猫耳無双 〜猫耳に転生した俺は異世界で無双する〜
第23話 今まであったこと、これからのこと
少しだけ時を遡り、2年ほど前。
つまり、彼らがウルムの街に滞在するようになって1年ほど経ったある日だ。
実戦を経験して、確実に実力を身に付け、強くなっていた。
ダンジョン内では奥へと向かえばそれに比例して魔物の強さや量が増えていく。
ダンジョンの奥地。
その時、クロはダンジョン内で違和感を感じていた。
「・・・・なぁ、みんな。ダンジョンってなんなんだ?」
『また藪から棒になんだい?』
そう答えたのはクロの契約精霊であるケット。
ぷかぷかと灰色の毛並みの身体を宙に浮かせ、いつもと変わらない呑気な声でクロの唐突な質問に反応した。
「いや、ダンジョンは・・・・地脈の魔物化だろ?でも、直感?っていうのかな・・・・これは魔物っていうよりなんか、もっと別の存在な気がする。」
クロの言うことは強ち間違いではない。
相当鈍感ではない限り、違和感を感じるのは仕方のないこと。
何故なら、このダンジョンは魔物を発生させるだけではない。
至る所に謎の魔素溜まりができており、たまに尋常じゃない数の魔物を発生させる。
突然に、だ。
「元々いる動物が誘き寄せられ、魔物化するってなら多少は納得だが・・・・。」
「・・・・ん。私も疑問だった。」
「??」
近くにいたシエルも話を聞いていたみたいだ。
しかし、ティナは聞いてはいたものの話についていけていない。
キョトンとした表情で首を傾げている。
そんなティナを見たクロは可愛くて、笑みを浮かべる。
そのクロの様子を見たティナは嬉しかったのか、嬉しそうな笑顔を見せて露わにしている尻尾をご機嫌に揺らす。
「(可愛い、可愛いは・・・・猫は正義だ。)」
と、クロが余計なことで思考を鈍らせるとそれを察したのか、ケット少し呆れた表情で言う。
『疑問が多いのは分かったけど・・・・ボクからすればここの存在はかなり異質だ。』
「つまりどういうことだ?」
『まず思わなかったのかい?・・・・こんな巨大な地下空間があるのにもかかわらず、崩落の事故を一度も見ていない。』
「そういえば、そうだな。」
ダンジョンに初めて入った時はクロらは驚いたものだ。
最初は小さな洞窟のような物だと思っていたら、大きく刀を振り回しても余裕が全然ある。直径15メートルはくだらない空洞が永遠と広がっているのだ。
「ん。それは思う。」
『ボクはこれでも・・・・神の力を若干だが受け継いでてね。この世界の時空の全体像はよく理解してる。だが・・・・。』
ケットは精霊王であり、この世界に生まれた最初の精霊。
精霊と獣人族を生み出したとされる神、フレイヤから直接生まれたのだ。
若干ではあるがその力が多少なりとも流れている。
『この空間はまるで別次元にあるような気がするんだよね。』
「・・・・そんなことありえるのか?」
地脈の力は膨大であろうと空間を歪めたり、作り出すことができるのか、そうクロは疑問に思った。
「・・・・!!クロ!あれ見て!」
遅い処理能力で必死に考えていると、索敵をしていたティナがあるものを見つける。
指を指すその先に視線を移すと・・・・そこには巨大な扉があった。
「・・・・は?人工物か?なんでこんなところに??」
そこには壁の岩石を押し退ける様に設置された数メートルはくだらない巨大な鉄の様なものでできた扉があった。
「・・・・人族が作った?」
シエルがそんな疑問を浮かべるがクロは有り得ないと言う。
なぜならここはまだ人族の冒険者らが辿り着いていないダンジョンの深い場所に位置する。
それにこの魔物が蔓延るダンジョンでこんな大きな扉を持ってくるのは不可能だ。
『・・・・!』
ケットはその扉の奥からただならぬ気配を感じていた。
濃く、尋常じゃないほどの魔素が扉からひしひしと伝わってくる。
クロらもそれを感じ取った様で冷や汗を垂らす。
「入る?」
「・・・・あぁ。行ってみる価値はあるだろう。」
クロは扉を押す。
ドッシリと重みを感じながら押していくとギギギッと音を立てて扉が開いていく。
扉が開き、クロらはその先の情景を確認した。
「・・・・は?」
「わー・・・・すっごい。」
そこにはどこまでも広がる森。
天井は・・・・あるようだがまるで外の様に明るい。
『ここは・・・・まさか、いや・・・・。』
ケットが眉間にしわを寄せて呟いている。
「ケット、ここが何か知ってるのか?」
『・・・・ボクの記憶が正しければ、ここは、神界に近い力を感じる。』
クロは驚愕の表情を浮かべる。
「・・・・神界って神のいる世界?」
『・・・・そうなんだけど、ここはちょっと違う、かな?その力は強いと思う・・・・。』
こうしてクロらは『始まりのダンジョン』と呼ばれることとなる世界初の大迷宮に挑戦していくこととなる。
時は戻り、ウルムの街に滞在を始めてから3年が経った頃。
各地でダンジョンと呼ばれる地脈の魔物化がちらほらと見られるようになった。
クロらは世界で初めてできたダンジョン、『始まりのダンジョン』と呼ばれる様になった迷宮の攻略を進めていた。
その攻略を一時中断、理由としては無理をしすぎて潜り続けるのは危険だと判断したからだ。
大量に手に入れた魔石を換金し、よく使っている宿屋に泊まった。
宿屋の部屋にて。
「とにかく、第24層までは楽に行ける様になったな。」
「まだ続くのかなぁー・・・・これ以上行くならまた食材買い込まないとね。」
ダンジョンと呼ばれる内部、洞窟のような始めの部分は単なる飾りの様なものだった。
その奥には扉が設置されており、そこから先は際限なく広がる空間があったのだ。
奥に行くと地下に降る階段があり、降りると森が広がっていたり、雪が降り積もっていたり、灼熱の砂漠だったりと進むのすら困難な道が続いていた。
クロは階段で層が区切られていると仮定し、扉をくぐった先を一層とし、地下に降りていった。
現在、攻略は24層まで進んでいる。
命の危険もあるため、無理せずゆっくり進んでいるのだ。
「最近は人族の冒険者さんも10層までこれたみたいだねー。」
少し眠そうにティナは自身の尻尾の毛に櫛を当てて毛繕いをしている。
曰く、女の子の嗜みだとケットに口を酸っぱく言われているらしい。
人族の間ではダンジョンの攻略は第10層まで攻略していると公式発表されている。
クロらはその先を行っているんだが、組合に報告する義務というかする気がないので現状に至っている。
「・・・・ふぁ〜、眠い。」
大きな欠伸をするシエル。
隣のベットではすでに人化したままでグースカ寝ているケットがいる。
精霊は睡眠は要らないらしいが、寝れないと言うわけではないらしい。
特に人化していると寝やすいんだとか。
「とにかく、明日は買い物を済ませてまたダンジョンに潜るか。」
「・・・・ん。」
そう言いつつ彼らは眠りについた。
「・・・・またか。」
クロは違和感を覚えて目を覚ました。
ゆっくり布団を捲るとそこにはクロに抱きついた状態で寝る、シエルとティナ。
猫・・・・猫族の人が一緒の布団で寝るということは信頼しているという証でもある。・・・・あと暖かいからという意味もある。
横のベットには未だにケットが寝ている。
「(・・・・ちょっとおっさんには刺激が強いんだよなぁ。)」
精神年齢はクロはすでに40を超えている。
前世である猫宮和人は女性経験が多いわけではないのでこういった状況に慣れていない。
気持ち良さそうに寝ている2人の頭をそっと撫でる。
「・・・・うぅん・・・・えへへ・・・・くろぉ・・・・。」
起こしてしまったか、と驚いたがどうやら寝言のようだ。
クロは彼女らのもふもふとした猫耳を見つめる。
「(・・・・触りたいが、それはなぁ。)」
彼女ら獣人の獣耳と尻尾は誇りとされている。
安易に触ることはできない。
触れるのに、触れない。これは重度の猫耳ケモラーのクロにとって苦行なのだが・・・・。
気持ち良さそうに眠る彼女らの表情はとても可愛い。
シエルは常に無表情だが、時折見せる感情はとても愛らしい。
最近は表情が読めるようになったし、彼女の考えも分かるようになってきた。
ティナは少し天然だが、しっかりしているところもあり無垢な笑顔にいつも癒されている。
「(こいつらの気持ちには気づいているけど・・・・俺なんかにはもったいねーよ。)」
クロは鈍感系男子ではない。
彼女らの見せる感情には気がついているがどこまでいっても彼女らはクロから見ればまだ子供。
いっときの感情に流されて欲しくない上に自分は、復讐を誓っている。
その道は血生臭く、負の感情に包まれた道だ。
そんな世界を彼女らに見て欲しくない。
「・・・・うんにゅ・・・・む?」
ケットが目を覚ました。
いつものクロの状況を確認したらおもむろに立ち上がり、ケットも布団の中に入ってくる。
「・・・・おい。」
「ボクも昔はこうやって布団の中に勝手に入ってたなと思ってね。」
猫宮和人に飼われていた時、ケットは良くクロの布団の中に入ってきていた。
その時は猫の姿だったため、可愛いとしか思っていなかったが・・・・
「(い、今は違う!なぜかケットも成長してきて見た目的にはどストライクだよ!?で、でも動揺しちゃう!だって男の子だもん!)」
内心穏やかではないクロは心情を表に出さまいと思いながらそっぽを向く。
「・・・・ふふっ、ボクにもそんな反応してくれるとは嬉しいね。」
3人の猫耳美少女に抱かれたまま、クロは天井を見上げる。
あぁ、幸せだ。
なにかを悟った表情を見たケットは首を傾げた。
閑話休題。
なんだかんだで眠りについている3人を叩き起こしてクロらは街へと出かけた。
食材を買い込み、この街で手に入れた次元収納のエンチャント魔法が付いたカバンに入れていく。
すると、向かい側から先日の組合にいた受付の女性が歩いてくる。
向こうもこちらの存在に気がついたのか、こちらに小走りで向かってくる。
「クロロさん!おはようございます!」
「おはよう、スー。これから出勤か?」
彼女の名前はスーランジュというが、長いので皆スーと読んでいる。
「ええ!来週からとても忙しくなりますから!」
「・・・・そうなの?」
シエルがスーランジュに問う。
「ええ。・・・・ダンジョンの方で獣人が出るって噂を知ってますか?」
「あ、あぁ。」
クロらは苦笑いをしながら目を少しそらす。
その噂の根源こそクロらなのだから仕方がない。
「・・・・そこで王国騎士団の人たちが噂の真偽を確かめるのと・・・・最近召喚された勇者様の訓練を兼ねてダンジョンに来るらしいんです。」
「勇者・・・・だと?」
「はい、どうやら『金魔のフレイド』を討伐するためだとか・・・・。」
クロは3年前読んだ本を思い出していた。
そして、願う。
どうか、同郷であろう彼らがあの勇者のように狂わないようにと・・・・。
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