猫耳無双 〜猫耳に転生した俺は異世界で無双する〜
第30話 クロvsメイト
激しい剣戟が空気を揺らし、鋼と鋼がぶつかり合う音が反響する。
クロはメイトの激しい攻撃を持ち前の反射神経と戦闘経験によりなんとかついていけているというところだ。
しかしメイトにはまだ余裕を感じさせる表情をしており、それがクロを苛立たせる。
「おいおい!さっきの威勢はどうしたんだよ!!」
「ッチ!」
今回はケットの力は使わないと決めたクロ。
顕現化したケットの力はクロの力でもあるのだが、クロの認識ではケットは親しい友人なのだ。
誰の力も借りず、仇を取りたい。
ティナと分断されたのは少し痛手かもしれないが、クロにとっては好都合だった。
「死ね!!」
「くっ!」
上段からの振り下ろしにクロは咄嗟に避け、その隙を狙おうとする。
しかし、剣を避けても見えない斬撃によりクロの身体に切り傷ができる。
空気が裂ける感覚を直感的に感じたクロは避けきることができなかったが、なんとか回避することができた。
一度距離を取り、天雷刀を構える。
「(・・・・強い。)」
クロはこの数年間でありえない速度で成長してきた。
もちろん、それはクロの才能の恩恵なのだが。
だが、メイトは現在のクロを上回る剣術に卓越した魔法。さらに未だにわからない才能による見えない攻撃がクロを徐々に追い詰めていた。
「(問題はあの才能だ。・・・・ワイヤーか?いや、違う。そんな単純なもんじゃないような。)」
前世で読んだありとあらゆる漫画やライトノベルの知識を総動員させるがそれに近いような能力は見つからない。
更にメイトはクロに自身の能力を悟られないように巧みに攻撃を使いこなしている。
才能かと思えば魔法だったり、そのどちらかに警戒しすぎると剣術で圧倒してくる。
「おいおい、俺を楽しませてくれよ!まだまだこんなの序の口・・・・だぞ!!」
メイトは手から1メートルほどの火球を繰り出す。
「(・・・・っ!無詠唱か!?)」
メイトの放ったファイヤーボールをクロは横っ飛びで回避しようと足に力を込めた刹那。
自身の首が切り落とされるイメージが脳裏をよぎる。
「っくそ!!雷の精よ!!」
クロは咄嗟にケットを媒介しない普通の精霊魔法をファイヤーボールに当てる。
同等の威力だったのか、強烈な爆発音とともになんとか相殺することができた。
しかし、爆発によってクロの視界が一瞬だが塞がれてしまう。
その隙にメイトは土煙を押し退け、クロに剣を振るう。
クロは常人を遥かに超える反射神経で反応し、天雷刀で受け止める。
小さな火花が散り、鍔迫り合いになる。
「よくわかったなぁ・・・・!」
「猫はな・・・・警戒心が強いんだよっ!!」
力勝負になると負けると判断したクロは何とかメイトの剣を振り払う。
ちなみに警戒心の強さは猫によって変わる。
「(このままじゃ・・・・ジリ貧だな。)」
どちらにしろ、勝てる要素が少ない。
クロは刀を横に向け、指を添える。
「・・・・『精霊転化』。」
スーッとはばきから鋒にかけて指を滑らせると紫電が刀身を包んでいく。
バチバチッ!と放電音を放ちながら紫がかった白色に光る。
「・・・・エンチャントだと?」
「さぁね。勝手にそう思ってな。」
エンチャントに近い力を感じたメイトは眉間に皺を寄せる。
エンチャントは人族にしか使えない魔法であり、獣人のクロには使えない。
しかし、『精霊転化』は違う。
周囲に漂う微精霊を武器に宿すことができる技だ。
『精霊転化』した武器には特殊効果が付与され、クロの雷の精霊による『精霊転化』は切れ味向上、一部麻痺だ。
つまり、常に『魔撃』を発動していることとなり更に麻痺効果まで発揮する武器になる。
「(アレを喰らえばやばそうだな・・・・)」
戦闘経験が豊富なメイトはその経験から、クロの攻撃を受ければ死に直面すると判断する。
「・・・・はぁっ!!」
クロは地面を蹴りだし、刀を振りかざす。
メイトは弾き返そうと思い、剣を振るうがクロの天雷刀は豆腐を切るかの如く、スッとメイトの剣を切り捨てる。
「っ!」
天雷刀の鋒がメイトの頬を擦りかけるが何とかメイトは回避して後方に下がり、距離を置く。
「・・・・は、おいおい。無茶苦茶だな。」
自身の切断された剣を眺めながら表情を歪める。
王国から支給された武器とはいえ、中々の業物の1つ。
それをバターを切るように切ったクロの攻撃にメイトは思いの外、驚愕していた。
「さて、武器が無くなったな。大人しく死ね。」
鋒をメイトに向け、構える。
するとメイトはニヤリと笑みを浮かべ、右手を前に開く。
「剣がない?・・・・オマエ、バカだな。」
右手をブンッ!と振り払うとそこには先ほどまで全く同じの剣をメイトは握っていた。
「――――っ!?」
「さて・・・・これからは俺も本気で行こう。」
少し余裕の表情を見せていたメイトは表情を引き締める。
同時にメイトから放たれる圧力が倍増する。
クロは尻尾と耳の毛が逆立つのを感じながら天雷刀を強く握る。
「・・・・『刀剣創造』。」
呟くように言うとメイト周辺に数十本の様々な刀剣が姿を現わす。
彼の才能、『刀剣創造』だ。
「・・・・それがテメェの才能、か。」
「無駄話は終わりだぜ、害獣。」
メイトが左手をスッとクロの方へ向けると宙に浮いていた刀剣がクロに向かって信じられないほどのスピードで向かってくる。
「くそ!!」
クロは先ほどの同じように刀剣を一本一本、切り落としていく。
しかし、息をつく暇もなく次々と刀剣の鋒はクロの向けて放たれる。
「(・・・・無茶苦茶な才能だなおい!!)」
メイトの『刀剣創造』は自身が触ったことのある剣を再現できるというものだ。
更にそれは自在に操ることができ、力を絞れば透明化もできるという。
今までクロが喰らってきたダメージは透明化された剣に攻撃を受けていたからだ。
メイトはこの才能を使い、自分自身が持つ剣に意識をさせつつ見えない剣で攻撃していた。
相対した敵はこの奇襲の餌食になっていた。
故に彼は『奇剣のメイト』と呼ばれるようになったのだ。
「そっちばっか見てていいのか?」
「っ!?」
迫り来る刀剣の数々に気を取られていたクロはメイトが近くに迫ってくるのに気付くのが遅れた。
メイトは下段からクロを斬りあげる。
クロは攻撃を避けようと後方に避けるが、飛んできた刀剣がクロの腹部に突き刺さる。
「がっ――――!!」
「おらおらおらぁぁぁぁぁぁぁ!!!」
激しい攻撃がクロを襲う。
クロは腹部の激痛に耐えながら全神経を集中させ、迫り来る攻撃を紙一重で回避。
必死の中、何とか距離を取り腹部の刀剣を引き抜く。
「っぐ!」
腹部から溢れ出る血液を左手で無理に押さえつけ止血を試みるが、止まらない。
カバンから回復薬を取り出し、ダメージが大きいため直接傷口にかける。
傷口に塩を塗るような鋭い痛みが全身を走り抜けるが歯を食いしばり、意識を飛ばさぬように堪える。
止血はできたが出血量が多い上、痛みも消えていない。
「くそっ!」
「判断力、処置の速さ、そして戦闘力。全てオマエの親を凌駕してると思うぜ?・・・・でもな、俺には勝てない。だって俺は強いからなぁ!」
ニヤッと嘲笑うメイトを見てクロは歯をくいしばる。
ケットを除いたクロの戦闘力は彼に及ばない。
しかし、それでもクロは――――
「――――俺は!お前を殺さなきゃならない・・・・!俺のために死んでいった・・・・父さんと母さんの仇を・・・・この手で!!」
ふらつく身体を信念だけで突き動かし、メイトを見据える。
「・・・・おもしれぇ!!!」
メイトは左手を掲げ、刀剣を生成する。
再び現れる大量の刀剣。
先ほどとは比べ物にならない量を彼は生成する。
メイトが左手を振り下ろすと空気を切り裂き、剣がクロに襲いかかる。
「はぁぁぁぁっ!!」
刀を振るい、次々と刀剣を切り捨てていくが手数が足りない。
「(――――クソ!多すぎる!?)」
そして、一本の剣がクロの身体を貫く。
「――――がっ」
動きを止めたクロに数十本の刀剣が襲いかかり、全てクロの身体が受け止めた。
激しい出血、クロはその場に倒れこんだ。
「・・・・ギリギリだったな。強かったぜ、お前も。」
ふぅ、と息を吐きニヤッと笑うメイト。
クロから流れ出る血液は完全に致死量に至っているだろう。
メイトは才能を解除するとクロに刺さっていた刀剣も消える。
彼は最後の攻撃にかなりの力を使った。あれを凌がれたらメイト自身危なかっただろう。
「さてと・・・・勇者の様子でも見に行くか。」
勇者の魔力が途中で1人消えていたが彼にとってはどうでもいいこと。
1人でも残っていればいいのだから。
踵を返そうとした瞬間、後ろから声が聞こえる。
「クロ・・・・!!」
振り向くとそこには勇者と戦っていたはずの銀髪の獣人が灰色の獣人に抱えられて涙目を浮かべていた。
「クロ・・・・!!!起きて・・・・!!」
ティナは叫ぶ。
クロがまだ負けてないと信じているから。
「(・・・・俺は、死んだのか?)」
暗闇の中、何もない空間にクロはぷかぷかと浮いていた。
ここが天国だろうか、いや地獄だろうとぼんやりとした頭で考える。
「俺は・・・・負けた、のか?」
小さく呟き、その声は虚空へと消えていく。
身体と精神が途切れそうな感覚が感じられる。
身体は・・・・痛みも感じないが動きそうにない。
「ティナ・・・・ごめん。父さん・・・・母さん、ごめん。負けちまった・・・・。仇、取れなかった。」
悔しくて目から涙が溢れそうになる。
そして、死を覚悟したその刹那。
虚空から声が聞こえる。
「クロ――――」
自身を呼ぶ声。
守らなきゃならない大事な女性の声。
「クロ・・・・!!起きて・・・・!!」
瞬間、意識が覚醒する。
閉じかけていた目を見開く。
そこに見えるのは夥しい血液の水溜りと地面。
「クロ!!!」
「・・・・アイツはもう死んだんだ。うるせぇメスガキだな。」
メイトは剣を生成し、自分の手で持つ。
ティナとケットは動かない。
クロが立ち上がるのを信じているからだ。
「誰に・・・・」
小さな声だった。
しかし、メイトにはそれが信じられないこと、想像することができないからだ。
ゆっくりと振り向き、先ほどまで倒れていたクロを見る。
「誰に・・・・手ェあげてんだ・・・・!!」
そこには血塗れで今にも死にそうなクロが立ち上がってこちらを睨んでいた。
「・・・・っ!!?お前、不死身かよ・・・・!」
クロの傷は誰が見ても致命傷に違いない。
しかし、クロは立ち上がる。
バチバチッ!と黒い稲妻がクロの周りに迸る。
「バケモノ・・・・が!!」
メイトはクロにトドメを刺すため、大地を蹴る。
すでにメイトには刀剣を操作するほどの力は残されていない。
確実に殺すために剣を振りかぶる。
クロはゆっくりと右手をメイトに向ける。
黒い稲妻がクロを覆い、徐々に右手の前に収縮されていく。
「・・・・『黒雷招来』」
刹那、爆音と巨大な黒い稲妻がメイトを引き裂く。
「がぁぁぁぁっ!?」
そして、黒い稲妻はメイトの体の一部を消しとばす。
メイトだった物は黒い煙を出し、その場に倒れる。
「・・・・うっ」
クロも力を使い切ったのか、その場に倒れてしまいそうになるが地面に行く前に動きが止まる。
「・・・・無茶しすぎ。」
「・・・・シ、エルか?」
「ん。回復薬、飲む。」
そう言って無理にクロの口に回復薬の瓶口を押し込む。
クロに咥えさせたらカバンから別の回復薬を取り出し傷に振りかける。
「クロ!!」
少しふらふらしているがティナが近づいてくる。
外傷は見当たらないが魔力が尽きているのか、顔色が良くない。
「まったく・・・・キミは本当に無茶をする。ボクと戦えば楽に倒せたろうに。」
灰色の毛並みを持つケットは不機嫌そうに尻尾を左右に大きく降っている。
「は、ははっ・・・・でも、心配してなかったろ?」
「・・・・まぁね。信頼してるからね。」
クロは動こうとするが身体が動かない。
少し恥ずかしいがシエルに抱えられてその場を去ることにした。
シエルの背中でクロは小さく拳を握り、呟く。
「・・・・母さん、父さん。仇は・・・・とったぞ。」
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