VRゲームでも身体は動かしたくない。

姫野佑

第1章最終幕 建国<Founding>

 マスケインに仕事の説明が終わり、日も暮れ始めた頃、私達三人は『花の都 ヴァンヘイデン』へ帰ることになりました。
 「ラビエル。身体に気を付けて頑張るのよ。まぁ体調悪くなったらチェリーさんがすぐ直してくださるわね!」
 と笑っています。
 「では行ってまいりますお母様。お身体にお気を付け下さいませ」
 「いってらっしゃーい」
 そう手をブンブン振るカロンティアに背を向け≪ワープ・ゲート≫を発動します。
 「≪ワープ・ゲート≫」
 
 私にとっては見慣れた『ヴァンヘイデン』のホーム前に飛んできました。
 チリンとドアベルを鳴らしつつ、ホームへ帰ってきます。
 「おかえり!」
 「ただいま」
 「ただいま!」
 「チェリーもラビも元気そうだね」
 事前にラビから身分は隠してほしいと言われたのでボロが出ないように頑張ります。
 「そちらの方は?」
 「失礼しました。私【素材職人】のマスケイン・ブルドーと申します。こちらのお店でお世話になるようにと仰せつかっております」
 「そうですか。説明はうけましたか?」
 「はい。大方聞いております」
 「かしこまりました。では職場と私室のほうをご案内させていただきますので少々お待ちください」
 やっぱいつみても別人ですね。
 「お待たせしました。お店はハンナちゃん、カンナちゃん、シドニーちゃんに任せておいて大丈夫だからラビちゃんは休んでいいよ」
 「わかったー!」
 「じゃぁ私もちょっと休もうかな」
 「おやすみー」
 「おやすみ」

 ラビと一緒にエレベータに乗り、4階まで行きます。
 「ラビお疲れ様。また明日ね」
 「うん! また明日!」
 そう言って別れて、お互いの部屋に行きます。
 ベッドにすっと入り、ログアウトボタンを押します。
 
 現実で意識が覚醒し、端末を頭から外します。
 最近向こうで睡眠も取ってしまっていたので久々の現実な感じがします。
 お腹がご飯を欲して、悲鳴を上げているので何か食べましょうか。
 流石に自動調理機の料理も飽きてきたのでデリバリーでピザを注文します。
 パソコンを起動し、宅配ピザのページを開き、お腹に聞きます。
 お前は何が食べたいの?
 お腹が答えます。
 クワトロ系なら2枚イける。Lで。
 という会話がなされたのでクワトロ系のピザをLサイズで2枚注文します。
 良いですよね2枚目無料。ついつい頼んでしまいます。
 ピザが到着するまで暇なので動画を見たり、動画を見たり、動画を見たりしながら過ごします。

 ピンポーンとインターフォンが鳴ったので出ます。
 この時代ではインターフォンが携帯端末でつながっているのでどこでも出れるのです。便利な世界です。
 『ばんわーっす。ピザ2枚お届けに上がったっすー』
 「はい。ありがとうございます」
 『お代はクレジットカードで支払い済みっすねー。では宅配のポストに入れとくっすー』
 「おねがいします」
 『またのご利用おまちしてるっすー』
 さてピザが届いたので早速かぶりつきますか。
 パソコンラックの前に持ってきて、動画をみながら熱々のピザをハフハフ言いながら食べます。
 1枚目はペロリと食べきり、2枚目に取り掛かります。半分を超えたあたりできつくなってきますが<Imperial Of Egg>内で鍛えた胃に詰め込む技術で残りも食べきります。

 「ケプー」
 誰に聞かれるわけでもないので思いっきり胃の中の空気を吐き出し、リアルでは久々の大食いチャレンジを成功させました。

 お腹いっぱいになったのですぐにベッドに潜り、電気を消し就寝します。
 牛になるとかおかあさんに耳からタコが出てくるくらい言われましたけど興味ないですね。逆に牛になったら延々とごはん食べて乳を搾られるだけという素晴らしい生活が待っています。後日調べたら逆流した胃液で食道癌になるそうなので食べてすぐ寝るのは止めることにしました。

 翌朝、目が覚めた私は<Imperial Of Egg>にログインする前に掲示板等で出来事を調べていました。

 『最大ギルド『猫姫マオジィ王国キングダム』ついに建国』
 『『鉱山都市 アイセルティア』に不穏な動き』
 『『騎士国家 ヨルデン』国王がプレイヤーの店を支持』
 『〔ヒヒイロミスリル〕発見』

 いろんな出来事がある中で特に注目したのはこの4つですね。
 特に〔ヒヒイロミスリル〕は興味があります。
 名前からして〔ヒヒイロカネ〕と〔ミスリル〕の合金っぽいですけど。
 ちょっとこれで武器作ってもらいたいですね。
 『猫姫王国』は有名プレイヤーの愛猫姫アイマオジィのギルドでしたね。
 かなりおっきいギルドでしたがついに国を持つほどになるのは意外でした。
 本当かどうかわかりませんが、ハリリンが言うには、銀座で1晩1億円稼いだ半端ないホステスらしいです。
 『アイセルティア』の問題はもしかしたら『ファイサル』の一件とつながりがあるかもしれませんね。
 『ヨルデン』の国王様がプレイヤーの店を支持するっていうのも目に付いたのですが、あそこ人も増えてましたし、「何か補助金的なの出すことにしたのかな?」くらいにしか考えられませんでした。
 内部でも掲示板は見れるのですが、静寂の音がするこの現実の部屋でカタカタと響くタイプ音を聞きながら見るのが好きです。

 一通り調べ終え、<Imperial Of Egg>にログインします。
 内部ではベッドに横たわってる状態で目が覚めたので一瞬ドキッとしました。
 いきなり天井が見えるのは結構ドキッとするものですよ?
 
 エレベータを下の階まで走らせ売り場に出ます。
 「おはようございます」
 「おはようございます」
 フランしかいないようですね。
 「この時間はラビいなかったっけ?」
 「ラビはちょっと疲れてる様子だったから出勤を2時間遅らせることにしたの」
 「なるほど。ちょっと心配だから見てくるね」
 「おねがい!」
 そう聞き、またエレベーターに乗り込みます。
 4階のラビの部屋をコンコンコンとノックすると少し元気のない声で「どうぞ」と聞こえてきます。
 「おじゃまします」
 「チェリー。おはようございます」
 「おはようございます。具合悪いの? 大丈夫?」
 「うん。大丈夫。ちょっと新聞を見てクラッっと来ただけだから」
 「新聞?」
 新聞があるなんて知らなかった!
 「これ」
 そういったラビが私に新聞を渡してきます。

 『『騎士国家 ヨルデン』国王が『花の都 ヴァンヘイデン』にある万屋『セーラム』に対し、一定額の援助及び特別貿易権を認めると発表した』

 呼んだ私もクラッと来ました。
 「なんなのこれ……」
 「わからない……」
 「「考えても仕方ないか!」」
 そうソプラノとアルトのハーモニーを二人だけの部屋に響かせ心を落ち着かせます。
 つまり掲示板でみたあの記事は私達のお店をバックアップするってことだったんですね。
 謁見したときのアレは幻聴だと思ってました。むしろ幻聴であってほしかったです。

 ラビの部屋を後にし、再び売り場に戻るとフランが話しかけてきました。
 「チェリー。帳簿をつけてて気になったことがあったから聞いてもいい?」
 「いいよ? でもフランのほうが詳しいんじゃないかな?」
 「とりあえずこれ見て」
 そう言って帳簿を渡してくれます。
 出ていくお金は圧倒的に多いですね。
 これは今月赤字……。
 えっ?
 「どういうこと?」
 「わからない……」
 5000万金に及ぶ大金が本日付けで振り込まれていたようです。
 「チェリーがポケットマネーをお店の倉庫に入れたわけじゃないよね?」
 たしかに本店の売上金は従業員の給料を除いたすべてが私の懐に入りますが、その逆はありえませんね。
 【義賊】か何かが残暑見舞いでもくれたのでしょうか。
 そう考えていると先ほどみた新聞が思い出されます。
 「フランちょっとまってて」
 「? うん」
 もう一度ラビの部屋へ行き、新聞を借りてきます。
 「これみて」
 そういって新聞を渡すと、フランの顔がみるみる血の気を失って青ざめていきます。
 ふらっとしたフランを支え、やはりこれかと納得します。
 「も……もう訳が分からないよ……」
 「いっそのことこのお金で『ヨルデン』にも支店つくる?」
 「バカなこと言わないで……まだ『セーラムツー』も落ち着いてないのに……」
 それもそうですね。
 「とりあえずこの問題は考えないようにしよう」
 「そうだね!」
 従業員たちには私の後回し精神が沁み付いてきたようですね。

 その後エルマが茶化しにやって来たり、ファーナが「支店を増やすならうちの服を置いて!」と言いに来たりしましたが、フランが上手くあしらってくれました。

 色々な問題に頭を悩ませていると珍しくギルドチャットが流れてきます。
 『業務連絡』
 『至急集まれ』
 ジュンヤからの収集令ですね。
 珍しいこともありますね。
 どこかに〔ユニークモンスター〕でも出たのでしょうか。
 フランに「お店は任せた」とつたえギルドホームまで≪テレポート≫します。

 「おはよー」
 「チェリーか。おはよう」
 「おはよう」
 「はよっす」
 「おあひょー!」
 私が挨拶をするとジュンヤ、ファンダン、ハリリン、あくびしながらですがエルマが返してくれました。
 「アクティブなメンバーはこれで全員だな。纏花には外で連絡してある」
 結構まじめな感じですね。〔ユニークモンスター〕っていう感じじゃない。
 「緊急収集に応じてくれてありがとう。まずお前らに確認したいことがある」
 「なに?」
 口々に疑問の声をあげます。
 「愛猫姫が国を建てたのはもうしっているか?」
 「しってる」
 他のみんなも同様の返事を返します。
 「詳しい話はハリリンのほうがいいかな? 頼めるか?」
 ハリリンが「まかせるっすー」と言い、ジュンヤの横に並びます。
 「まずこの建国についてっすけど、端的に言うと都市の乗っ取りによるものっす」
 「「えっ?」」
 「うそだろ……?」
 私とエルマ、ファンダンも驚きが隠せません。
 「まず建国のために領地を欲した『猫姫王国』の愛猫姫が『ギャンドウェルン』に攻め込んだっす」
 『賭博街 ギャンドウェルン』私は一度も行ったことない街ですね。
 ギャンブル苦手だったので。
 「その後制圧し、占拠したってことか?」
 「その通りっす」
 ファンダンの質問に間を置かずハリリンが答えます。
 「問題はそこからっす、ギルド『猫姫王国』の構成員に対して各国が重罪判定をしてるんす」
 「どういうこと?」
 エルマが質問します。
 「えーっとっすね。都市のNPCを皆殺しにしたらしいっす」
 「はっ?」
 私の口から声が漏れ、エルマもファンダンも言葉が出ない様子です。
 それもそうでしょう。パソコンゲームとして稼働されていた期間も、VR化された後もプレイヤーが重罪判定なんて聞いたことがないです。設定として罪人判定されたNPCには何度かあったことがありますが、重罪は罪人よりもひどいことをしないとならないですからね。
 「皆殺しなら重罪判定もうなずけるな」
 「ちょっと前に『ヴァンヘイデン』の政府からも重罪判定すると達しが出たっす」
 なるほど。他人事ではいられませんね。
 この都市に危険が迫る恐れがあります。
 「ということは……?」
 エルマがエルマらしくないおびえた口調で聞きます。
 「戦争だ」
 ジュンヤがそう言うと、周囲から空気が無くなったのではないかと錯覚するほど呼吸が苦しくなります。
 「俺がつかんでる情報だと『ブラルタ』の精鋭兵団が突撃したらしいっすけど、全滅したっぽいっす」
 『海上都市 ブラルタ』……。
 あそこの精鋭兵団って海軍みたいな感じじゃなかったっけ?
 なんで陸の戦闘に海の男を差し向けたんだ……。
 「精鋭兵団が挑発に見えたらしく、すでに『猫姫王国』の約半数が『ブラルタ』に向けて進行中っす」
 「おいおい、それはまずいんじゃないか?」
 「大丈夫っす。重罪判定のプレイヤーは重罪判定をした国の戦力によってデスペナルティーになると10日間ログインできなくなるっすから」
 「それだけじゃ大丈夫な理由にならんだろ」
 「【最速】が『隠れ里 天平』から派遣されてるっす。あとは『マスティア』から【天罰神】が派遣されるみたいっす」
 『マスティア』と『ブラルタ』は同盟国っすからねと付け足していました。
 「この話をするっていうことは……」
 「エルマその通りだ。俺らも駆り出される」
 でしょうね。
 『賭博街 ギャンドウェルン』は『花の都 ヴァンヘイデン』の同盟国でしたから。
 「『ギャンドウェルン』の偉い人がみんな殺されて、ちょっと遅れたっすけど報復でここも軍を派遣することになるっす」
 「ギルドホームを『ヴァンヘイデン』に置いてる所は全部招集だ」
 ジュンヤがそういうとみんな口を閉ざしてしまいます。

 しばらくしてエルマが口を開きました。
 「これは大変なことになったね……」
 「まさかVR化して1ヶ月も経たないうちに戦争が起こるのは考えてなかった」
 私も率直に感じたことを述べます。
 「だが何もしないでいるとここもそのうちやられるよな?」
 「そうなるな」
 「やるしかねぇだろ」
 ファンダンが拳を握り締め、怒りに肩を震わせています。
 「私もやるよ。見過ごせないでしょ」
 「私もせっかく雇った可愛い子たちが殺されるくらいなら……」
 
 「容赦なく本 気 叩きで 潰してやるぶ っ 殺 す


                                      <第1章完>

コメント

コメントを書く

「SF」の人気作品

書籍化作品