異世界で生き抜いた結果

タケトラ

プロローグ


 日本のとある安アパートの一室。おもてには部屋番号がぶら下がっている。ここには若い独身男性が1人で暮らしている。

 部屋の中もいたって普通。家具の類は最小限。溜まっているゴミを見るとどうやらコンビニなどで食事を済ませていることが多いようだ。
 壁にはスーツがかかっており、近くにはネクタイが投げ出されている。机にはなにやら書類のようなものも散乱している。
 おそらくちゃんと社会人として活動しているのだろう。
 そんなこの家の家主は現在シャワーを浴びている最中だ。
 現在時刻は朝の5時半。ずいぶんと早起きだ。
 彼はガシガシと頭をシャンプーで洗い、気持ちよさそうに水で流している。ヒゲを剃り、顔を洗い、体を洗い、歯磨きをし、浴室から出てきた。
 厚手のタオルで体を拭くその動作、今までの一連の流れで特におかしなところはない。
 ただ、唯一おかしなところを挙げるとするならば、その男自身であった。

 彼の体は平均的な成人男性のそれとはおおきくかけ離れていた。身長は2メートルに届こうかというほどの巨躯。腕の太さはまるで丸太。太ももから足首の筋肉は、年月をかけて育った年輪の詰まっている樹木のよう。首の筋肉はどんな打撃も致命傷にはならないであろう厚み。しかし、余分な脂肪がまったくないため寧ろスマートに見えるスタイルの良さ。

 特筆すべきは身体中に無数に走る傷。刀傷のように綺麗に入っているものもあれば、抉られたような傷跡もある。拳には細かな傷が散りばめられている。よく見ると、指の一部は少しゆがんでいたりする。それだけでこの男が只者ではないことがわかる。

 体を拭き終わり、下着を穿き、ワイシャツを着てネクタイを絞めた。鏡で髪をチェックし、スーツに体を通し、鞄を手にし、革靴を履いた。
 玄関に置いてあったゴミ袋を持ち、ドアを開けて外に出る。

 彼の職業は普通のサラリーマン。
 朝日を浴び、思わず顔を顰める男。その表情は社畜のそれ。

 「……寝てたい」

 そう言いながら重い足取りで職場に向かう。


 彼の唯一、他とは違うところは彼は異世界に行ったことがあるということ。

 この物語は、彼が手にした「普通の生活」が崩れるところから始まる。

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