
 エルマは戦力になりませんね。
 「酷い言われようですね。まぁ無理もありません。泣きながら逃亡する瑠麻お嬢様を何度捕獲したかわかりませんから」
 「そうだったんですか」

 考えられるパターンは3通りでしょうか。
 星と名乗ったメイドが殺されたときは密室でなかった。つまり、殺してから部屋をでて鍵をかけて私の部屋に鍵を隠した、ということ。
 もう一つは、密室の中で、何らかの手段を用いて部屋の外部から殺人を行った、ということ。
 最後は、密室を作り、その内部で殺人を行った犯人が、何らかの手段で密室を維持したまま脱出した、もしくは内部にまだ隠れている、ということ。
 素直に考えれば最初の方がしっくりきますね。
 「部屋の内部をよく見させていただいてもよろしいですか?」
 「もちろんでございます」
 少し楽しくなってきました。こういう探偵の真似事やってみたかったんですよ。

 まず部屋の奥にある窓を見ます。
 鍵はかかっているようです。
 窓から脱出して、鍵をかけたとも考えられたので、一度窓から外を覗きます。
 高さ的には、飛び降りることは可能です。しかし、下は花壇になっており、飛び降りたら足跡が残ってしまいます。なので窓から脱出した可能性は低いでしょう。
 窓以外、扉から出ることができる場所は無いように思えます。
 部屋には他に、机、ベッド、クローゼット、暖炉がありました。
 星を殺した後、鍵を外からかけ、私の部屋に隠した場合の推理は置いておいて、内部からどうやって逃げ出したかを考えます。
 暖炉も覗いてみましたが、人が通れるほどの隙間はなく、脱出は扉以外不可能であるという結論を出します。
 犯人役が隠れていることも考え、クローゼットの中やベッドの下も覗いてみました。
 「一通り見たのですが、犯人がまだ内部に残っているという可能性はありませんでした。そして密室を作り、扉以外の場所から脱出したという可能性も限りなく低いと考えられます」
 「なるほど!」
 私がそこまで一息にしゃべると、ポンと右手で作った拳を左手の平に打ち付けエルマが納得しました。
 「つまりチェリーが言いたいのは、殺してから部屋を出て鍵をかけたってことだね?」
 「そんな感じ」
 「ふふーん。この別荘の鍵はね……」
 エルマがそう言って開いたままの扉の鍵を内側からカチリとかけます。
 「えっ?」
 「この扉の鍵は扉と壁をロックするタイプじゃなくて、ドアノブが回転しないようにするタイプなのだよ!」
 なるほど。読めました。
 「瑠麻さんの話が正しければ、犯人が星さんの殺害後に内側からドアノブをロックし、そのまま扉を閉めた、ということになりますね」
 「すばらしい。いい回答です。瑠麻お嬢様が屋敷の構造を覚えてらっしゃるのは盲点でございました。では続けましょう。犯人を当ててください」
 そう。問題は犯人です。
 今回、動機は関係ありませんので、誰でも犯行が可能だったということです。
 犯行が不可能だったのは、私、エルマ、有馬だけですね。
 「有馬さん。死亡推定時刻に嘘はありませんか?」
 念のため確認をしておきます。
 「もちろんでございます。19時30分で間違いありません」
 「瑠麻さんは2階に行ったよね?」
 「いったよ」
 「あの部屋から出て来たり、すれ違ったりした人はいる?」
 「すぐトイレに逃げちゃったから誰ともすれ違ったりしてないよ」
 「そっか」
 そうなると、いま現在、この別荘にいる人物みんなに話を聞かないといけませんね。
 「今日のこの別荘にいる執事、メイドの方は何人いらっしゃいますか?」
 「厨房のスタッフ3名、執事が6名、女給が6名の計15人でございます」
 「わかりました」
 犯行に使われた包丁は厨房にあるものと死体役の星が言っていたのでまず厨房に行ってみることにします。

 残り13人から犯人役を見つけるべく厨房にやってきました。
 「智恵理お嬢様。本日スタッフの者はみな、仕事中のことで嘘をつきません。推理の足しにしてくださいませ」
 「ありがとうございます。すいませんちょっとおききしたいのですが」
 厨房でいそいそと働く従業員に声をかけます。
 「はい。なんでしょうか」
 「星さんを刺した包丁が厨房の物だと聞いたのですが」
 「この包丁でしょうか」
 そうオーブンの近くに置いてあった包丁を見せてくれます。
 「この包丁はいつからここに?」
 「それがわからないのです。私達は皆、手元ばかり見ておりましたので。他の執事やメイドは何人か厨房に出入りしていたのですが、誰が来たかまでは……。申し訳ございません」
 「いえ。ありがとうございます。厨房のスタッフが少し抜けたりとかはありましたか?」
 「そちらもありません。もし誰かが持ち場を離れたとすると、食事が完成しなくなてしまいますので」
 「わかりました。お時間取らせてすいません。お食事楽しみにしています」
 厨房の3人が犯人役から外れ、残りは執事5人、メイド5人になりました。
 では次に執事の人達から話を聞いていきましょうか。
 「執事さんたちはいまどこにいらっしゃいますか?」
 「瑠麻お嬢様と智恵理お嬢様が到着されましたらすぐにお車を駐車場に止めに行き、執事3名と女給3名で荷物を搬入しておりました。その後女給は浴室の管理に3人とも向かっております。執事は各々別の仕事を課しているのでその持ち場におります」
 「では案内してもらってもよろしいですが?」
 「もちろんでございます」
 
 そうして食堂まで案内されます。
 「一人はこちらでテーブルのセッティングを任せております」
 「執事1役の渡でございます」
 あっ管理しやすいように番号付けてくれてる! 
 胸に大きく1と書かれたバッヂを付けています。
 「では19時30分頃に何をしていたのかお聞きしてもよろしいですか?」
 「もちろんでございます。私は車から食材をおろし、厨房へ持ってまいりました。その後、厨房からテーブルセットを持ち出し、こちらで食堂の清掃及びセットをさせていただいておりました」
 なるほど。執事1は厨房に入っていると。
 有馬から渡されていたメモにペンを走らせます。
 「その後、女給が2名厨房へと向かうのを確認致しましたが、番号まではわかっておりません」
 「なるほど。ありがとうございます」
 「よろしいですか? では執事2の方へご案内いたします」
 そう言い先導する有馬についていき、ボイラー室へとやってきます。
 「執事2役の開田と申します」
 「19時30分頃は何をなさっていましたか?」
 「瑠麻お嬢様のお車からワイン等のお酒をおろし、セラーの方に行っておりました」
 「なるほど。誰かを目撃したりとかは?」
 「セラーから出た際、執事3と会い、館内の温度調整について会話をしております」
 「なるほど。わかりました。ありがとうございます」
 「では執事3の方へご案内いたします」
 「お願いします」

 花壇まで案内されました。
 「執事3役の大内でございます。お嬢様のお車を運転し、駐車場兼ガレージに停めたのち、お夕食に出す野菜を収穫しておりました」
 「なるほど」
 今いる花壇からは星さんが倒れていた部屋の窓を見ることができますね。
 「どなたか目撃しましたか?」
 「いえ。ですがガレージから畑に行き、収穫した野菜を厨房に持って行った帰りに執事2と会い、館内の温度調整について話しました」
 執事2と言っていることは一緒ですね。
 「わかりました。ありがとうございます」
 「お次はどこに参りましょうか?」
 「そうですね。お風呂のメイド3人とお話がしたいです」
 「かしこまりました。ではご案内いたします」
 有馬について浴室へ向かいながら頭を整理します。
                                      to be continued...

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