猫耳無双 〜猫耳に転生した俺は異世界で無双する〜
第27話 憎しみの焔
「お前だけは、殺す。」
クロから溢れ出る殺気と魔力。
目の前にいるのは父を殺した張本人。
「まさか、ここで逃したガキに会えるとはな・・・・!」
クロの父であるクロードを殺した、仇であるメイトと呼ばれる彼はエルラルド王国の中でも上位の実力を持つ騎士。
王からの勅命により勇者一行の教育係を命じられ不満に思っていた。
彼の本質は獣人を蹂躙し、絶望に満ちた表情に優越感を感じること。
しかし、ここであの時逃してしまった獣人の子供を殺せること、それに喜びを感じていた。
「あはははっ!俺も運がいい・・・・!!」
「おい、メイト!コイツは・・・・なんなんだ!?」
メルト自身からも魔力と殺気を感じる。
異様ではない雰囲気に勇者の1人である正義はメイトを問いただす。
「いやー・・・・アレは亜人ですよ?アイツらは野蛮で凶暴です。攻撃してくるのに意味なんてないでしょう。」
軽い口調で嘲笑しながら正義にいう。
その言動に耐えられない怒りがクロを襲う。
犬歯を剥き出しにし、ギリギリと奥歯が軋む。
「お前が・・・・!!」
クロの身体に黒い稲妻が走る。
「お前が!!!殺したんだろうが!!父さんを!!」
煮詰まった怒りが殺意として爆発する。
メイトは感じる殺気に、怒りに笑みが止まらなかった。
「(これを・・・・無茶苦茶にしたらおもしれぇだろうなぁぁ!!)」
彼は怒りや殺意を向けられると、それを諦めされることが好きだ。
『仇を取りたい』『殺してやりたいほど憎んでいる』そんな相手には何度もあってきた。
その相手を負かし、絶望に満ちた表情を見るのが彼にとっての人生の楽しみ。
狂っているのだ。
「お父さんの・・・・仇!!」
ティナも抜刀しており、魔剣フラムからはドス黒い黒炎が滲み出ている。
ケットは2人の肩に手を当てる。
「落ち着くんだ、2人とも。」
その一言に2人は若干だが、冷静さを取り戻す。
しかし、抑えきれない殺意が身体を直ぐにでも動かそうとする。
ケットは人化を解き、猫の姿に戻る。
クロの頭の上に乗りクロと魔力を同調させていく。
『キミたちの怒りは・・・・理解しているよ。だけどね、怒りは判断を鈍らせる。』
「・・・・わかってる。」
「ごめん、ケット。私も冷静じゃなかった。」
『分かればいいんだ。・・・・相手は待ってくれないみたいだよ。』
クロらはメイトを見据え、剣を構えた。
勇者である太一は混乱していた。
スーランジュの知り合いであろう4人組は亜人と呼ばれる者だった。
そして、彼らから感じ取れる魔力と殺意。
それは太一らが今まで感じたことのないレベルの物だった。
「・・・・何が、いったい・・・・。」
しかし、近くにいるスーランジュは自分たち以上に混乱している。
何が起こったか理解できていないのだ。
「クロロさんが・・・・亜人で、ティーナさんも・・・・?」
「スーランジュ、落ち着け。・・・・冒険者の中に亜人が居るとは思わなかったが、アレは・・・・バケモンだ。」
かつて単独で竜種を討伐した経験のある冒険者、サミュエルは引退して組合の長になったがそれでも充分な実力者。
彼はクロの溢れ出る殺気と魔力を感じ取り、『金魔のフレイド』に匹敵すると考えた。
「ま、待ってください!!」
正義は叫ぶ。
「俺には!・・・・アイツが亜人だからって危険だなんて思わないです!」
「マサ・・・・。」
正義の言うことは間違っていない。
サミュエルもわかっているのだ。彼の殺意は人族が引き起こした物だと。
しかし、彼は冒険者組合の長としてやらなければならない。
「・・・・マサヨシ、君が言いたいことはよくわかる。だが、アレを野放しにするのは危険だ。」
サミュエルは両手剣を片手で抜刀して構える。メイトに加勢しようと前に出ようとした瞬間、一本の矢が足元に刺さり動きを遮る。
「・・・・クロの邪魔はさせない。」
視線をあげるとそこには鮮やかな水色の毛並みを持つ猫耳を生やしたシエルがいた。
「たとえ可愛らしい嬢ちゃんでも、亜人ってだけで討伐対象だ。・・・・容赦はしねぇーぞ?」
「・・・・こちらも、容赦はしない。」
シエルは弓矢を構えると、サミュエルも剣を構えた。
『・・・・相手は強敵だろ?良いのかい?』
ケットは唖然としていた。
理由はクロが『精霊昇華』をしないというからだ。
「あぁ。アイツは俺の手で・・・・殺す。」
『わかった。じゃあボクは観戦するだけだよ。』
「頼む。」
ケットはそう言って上空へと飛んでいく。
いざという時はいつでも手を出すつもりなのだ。
それを横目に見届けると、クロは倒すべき相手を見据える。
「・・・・精霊を顕現化させてるとはなぁー。良いのか?俺にそんな余裕見せて。」
「お前相手に精霊は使う必要ねぇってことだよ。」
「・・・・イラつくなぁ!」
メイトが地面を蹴り、クロとの間合いを詰める。
同時に腰につけていた両刃の西洋剣を抜き取り、斬りかかる。
クロはそれを天雷刀で受け止める。
ガチンッ!
刃と刃が激しく火花を散らし、空気が揺れる。
「はぁぁぁぁっ!!!」
隙を見たティナが上から魔剣フラムを切り落としてくる。
メイトはそれを確認した瞬間に後ろに下がり攻撃を回避する。
「2対1とは流石亜人だな、卑怯とか思わねーのか?」
「あなた達は最初から卑怯でしょ!!」
ティナの心からの叫び。
彼ら人族は圧倒的な戦力差で自分らを蹂躙していった。
ティナの怒りのボルテージが上がる。
「ま、亜人に人族様の理屈が通じるわけねぇか。・・・・本気で行くぞ。」
空気が変わる。
先程までメイトが放っていた空気が変わり、彼から放たれる殺気がビリビリと肌を刺激する。
クロは彼に初めて会っていたときのことを思い出していた。
格の差を見せつけられたあの時と同じレベルの圧力。
「ティナ、行くぞ。」
「うん。」
ティナの返事と同時に2人は地面を蹴り出し、メイトとの間合いを詰めていく。
メイトは獣人特有の身体能力についていくため、身体強化の魔法を自身に付与。
「ハァッ!!」
クロが上段から刀を振り下ろすと、メイトはそれを剣で受け止める。
その隙を見てティナが横から魔剣フラムを振り払おうとした刹那。
ガキンッ!!
何かに阻まれて剣の動きが止まる。
それと同時にクロの腹部に激痛が走る。
「なっ――――!?」
「くろ!?」
血が噴き出て、鋭い痛みがクロを襲う。
咄嗟に後方に下がり間合いを取る。
ティナもその様子を確認し、後方に下がってクロの近くに近寄る。
「大丈夫!?」
「あ、あぁ。傷は浅いから心配するな。」
クロは鞄から回復薬を取り出し、一気に飲み干す。
シューッと傷口から煙が出てくると傷が徐々に癒えていく。
「・・・・才能か。」
「ふははっ!ご名答。亜人でもそれくらいの知恵はあるか。」
彼は『奇剣のメイト』と呼ばれている。
その所以は彼の才能によるもの。
クロが態勢を持ち直そうとした刹那、ティナに向かって火球が飛んでくる。
クロとティナは咄嗟に回避するが爆風にやられて2人は分断される。
「ティナ!」
「こっちは大丈夫!!」
ティナが火球が飛んできた方向を見るとそこには4人の勇者がいた。
「わ、私たちだって戦える!」
「そうよ!亜人を倒して日本に帰るんだから!」
千鶴と香織は杖を構えて魔力を先端に集めている。
2人の前には大柄の男、正義がガントレットを拳に装着して構えている。
太一も剣を構えて、ティナを見据えていた。
「・・・・邪魔しないでよ。」
ティナは珍しく苛ついていた。
フラムに魔力を流すと黒炎が噴き出る。
「僕たちは帰らないといけないんだ・・・・!」
太一が叫び、前に出る。
ティナはフラムの柄を強く握り、振るった。
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