破壊の創造士

ノンレム睡眠

032:七駆鳥




両足両手、両者のその3本ずつ爪を持つ凶器が高速に振られ、耳をつんざくような音とともに火花を上げている。緑と黒。その二つの光線が波を描きながら衝突しては離れて、またぶつかると思うと高い音を上げ、赤い火花を上げて両者牽制をとる。その繰り返しが幾度もなされている。

「僕のスピードについた来られるなんて驚いたよ。SP(素早さ)でいえばメルガン様と主様を除けば不死軍トップなのに。」




「ぺちゃくちゃうるさいの!」

 リュンムは敵に牙をむき再び接近を図る。爪と爪がぶつかる音に耳鳴りを感じながらも左足、左腕、右足、右腕を不規則に放っていく。相手もまたそれと同じような攻防を繰り返し、時々かすり傷を負いながらも確実のこちらの体力を削いでいく。




「そうかい。つまらない戦いは嫌いだからね。じゃあこれはどうかな?」




 突然、相手の体の輪郭が黒い光に覆われる。敵は口元を緩めると、先とは比べものにならない程のスピードで駆け、右手を構えリュンムに切りかかろうとする。リュンムは反射的に体を逸らしそれを回避する。空を切った爪は波動を生み、その先の大地を深々とめくり上げる。大地からは黒い瘴気のような霧が上がる。それを確認する暇もなく、空中で急ブレーキをかけた相手の右足が溝内を強く打つ。




「うぇっ!!」




 リュンムの軽い体はそのまま蹴り飛ばされ、近くの岩に丸い亀裂を作った。




「どう?早いだろ。これが僕、神速のレイピッドの最強スキル『黒速の風』だよ。これを使えばメルガン様くらいのSPになるんじゃないかな。」




 男はニコリとこちらを見下ろし、再び高速で接近してきた。







★ ★ ★










『『『エレクトボンバディオ!』』』




 三・人・の・私・が同時に同じ魔法を放つ。




「英雄瘴気『ラ・コンバシオン』」




 不死軍随一の瘴気使い、ディスカルドはそれをいとも簡単に黒い瘴気へ書き換える。




「実に素晴らしい。この魔法と幻術があれば私以外の七駆鳥のうち少なくとも4人は倒せたでしょう。しかし相手が悪かったですね。私は瘴気使い。貴方の放った魔法を瘴気に変えて分散させる。そしてその瘴気でこんなこともできるんですよ?」




 ディスカルドは己の周りに散っている瘴気を手元に集め、詠唱を始めた。




『The Hope Of Collapse In The Mind Of Hero.Incrudeing The Anger To The Brazen.ネグロ・リャーマン!』




 手元に集結した瘴気が幾百にも別れ、そのすべてがラルファを蹂躙せんと向かってくる。着弾と同時に爆音を上げ、三人のラルファはよける暇なく、触れるすべてを漆黒に包み込む闇の炎に包まれていく。黒の大地を黒で塗りつぶすその光景は、海に乗り上げる白い波を情緒させる。




「ここまで幻術を使いこなすとは。恐縮の至りですよ。」




 三人の私の中には『私』はおらず、そのどれもが幻術によるダミーであった。しかし幻術はその他の魔法よりMPのコスパが悪い。効果を持続させるのにかなりのMPが必要だからだ。多く使えるものではない。




『ルレッド・エレクトロニカ!!』




 敵の周囲に大きな電気の網をはる。




「おやおやこれは。」




 ・・・相手とは全くといっていいほど相性が悪い。どれほど小細工が通用するかが問題である。

 ラルファは脳を全力で働かせ打開策を練った。










★ ★ ★










『リューク様。例のアンデッドたちの砲撃は順調です。防壁前にたどり着いた相手もいますが、すべて罠によって滅されています。しかし敵の中に強いものが数人紛れているようです。戦闘組が抗戦しています。』




 亜空間から偵察を続けているエンジュから連絡が来た。この土地はめったに光が差さないようで、エンジュは城内の光源からしか亜空間へ潜れなかった。と言っても戦地に光がないわけではなく、薄い光から戦況を覗いてもらっている。話を聞いたところ、どうやら皆苦戦を強いられているようだ。心配だが、配下達の存在は強く感じられる。彼女たちなら大丈夫であろう。




『そのまま状況偵察を頼む。』




『わかりま、、、きゃっ』




 突然連絡が途絶えた。何かアクシデントでもあったのだろうか。しかし彼女がいるのは亜空間。それを干渉できる敵がいるということになる。そうなるとかなり厄介だ。こちらの情報が漏れている可能性がある。俺はエンジュの無事を願い、城最上の部屋から戦場を見渡すだけであった。










★ ★ ★













「危ない、、、。」




 私は突如感じた背筋の凍るような気配を身をよじって回避した。




「惜しかったね。ボーっとしてたから背後から一突きで殺してあげようと思ったのに。」




 元々いたところには黒い槍が別空間からはみ出しており、それが黒い瘴気に覆われていた。




「どう?凄いでしょう。瘴気がいっぱいの別空間から取り出したんだ。僕のマジックまだまだあるよ?」




 黒に覆われた亜空間に、一人の道化のような恰好をしたものが立っていた。顔は仮面に覆われており、色使いの変わった服を着たその男はリューク様の世界のピエロなるものの様だった。




「おっと。私としたことが、まだ自己紹介をしてないではないですか。」




 男はくるっと体を一回りさせ、左手を右胸に、右手は羽のように横に突き出し、お辞儀の状態でピタッと止まると、




「私は七駆鳥『変出』ことペルニー・ファイゼンと申します。君は招待されたゲストだ。どうぞ楽しんでくれ。」




 と上半身を徐々に上げながら不気味な笑みを浮かべてそう言うのであった。










★ ★ ★













「全員なかなかの敵に当たってるようだな。」




 配下の存在が熱くなるのを感じた。ジークルスだけ妙に存在が濃厚だ。戦闘組は全員Lv100まで上げたので負けることはないと思うが、それは安心することとは全く関係がない。




「リューク。来てる。」




「分かってる。」




 俺も他人ごとではいられないようだ。正面から凄まじい爆音が聞こえてきた。ガラスが頭上に飛びちり、照明に照らされて光って見える。それと同時にガラスのあった窓から、黒い羽を生やした人型の人ならぬものが室内へ飛び込んできた。




「やあ。待ったぁ?」




 相変わらず笑みの絶えない美貌で、敵大将がそう口にするのであった。

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