猫耳無双 〜猫耳に転生した俺は異世界で無双する〜

ぽっち。

第29話 ティナvs勇者























「邪魔しないでよ・・・・。」


殺気を放つのは魔剣フラムを握ったティナだ。
普段の彼女からは考えられないほどの殺気は勇者達の生存本能が逃げろと警鐘を鳴らすほどだ。


「そう言うわけにはいかない!」


正義がふぅーっと息を吐きながら右手を前方に折り曲げ、中段に構える。
空手でいう上段受けという構えだ。
肩の力は抜け、脱力感を感じさせるが隙はない。


「(流石に勇者って言われることはあるよね・・・・。この人だけじゃない。)」


ティナが視線を横に向けると剣を頭の上に掲げるように構えている太一が目に入る。
彼は剣道でよく使われる上段の構えだ。ティナをしっかりと見据え、いつでも切りかかってきそうな気配を感じる。
後ろでは女性2人、千鶴と香織が杖を握り魔力を込めている。


「身体強化、反射速度上昇!」


香織はサポート系の魔法を使い、2人の身体能力を向上させる。


「サンキュー、香織。」


「ありがとう、香織ちゃん。」


「い、いいえ!私にはこれくらいしかできないので、頑張ってください!」


この魔法でティナと2人の身体能力の差は殆ど無くなった。
今までのティナならここで焦っていただろう。
しかし彼女はここ数年間、何も学ばなかったわけではない。
クロやケット、シエルに教えてもらったことを思い出しながら反芻する。
自分の頭の中にはこういった状況の中で、明確な判断ができるように練習してきた。


「(今は親の仇、は忘れよう。目の前の敵に集中するんだ。)」


ティナは大きく深呼吸をし、勇者達を見据える。
相手は4人、特に人族の最終兵器である勇者だ。
どんな魔法を使ってくるか、才能スキルを使ってくるかは未知数だ。
そして、先に動いたのは太一だった。
大地を強く蹴り、ティナとの間合いを一瞬で詰める。
掲げられた剣をティナに向けて振り下ろす。


「――――はぁ!!」


回避が難しいと判断したティナは魔剣フラムで剣を受け止める。


ガキンッ!!


火花が散り、鋼と鋼がぶつかり合う音が反響する。
刹那、太一の後ろから正義が姿を現してティナに正拳突きを放つ。
避けきれず、ティナは喰らう覚悟で歯をくいしばるが衝撃はいつまでたっても来ない。


「――――っくそ!俺には女は殴れねぇんだ!!」


一瞬何をいってるか判断できなかったティナは好機とみて太一の剣を振り払い、距離を置く。


「・・・・優しいんだね。」


「なんで、なんでこんなことしなきゃいけねぇんだ!?」


「マサ・・・・。」


太一も乗り気ではない。
散々祖父と父に女性に手を上げてはダメだと教わってきたが、だが今は戦わなければ元の世界に帰れないのだ。


「なぁ、君!頼むよ・・・・大人しく捕まってくれ。俺は女の子は殴りたくないんだ!」


ティナは正義が言うセリフに反吐が出そうな思いだった。
世界が違うとはいえ、ここまでバカだとは思わなかったからだ。
ティナは猫耳を横にピンと張りながら呟くようにいう。


「じゃあ、私が捕まったらどうするの?」


「それは・・・・。」


「運が良くて私は奴隷、良くなければ死刑だろうね。」


「そんなことはさせない!俺は、俺はこんなこと間違ってると思うんだよ!!」


ティナは徐々に苛立ちを募らせる。
彼の言うことが全て理想論で取り留めのない話だからだ。


「なら、なんで・・・・私のお父さんは殺されたの?」


「え・・・・?」


「私たちは何もしてない。人族の邪魔にならないように森の奥でひっそりと暮らしてただけ。・・・・なのに、お父さんもお母さんも・・・・みんな殺された。」


勇者達は言葉が出なかった。
普通なら信じるに値しないような嘘かもしれない、と思うだろう。
しかし、ティナの表情から読み取れるものは全て真実だと訴えかけてくる。


「・・・・あなたが言うように間違ってるんならなんで人族そっちにいるの?」


「それは・・・・」


「ただ、帰りたいだけ?・・・・そんなくだらない理由で私の邪魔をしないで。」


その言葉に太一は苛立ちを露わにする。


「くだらなくない!!僕たちは帰りたいんだ!家族が!友達が待ってるところに!」


「私たちは家族も友達も居場所も・・・・幸せな時間も!!全て人族に奪われた!!!」


「――――っ・・・・!」


ティナの拳が強く握られていく。
あの時は何もできなかった。ただただ泣き喚いて、クロに引っ張られ、たまたま生き残った。


「甘いんだよ。あなた達が言うこと全て。・・・・私はもう何も失いたくないから、何もできないのは嫌だから、戦う。あなた達は帰る為に人を殺す覚悟も・・・・私を殴ることも、できない。」


太一らはどこかで話し合えば解決する、殺さなくてもいいなんて甘い考えを持っていた。
殺さなくても少し痛めつければなんとかなるだろう、と。
しかし、ティナが言うように現実はそんなに甘くない。


「私は守りたいものを守る為なら・・・・どんな人間だって斬るって決めた。」


彼女が剣を振り始めた時に誓った。
剣はどこまでいっても人を切る道具であり、それを振るう技術は殺人の技にしかならない。
それを使うということは、誰かを斬り殺すということ。
ティナは剣を振るう時から、クロと並んで歩きたいと思った時から覚悟を決めたのだ。
ティナは剣先を勇者達に向ける。


「邪魔するなら・・・・斬り捨てる。」


ティナは太一に向けて走り出す。
素早く振り出された剣は太一の首へと向かっていく。


「っく!!」


太一は一瞬呆気を取られたが、なんとか剣で受け止めることができる。


「フラム!!」


剣の名前を叫ぶと、刃から激しい熱気が伝わってくる。
何が起こるか察した太一は剣を受け流し、後ろに下がる。
剣からは炎が噴き出て太一がいたところを燃やし尽くす。


「太一!」


「大丈夫だよ、ちーちゃん!」


自身の安否を千鶴に伝え、剣を構え直す。
千鶴は安堵を漏らすと魔力を杖に込め、ティナに向けて魔法を放つ。


「『ライトニングジャベリン』!!」


光の槍が空気を裂き、ティナに向けて放たれる。
光魔法は神の魔法と呼ばれ、勇者と神しか使えないと伝えられている魔法だ。
ティナも若干うる覚えながらそれを覚えており、少し驚愕するが分かりやすい軌道のため、必要最低限の動きで回避する。


「『アイスハンマー』!!」


追撃するように香織の魔法がティナを襲う。
氷の槌が襲ってくるがティナは後ろに飛び、回避する。
氷の槌が地面に当たると槌を中心に数メートルのヒビが入る。


「(危なかったなぁ・・・・あれ喰らってたら、ペッチャンコ猫になってたよ。)」


意味がわからないことを考えているティナは障害物のなりうる氷の槌を魔剣フラムで溶かす。
激しい熱量で氷の槌は瞬く間に小さくなっていく。


「はぁぁぁぁっ!!」


溶かすことでできた水蒸気の中から太一が上段の構えのまま現れる。
ティナは完全に隙を突かれ、防御の姿勢に入ろうとする。


「(――――っ間に合わない!!)」


コンマ数秒動きが遅れ、斬られそうになった刹那。
太一の動きが少し鈍くなる。彼もまた、迷いがあるのだ。
ティナはその隙を見逃さず防御の姿勢から太一のガラ空きの胴体に剣を振るう。
剣は太一の肉を裂き、鮮血を散らす。


「太一!!」


「ぐっ――――!?」


バランスを崩した太一に追い打ちをかけようとティナが剣を再度振ろうとした時、横に正義が拳を構えていた。


「――――っ!!」


拳にはかなりの魔力が込められており、喰らえば瀕死は確実だろう。
ティナは死を覚悟したが、拳は放たれることはなく動かない。


「――――やっぱり、俺には・・・・!」


その隙をティナは見逃さなかった。
ティナは剣に魔力を込める。魔法防御を固めているであろう体を確実に貫くため。
剣先は正義の胸の筋肉を裂き、心臓を一撃で貫いた。


「――――っが」


「・・・・本当にあなたは優しいんだね。でも、私は守りたい人のためにあなたを殺す。」


「マサっ!!!!」


ティナはゆっくり剣を引き抜く。
傷からは湧き水のように血が溢れ出る。
正義は動きを止め、体を動かすことなく地面に倒れこむ。
地面には夥しい血液が流れ、血の水溜りが出来ていく。
3人は何が起こったか理解できていなかった。


「マサくん!!!!」


頭の処理が追いついていない。
状況をようやく把握した香織が全力で正義の元へ駆け寄り、必死に治癒魔法をかける。


「『ヒール』!!『ヒール』!!『ヒール』!!!お願い、なんで!?なんで!?」


死んだものは生き返らない。
心臓を切り裂かれ、彼は魔法では治らない。


「・・・・ま、まさっち?うそ・・・・でしょ?」


千鶴は意味がわからず放心状態になる。
香織は必死に治癒魔法を使い続けるが魔力が底をつき、発動の光すら出なくなる。


「ま・・・・さくん?・・・・うそ・・・・いやだよ・・・・守ってくれるって・・・・約束・・・・したのに・・・・」


香織の目からは涙が溢れ出てくる。
ポツポツとその涙は正義の体に当たる。


「ま、さ・・・・――――っ貴様ぁ!!!」


涙が溢れてくるのだが、それを止めることも忘れ太一はティナに斬りかかる。
しかし、怒りに身を任せたただの大振りの剣筋は稚拙なものでティナはそれを軽く去なし、太一の腹部に強烈な蹴りを入れる。


「がっ」


肺から空気が吹き出し、息ができなくなる。
数メートル転がり、千鶴の近くまで行くとようやく動きを止める。


「太一!?」


「がっ・・・・クソっ!!なんで、なんでマサを・・・・!!!」


苦しそうに咳き込みながら太一はティナを睨む。


「・・・・彼が弱かった。私はそれだけだと、思うよ。」


ティナだって人を殺して気持ちいいものではない。
しかし、彼はティナを攻撃するチャンスを得ながら2度もそれができなかった。
それは戦場では死に値する行為。
正義は強かったかもしれない。だが、心は強くあれなかった。
もし彼に『帰るためなら人をも殺す』という覚悟ができていればこんな結末にはならなかったかもしれない。


「人を・・・・マサを殺しといて・・・・!!」


「彼が死んだのは私のせいなのかな?・・・・戦場で、命の責任を他人に押し付けるのは間違いだよ。」


戦場での命の責任は全て自分が持つ。
死ぬのも生きるのも自分次第なのだから。
戦う選択を自らしておいて、死んだら殺した人の責任というのは間違いなのだ。
彼らは決してティナたちのように襲われたわけではない。自ら戦いを挑んできたのだ。


「恨むのは勝手だよ。私はその覚悟もできてる。」


どこまでも真っ直ぐな目に太一は何も言えなくなる。
自分たちの考えが甘かったのだ。
まだどこかでこの世界をゲームだと勘違いしていたのだ。
それに気付いたきっかけが仲間の死というのはとても皮肉なものだが。


「クソ、くそくそっ!!ふざけるなぁぁぁぁぁぁぁ!!!」


太一は軋む体を無理に動かしてティナ向かって走り出す。
ティナは剣を上に掲げ、振り下ろす。


「・・・・『業火滅却』。」


爆炎が辺りを包み込む。
土煙が舞い、熱波が辺りを襲う。
少し時間が経ち、土煙が晴れるとそこには千鶴の魔法障壁により守られた太一と放心状態の香織、魔力が欠乏し意識が朦朧としている千鶴の姿があった。
しかし、衝撃までは防ぎきれなかったのか太一は意識を失っていた。


「よ・・・・くも、まさっち・・・・を!!」


魔法を放とうとするが魔力が尽き、千鶴もその場にバタッと倒れこむ。
ティナはそれを見届けると魔力の使いすぎでふらつく体を動かし、無言で黒の元へと向かう。


「・・・・間違ってたのかな。」


『いいや、ティナは正しいさ。』


いつのまにか隣に来た親友のケットにティナは少し驚く。


『彼らは判断を見誤った・・・・。人の命が軽いこの世界で、生きる術を間違えたんだ。』


倒れこむ勇者たちを横目にケット言った。


『・・・・人の死により、人は成長する。とても、皮肉なものだね。』


「・・・・そう、だね。」


ふらつくティナをケットは人化し、支える。


「今は休みな。クロの方もすぐ終わるさ。今は信じて待とう。」


「・・・・うん。」


ティナは遣る瀬無い気持ちを胸にクロの無事を祈った。





















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