VRゲームでも身体は動かしたくない。
第3章最終幕 デスペナルティー<death penalty>
約束の時間まであと10分ほどになりました。
大きく聞こえた戦闘音がいまは聞こえず、とても静かになっています。
「終わったのかな?」
「どうだろうねー?」
「国王を拘束しておいてもらう約束しておいたんだよ」
「ふむー。なら見てみよっかー。≪クレヤボヤンス≫」
そう言ってステイシーは透視魔法を発動しました。
「うーん。≪範囲増大≫」
「どう?」
「あー。戦闘は終わったみたいー。でも【天罰神】と〔最速〕が新国王を囲んで何かしゃべってるー」
「なんだろう」
「さー? んー? 〔最速〕が≪分身≫をつかったねー」
「拘束した後なのになんでだろう」
「さー? あれー? 片方がこっちに来るー」
「なんだろう」
「さー? 何か伝えることがあったらチャットしてくればいいのにー」
「だよね」
そう向こうの様子を覗き見るステイシーと会話をします。
「お二方!」
そう言って想像通り〔最速〕がやってきました。
「何かあったんですか?」
「うむ。開斗殿が口を割らせた」
「おお!」
「入れ知恵したのは『レイグ』とかいう組織だそうだ」
「『レイグ』!?」
私はそれを、その組織の名を知っていました。
「チェリー殿?」
「あっ。少し前にハリリンから聞いていました」
なぜそのことを忘れていたのでしょう。
「そうだったのか」
「そうなのかー」
「結構エグイ事する組織らしくて、自分のシマを管理するために邪魔者を排除したり、人身売買や危ないクスリとか売ってるらしいです」
「許せぬ」
「チェリー」
「ん? なに?」
「『猫姫王国』の一件に『ファイサル』の新国王派が関わってたんだよねー?」
「そうだね」
「つまり、その『レイグ』って組織があの事件を引き起こしたともいえるのかなー?」
「そうなるね」
私も頭の中で、一つの線でつながりました。早くこのことを伝えなきゃ……。ってジュンヤ以外デスペナルティー中でした。
「ふむ。考えていても仕方がない。とりあえずは目先のことだ。新国王を拘束はした」
「ありがとうございます」
「そこでなんだが、彼の身柄を我らに預ける気はないか?」
「? といいますと?」
「我の所属は『隠れ里 天平』。諜報に強く、情報戦で負けはない。お主のとこの忍者も元は『天平』出身だ」
ハリリンは『天平』出身だったのか!
「何か手掛かりがあるかもしれぬ。故にどうだろうか」
そうですね。情報を集めるのであればそれが最善かもしれません。
ですがこれだけの事件に関わりつつ、名前という尻尾の先端しか掴ませないような組織が、この程度の輩に重要な情報を教えているとも思えません。
「私の一存では決めかねる問題です。すこしチャットしてもいいですか?」
「無論だ」
『ジュンヤ』
『どうした?』
『〔最速〕が新国王を捕らえて、自国で尋問するのはどうかっていってるんだけど』
『なるほど。そうだな。閣下にすぐ連絡が付くメンバーがいる。少し待ってくれ』
流石、ジュンヤのコネクションはすごいですね。そう簡単にジロー閣下に連絡は取れませんよ。
『待たせたな。閣下は是非にとおっしゃっているそうだ。しかし、都市はなくした方がいいとも言っているらしい』
『新国王が領土から離れればいいんじゃ?』
『俺にも真意はわからん。人がなるべく近寄れないようにしてほしいそうだ』
『ちょっと思うところはあるけど……わかった。結局は詠唱魔法で吹っ飛ばすんだね』
『そういう指令だ。国に属しているから仕方ない』
色々なことがあり、最初はもちろん都市を消滅させるつもりでいましたけど、この状況でそこまでする価値があるのか私は疑問に思います。
『わかった。新国王の回収が済んだら、すぐに発動するね』
『頼む。デスペナ明けにまた会おう』
『うん』
「一応連絡をしておきました。『ヴァンヘイデン』の軍事総帥が是非『天平』で尋問してくれと言ったそうです。しかし、『ファイサル』は消滅させろとのことです」
「何故。奴さえ捕獲してしまえばいいのではないのか?」
「わかりません。私も疑問に思っています」
「チェリー。ちょっと嫌な予感がするねー」
「奇遇だね。私もだよ」
ジロー閣下のこと、ハリリンのデスペナルティーが明けたら調べてもらおうと決めました。
「ではござる丸さん。新国王を持って帰ってください」
「うむ。すでに我の分身が連れて出立した。開斗殿も離脱を確認している」
「わかりました。じゃぁステイシーやろっか」
「うんー」
私はすぅっと息を吸い、詠唱を開始します。
『呼バレ 出デヨ 煉獄ヨ 生マレ 留マレ 火ノ山ヨ 我ガ魂ヲ供物トシ 猛キ山ヲ顕現ス』
続いてステイシーも詠唱を開始します。
『集マレ 集マレ 黒雲ヨ 纏エ 纏エ 迅雷ヲ 我ガ魂ヲ供物トシ 全テノ力ヲ飲ミ込マン』
『≪顕現セシハ煉獄ノ山也≫』
『≪空ヲ覆ウ黒イ雲≫』
爆発的なエネルギーが私の身体から発生し、詠唱魔法が発動します。
同様に隣のステイシーからも、計り知れないエネルギーが放出され始めます。
デスペナルティーが代償の詠唱魔法ですからね。正直どんな規模なのか見当もつきません。
詠唱中に見えた光景とスキルの詳細から火山を召喚する魔法なのはわかりましたし、詠唱中に範囲を指定するようなイメージが湧いたので、そこまでひどいことにはならないと思います。
私の身体からエネルギーがすべて放出され、地面に座り込みます。
大きな地響きを感じ、上空から響く雷鳴が耳に届きます。
地面の揺れが最大に達し、地面を割って赤く燃える山がせり上がってきます。
ゴポゴポとここまで聞こえる音と、ここまで離れているのに、息苦しくなるほどの熱気を感じ、改めて詠唱魔法の規格外さに恐怖を覚えます。
罪人や重罪人になっても良ければ、このゲームを火山で満たしたり、海に沈めることすらできてしまうわけですからね。
第二陣のログインが始まってからが怖いですね。そういうことを率先してやるような人がいたら嫌です。あっ。人のこと言えませんね。
『【国絶やし】、【創造主】、【王】、の【称号】を獲得しました。』
『発動条件:デスペナルティーを検出。』
『デスペナルティー実行。』
『期間は5日間です。』
出現した火山と上空を覆う雷を纏った黒雲が視界を埋め尽くす光景と獲得した【称号】のアナウンス、デスペナルティーの通知を見ながら、私はデスペナルティーによる強制切断で現実世界へと戻ります。
ベッドの上で覚醒した私は、頭についている専用端末を外し、少し呼吸を落ち着かせます。
深呼吸をし、いつもの呼吸ペースに戻した後立ち上がり、携帯端末を手に取ります。
チャットツールを立ち上げ、エルマにチャットを送ります。
『ごめん。デスペナになった。事件は一応解決した……のかな。気を付けて戻ってきてね』
そう送っておきます。
敵の≪死への誘い≫でデスペナルティーになっていれば1日ですんだ……はずですけどね。私が罪人判定だったのか重罪判定だったのかがわからないので言いきれませんけど。
さすがにあのレベルの詠唱魔法は1日のデスペナルティーでは済まないようですね。
手持ちのアイテムとか結構ドロップしちゃたかもしれません。
とりあえず5日間はログインできないので、ゲームのことは忘れて現実の生活を満喫しましょうか。
そう思っていると携帯端末が着信を知らせてきます。
発信者はエルマと書いてあります。
『もしもし』
『チェリー! 何があったの?』
『それは後で話すよ。ラビと愛猫姫は無事?』
『無事だよ。レディンを呼び出して、『ヴァンヘイデン』まで帰ってきた』
『よかった』
『急にチェリーの名前がパーティーから消えたから何かあったのかと思ってすぐに戻ってきたよ』
『えっとね。敵の呪詛魔術師に呪いをかけられてね。それで死ぬくらいならデスペナ代償の詠唱魔法をぶっ放そうとおもってぶっ放したらデスペナ期間5日だった』
『うわー。とりあえずお疲れ様!』
『ありがとう』
『チェリーがゲーム内にいないならあたしもサブキャラでいる意味ないかなー?』
『どうして?』
『チェリーが寂しがってるのに、おねぇさん一人で遊ぶのは申し訳ないんだよ!』
『別にいいのに』
『というわけであたしもログアウトしてきた! ちなみに愛猫姫もログアウトしたよ』
『そっか』
『ちなみにチェリーさん、このあとご予定はあるかしらん?』
『ないよ。寝ようかなって思ってたけど』
『ふっふっふ。1時間後に窓の外を覗くのだー』
『ん? わかった』
『じゃぁまた後で連絡するね!』
『うん』
エルマが電話を切ります。
1時間後? よくわかりませんが覚えておきましょう。
「ボンジュー・ゲーゲロ! 一時間後に窓を見る。アラーム設定!」
携帯端末に話しかけ、アラームを設定しました。
1時間ですからご飯を食べて、お風呂にでもはいっていればすぐですね。
そう考えた私は、携帯端末に話しかけ、湯船にお湯を溜めてもらいます。
自動調理機で完成した食事をとりながら掲示板をチェックします。
『【速報】『ファイサル』消滅!?』
『【速報】『ファイサル』新国王派完全敗北』
『第二陣ログイン開始日決定』
<Imperial Of Egg>の掲示板なので『ファイサル』のことが多く書かれています。
その中で第二陣についての掲示板があったので覗くことにします。
『先ほど[Multi Game Corporation] 白河美華夏が第二陣のログイン日程について公表した。』
『来月1日に解禁となるそうだ。』
『それに伴い、来週から専用端末の再販売が行われる。』
そのあとには買えなかった廃人達の悲痛な書き込みと、期待に満ちた書き込みが続いていました。
なるほど。来週発売ですか。
また人が増えたら色々起きそうでちょっと怖いですね。でも私の数少ないフレンドでも初期生産の専用端末が買えなかった人がいましたのでその子と遊ぶのは少し楽しみです。
『~~♪』
あっ。お風呂が沸いたようですね。
お風呂が溜まったという通知が携帯端末に入ったので、残りの食事を食べきり、脱衣所へ向かいます。
スルスルとパジャマを脱ぎ、それを洗濯機に放り込んで動かします。
お風呂出て牛乳を飲み終えるくらいには乾燥も終わってホカホカのパシャマが着られるのでこのタイミングでいれるのがベストです。
浴室に入り、シャワーを出しつつ椅子に座って頭をシャカシャカ洗います。
最近、ゲーム内で結構動いていたので、今まで面倒くさがっていたことも少し抵抗なく行えるようにはなりました。
ですが、やはり動かないに越したことはないですね。現実の肉体は疲労していないのですが、精神的には結構疲れてしまいます。
あっ!
そこで私は気付きます。
『気になる脂肪を一網打尽!』を二の腕に装備したままでした。
シャンプーで泡まみれの手を一度洗い流し、ぺりぺりとはがします。
危なかったですね。これがもし感電する系の商品だったら今頃、脂肪ごと一網打尽にされていました。
そうして頭を洗い終え、湯船につかります。
湯船に入りながら見れるように、モニターが設置してあるのでそれを音声で操作し、動画サイトを開きます。
最近気に入っているのは<Imperial Of Egg>の旅行動画です。
どれを見ようかと探していると、私の目が気になるものを捕らえました。
【あいおえ旅行】
『『精霊都市 エレスティアナ』編』
というタイトルでした。
『精霊都市 エレスティアナ』には精霊駆動式の自動車のようなものがあると聞き、いつか行ってみたいと思っていました。
見ると楽しみがなくなってしまうので見ないことにしましたが、次<Imperial Of Egg>にログインしたら真っ先に『エレスティアナ』に行こうと決めました。
色々な動画を見つつ、身体の芯まで温まったのでよいしょっと湯船から出ます。
ふーと一息つきつつ、バスタオルを巻き付け、牛乳を冷蔵庫から取り出し、ゴクゴクと飲みます。
やはりお風呂上りには牛乳ですよね。
ぷはーっと息を吐き、するっと床に落ちたバスタオルを拾い上げ、身体を拭きます。
身体を拭き終え、頭にバスタオルを巻きつけた姿のまま、パジャマを取り出そうとすると、携帯端末がアラーム音を鳴らします。
『窓の外を見る。』
あっそうでしたそうでした。エルマが窓の外を見てと言っていたんでしたね。
そして携帯端末に着信が入ります。
『もしもし』
『チェリー! 窓の外をみてー』
『わかった』
そう言いながら、部屋に行き、カーテンをシャッと開けます。
何もないよ? と思いつつ、下に目をやると、白い車の横に立ったエルマが居ました。
『えっ? エルマ何でここに?』
『チェリーいいい! 服ううううう!』
『へ?』
そう言って私は自分の姿を改めて確認します。
頭にバスタオルを装備していますが、それ以外何も身に着けていませんでした。
うん。
『いやあああああああああああ』
私の悲鳴がエルマの端末から聞こえてくるのではないかという大きさで響きました。
<第3章完>
大きく聞こえた戦闘音がいまは聞こえず、とても静かになっています。
「終わったのかな?」
「どうだろうねー?」
「国王を拘束しておいてもらう約束しておいたんだよ」
「ふむー。なら見てみよっかー。≪クレヤボヤンス≫」
そう言ってステイシーは透視魔法を発動しました。
「うーん。≪範囲増大≫」
「どう?」
「あー。戦闘は終わったみたいー。でも【天罰神】と〔最速〕が新国王を囲んで何かしゃべってるー」
「なんだろう」
「さー? んー? 〔最速〕が≪分身≫をつかったねー」
「拘束した後なのになんでだろう」
「さー? あれー? 片方がこっちに来るー」
「なんだろう」
「さー? 何か伝えることがあったらチャットしてくればいいのにー」
「だよね」
そう向こうの様子を覗き見るステイシーと会話をします。
「お二方!」
そう言って想像通り〔最速〕がやってきました。
「何かあったんですか?」
「うむ。開斗殿が口を割らせた」
「おお!」
「入れ知恵したのは『レイグ』とかいう組織だそうだ」
「『レイグ』!?」
私はそれを、その組織の名を知っていました。
「チェリー殿?」
「あっ。少し前にハリリンから聞いていました」
なぜそのことを忘れていたのでしょう。
「そうだったのか」
「そうなのかー」
「結構エグイ事する組織らしくて、自分のシマを管理するために邪魔者を排除したり、人身売買や危ないクスリとか売ってるらしいです」
「許せぬ」
「チェリー」
「ん? なに?」
「『猫姫王国』の一件に『ファイサル』の新国王派が関わってたんだよねー?」
「そうだね」
「つまり、その『レイグ』って組織があの事件を引き起こしたともいえるのかなー?」
「そうなるね」
私も頭の中で、一つの線でつながりました。早くこのことを伝えなきゃ……。ってジュンヤ以外デスペナルティー中でした。
「ふむ。考えていても仕方がない。とりあえずは目先のことだ。新国王を拘束はした」
「ありがとうございます」
「そこでなんだが、彼の身柄を我らに預ける気はないか?」
「? といいますと?」
「我の所属は『隠れ里 天平』。諜報に強く、情報戦で負けはない。お主のとこの忍者も元は『天平』出身だ」
ハリリンは『天平』出身だったのか!
「何か手掛かりがあるかもしれぬ。故にどうだろうか」
そうですね。情報を集めるのであればそれが最善かもしれません。
ですがこれだけの事件に関わりつつ、名前という尻尾の先端しか掴ませないような組織が、この程度の輩に重要な情報を教えているとも思えません。
「私の一存では決めかねる問題です。すこしチャットしてもいいですか?」
「無論だ」
『ジュンヤ』
『どうした?』
『〔最速〕が新国王を捕らえて、自国で尋問するのはどうかっていってるんだけど』
『なるほど。そうだな。閣下にすぐ連絡が付くメンバーがいる。少し待ってくれ』
流石、ジュンヤのコネクションはすごいですね。そう簡単にジロー閣下に連絡は取れませんよ。
『待たせたな。閣下は是非にとおっしゃっているそうだ。しかし、都市はなくした方がいいとも言っているらしい』
『新国王が領土から離れればいいんじゃ?』
『俺にも真意はわからん。人がなるべく近寄れないようにしてほしいそうだ』
『ちょっと思うところはあるけど……わかった。結局は詠唱魔法で吹っ飛ばすんだね』
『そういう指令だ。国に属しているから仕方ない』
色々なことがあり、最初はもちろん都市を消滅させるつもりでいましたけど、この状況でそこまでする価値があるのか私は疑問に思います。
『わかった。新国王の回収が済んだら、すぐに発動するね』
『頼む。デスペナ明けにまた会おう』
『うん』
「一応連絡をしておきました。『ヴァンヘイデン』の軍事総帥が是非『天平』で尋問してくれと言ったそうです。しかし、『ファイサル』は消滅させろとのことです」
「何故。奴さえ捕獲してしまえばいいのではないのか?」
「わかりません。私も疑問に思っています」
「チェリー。ちょっと嫌な予感がするねー」
「奇遇だね。私もだよ」
ジロー閣下のこと、ハリリンのデスペナルティーが明けたら調べてもらおうと決めました。
「ではござる丸さん。新国王を持って帰ってください」
「うむ。すでに我の分身が連れて出立した。開斗殿も離脱を確認している」
「わかりました。じゃぁステイシーやろっか」
「うんー」
私はすぅっと息を吸い、詠唱を開始します。
『呼バレ 出デヨ 煉獄ヨ 生マレ 留マレ 火ノ山ヨ 我ガ魂ヲ供物トシ 猛キ山ヲ顕現ス』
続いてステイシーも詠唱を開始します。
『集マレ 集マレ 黒雲ヨ 纏エ 纏エ 迅雷ヲ 我ガ魂ヲ供物トシ 全テノ力ヲ飲ミ込マン』
『≪顕現セシハ煉獄ノ山也≫』
『≪空ヲ覆ウ黒イ雲≫』
爆発的なエネルギーが私の身体から発生し、詠唱魔法が発動します。
同様に隣のステイシーからも、計り知れないエネルギーが放出され始めます。
デスペナルティーが代償の詠唱魔法ですからね。正直どんな規模なのか見当もつきません。
詠唱中に見えた光景とスキルの詳細から火山を召喚する魔法なのはわかりましたし、詠唱中に範囲を指定するようなイメージが湧いたので、そこまでひどいことにはならないと思います。
私の身体からエネルギーがすべて放出され、地面に座り込みます。
大きな地響きを感じ、上空から響く雷鳴が耳に届きます。
地面の揺れが最大に達し、地面を割って赤く燃える山がせり上がってきます。
ゴポゴポとここまで聞こえる音と、ここまで離れているのに、息苦しくなるほどの熱気を感じ、改めて詠唱魔法の規格外さに恐怖を覚えます。
罪人や重罪人になっても良ければ、このゲームを火山で満たしたり、海に沈めることすらできてしまうわけですからね。
第二陣のログインが始まってからが怖いですね。そういうことを率先してやるような人がいたら嫌です。あっ。人のこと言えませんね。
『【国絶やし】、【創造主】、【王】、の【称号】を獲得しました。』
『発動条件:デスペナルティーを検出。』
『デスペナルティー実行。』
『期間は5日間です。』
出現した火山と上空を覆う雷を纏った黒雲が視界を埋め尽くす光景と獲得した【称号】のアナウンス、デスペナルティーの通知を見ながら、私はデスペナルティーによる強制切断で現実世界へと戻ります。
ベッドの上で覚醒した私は、頭についている専用端末を外し、少し呼吸を落ち着かせます。
深呼吸をし、いつもの呼吸ペースに戻した後立ち上がり、携帯端末を手に取ります。
チャットツールを立ち上げ、エルマにチャットを送ります。
『ごめん。デスペナになった。事件は一応解決した……のかな。気を付けて戻ってきてね』
そう送っておきます。
敵の≪死への誘い≫でデスペナルティーになっていれば1日ですんだ……はずですけどね。私が罪人判定だったのか重罪判定だったのかがわからないので言いきれませんけど。
さすがにあのレベルの詠唱魔法は1日のデスペナルティーでは済まないようですね。
手持ちのアイテムとか結構ドロップしちゃたかもしれません。
とりあえず5日間はログインできないので、ゲームのことは忘れて現実の生活を満喫しましょうか。
そう思っていると携帯端末が着信を知らせてきます。
発信者はエルマと書いてあります。
『もしもし』
『チェリー! 何があったの?』
『それは後で話すよ。ラビと愛猫姫は無事?』
『無事だよ。レディンを呼び出して、『ヴァンヘイデン』まで帰ってきた』
『よかった』
『急にチェリーの名前がパーティーから消えたから何かあったのかと思ってすぐに戻ってきたよ』
『えっとね。敵の呪詛魔術師に呪いをかけられてね。それで死ぬくらいならデスペナ代償の詠唱魔法をぶっ放そうとおもってぶっ放したらデスペナ期間5日だった』
『うわー。とりあえずお疲れ様!』
『ありがとう』
『チェリーがゲーム内にいないならあたしもサブキャラでいる意味ないかなー?』
『どうして?』
『チェリーが寂しがってるのに、おねぇさん一人で遊ぶのは申し訳ないんだよ!』
『別にいいのに』
『というわけであたしもログアウトしてきた! ちなみに愛猫姫もログアウトしたよ』
『そっか』
『ちなみにチェリーさん、このあとご予定はあるかしらん?』
『ないよ。寝ようかなって思ってたけど』
『ふっふっふ。1時間後に窓の外を覗くのだー』
『ん? わかった』
『じゃぁまた後で連絡するね!』
『うん』
エルマが電話を切ります。
1時間後? よくわかりませんが覚えておきましょう。
「ボンジュー・ゲーゲロ! 一時間後に窓を見る。アラーム設定!」
携帯端末に話しかけ、アラームを設定しました。
1時間ですからご飯を食べて、お風呂にでもはいっていればすぐですね。
そう考えた私は、携帯端末に話しかけ、湯船にお湯を溜めてもらいます。
自動調理機で完成した食事をとりながら掲示板をチェックします。
『【速報】『ファイサル』消滅!?』
『【速報】『ファイサル』新国王派完全敗北』
『第二陣ログイン開始日決定』
<Imperial Of Egg>の掲示板なので『ファイサル』のことが多く書かれています。
その中で第二陣についての掲示板があったので覗くことにします。
『先ほど[Multi Game Corporation] 白河美華夏が第二陣のログイン日程について公表した。』
『来月1日に解禁となるそうだ。』
『それに伴い、来週から専用端末の再販売が行われる。』
そのあとには買えなかった廃人達の悲痛な書き込みと、期待に満ちた書き込みが続いていました。
なるほど。来週発売ですか。
また人が増えたら色々起きそうでちょっと怖いですね。でも私の数少ないフレンドでも初期生産の専用端末が買えなかった人がいましたのでその子と遊ぶのは少し楽しみです。
『~~♪』
あっ。お風呂が沸いたようですね。
お風呂が溜まったという通知が携帯端末に入ったので、残りの食事を食べきり、脱衣所へ向かいます。
スルスルとパジャマを脱ぎ、それを洗濯機に放り込んで動かします。
お風呂出て牛乳を飲み終えるくらいには乾燥も終わってホカホカのパシャマが着られるのでこのタイミングでいれるのがベストです。
浴室に入り、シャワーを出しつつ椅子に座って頭をシャカシャカ洗います。
最近、ゲーム内で結構動いていたので、今まで面倒くさがっていたことも少し抵抗なく行えるようにはなりました。
ですが、やはり動かないに越したことはないですね。現実の肉体は疲労していないのですが、精神的には結構疲れてしまいます。
あっ!
そこで私は気付きます。
『気になる脂肪を一網打尽!』を二の腕に装備したままでした。
シャンプーで泡まみれの手を一度洗い流し、ぺりぺりとはがします。
危なかったですね。これがもし感電する系の商品だったら今頃、脂肪ごと一網打尽にされていました。
そうして頭を洗い終え、湯船につかります。
湯船に入りながら見れるように、モニターが設置してあるのでそれを音声で操作し、動画サイトを開きます。
最近気に入っているのは<Imperial Of Egg>の旅行動画です。
どれを見ようかと探していると、私の目が気になるものを捕らえました。
【あいおえ旅行】
『『精霊都市 エレスティアナ』編』
というタイトルでした。
『精霊都市 エレスティアナ』には精霊駆動式の自動車のようなものがあると聞き、いつか行ってみたいと思っていました。
見ると楽しみがなくなってしまうので見ないことにしましたが、次<Imperial Of Egg>にログインしたら真っ先に『エレスティアナ』に行こうと決めました。
色々な動画を見つつ、身体の芯まで温まったのでよいしょっと湯船から出ます。
ふーと一息つきつつ、バスタオルを巻き付け、牛乳を冷蔵庫から取り出し、ゴクゴクと飲みます。
やはりお風呂上りには牛乳ですよね。
ぷはーっと息を吐き、するっと床に落ちたバスタオルを拾い上げ、身体を拭きます。
身体を拭き終え、頭にバスタオルを巻きつけた姿のまま、パジャマを取り出そうとすると、携帯端末がアラーム音を鳴らします。
『窓の外を見る。』
あっそうでしたそうでした。エルマが窓の外を見てと言っていたんでしたね。
そして携帯端末に着信が入ります。
『もしもし』
『チェリー! 窓の外をみてー』
『わかった』
そう言いながら、部屋に行き、カーテンをシャッと開けます。
何もないよ? と思いつつ、下に目をやると、白い車の横に立ったエルマが居ました。
『えっ? エルマ何でここに?』
『チェリーいいい! 服ううううう!』
『へ?』
そう言って私は自分の姿を改めて確認します。
頭にバスタオルを装備していますが、それ以外何も身に着けていませんでした。
うん。
『いやあああああああああああ』
私の悲鳴がエルマの端末から聞こえてくるのではないかという大きさで響きました。
<第3章完>
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