VRゲームでも身体は動かしたくない。

姫野佑

第1章4幕 捕獲<capture>

口の中がやけに気持ち悪いので一時ログアウトして歯を磨いてきました。
ついでに〔アンゴラ・キング・フィッシュ〕はとても不味いという情報を攻略サイトに記載することもわすれません。


<Imperial Of Egg>に再びログインすると制服を着用したラビがいました。
「よくにあってるね」
「ありがとうございます。これとてもかわいいですね」
「うん。腕の良い職人におねがいしたからね」
「カスタマイズしちゃってもいいですか?」
「いいよ」
「じゃぁ買い物いってきます!」
「あっちょっとまって」
買い物に行こうとしたラビを引き留めます。
「えっと。うちで働いてもらうことになるんだけど、住み込みなのは大丈夫?」
「大丈夫です!」
「よかった。じゃぁ部屋に案内するからついてきて」
「わかりました」
「そうだ、フラン。閉店の準備おねがい。このあと買い物付き合ってくれる?」
「りょーかいです!」
「ありがと」

4階のフランの部屋の隣を案内します。
「じゃぁここに住んでもらうね」
「うわー広い」
現実換算で約12畳ありますからね。
私が住んでるアパートの向かいにある誰かさんのご実家の庭先にある噴水と同じくらいですので。
「家具が何もないからこれから買いに行くよ。好きなものかっていいからね」
「ほんとに!?あっすいません!」
「敬語じゃなくてもいいって何度も言ってるよ」
「一応、雇い主なので……」
「きにしなくていいのに……」
ぷくーっと頬を膨らましてみます。
VRだとこういう細かい表情ができるのでいいですね。
「慣れればなおると思います!」
「わかった」

ラビが少し部屋をくるくると回り、必要なものをメモしたように見えたのでさっそく買い物にいきます。

「フランのおすすめの家具屋さんはある?」
「うーんと……あっあそこなんてどうかな? 『シエナ・レオナ』!可愛いものがいっぱいあるよー!」
「きいたことないお店。いってみよう。案内おねがいね」
「りょうかーい!」


4.5分ほど歩き、私が肩で呼吸を始めるころに着きました。


木でできたアンティーク調のドアを開けお店に入ります。

「こんばんわ。おじゃまします」
「「いらっしゃーいませー!」」
二人の少女が迎え出てくれます。
プレイヤーでしょうか?
「『シエナ・レオナ』へようこそ!」
「『レオナ・シエナ』へようこそ!」
「おねぇちゃん! 『シエナ・レオナ』」
「おっといけない!レオナもっかいやるよ!」
「「『シエナ・レオナ』へようこそ!」」
「おじゃまします。家具を探しに来たのですが」
「「かしこまりましたー! こちらへどうぞー!」」
「ありがとうございます」


奥に案内された私達3人は革製の大きなソファーに座らせていただきました。
ついでに紅茶も頂きました。おいし。


「家具は場所とるから倉庫にしまってるんだー!」
「イメージ言ってもらえればちょうどいいものとりだすよー!」
シエナとレオナが順に説明してくれました。
別々でしゃべることもあるんだ……


「「どんなものをご所望かなー?」」
とんとんとラビの肩をつつきます。
「どんなのがいい?」

うーん……と首を傾げ少し考えているようです。
「まずベッドは必要だよね!あと机とタンスと本棚!」
フランがそういうとラビがはっとしてメモをエプロンから取り出します。
「ベッド……机……本棚……時計……」
自分が書いたメモを確認しているようですね。
「「ますはベッドからいこー!」」


倉庫からベッドを数個取り出してくれました。
「これなんか可愛くない? 木目の壁にぴったりあうよ!」
あっ言い忘れてました。
「壁も自由に変えていいからね。壁紙も売ってる?」
「「もちろん!」」
「よかった」


うーんうーん。と頭をひねらせてるラビはフランに任せて私は雑貨でも見てくることにします。
「私は雑貨みせてもらってもいいですか?」
「「どうぞどうぞー!」」
「ありがとうございます」


売り場に出ていき、雑貨を物色します。

あっこのブローチくっそかわいい。
フランも好きそうだし買っちゃいますか。

あっこのティーセットくっそかわいい。
フランも好きそうだし買っちゃいますか。


…………。


裏にいるシエナとレオナに話しかけます。


「このお店の品物全部ください」


「「はっ?」」


「可愛いので、全部ください」


「「家具とk……」」「全部ください」


「ま、まいどありー!」


総額2000万金ほどですね。
こんだけ可愛いのなら安いものです。
あっ……ちょっと待って。結構お金なくなってる。どうしよう。
まぁ可愛いもの買えたのでいいでしょう。


「ごめんね。せっかく考えてたのに」
「いえいえ!いいんですよ!それよりおお金大丈夫ですか?」
「うん。大丈夫」
嘘つけ。全然大丈夫じゃないくせに。


「とりあえずお店に帰ってどれを置くか考えようね」
「うん」
「チェリーさん太っ腹!」
「えっ? そんなにお腹出てる?」
「違う!」
「ウソウソ」
ぷーっとむくれるフランに魔法の言葉をかけましょう。
「余ったやつはフランの好きにしていいよ」
「わーい!」
ピョンピョン飛ぶフランを見て元気だなぁと思いつつホームまで歩いていきます。


ホームのラビの部屋まで帰ってきました。
とても疲れますね。さすがVRです。
「ではここにさっき買った品物全部入れておくね」
そういって簡易倉庫を取り出し部屋の入口に置いておきます。
「完成したお部屋が見たいから私はちょっとお散歩いってくるね」
そう言ってプチリフォーム現場から逃げます。
配置を手伝ったら疲労で死にます。
キャラクターに疲労度はあまり溜まってないのですがなぜでしょうか。後で調べてみましょう。

さっき魚取りに行ったときに思ったことでも試してみましょうか。
アローシェイプの魔法を投げるには……。
やっぱり人型がいいですよね。
ゴリラみたいなマッチョ系がいいですね。


少しぶらぶらしながら召喚用のペットやモンスターが売っているお店に入ります。


「こんばんわー」
「いらっしゃい。何をお探しで?」
「ゴリラありますか?」
「はい?」


というやり取りを何度か重ねますがなかなかゴリラっぽい何かを売ってるお店はないようですね。
攻略情報をちらっと見るとまだゴリラっぽいモンスターの捕獲情報はないようですね。
ゴリラそんなたいへんなのかぁ……。
ないなら自分で捕まえようと思ったのになぁ……。
あぅ……私【調教師】持ってないので捕まえられませんでした……。


知り合いで持ってるといえばエルマだけですね。
少し心苦しいですが、手伝ってもらいますか。

『エルマ。いまちょっといい?』
『おっとー? 何かな?』
『ゴリラ捕まえに行きたいんだけど【調教師】持ってないから手伝ってほしい』
『えっ? なんでゴリラ?』
『ゴリラ筋肉すごいって聞いたから』
『お、おう……いまどこにいるの?』
『ヴァンヘイデンの市街区』
『ちょっと待って。すぐ行くね』
『ありがとう』

持つべきものは友人ですね。
これでゴリラが捕まえられます。


数分してエルマがやってきます。
「おまたせー」
「急に呼んじゃってごめんね」
「いーよいーよ! 可愛いチェリーちゃんのお願いならお姉さん聞かないわけにはいかないなぁ!」
「お、おう」
「そしてどこにいくんだね?」
「ゴリラがいそうなところ」
「そしてどこにいくんだね?」
「動物園てきなとこないかな?」
「無いと思うよ。『ジャンノーム』いってみる?」
「ゴリラいる?」
「知らない。けどゴリラっぽいモンスターいるって聞いたよ!」
「なら行く。≪テレポート≫」
「はやっ! ≪テレポート≫」


すぐにでもゴリラを捕まえたい私は『熱帯密林 ジャンノーム』に転移しました。
私の座標を目標に飛んできたエルマがちょっと起こり気味です。
「ねぇ! おいてかないでよ!」
あっ怒った顔も可愛い。
「あっごめん。ゴリラが欲しすぎて正気じゃなかった」
「ゴリラ欲してる時点で正気じゃないとおもうよー」
「そうかな?」
「うん」
「ところでチェリーは何でゴリラ欲しいの?」
「うーんとね。≪ファイヤー・アロー≫」
「うん?」
「アローシェイプの魔法って弓で発射するでしょ?」
「う、うん。そうだね」
「さっき弓持ってないから手で投げたんだよ。ダーツみたいに」
「お、おう?」
「すごい疲れたから召喚獣にやらせようかなって」
「それでゴリラ?」
「それでゴリラ」
「力ありそうだもんねー」
「うん」
「……」
少しエルマが含みのある笑顔を浮かべています。
「エルマ?」
「ううん! なんでもない! さ! ゴリラ探しにいこっか!」
「ありがとう。助かる」

そうして森の中をうろうろとさまよっていると猿型のモンスターの群れや鳥型のモンスターと遭遇します。


「力が弱そう……手がない……」
呪文のように呟きながら始末していきます。

さらに数十分歩いているとついに目的のモンスターを発見できました。


「エルマ!! いた!! ゴリラ!」
どれどれー?と草むらからひょっこり顔を出したエルマに萌えつつ、ゴリラの方向を指さします。
「ほんとだ。ゴリラだ」
「捕まえるよ!」
「捕まえるのはあたしの役目だけどね……」
「拘束する!」
「おねがーい!」
と会話をし、拘束系の魔法を発動します。
「≪ダーク・ネクロフィア≫」
発動した魔法によってゴリラっぽいモンスター〔GGBGGベリゲイ〕を拘束します。

「≪キャプチャー・マインド≫」
エルマがすぐに捕獲し、使役するための魔法をかけます。
「だめチェリー。こいつ意外と抵抗力がある!」
「わかった。少しいたぶって抵抗する気をなくさせればいいんだね?」
「まちがってない……! 間違ってないけど……」

私はその辺に落ちていた石を手に取り、〔GGB〕の頭をガツガツ殴ります。
「どういけそう?」
「もう一回やってみる! ≪キャプチャー・マインド≫」
一瞬〔GGB〕の目から色が消えますが、すぐに元に戻ってしまいます。
「やっぱりだめだ……」
「もうちょっと殴るねー」
ガスガスと頭を殴っていると、〔GGB〕がひゅーひゅー言い始めたので一度手を止めます。
「惰弱な」
「チェリー……キャラかわりすぎだよ……」
「もっかいお願い!」
「≪キャプチャー・マインド≫」

すると今度は成功したのか〔GGB〕が口から涎をたらし、頭から血を噴き出します。


「チェリー成功した! 拘束といていいよ!」
「わかった」
拘束魔法をとき、〔GGB〕に接近します。
「やばい重症。治療しないと」
装備しっぱなしだった【聖者】のスキルで回復をしてあげます。
「≪ホーリー・ヒール≫」


頭の傷がふさがり呼吸も落ち着いたようです。
「エルマありがとう。あとはゴリラの所有権を私に移すだけだね」
「う、うん」
じゃぁさっそく……。

エルマから〔GGB〕の所有権をもらったのでこれで一件落着ですね。

「ためしてみたら?」
「あっそうだね≪召喚〔GGB〕≫」
『グルルオオオオ』
「私ご主人。わかる?」
『グルルオオオン』
「いいこだ≪サンダー・アロー≫」
『グルルルオ?』
「これを握って投げてみて」
『グルルルル』
「そう。そう。うまいうまい。ちゃんと握れてるね。じゃぁあそこの樹に向かって投げて」
『グルオオ!』

ドスッという音がして樹に刺さりました。 おー!意外といけるじゃん!
「ほえー! なかなかいい感じだね」
「ありがとうエルマ。エルマのおかげだよ!」
「う、うん。ところでさチェリー?」
「ん?」
「装備してる【冥界女神】のスキルみてみて」
「うん?みたよ?」
「≪ネクロマンシー≫」
「えっ?」
「だ! か! ら!≪ネクロマンシー≫で骸骨兵とか召喚して弓装備させるんじゃだめだったの?」
「あっ……」
「ふひっ」
「ちょっとおおおおお先に言ってよおおおおおお」
「あはははははは!!」

エルマの笑い声と私の悲痛な叫びだけが辺りに響いていました。
to be continued...

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