猫耳無双 〜猫耳に転生した俺は異世界で無双する〜
第31話 戦いのその後
エルラルド王国の王都、その中央に煌びやかに輝く王城の中を1人の兵士は手のひらの汗すら分かるような焦りを見せながら早足で歩いていた。
少し息を呑み、国王の執務室をノックする。
「陛下!緊急の伝令でございます!!」
焦りは声となり、少し震えている。
「なんじゃ、入れ。」
「はっ!」
ドアを開け、執務室に入る。
すぐさま跪き、頭を下げながら報告をする。
「ワシは今忙しい。手短に言え。」
「はっ!・・・・実は、王国騎士団、第3部隊長のメイト・ルースロが・・・・戦死しました。」
「なっ!?」
サードスは思わず、立ち上がり衝撃で椅子が倒れる。
驚きで喉が塞がり声が上手く出せなくなる。
「メイトほどの男を、一体・・・・誰が?」
「・・・・まだ情報が明確ではありませんが、亜人とのことです。」
「クソォ!!」
ドンッ!!とサードスは机を強く叩く。
兵士はビクッと身体を動かし、恐る恐る次の話をする。
「場所はウルムの街の近くにあるダンジョン、『始まりのダンジョン』です。相手の亜人は3人組で1人は精霊を使役していたとの情報です。」
「なんだと!?『金魔のフレイド』か!?」
サードスは神からの天命により、獣人たちを駆除している。
その邪魔をしているのが最強の精霊魔法士、フレイド・アウルムだ。
サードスはメイトほどの強者を殺せるのはフレイドだけだと踏んでいたが、予想を上回る情報を得る。
「それが・・・・相手は黒色の毛並みを持つ亜人だとかで。」
「な・・・・」
サードスは2人目の精霊を使役する精霊魔法士の出現に絶望する。
「あと2人は・・・・銀色の毛並みと水色の毛並みの亜人とのことです。他のことはまだ・・・・情報が錯綜してまして。」
「どういうことなのだ?」
口をモゴモゴとさせ上手く言えていない彼に苛立ちを覚え始めるサードス。
「それが、ウルムの冒険者組合長のサミュエル・ドルッセンが情報を出すのを渋ってまして・・・・。それなりの金額を請求してきているのです。」
「あの冒険者上がりの小僧が!?だが・・・・今は情報が欲しい。ワシが許す、言い値で買え。」
「はっ!それと・・・・もう一つ。」
「なんじゃ、まだあるのか?」
「それが、勇者の1人・・・・マサヨシ・イチジョウも戦死したとのことです。」
サードスはそれを聞いてさらに苛立ちを露わにする。
「他の勇者はどうなのだ?」
「少し放心状態ですが・・・・無事でございます。現在こちらに向けて帰還中とのことです。」
「そうか。ご苦労だったな。下がってよいぞ。」
「はっ!」
兵士は立ち上がり、執務室を後にする。
サードスは椅子を元に戻し、深い息を吐きながらイスに腰掛ける。
「・・・・どれほどこのワシをイラつかせれば気がすむのだっ・・・・!亜人風情が・・・・!!」
サードスは手を叩き、1人の女性を呼び出す。
「失礼します。ご用件は?」
入ってきたのはサードス専属のメイドだ。
「セルドに言っておけ。勇者を使えるようにしておけと。」
「はい、承りました。」
そう言ってメイドは部屋から出て行く。
サードスはニヤリと笑い、勇者の使い道について考える。
「(勇者が1人死んだ・・・・好都合だ。セルドはそれを上手く利用してくれる。)」
笑みをこぼしながらサードスは机に置いてある書類を片付けるため、仕事を再開するのであった。
「ふざけるな!!」
エルラルド王国の騎士である男は激怒した。
理由は簡単で、冒険者組合の長であるサミュエル・ドルッセンが亜人の情報を出すのを渋ったからだ。
「亜人はこの国において最優先の討伐対象だぞ!?なのに貴様は・・・・金を出せだと!?ふざけるのも大概にしろ!!」
組合長の執務室で怒号が空気を揺らす。
サミュエルはそれを物ともせず、深く椅子に腰掛けて溜息を吐く。
「はぁ・・・・あのな、俺たち冒険者組合は慈善事業じゃねぇんだ。情報だって俺たちの商売道具の一つだ。・・・・冒険者、舐めんなよ?」
鬼のような形相で兵士にギロリと視線を向ける。
あまりの迫力に兵士は後退りした。
「(っ!これは現役を退いた人間が放てる覇気なのか!?クソ!ふざけやがって・・・・!!)」
男は悪態をつき、扉を勢いよくあける。
「また来る!!」
バンッ!!と強く扉を閉めて出て行く。
サミュエルは深く溜息を吐きながら、執務室の奥にある扉に目を向ける。
「・・・・もういいぞ。」
ガチャリと扉が開くと、そこから灰色の髪の毛の女性・・・・人化したケットが姿を現した。
「いいのかい?追い返しちゃって。」
「良くは、ないな。いくら冒険者組合が平等、自由を掲げて何者にも干渉されない組織だとしても国に逆らってたらロクなことが起きない。」
冒険者組合は国家権力の干渉は受けず、誰に対しても平等で自由で、そして実力主義と明言している。とは言っても人族に対してという言葉が隠れている。
冒険者組合を運営して行く上では、国と対等な立場に立たなければならない。
向こうの要求を全て無視するというわけにはいかないのだ。
「・・・・情報は商売道具の一つってのは本当だし、俺らも慈善事業ってわけじゃないってのも本当だ。」
冒険者にとって情報があるかないかでは生死に関わってくる。
依頼された土地の周囲の環境や魔物の生息状況、生態。更に依頼主に至るまでその全ての情報が自分たちの生き死にに関係してくる。
死んでいく冒険者の殆どが情報収集を怠った結果とも言われているほどだ。
それ故に冒険者組合は情報屋という組合非公認の存在を黙認している。
「そっか。まぁ、ボク達からすればクロを休ませる場所を提供してくれただけでもありがたいけどね。」
クロは現在、このウルム冒険者組合施設の個室治療室にて治療をしている。
クロは意識を失って3日の時間が流れ、ティナ達はかなりの心配をしていて常に一緒にいる。
ケットはクロの契約精霊のため、クロの魔力の流れを感じ取ることができ、今の状態から考えればそろそろ目が醒める頃だとわかっているので心配はしていない。
「・・・・とにかく、ボクはなんでキミがこんなことするかの方が気になるんだけどね。」
ケットは疑いの目をサミュエルに向ける。
ケットの言う通り、サミュエルにクロ達を匿う必要性はない。
逆に国を敵に回しかねないのでとてつもなく危険な綱渡りになる。
「そりゃ、タダで・・・・とはいかねぇよ。」
「となると、何が欲しいんだい?キミのような人族が金を求めるとは思えなくてね。」
「さっきも言ったが、情報は商売道具なんだ。・・・・嬢ちゃんらが持つダンジョンの情報を代金として欲しい。」
「・・・・そんなのでいいのかい?」
ケットは少し唖然としていた。
もっと面倒なことになると考え、いざという時はこの男を殺して逃げようと思っていたくらいだ。
「そんなの、じゃあねぇな。ダンジョンで1日、何人の冒険者が死んでるか分かるか?」
「いいや。興味ないからね。」
本当に興味がないような表情で即答するケット。
その様子にサミュエルは少し呆れた表情を浮かべた。
「・・・・まぁ、いい。とにかくだ、毎日数人、多い日はパーティーが3つくらい全滅する日もある。」
「なるほどね。」
全滅の理由は簡単で、ダンジョン内の魔物は今まで冒険者が培ってきた生態や能力が異なることが多いからだ。
以前、大量に出現した蝗の魔物は群をなさない。
しかしあのダンジョンでは群れを成して襲いかかってきたのだ。
そういった情報の差異が冒険者を死に至らしめていた。
「ここには冒険者が集まる。・・・・しかし、優秀な奴も、これから期待できる卵も、情報不足で死ぬかもしれない。それは俺たち冒険者組合にとっては死活問題だ。」
「だから攻略したボク達の情報を売ってくれと?」
「そういうことだ。」
「ま、それくらいなら今すぐにでも教えてあげるよ。」
そう言ってケットは自身が覚えているダンジョン内での特徴を説明した。
一方その頃、ウルム冒険者組合の個室治療室。
そこには瀕死の重傷を受けたクロがベットの上で寝ていた。
とは言っても傷は回復薬により殆ど治療済みなのだが、疲労が溜まっていたのか目覚める気配はない。
そんな彼を見守っているのは銀色の髪の毛を持つ、ティナと水色の髪の毛を持つシエルだ。
「・・・・かわいいなぁ。」
少しニヤニヤしながら眠っているクロの顔を眺めているティナ。
最初の頃はかなり心配していたが、ケットが大丈夫と太鼓判を押してくれたのであとはいつ目覚めるか待っているだけだ。
詳しいことは頭が弱いティナには分からないが親友のケットが言ってくれたので問題はない。
「・・・・食べちゃ、ダメ。」
ティナの反対側には椅子に座って本を読んでいるシエルがティナに制止を促す。
ティナがいつクロを食べてしまうか(性的な意味で)気になりながらもシエルはゆっくりと本のページをめくる。
「食べないよー。でも、全然起きないんだから暇なんだよー。」
そう言って尻尾をゆっくりと揺らす。
猫が尻尾をゆっくりとゆらゆらと揺らすのは退屈している状態を表す。
シエルはそんなに喋ることがないため、部屋に沈黙が流れる。
すると、シエルが本を閉じてティナの方を見る。
「・・・・勇者はどうなった?」
シエルは気にしていた。
ティナが撃退した勇者はこの世界の住人ではない。
人族の価値観を持って生まれていないとクロが言っていたからだ。
「・・・・ここのマッチョなオジさんが王都に返したって言ってたよ。」
あの戦闘後、深傷を負った太一を含めて3人の勇者とその仲間の死体をサミュエルは王都へ送り返した。
勇者の扱いはサミュエルは難しいと考え、更にここに仇であるティナがいることから返すことにしたのだ。
「そっか。・・・・ティナは大丈夫?」
どんな相手であれ、ティナは初めての殺人をしてしまったのだ。
今まで盗賊や冒険者が絡んできたことはあったが、適当に痛めつけて追い返していただけだ。
シエルはティナの心情を心配しているのだ。
「何も思わない・・・・って言えば嘘になるね。彼らは望んで異世界に来たわけじゃないから。」
太一らは人族の身勝手な動機により、この世界までやってきた。
対人戦闘も慣れていない、命の軽いこの世界の常識に慣れていない、そんな彼らを手にかけたことはティナも思うところがあるのだ。
「――――でも、彼らは刃を向けた。クロの敵に成り得る存在を私は許さないよ。」
全員、殺してしまえば良かったのかもしれないがティナはそれができなかった。
「私も・・・・まだまだ甘いよね。」
「・・・・ん。でも、ティナは間違ってない。」
殺すことを肯定するわけではないのだが、生きるため、自身達の目的のために邪魔をする者は斬り捨てると2人はクロの隣に立つと決めた時に誓った。
「私たちにできることは、あの3人の恨みとあの1人の勇者の命の重さを背負って生きること。・・・・敵討ちに来るんなら私は、キチンと相手をする。それが私にできる最低限のこと。」
ティナは覚悟を決めている。
たとえ敵討ちに来て負けるようなことがあっても仕方がない、と。
「でも、私が死んじゃったらクロが悲しんじゃうから・・・・負けないよ。」
そう言ってティナは寝ているクロを見つめながら、頭をゆっくりと撫でる。
「ん。それでいい。」
彼女らは想い人が眼を覚ますのを待ち続ける。
エルラルド王国の来賓室の一部屋。
この世界に召喚された少年、神谷太一はベットの上で生気がない瞳を浮かべながらボンヤリと天井を見上げていた。
「・・・・なんで、マサが・・・・」
中学生の頃、初めて彼らは出会った。
剣道部と空手部でお互いに期待の新星として注目を浴びていていた。
それもあってか、2人が出会い、仲良くなるのに時間はかからなかった。
正義感のが強く、誰よりも正しく在ろうとする正義。
そんな熱血な正義を時に冷静にさせ、穏便に済ませることを説いていた太一。
そんな2人のお陰で救われた学友は多かったという。
「マサ・・・・。」
名前を呼ぶたびに彼との思い出が蘇る。
あの、危なっかしく正しく面白い友人はもう、いない。
すると、扉がコンコンっと鳴る。
誰かがノックをしているようだが正直なところ人に会う気分ではない。
しかし、このままではダメだと思い、太一は入室を許可する。
「どうぞ。」
「失礼いたしますね。」
ガチャリと扉が開き、ある1人の男が入ってくる。
「・・・・セルドさん、どうしたんですか?」
赤茶色の髪の毛が特徴の容姿が整った男性。
彼はこの国の騎士団長にして王族専属の親衛隊の隊長。
太一らに剣術を教えている者でもある。
「いや、タイチ様が落ち込んでると聞きましてね。心配になりまして様子を見にきたんですよ。」
この世界に来てから太一らが信頼できる人物は少ない。
だが、セルドは彼らのことを真剣に考えて行動してくれる。そんな信用できる男だった。
「マサは・・・・マサは、なんで死んだんでしょうか?」
太一には分からなかった。
あの獣人が言ったことが、やったことが理解できなかった。
なぜ強制的に連れてこられた自分らがこんな目に合わなきゃいけないのか、なぜ正義が死ななければならなかったのか。
「・・・・マサヨシ様に関しては、お悔やみ申し上げます。」
「セルドさん・・・・!!教えてくれ・・・・!!僕たちはどうすればいいんだよ!?」
少し前まで高校生をやっていてごく普通に生活していただけだ。
そんな彼は親友が殺されたことに理解が追いつかない。
「・・・・簡単ですよ。」
泣きそうな顔を浮かべながら太一はセルドの顔を見る。
「亜人を根絶やしにすれば良いのです。」
「ね、根絶やしに・・・・?」
すると、セルドの左目が赤色に変色する。
その眼を見た太一は意識がボヤけてはっきりとしなくなる。
「誰が悪いかなんて、わかりきったことですよ・・・・。悪いのは亜人。生きているだけで大罪な存在です。」
「亜人・・・・が、悪い?」
「そうです。亜人は滅ぼすべき存在、タイチ様にはその力がある。」
「・・・・滅ぼ・・・・す?」
「はい。滅ぼしてしまえば良いのです。・・・・誰一人、残さず。」
「誰一人・・・・残さず、滅ぼす。」
すると太一はブツブツと朦朧とした表情で呟き始める。
セルドはニヤリと笑みを浮かべ、部屋を後にする。
「ふはははっ・・・・楽しく踊ってくれよ、バカ勇者?」
彼の笑い声は虚空へと消えて行く。
そして、勇者と呼ばれる彼らの人生は狂気に満ちていく。
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