猫耳無双 〜猫耳に転生した俺は異世界で無双する〜

ぽっち。

第17話 フュルトの悲劇

















その出来事は後世に語り継がれる、大災害の1つとなった。
フュルトの町は大きさ的に大規模ではない。
人口は町にやって来る旅人などを入れても約5000人弱。
しかし、その大災害はその9割の命を消しとばした。


「ぎゃああああ!!」


「助けてくれぇ!」


町に響き渡る耳を劈く様な悲鳴。
この町を訪れていたクロらはその悲鳴を聞きながら必死になって町の外へ向け、走り抜けていた。
町はまだ暗闇に包まれているのにもかかわらず、町の至る所から上がる炎により照らされている。


「――――っ!」


悲鳴が聞こえるたびにクロの幼馴染であるティナは歯を食い縛っていた。


「ティナ、落ち着いて。」


シエルはティナを落ち着かせる様に声をかける。
クロとシエルは人族に激しい怨みの感情を抱いている。そのせいか、人族がどれだけ死のうが気にはしない。
だが、ティナも怨んではいるが優しすぎる心を持っている。
自分たちを追い詰める人族は嫌いだが、今襲われている彼らは直接的にはティナ達を苦しめていない存在だ。
『ティナは困っている人を助けれる人になりなさい。』
亡くなった母が自分に教えてくれた大切な言葉だ。
それを蔑ろにする上に、人族に対していい気味だと思う自分が嫌になる。


「・・・・ティナは優しすぎる。アイツらは死んで当然。」


とシエルは言うが、流石にこの状態で追い討ちをかけたりなどはしない。
彼女も同様に少しだが心苦しいのだ。
互角とまではいかないが何人かは助けれるほどの戦える実力を持っていながら、何もできないのだから。


「・・・・2人とも、言っておくがワイバーンをあまり刺激するなよ?必要最低限の戦闘しか行わない。これは頭に入れといてくれ。」


ワイバーンを含む竜種が人類の敵というのには理由がある。
もちろん、彼らが持って生まれた身体的な能力も理由の一つだ。
だが、もっと恐ろしい能力がある。
刹那、町の一角で暴食を繰り返すワイバーンに目を向けたシエル。
ワイバーンに向けて放たれた炎の塊が当たる。
しかし、その手前でその炎の塊は消し飛ぶ様に消えた。
そしてワイバーンはそれを遥かに超えた炎を口から放つ。


「・・・・アレは?」


最初の一撃はおそらく人族が放った火の魔法だろう。
それはワイバーンに傷をつけることはない。
シエルは驚きを隠せず、クロの方に説明を求める。


「アレが竜種が恐れられている理由だ。」


補足説明をするように人化したケットが言う。


「・・・・『魔力霧散』だね。竜種のみが使える魔力を基とした全ての事象を無力化できるものだ。」


「・・・・それはつまり、ケットでも勝てない?」


精霊の王と呼ばれているケット。
そんな彼女ですら、あの竜種には勝てないのかとシエルは不安を露わにする。


「ボクはあんなトカゲには負けないよ。昔からトカゲの天敵は猫だからね。」


訳のわからないことを言っている、とクロは思った。
しかし昔彼女がトカゲの尻尾で遊んでいたことを思い出し、苦笑いする。


「あー、つまりだ。精霊の使う魔法は魔力純度が高いんだ。」


竜種の能力である『魔力霧散』は魔力を基とした事象の力を削って消し去ることができる。
しかし、精霊魔法というものは魔力そのものを力に変えている。
人族の使う魔法は魔法式を経由して現象の事象を変換している。
その為、魔力を消費して再現された現象の様なものだ。
現代風に言えば精霊魔法は電力そのもの。人族の魔法は電力を使って家電を起動させる、といったものだ。


「・・・・よくわからない。」


「つまりだ、人族の魔法は魔法というより事象だ。それに対して精霊魔法は現象そのものなんだ。」


「私もよく分からないけど・・・・『魔撃』は通用するの?」


ティナの脳は処理能力を超えたのか、少し頭から煙を出している様に見える。


「・・・・『魔撃』は魔力そのものをぶつけるからな。通用するだろう。だが、威力は半減してると思った方がいい。」


『魔撃』は魔力そのものをぶつける技でもある。
しかし、精霊魔法の様に現象を操っているわけではないので威力は半減する可能性が高い。


「――――っ!!?クロ!!」


ケットは叫ぶ。
この緊急事態の原因であるワイバーンがこちらに向かってくるのを確認したからだ。
クロ達はかなりの距離を走っていたが宿を町の中心の方へ取ったのが仇となった。


「ッチ!なんでこっちに来るんだよ!?」


クロは叫ぶが理由としては単純。
クロとケットが放つ膨大な魔力に惹かれたのだ。
空気を裂き、猛烈なスピードで迫り来るワイバーン。
追いつかれるのは時間の問題だ。


「仕方がねぇ・・・・!!シエル!ティナ!戦闘態勢だ!!」


クロは走るのをやめ、剣を引き抜きながら頭に巻いていたバンダナを外す。
人族の町で猫耳を晒すのはかなりの抵抗があったが、相手が強い。
自身の危機感知能力を最大限に発揮するには聞こえにくいバンダナをしていると命取りになる。
シエル、ティナも同様にバンダナを外して剣と弓を構える。
ケットも人化を解除して、猫姿になってクロの頭の上に乗る。


『・・・・来るよ!』


ケットが叫ぶと空気を裂いてワイバーンがこちらにやってくる。
地面に着地する為、寸前で翼を使って減速する。
激しい風が吹き荒れる。


「ガァァァァァッ!!!」


空気を揺らす、激しい咆哮が響き渡る。
あまりの声にクロらは耳を閉じてしまう。


「――――っく!」


ワイバーンの口元に周囲の魔素が集まっていくのが確認できる。


「不味い、『竜の息吹』だ!!」


魔素は焔へと変換され、激しい熱量を帯びながら放たれる。


「『雷轟電撃』!!」


クロは咄嗟にケットを経由して威力を底上げした精霊魔法を放つ。


バガゴゴゴゴゴッ!


大地を揺らすほどの轟音と空間を裂くと思ってしまう衝撃がぶつかり合う。


バゴオオオオオオンッ!!!


鼓膜が破れるほどの爆発音。
辺りの石造りの建物は想像を絶する熱量によって溶かされていく。
蒸気と土煙により辺りは見えなくなる。
刹那、煙の中から1人の人影がワイバーンに向かって飛び出してくる。


「はぁぁぁぁっ!!」


ティナは自分が扱える最大限の魔力を短剣に込め、『魔撃』を放つ。


「――――ッシ!」


鋭く空気を吐きながら、精一杯に引き絞った弦を離して矢がギリギリ耐えれるだけの魔力を込めた矢をシエルはティナの攻撃と同時に放つ。


バギンッ!!


矢は貫くことはできず、弾かれてしまう。
しかしワイバーンの力を分散したおかげなのか、ティナの一撃がワイバーンの鱗を裂き、鮮血を散らさせる。


「グカァァァ!!」


翼を羽ばたかせ、周囲に暴風を撒き散らす。
あまりの風量にティナの軽い身体は吹き飛ばされる。


「――――きゃ!?」


少し融解した建物の壁に激突する寸前でクロがティナを受け止める。


「グッ!?」


あまりの衝撃に吹き飛びそうになるがなんとかクロは耐えた。
ティナを地面に下ろして、ワイバーンを見据える。


「ガァァァァァッ!!!」


「・・・・そんなにダメージは無いみたいだね。」


「あぁ。伊達に竜種と呼ばれてないってことだな。」


ティナが与えた傷は多少の出血が起きる程度のかすり傷にしか見えない。
強靭な鱗がワイバーンの身を守ったのだ。


「クロ!」


再びワイバーンは口元に周囲の魔素を集め始める。
シエルが叫ぶと先程の矢と同じ威力の矢をワイバーンの口めがけて放つ。
『魔撃』の魔力に反応したのか、『竜の息吹』と呼ばれるブレスは威力を若干落とす。
それに腹を立てたのか、ブレスをシエルに向けて放つ。


「――――シエル!!」


シエルはブレスを回避する術を持っていない。
クロに冷や汗が流れる。
焔の海が町並みを破壊していく。
肌を焼く様な熱量を含んだ爆風がクロらを襲う。
目を凝らし、シエルの居場所を確認する。
数メートル上空にシエルを抱えたケットの姿が見える。


『――――全く、無茶するじゃないか。』


「・・・・ケットが来てくれるのを確認できた。だから、無茶した。」


ケットはふふっと笑い、顔を引き締めてワイバーンを見据える。


『不味いねぇ・・・・。このままじゃジリ貧だ。』


ケットはシエルをクロの近くに降ろすとすぐさまクロの頭の上に乗る。


『・・・・クロ、ボクの魔力とキミの魔力を同調させたい。できるかい?』


「・・・・おいおい。ぶっつけ本番で何やろうってんだ。」


かなりの時間を一緒に旅をし、戦ってきたがそんなことはしたことがない。
やったことがない技術を直ぐにやれと言われてもクロにはできるか分からない。
1秒でも隙を見せれないこの戦いではとても危険だ。


「・・・・クロ、やって。時間は私たちが稼ぐ。」


「伊達に修行してきたわけじゃない。私たちだってクロのために戦えるよ。」


そう言いながら、2人はクロの前に出る。
2人はこのままでは魔力総量が多いワイバーンに分があると見てケットの提案を支持する。
このままでは負ける。
クロも2人に任せることに一抹の不安を覚えるが、成長した彼女らに賭けることにする。


「・・・・5分だ。5分持ち堪えてくれ。」


「「・・・・了解!!」」


2人はワイバーンの気をクロらから逸らすため、ワザと魔力を放出しながら反対方向へ走っていく。




















「――――せいやぁぁ!!」


ティナは鋭く息を吐きながら自身が持つ渾身の『魔撃』でワイバーンの身を切り裂く。
ブシュッ!と鮮血が散るがどう見てもダメージには至っていない。
ワイバーンは尻尾を振り回し、周りの建物を粉砕していく。
衝撃に耐えきれず、ティナの体は宙を舞うが猫特有のバランス力で持ち直し、着地する。


「・・・・ティナ!」


「わかってるよ!!」


ティナは大地を駆け、ワイバーンとの間合いを詰める。
先程とは威力を落とした『魔撃』でワイバーンの強靭な足を斬りつける。
傷が少し入った程度。ワイバーンは苛立ちを露わにしてティナを喰らうため、顎門を大きく開き噛み付こうとする。
その瞬間をシエルは見逃さなかった。
地面に顔を向けたワイバーンは今、シエルの射撃範囲に入っている。
シエルは確実に事をなすため、魔力を込めた矢を顔に向けて放つ。
矢はワイバーンの片目を貫く。


「ガァァァァァッ!?」


ワイバーンは視界を潰した矢に驚きと激痛に耐えきれず、大きく仰け反る。


「――――ハァッ!」


確実な好機。
ティナは全力の『魔撃』でワイバーンの右翼を切り裂く。
よく動かす翼には鱗が少なく、先程より深く刃が身体を斬り裂いた。
道中にシエルに教えてもらった翼の腱を切ったのでもう飛ぶことはできないはず。


「グカァァァ!!」


怒りを爆発させたワイバーンは口元に魔素を集める。


「シエル!」


「わかってる!」


2人は即座に撤退。
猫族の持つ脚力を使って、建物に付いている雨除けの屋根を使いながら上空に避難する。
瞬間、ワイバーンはブレスを地面一帯に吐き出す。
一瞬で辺り一帯は焔の海に包まれていく。
少し逃げ遅れたティナの尻尾の先が燃える。


「――――っあつ!」


ティナは屋根の上まで避難すると燃え盛る尻尾をはたいて消火する。


「ふぇ〜・・・・もうちょっと遅かったら尻尾の毛が全部燃えてたよ。」


「油断大敵。身体が燃えないだけマシ。」


ふーふー、と尻尾に息を吹きかけるティナを横目にシエルは弓を構える。


「不味い。怒ってる。」


視界を潰された上に自身の翼を切り裂かれたのだ。
町の建物を片っ端から破壊していく。
しかし、飛べぬドラゴンはただのトカゲ。
これを好機と見た2人はティナを先頭に走る。


「クロが来る前に終わらせちゃおう!!」


「・・・・ん!」




















遠くで爆音やワイバーンの咆哮が響き渡る。
クロはそちらの方をチラチラ見ながら魔力を放出する。


『・・・・クロ。集中して。』


「わかってる・・・・。」


目を閉じて、自身から流れる魔力とケットから流れる魔力を同調させる。
クロは額に汗を浮かべる。


「(・・・・難しい。単に同調させるだけじゃない。ケットと息を合わせなきゃならないのか。)」


しかし、彼の力はそんな障害をいとも容易く乗り越えていく。
同調率が上がっていくのを感じるケット。


『(・・・・!!相変わらずの才能スキルだ・・・・。本当は数ヶ月かかる修行がいるんだけど・・・・本当に5分で終わらせる気なのかい?)』


そして、ケットとクロの魔力が完全に同調する。
それを維持させながら先ほどケットに教えてもらった発動するための言葉を2人同時に呟く。


「『完全雷化カンゼンイカズチカ』」


辺りに爆音が響き渡る。


























「はぁっ・・・・はぁっ!」


ティナは必死に息を吸い込む。
スタミナはもう限界、魔力も底をつきかけている。
屋根の上で牽制をしているシエルも同様に魔力が限界に近い。
一撃一撃に全力を注いでいるため、消耗が激しい。
シエルに至っては矢が後1本しかない。
危機的状況、しかし敵対しているワイバーンはまだ倒れる気配はない。


「――――ッ!?」


ティナはワイバーンが再び口元に魔素を集め始めた。
しかし、それは今までの『竜の息吹』と呼ばれたブレスではないと直感的に察する。


「ティナ!!」


尋常では無い魔素量を感じ、いつも無表情のシエルも焦りの表情でティナに呼びかける。


「ガァァァァァッ!!」


今までのブレスとは違い、直線上の町並みを全て破壊する光線が放たれる。
これは『竜の雄叫』と呼ばれる、追い詰められた竜種が使う技の1つ。
圧縮した魔素が激しい熱量を帯び、光線となって放たれ、全て消し去る。
これを防いだことがあるのは人族の英雄、『絶対切断』の才能スキルを持った勇者だけだと言われている。


「・・・・し、死ぬかと思った。」


猫の勘なのか、ティナの勘が訴えたのかは分からない。
しかし、その場にいたら死ぬと咄嗟に感じ取った彼女は『魔撃』を地面に当てその衝撃で回避したのだ。
その行動は正しく、ティナの右側にあった町並みはその一撃によって消し飛んでいた。
とてつもない熱量によってドロドロと溶けている石材。
その熱だけで肌が火傷しそうだ。
冷や汗が止まらない。
本能的に察したのだ。勝てない、と。
足から力が抜け、その場に座り込んでしまう。
先程の回避でスタミナと魔力が双方無くなったのだ。


「――――マズッ」


しかし、ワイバーンは止まらない。
大きな顎門をティナに向け、喰らおうとする。
だが、ティナはそこで何故か心を落ち着かせていた。
諦めたわけではない。感じ取ったのだ。
彼女が愛してやまない、強く優しく、暖かな魔力を。


ドガンッ!!!


その衝撃は先程まで開いていたワイバーンの顎門を地面に叩きつけ、強制的に閉じさせていた。
ワイバーンの頭は地面にめり込み、その上に待ち続けた人物が立っている。
紫電が服の様なものを形成し、眩い光を放っている。


「待たせたな、ティナ。」


そう、クロ・マクレーンだ。
ティナが愛してやまない彼が来たのだ。


「――――ふぅ。遅いよ、クロ。」


ティナは脱力する。
もう彼に任せておけば大丈夫と判断したのだ。
戦いはまだ終わらない。



























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