破壊の創造士
030:混沌の開戦
城の最上部。その小さな窓から顔を出す。広がるは山を背後に控える広大な草原。ただ本国周辺のように黄金の輝きはなく、見渡せば毒々しい濁った色をした、紫がかった草々のみ。そのどれもが先を地に向け影を作り、地面いったいをより暗く見せている。いや、影を作るのは草どもばかりではない。その地面を踏む幾万の人影。人であるが人ならぬものがその一帯を埋め尽くしていた。
「すごい数だ。」
その言葉に皆共感し、首を縦に振る。
開戦一時間前、俺は配下達を、ここ城の最上階『最後の間』に集め、最終確認を行っていた。殆どのものの顔がすぐれない。窓を覗き込んだ配下の唾を飲む音も聞こえるほどの沈黙。それもそうであろう。あの数を見て動揺しないものはいない。
「全員、耳を傾けてくれ。これから戦争が始まる。敵は多勢に無勢。数でいえば圧倒的に敵が有利。作戦の道を外れなければ俺たちの勝利は確実だ。しかし一度の失敗が、俺たちを確実な敗北へと導く。」
 配下達の表情が一層青くなる。緊張に頬を固くし、呼吸が同じテンポを踏んでいない。
「がだ。今日までの準備を思い出してくれ。失敗の可能性はあり得ない。お前たちが信じる俺が、熟考に熟考を重ねた最高度の戦略だ。俺もまたお前たちを信じている。士気を叫べ!勇士を咆哮しろ!敵は眼前。数多かれど恐れるに足らず!我々の勝利は確立されている!」
俺が腕を掲げてそう言うに続いて配下達が吠える。かなり士気が高まった。配下の存在が熱くなるのを感じた。これで本領が出せるだろう。
「リューク様の言う通りです。相手の数など関係がありません。私たちは私たちができることをやる。それだけです。」
「そうじゃ。帰ったら皆で大樽で酒を飲むぞ!」
死亡フラグを濫用する配下達に、俺は失笑し頭を抱えた。
隣に目をやるとミリアが裾を掴んで俺の顔を心配そうに見た。
「前みたいに、、、無理しちゃダメから。約束ね?」
「大丈夫とは言えないけど、、、絶対に勝って、生きて戻るぞ。」
俺もまた人のことを言えないようだ。
開戦5分前。外へ行き敵将と相向かう。女性だ。それも俺の配下と引けを取らないほどの美貌の。髪は桃色で目も同色だ。幼い顔立ちではあるが、目元は怪しい影を作り、それが一層魅了を高めている。
「そう思ってくれると照れるねぇ。」
「人の心を読むな。それとお前、ダンジョンの階下にいたやつだろう。ステータスが一致する。」
ミリアの話によると、当時の俺のステータスの二倍程度。彼女のステータスは大体それと一致する。スキルは見えないといっていたが、成程。これは厄介すぎる。このステータスで大将になるわけだ。
「良く分かったねぇ。私は第一部隊『霊鳥』隊長 フェネクス。 君とはずっと面向かって話したかったんだよぉ。僕はずっと、君に興味があったんだ。死体は持ち帰るけどいいよねぇ?」
「俺の死体があればな。お前のはちゃんと燃やしてやるから安心して死ね。」
「この大軍を見てそんな軽口いえるんだぁ。楽しみにしてるよぉ。」
いつまでも顔を歪めながら顔を覗き込んでくる彼女を睨む。怖い怖いとにやけ顔でいう彼女だが、本当に掴みにくい相手だ。目的は敵の性格の把握から戦闘方法を考えることであったが、今の会話から得られたのは彼女は戦闘狂で余裕があるということくらいだ。
「いつその笑みが絶えるか見ものだな。死の直前まで笑っていたら流石に引くけどな。」
「私の顔をもっと歪ませる。そんな戦いを期待してるよぉ。」
それを最後に俺は配置についた。
 全員しっかりと配置についているようだ。この『最後の間』にいるのは俺ともミリアだけだ。
『討ち取るは敵の大将、フェネクス。奴は強力なスキルを持つ。その名は『不死鳥の衣』。魔法や物理攻撃を吸収し、一時的に己のステータスに変える能力だ。要するに、奴にはダメージという概念がない。そこでだ、、、。」
俺は作戦を心波で伝えた。しかしこれは上手いくかはわからない。場合によっては敵を有利にしてこちらが全滅というのも十分あり得る。
『リューク様。一分前でございます。例のものの準備をそろそろお願いします。』
『分かってる。そっちも作戦通りに頼むぞ。だが無理はするな。作戦などいくらでも替えがあるがお前たちはそれぞれ一人しかいない大切な配下だ。己の身を第一に考えてくれ。』
『坊ちゃんそれ死亡フラグなるものではないですかね?』
『こらジークルス!そんなこと言っちゃダメ!リュンムたちは皆生きて帰るの!』
『照れますね。ご主人様のその言葉が聞けてうれしいです。』
 開戦直前の親交という名の死亡フラグのオンパレードを済ませ、俺はミリアのほうを見た。
「大丈夫。しっかり守るから安心して?」
ちなみに今の言葉は俺のものではなくミリアのものだ。全く立場が逆である。うれしいから気にしない。
外で開戦の笛が鳴ったのが聞こえた。
開戦の笛とともに、ぞろぞろと兵士たちが動き出す。首を垂れる草ぐさを踏む音が、それなりの距離があるここまで聞こえてくる。
それとを確認した俺は一つ目の魔法を発動する。
「青の魔法陣」
幾万もの兵士たちを、巨大な魔法陣が取り囲む。
『バスタ・ソウルエリミネル!!』
魔法陣が青白く光りだす。その瞬間、すべての兵士が膝をつき倒れる。どうやら狙い通り魔法の効果が出たらしい。この魔法は以前襲撃を受けた時に使った物をかなり巨大化したものだ。相手は人間といえど操っているのは憑依した霊体だ。霊体さえ浄化してしまえば、残るは無実な兵士だけだ。無駄に罪のないものの命を摘み取るのは避けたい。この魔法は設置型のため、何日かに分けて創造できるのが利点だ。その代りに、ここまで大きくするのには10日ほどかかる。
「といっても完璧というわけではないな。」
よく見ると1/4ほどの兵士が立ち上がっていた。魔法の範囲が広い分、精度がいくらか落ちるようだ。しかしそれも予想の範疇である。
その頭上を大きな竜が横断する。巨竜が口を開くと、あたりはあっという間に焼き野原となった。ちなみに憑依のとけた兵士たちは、移転スキルを持つ300もの配下によって城の裏へ移動させた。と言っても普通の国民に移転スキルを付与しただけだ。フレイアに続き、続々と配下達が戦場へ向かって走り出した。
「きゃは!最高だねぇ!こんな強力な魔法見たことない!あぅ~、ムズムズするぅ。早く戦いたいなぁ。」
「待ってくださいねフェネクス様。あなたの出番は私たち『7駆鳥』が城に潜入してかららですよ。」
「いつも一人で突っ走っちゃうから不安だよ。敵に戦力は未知数。フェネクス様といえ今回は慎重にね。」
「とはいっても、僕たちが負けることはない。魔人様からも『精選霊師』を借りている。」
「ちっ。俺たちの出番ねえじゃねーか。」
フェネクスを中心に取り囲む7つの影。その誰もが背に大きな翼を携える。
「それじゃあぁ、早く片付けてきてねぇ。でも敵将はだめだよ?それ以外はグチャグチャで良いからねぇ。」
フェネクスの無邪気な笑みを受け取り、7人の駆逐者が天に駆けた。
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