VRゲームでも身体は動かしたくない。

姫野佑

第2章9幕 アバター<avatar>

 しばらくして≪【羅刹化】≫を解きいつものジュンヤにもどります。
 「わけわかんねースキルだなぁ」
 「そのうち使うこともあるよ」
 「だといいんだけどよ」
 
 装甲が高い以外は、巨大であることと腕と顔がたくさんあるだけという〔羅刹の王 ラーヴァナ〕をそれほど時間をかけず倒せたので一度冥界を脱出し、休憩してからもう一度潜ろうという話になりました。
 現実時間では、日付が変わり、ゲーマーの夜はこれからといったところです。
 先ほどニュース番組を見る前に、一度ログアウトしているので現実にもどってやることは特にないですが、気分転換がてら紅茶でも飲もうと思い、ログアウトすることにしました。
 
 ずずっと音を立て淹れたてのダージリンを啜ります。
 やはり<Imperial Of Egg>の内部ほうがおいしいんですよね。茶葉が良質なのか、味覚が強化されているのかわかりませんが、細かい違いがわかるんですよね。
 
 携帯端末に来ていたエルマからのメッセージに返信し、再び<Imperial Of Egg>にログインします。

 「ただいまー。ってまだ二人とも帰ってきてないか」
 ホームの地下に戻ってきた私は、エレベーターで1階に行き、無くなった消耗品の補充をしておきます。
 「冥界どうだった?」
 後ろからハンナに声をかけられ振り向きます。
 「苦しかった。呼吸がつらいし」
 「マスクもって言ってないとかバカ?」
 えっ? マスク? 
 「マスクって?」
 毒舌少女カンナに聞いてみます。
 「マスクはマスク。鉱山とかでも使う。あれがないと呼吸すらできないって」
 そんなアイテムがあるのか。
 「うーん。海底に潜るためのマスクがあれば大丈夫じゃないかな?」
 あっその手があったか。
 「ごめん少し市場見てくるね」
 商店ならどこのお店でも一応置いている登録や販売、確認ができる本のようなものをカウンターに引っ張りだし、呼吸用マスクを探します。
 
 簡易的なものから、本格的なものまで一通りの在庫はありました。
 そこから、呼吸可能時間が最も長かった海底探索用酸素マスクというものを選び、3つ購入します。
 「無駄遣い……」
 「必要経費だからいいの」
 ぼやくカンナを一刀両断し、装備してみます。
 特殊備品扱いで、装備枠を消費せずに装備できていいですね。
 「どう?」
 マスクを装備した私が振り向き、ハンナとカンナに見せます。
 「…………」
 黙るハンナ。
 「ださ」
 悪口カンナ。
 鏡を見て自分の姿をチェックするとダサいの一言に尽きました。
 そもそも普段の服が、赤いローブに白い手袋、少し緑がかった靴に狼の髪飾り、追い打ちに鉄製の羽ですからね。そこにガスマスクのような物体が乗っかり、破壊力は倍増といったところです。
 「うーん。ダサいね。どうにか可愛くする方法はないかな?」
 こう見えて私は一応女の子なので見た目にもこだわりたいのです。
 戦闘用の装備は仕方ないとはいえ、ずぼらで普段メイド服にすら着替えることがなく、あまり説得力はありませんが。

 あっそうだ。前々から気になってたし、ファーナに聞いてみよう。とチャットを送ります。
 
 『ファーナ今大丈夫?』
 彼女と話すのは麻雀大会以来ですね。
 あの麻雀大会で呼び捨てで呼べるほどには親しくなりました。
 『大丈夫だよー。どしたん?』
 『装備がダサいから何とかしてほしい』
 『お、おう。そうだね。特殊アイテムなんだけど、〔ヴィジュアル・オーヴァーライト〕って言うアイテムがあるのね?』
 『うん』
 『たぶん市場で2000万くらいなんだけど』 
 『たっか!』
 『それを買って、そのアイテムに装備欄に対応する見た目重視装備を登録して、アクティベートすると性能はそのまんまで見た目だけ変えれるよ』
 『なるほど』
 試す価値はありそうですね。可愛い服ならメイド服がありますし。
 『また可愛い装備が欲しくなったらいってねーん』
 『うん。またね』

 チャットを終え再び市場を開き、即時購入します。
 高額ですが購入した〔ヴィジュアル・オーヴァーライト〕を早速取り出してみます。
 ピンキーリングみたいですね。
 可愛いからずっとつけてたいかも。
 右手の小指にはめ、左手でちょんちょんとさわりメニューを呼び出します。
 メニューをよく見ていると、武器以外は非表示にできたりするのでこれは見た目重視の子にはいいアイテムですね。高いですが。
 もともと装備欄にはアクセサリーとして、アバターを登録する機能があったのですが、装備品扱いにならないため、帽子等をかぶったり、眼鏡を掛けたりしているとちょっとしたことで飛ばされたり、外れたりしちゃっていたんですよね。
 私が今かけている眼鏡がそうです。
 では早速登録していきましょうか。
 かなり細かく設定できるようで、少しばかり時間をかけてしまいましたが概ね満足のいくものが仕上がったと言えます。
 簡単にいまの見た目を説明するなら、背が高く、赤い眼鏡をかけ、赤いロングメイド服を着用し、赤いパンプスを履いた人になりました。
 もう一度ハンナとカンナに姿を見てもらいます。
 「どう?」
 「かわいい」
 「殺人メイド。ちまみれじゃん」
 なかなか好評なようですね。
 また可愛い装備があったらいじろうと思いながらメニューを閉じました。
 赤いメイド服ですし、武器はリング形態とブレスレット形態なので不良メイドっぽくてお気に入りになりました。
 特殊装備品の羽は非表示にし、剣は腰の後ろ側にさしている状態になりました。

 見た目が可愛くなったことで少しモチベーションがあがり、この後の狩りも頑張れそうです。

 そうして地下室にエレベーターでも戻るとすでに二人がもどってきていて談笑していました。
 「おまたせー」
 「おっおかえり」
 「おかえりー」
 「……。装備はどうしたんだ?」
 「あぁえっとね。〔ヴィジュアル・オーヴァーライト〕ってアイテムでアバ乗せしたの」
 「なるほど」
 「あと二人にこれ」
 そう言って先ほど購入したマスクをぽいっと投げ渡します。
 「マスク? 何に使うんだ?」
 「うちの娘が酸素少ないとこ行くならマスクもっていかないとだめだぞって教えてくれたから買っておいた」
 「なるほど」
 「しらなかったー」
 ステイシー結構冥界来てるって言ってたじゃん!
 「とりあえずこれで活動時間は多少のびるかね」
 ジュンヤはそう言ってマスクをスチャッと装備します。
 「だねー」
 と言ってステイシーもスチャッと装備します。
 なるほど。ハンナとカンナの気持ちがよく分かった気がする。
 謎の袴を履き、インナーもつけていないのにジャケットを着ているジュンヤと地面に引きずるんじゃないかって程に袖が長いローブを着ているステイシー。
 そのどちらもがマスクを装備しているのは異様な光景ですね。
 ま、まぁ私もさっきまではその一味だったので大声では言えませんが……ダサいですね。

 再び冥界に潜り活動時間を確認すると先ほどの倍程度に伸びていました。
 デバフから≪酸欠≫が消えてもいましたね。
 見た目上私はマスクを装備していないように見えますが、きっちり装備しているので大丈夫です。
 そうしてうろうろと冥界を回っているとステイシーが声をかけてきます。
 「うーん。やっぱりなくなってるー」
 「なにが?」
 「神殿がー。さっき来た時は他にいくつかあったんだけどー」
 「つまり、誰かが俺たちがいない間に来て全部狩っちまったってことか?」
 「そうなるねー。でもそうじゃない気もするけどー」
 そういいながら上空の空間の割れ目をジッと見つめています。
 私も連れられ、同じ方をみます。
 
 ピシッピシッと空間の割れ目が広がっていき、そしてその割れ目の中心から環状の炎がポンっと飛び出してきます。
 ちょっとかわいいかも。
 なんて思いチラっとステイシーを見て私は驚きました。
 ステイシーが青ざめ、カタカタ震え始めたのです。
 えっ?
 ジュンヤのほうも見てみます。
 私達と一緒に上空を見上げていたジュンヤは即座に戦闘態勢を取っていました。
 この差はなんだろう……。
 胸にこみあげてくる不安と背筋が凍るような感覚に陥り、呼吸がどんどん早くなっていきます。
 「ステイシー」
 「…………」
 「ステイシー!」
 「!? どうしたのー?」
 平静を装ってはいますが相当無理をしているのが見て取れます。
 「ステイシーの様子がおかしいから」
 「そ、そうかなー?」
 「うん。もしかしてあいつのせい?」
 「いや……。うん、まーそうなんだけどね」
 「何があったの?」
 「僕の天敵だよ」
 「それはどういう意味?」
 「どこ行っても、どんなゲームをやってても追いかけてくるんだ」
 どんなゲームをやってても?
 その言葉に疑問を感じ、問い返そうとした瞬間に私達3人は炎の熱によって吹き飛ばされ、散り散りになってしまいました。

 この原因があいつなんだとしたら……。
 倒すしかありませんね。
                                      to be continued... 

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